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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<248>カギ握る3人のチームリーダー EFエデュケーションファースト・ドラパック 2018年シーズン展望

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 新スポンサーを迎え、2018年シーズンから新たな装いでトップシーンを走るのが、EFエデュケーションファースト・ドラパック。昨秋には一時チーム解散の危機を迎えたが、主力の多くがチーム、そしてゼネラルマネージャーのジョナサン・ヴォータース氏を信じ、新スポンサーとともに今季を迎えた。チームは戦力的に計算できるエースを擁し、タイトル獲得を視野に入れる。そのカギを握る選手として、主に3人の選手が挙がる。

ティレーノ〜アドリアティコ第1ステージのチームタイムトライアルを走るEFエデュケーションファースト・ドラパックの選手たち =2018年3月7日 Photo: Yuzuru SUNADA

昨年のリベンジを誓うヴァンマルク

 北のクラシックの時期に入り、その姿をたびたび目にするのがセップ・ヴァンマルク(ベルギー)。20歳代前半からパヴェ(石畳)での戦い方を熟知し、ときにビッグネームをも凌駕してきたその走りは、目の肥えたファンでいっぱいの同国北部・フランドル地域の英雄となる日も近いとされてきた。しかし、パヴェに強い選手が夢見るレースでは、パリ~ルーベが2013年の2位、ツール・デ・フランドルは2014年と2016年の3位がそれぞれ最高成績。上位進出の常連でありながら、タイトルをあと一歩のところで逃し続けている。

悲願の北のクラシック制覇を目指すセップ・ヴァンマルク =ヘント〜ウェヴェルヘム2018、2018年3月25日 Photo: Yuzuru SUNADA

 早くからその名を知られることとなったヴァンマルクも、今年で30歳。いよいよキャリアのピークとなるであろう時期に差し掛かり、夢のタイトル獲得を現実的なものとしたいところ。昨年はこの大切な時期に胃の不調に悩まされ、フランドルでのリタイア後にパリ~ルーベ欠場を決意する悔しい結果に終わった。そのリベンジが、今年のクラシックシーズンのテーマとなる。

 今シーズンは、2月下旬のオムループ・ヘット・ニュースブラッド(ベルギー、UCIワールドツアー)で3位と表彰台を確保し、まずまずの出足。3月23日のレコードバンク・E3ハーレルベーケでは途中、大規模落車に巻き込まれながらもその後の追い上げで意地の7位フィニッシュ。「追い上げるだけで精いっぱいだった」とレース後にコメントしているが、追い上げて最終的に上位でまとめたあたりをみると、好調と見てもよさそうだ。

パヴェでの攻撃的な走りがセップ・ヴァンマルクの魅力 =レコードバンク・E3ハーレルベーケ2018、2018年3月23日 Photo: Yuzuru SUNADA

 ヴァンマルクの魅力は、パヴェ上での力強いアタック。難易度の高いパヴェであればあるほど力強さを増し、ライバルに脅威と焦りを与える攻撃的なスタイルが、これまでの上位進出を支えてきたといえる。本来はスプリント力もあるだけに、パヴェでの動きから優勝争いの人数を絞り込んで、2~3人でのフィニッシュ勝負に持ち込むことが理想となる。

 25日のヘント~ウェヴェルヘムでは、真っ向からのスプリント勝負だと分が悪いと、ラスト1kmで約20人の集団から“賭け”のアタックを繰り出したが、パヴェの比重が高くなるフランドルやパリ~ルーベへどうつなげていくか。パヴェ職人としての勘が試される日が近づいてきている。

 ヴァンマルクを支えるアシストとしては、経験豊富なベテランのセバスティアン・ラングフェルド(オランダ)やミッチェル・ドッカー(オーストラリア)の名が挙がる。レース展開次第ではサーシャ・モドロ(イタリア)やテイラー・フィニー(アメリカ)にもチャンスがめぐってくるかもしれない。実際、モドロはヘント~ウェヴェルヘムで11位となったほか、昨年のフランドルでも6位と、パヴェへの対応力の高さを示している。ここに実績のあるマッティ・ブレシェル(デンマーク)も加われば、プロトン随一のチーム力となる。

ウランは昨年に続きツールに集中

 今シーズンを迎えるにあたり、グランツール路線についても明確化。チームの絶対的な総合エースでもあるリゴベルト・ウラン(コロンビア)は、昨年に続いてツール・ド・フランスを任される。

押しも押されもせぬ総合エースのリゴベルト・ウラン =ティレーノ〜アドリアティコ2018第3ステージ、2018年3月9日 Photo: Yuzuru SUNADA

 ウランにとって、昨シーズンのハイライトは何といってもツール個人総合2位の活躍。第9ステージでは総合上位陣での争いを制してステージ優勝を挙げるなど、勝負強さも光った。かつてはジロ・デ・イタリアで2度個人総合2位を経験しているが、しばし低迷した期間を乗り越えて完全復活を果たしたといえそうだ。

 ジロで活躍していた頃は急峻な上りでのアタックに光るものがあったが、ここ数年は個人タイムトライアル(TT)も含めてオールラウンドに安定した走りができるようになり、大崩れしなくなったあたりは見逃せない。山岳でライバルを圧倒することこそ減ったが、一方で確実に上位を押さえ、僅差の勝負となっても最終的にライバルを上回っている、といったケースが増えてきている。

