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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<249>キッテル、ザカリンの共闘でツールの主役へ カチューシャ・アルペシン 2018年シーズン展望

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 現体制となって2年目のシーズンを迎えているカチューシャ・アルペシン。かつてはロシアの国家プロジェクトとしてスタートしたチームは、過去の薬物問題などにきっかけに内部を改革。国外企業をスポンサーに招き、今年は16カ国から選手が集まる多国籍チームとなっている。本記を執筆する4月上旬時点ではUCIワールドツアー・チームランキングでは最下位に沈むが、7月のツール・ド・フランスでの共闘を予定するスプリンターのマルセル・キッテル(ドイツ)と、ロシア人エースのイルヌール・ザカリンを柱として、一気の盛り返しをうかがっている。

ビッグレースでの活躍を誓うカチューシャ・アルペシン。新加入のマルセル・キッテル(中央)がスプリントでチームを牽引する =ティレーノ〜アドリアティコ2018第6ステージ、2018年3月12日 Photo: Yuzuru SUNADA

キッテルは新天地でのスプリント連携に手ごたえ

 昨年のストーブリーグ(移籍市場)では、有力スプリンターが軒並み移籍する事態となったが、その一因となったのがキッテルのクイックステップフロアーズ離脱だった。スプリント路線の若返りと、明確な棲み分けを図りたいチームに対し、今年で30歳を迎えるキッテルは「絶対的エース」としての立場に集中できる環境を求めた。そんな彼を諸手を挙げて迎えたのが、カチューシャ・アルペシンだった。

新天地にカチューシャ・アルペシンを選んだマルセル・キッテル =アブダビ・ツアー2018プレスカンファレンス、2018年2月20日 Photo: Yuzuru SUNADA

 かつてはアンチ・ドーピングへの姿勢に明確性が見られず、実際にドーピング違反となる選手が現れるなど、多くの批判を受けることのあったこのチーム。キッテルも厳しい意見を述べるなど、過去のチーム体制にはよい印象を持っていなかったことを明かしている。

 それが変化したのは、この数年で刷新されたチーム運営と、自国・ドイツ企業であるアルペシン社のサブスポンサー着任だった。さらには、アマチュア時代からの先輩であるトニー・マルティン(ドイツ)の存在が移籍の大きな決め手であったことも明かしている。マルティン自身もチーム内情をキッテルに伝え、加入を勧めたと述べている。

 そうした好材料に支えられて新天地で迎えた今シーズン。初戦のドバイ・ツアー、続くアブダビ・ツアー(ともにUAE)では、あと一歩で勝利を逃すステージが続き、「自らがスプリントに入るまでの連携」を課題に挙げた。

マルセル・キッテルが連携を課題に挙げていたスプリントトレイン。ティレーノ〜アドリアティコ2018第2ステージでシーズン初勝利を挙げた =2018年3月8日 Photo: Yuzuru SUNADA

 新たな環境での勝利に向け辛抱強くトライを繰り返し、それが実ったのは3月のティレーノ~アドリアティコ(イタリア)。第2、第6ステージで快勝し、“キッテル強し”を印象付けたのだった。

 新チームでの勝ちパターンも見えてきている。発射台の大役を担うのは、自国の後輩であるリック・ツァベル。1996年から2001年までツールのポイント賞を6連覇、ミラノ~サンレモでは4度の優勝などを誇るエリック氏を父に持ち、自身もスピードマンであるが、キッテルの加入によって役割がはっきりとした。キッテルとしては、「フィニッシュ前500mから加速してくれれば問題ない」といい、長い時間ハイスピードを維持できるキッテルのスプリント特性を生かすには最適の人材と認められつつある。

 また、ティレーノではマルティンやアレックス・ドーセット(イギリス)といった、牽引力のある選手のスプリントトレイン構築にもメドが立った。タイムトライアルスペシャリストでもある彼らが、高いスピード域で長い距離を引っ張ることができるとあれば、ライバルチームとのスプリントポジション争いにおいても大きなアドバンテージとなるだろう。

 今シーズンの最大目標となるであろうツールの頃には、勝利量産の態勢ができあがっているか。昨年はポイント賞のマイヨヴェール獲得が見えるところまできていながら、第17ステージで涙のリタイア。このときに限らず、これまでのキャリアでは体調不良によって不本意な結果に終わっていることが何度かあるだけに、コンディションを整えて目指すレースに臨むこともタイトル獲得のポイントといえそうだ。

シーズンの深まりとともに勝利量産を狙うマルセル・キッテル =ティレーノ〜アドリアティコ2018第6ステージ、2018年3月12日 Photo: Yuzuru SUNADA

ザカリンはツールの総合狙いへ

 昨シーズン、ジロとブエルタで総合上位進出を果たしたザカリン。1シーズンで2度のグランツール上位フィニッシュは、オールラウンダーとして立場を固めてきたザカリンの評価をさらに高めるものとなった。ジロでは個人総合5位、ブエルタでは同じく3位となり、念願の総合表彰台をゲットしてみせた。

ブエルタ・ア・エスパーニャ2017で個人総合3位になったイルヌール・ザカリン。総合優勝したクリストファー・フルームと握手する =2017年9月10日 Photo: Yuzuru SUNADA

 充実の時を過ごすザカリンだが、その勢いのままに今シーズンはツールへと目標をシフトさせる。もちろん狙うは総合上位進出だ。

 確実に上位フィニッシュでまとめる安定感だけでなく、攻撃的な走りでチャンスを作り出す山岳での走りは、ライバルに脅威を与えることができる。また、個人タイムトライアル(TT)の走りにも長け、生粋のクライマー相手にも対等に、もしくはそれ以上に渡り合うことができることを、昨年のグランツールで証明。特にブエルタでは、42kmの長距離個人TTで争われた第16ステージで4位、名峰・アングリルを上った第20ステージで見せた執念の走り、これらが総合表彰台へと上がる大きな要因になった。

経験・実績ともに充実のイルヌール・ザカリン。2018年はツール・ド・フランスでの総合上位進出を目指す =ブエルタ・ア・エスパーニャ2017第20ステージ、2017年9月9日 Photo: Yuzuru SUNADA

 順調にいけば2度目の出場となるツールに向けても視界は良好。大会前半の平坦ステージやパヴェ(石畳)ステージでは平地系アシストを頼りに、第3ステージに設けられるチームTT(35km)については「マルティンとドーセットの存在が心強い」と全幅の信頼を寄せる。“主戦場”の山岳へは、3人の山岳アシストをそろえる見通しだ。

 経験・実績両面での積み上げもあり、このところは精神面での落ち着きも著しい。ツールは特に周囲が慌ただしくなりやすいといい、「身の回りに起こっていることに対して感情的になってはいけない」と、メンタル面での対策も口にする。今年は大会1週目がナーバスになりやすいステージ編成と見ているようで、乗り切るカギは「常にリラックスしていること」と述べる。

 2年前のジロ第19ステージでは下りで大クラッシュ。以来、ダウンヒルでの恐怖感が拭いきれていないようで、今年のツールに下り区間が多いことが気になっているという。ツール上位進出の課題として反映される部分ではあるが、本番までにどう修正するか。アルデンヌクラシック後にコースを試走する予定で、ダウンヒル対策も行うこととなるだろう。

 ツール初出場だった2年前は第17ステージで劇的な独走勝利。その時以来となるフランスでの3週間で、今度はマイヨジョーヌ争いに名乗りを挙げる。

TTでの復権誓うマルティン ハースはクラシックのエースへ

 4月上旬時点でシーズン3勝にとどまっているが、選手たちはこれから調子を上げてあらゆるレースで優勝争いに加わることだろう。キッテルやザカリン以外にも、ビッグタイトルを狙う選手たちが控える。

個人タイムトライアルの世界王座奪還を目指すトニー・マルティン =ティレーノ〜アドリアティコ2018第7ステージ、2018年3月13日 Photo: Yuzuru SUNADA

 個人TT前・世界王者のマルティンは、同種目のマイヨアルカンシエル奪還をシーズン後半の目標に据える。2011年からの3連覇を筆頭に、過去4度王座についているが、昨年はトム・デュムラン(オランダ、チーム サンウェブ)の前に完敗。いまは、復権を目指して立ち上がろうという段階だ。

 ステージレースの総合成績を意識していた時期もあったが、TTの走りを追求する数年間を経て、近年はスプリントトレインの牽引や総合エースのアシストなど、これまで以上に献身的な走りが目立っている。さらには、パヴェ走行の技術も高いことも、このところの北のクラシック参戦で証明している。

 まずはシーズン序盤のヤマ場として4月9日のパリ~ルーベに臨む。ここでの走りが3カ月先に待つツールのパヴェステージ(第9ステージ)での働きにもつながる可能性が高いだけに、よいイメージで走り終えておきたいところ。その後はツールでキッテルやザカリンのアシストに従事したのち、9月のUCIロード世界選手権へと向かうことになる。

アルデンヌクラシックの走りが楽しみなネイサン・ハース =ツアー・オブ・オマーン2018第2ステージ、2018年2月14日 Photos: Bryn Lennon / Getty Images

 4月中旬からのアルデンヌクラシックは、今シーズン加入のネイサン・ハース(オーストラリア)がチームリーダーとなりそうだ。すでに新たな環境にも順応し、2月のツアー・オブ・オマーンでは第2ステージで優勝。個人総合でも5位となり、ステージレースでも戦えるところを見せている。

 細かなアップダウンへの対応力はもちろん、人数が絞られた状況下でのスプリントを得意とし、勝負強さもある。昨年はアムステル・ゴールド・レースで4位となったが、サバイバルからのスプリント勝負となるこのレースこそ、ハースにとってタイトル獲得に一番近いと見ることができそうだ。

 また、リエージュ~バストーニュ~リエージュにはザカリンも合流予定。こちらも2年前の大会で5位となっており、レースとの相性は上々。この2人が軸になることで、アルデンヌクラシックでの戦いに幅が生まれる。

 そのほかでは、次期総合エース候補として今年チーム入りしたイアン・ボズウェル(アメリカ)、逃げやスプリントまで自在に走ることができるマルコ・ハラー(オーストリア)、登坂力のあるレト・ホレンシュタイン(スイス)やロベルト・キセルロウスキー(クロアチア)らも経験豊富な選手として名前が挙がる。アシストとしての堅実さに加え、出場レースのメンバー編成によっては自身のリザルトを狙うチャンスもありそうだ。1週間のステージレースに滅法強いシモン・スピラク(スロベニア)も健在だ。

25歳以下のヤングライダーが8人所属するカチューシャ・アルペシン。なかでもリック・ツァベルの存在感が増している =ティレーノ〜アドリアティコ2018第5ステージ、2018年3月11日 Photo: Yuzuru SUNADA

 また、25歳以下(1993年以降生まれ)のヤングライダーが8人所属しているあたりも見逃せない。将来性を重視したスカウティングは、今後のチーム力アップへの期待を持たせる。1993年生まれのツァベル、アンダー23個人TT世界王者を経験する1994年生まれのマッズウルス・シュミット(デンマーク)とマルコ・マティス(ドイツ)などは、近いうちにこのチームを中心となり得る選手として押さえておいてほしい。

カチューシャ・アルペシン 2017-2018 選手動向

【残留】
マキシム・ベルコフ(ロシア)
イエンセ・ビエルマンス(ベルギー)
ジョセ・ゴンサルベス(ポルトガル)
マルコ・ハラー(オーストリア)
レト・ホレンシュタイン(スイス)
ロベルト・キセルロウスキー(クロアチア)
パヴェル・コチェトコフ(ロシア)
ビアチェスラフ・クズネツォフ(ロシア)
マウリス・ラメルティンク(オランダ)
ティアゴ・マシャド(ポルトガル)
トニー・マルティン(ドイツ)
マルコ・マティス(ドイツ)
バティスト・プランカールト(ベルギー)
ニルス・ポリッツ(ドイツ)
ヨナタン・レストレポ(コロンビア)
シモン・スピラク(スロベニア)
マッズウルス・シュミット(デンマーク)
リック・ツァベル(ドイツ)
イルヌール・ザカリン(ロシア)

【加入】
イアン・ボズウェル(アメリカ) ←チーム スカイ
ステフ・クラス(ベルギー) ←BMCデヴェロップメントチーム(アマチュア)
アレックス・ドーセット(イギリス) ←モビスター チーム
マッテオ・ファッブロ(イタリア) ←フリウリサイクリングチーム(アマチュア)
ネイサン・ハース(オーストラリア) ←ディメンションデータ
マルセル・キッテル(ドイツ) ←クイックステップフロアーズ
ウィレム・スミット(南アフリカ) ←ロードカバー(アマチュア)

【退団】
スヴェンエリック・ビストラム(ノルウェー) →UAEチーム・エミレーツ
アレクサンドル・クリストフ(ノルウェー) →UAEチーム・エミレーツ
アルベルト・ロサダ(スペイン) →引退
マトヴィ・マミキン(ロシア) →ブルゴス・BH
ミケル・モルコフ(デンマーク) →クイックステップフロアーズ
レイン・タラマエ(エストニア) →ディレクトエネルジー
アンヘル・ビシオソ(スペイン) →引退

今週の爆走ライダー−イアン・ボズウェル(アメリカ、カチューシャ・アルペシン)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 今シーズン、チーム スカイから移籍したアメリカンクライマー。

2018年からカチューシャ・アルペシン入りしたイアン・ボズウェル。首脳陣からの期待が大きい Photo: Team Katusha - Alpecin

 5年間所属したプロトン最強チームでは、3度のグランツール出場。いずれも山岳アシストとしてエースの走りをサポートした。一方で、選手層の厚さゆえに自らが得られるチャンスはごくわずかだった。登坂力は誰もが認めるところでありながら、ビッグレースになればなるほど出場機会が限定されるもどかしさも味わった。

 だからこそ、新たなオファーは魅力的だった。ゼネラルマネージャーのホセ・アセヴェド氏との話はとんとん拍子で進行。もっとも、アセヴェド氏がボズウェルの可能性に惚れ込んだことも大きかった。氏にして、「まだイアンのベストな走りを見たことがない」。まだまだ力を伸ばす余地があるとの見方だ。

 忠実な山岳アシストとして、ゆくゆくは総合エースとしての期待が膨らむが、新たなチームでの最初のミッションとなるのは、5月のツアー・オブ・カリフォルニア(アメリカ)での総合上位進出。自国最大のステージレースで、キャリア最高の走りを見せることが求められている。昨年は個人総合5位。今年は名立たるステージレーサーとの勝負を制することができるか。

 カリフォルニアでの走り次第で、今後の選手生活が大きく変わる可能性だってある。「己の成長には欠かせない重要なステップ」として選んだこのチームに、そして自身の可能性に賭けてくれたアセヴェド氏に応えることができるか。今シーズン序盤はゆっくりと調整を進めるが、すべてはカリフォルニアでの快進撃へとつなげるためである。

トレーニングキャンプ時のひとこま。イアン・ボズウェルに課されるミッションはツアー・オブ・カリフォルニアでの総合上位進出だ Photo: Jo Jo Harper
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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