個人タイムトライアルを走るリゴベルト・ウラン =ティレーノ〜アドリアティコ2018第7ステージ、2018年3月13日 Photo: Yuzuru SUNADA

 今年のツールは前半戦にチームTTやパヴェ、さらには強風が予想される区間などが登場し、山岳以外の要素でも総合争いに変化をもたらす可能性がある。そうした中でも安定感のある走りができるかが、残された「表彰台の頂点」に自らを押し上げるためのポイントとなりそうだ。山岳については1人でもレースを組み立てられるクレバーさに定評があるが、ツール前半をトラブルなくクリアできるよう平地系アシストはしっかりと整えておきたい。

 今シーズンのヨーロッパ初戦に位置付けたティレーノ~アドリアティコでは個人総合10位。雨に見舞われた最終日の個人TTで遅れたため総合成績を落としたが、3度のステージトップ10フィニッシュもあり、全体的に見れば想定内の走りといったところか。その後出場を予定していたボルタ・ア・カタルーニャ(スペイン)は体調を崩したため大事をとって欠場したが、あくまでも先々を見越しての判断。ツール以外にも、丘陵地で行われるアルデンヌクラシックをターゲットにしていると見られ、さらに調子を上げて春のレースを走ることになるだろう。

チームの総合エースに抜擢されたマイケル・ウッズ =アブダビ・ツアー2018第5ステージ、2018年2月25日 Photo: Yuzuru SUNADA

 ヴァンマルク、ウランに続く“3人目のチームリーダー”として今年、チームが盛り立てるのがマイケル・ウッズ(カナダ)。かつては陸上競技・中距離で同国期待の選手でありながら、けがをきっかけにサイクルロードレースに本格転向したのが2012年。現在31歳ながらキャリア的には7年と、まだまだ「将来を嘱望されるライダー」の1人なのだ。

 チーム初年度の2016年にツアー・ダウンアンダー個人総合5位となり一躍脚光を浴び、昨年は初出場のブエルタ・ア・エスパーニャで同7位と大躍進。山岳での大崩れが一度もなく、堅実に走り続けたことが上位進出の要因となった。

 課題は個人TTだが、レーサーとしての年数を考えれば致し方ない部分。強さと経験、そしてTT能力が向上すれば、グランツールの総合争いで有力どころとなることは間違いない。それだけの魅力を秘める選手がこのチームには存在する。

 今シーズンはゆっくりと調整中。今後はアルデンヌクラシックを経てジロへと向かう構え。クラシックシーズンの走りが、ジロへの指標となりそうだ。

選手の入れ替えを機にスプリント路線を強化

 昨秋にチーム解散危機となった関係から、引退した選手も含めて12選手が退団する形になった。一方で、新加入選手は9人。ヴァンマルクやウランといったエースクラスは早くから残留宣言をしていたが、その脇を固める選手たちはガラリと変わる。

エーススプリンターとしての期待が高まるサーシャ・モドロ Photo: Vuelta a Andalucia

 特筆すべきは、スプリント路線の強化に乗り出している点だ。ジロ通算2勝のモドロのほか、これまでフランスのレースを中心に走ってきたダニエル・マクレー(イギリス)が加入。モドロはすでにシーズン1勝を挙げているほか、ミラノ~サンレモでも14位とまずまず。前述したように北のクラシックでも戦力となっている。マクレーも昨年、一昨年とツールでステージ上位を経験。トラックやシクロクロスをバックボーンに、これからの成長が見込まれている。

 21歳のダニエル・マルティネス(コロンビア)は、ボルタ・ア・カタルーニャで個人総合7位と健闘。自国の大先輩であるウランに代わっての出場だったが、しっかりと代役を果たした。2年前のジロでは「出場選手中最年少」と話題になった選手で、将来性は十分。ウランの右腕として期待が高まっている。

山岳での走りが楽しみなピエール・ロラン =アブダビ・ツアー2018第4ステージ、2018年2月24日 Photo: Yuzuru SUNADA

 残留組では、近年グランツールの山岳ステージハンターとなっているピエール・ロラン(フランス)の健在ぶりも忘れてはならない。総合成績には興味を示すことが減ったが、その分狙ったステージでしっかりと結果を残すようになり、その点で自らのスタイルを確立したといえよう。また、同じくクライマーのジョセフロイド・ドンブロウスキー(アメリカ)は、ジロでウッズの山岳アシストを務めることが内定済み。どんな働きを見せるか注目だ。

 逃げやアシストで仕事の幅を広げるサイモン・クラーク、同じく“逃げ屋”で日本のレースでもおなじみのウィリアム・クラーク(ともにオーストラリア)、パヴェやスプリントで勝負ができるトム・ヴァンアスブロック(ベルギー)といった職人肌の選手たちの仕事ぶりもこのチームを見るうえでは欠かせないポイント。

 新たなチームカラーである、ピンクが基調のジャージが躍動する場面は、今シーズン何度となく見ることができるはずだ。

EFエデュケーションファースト・ドラパック 2017-2018 選手動向

【残留】
ネイサン・ブラウン(アメリカ)
ブレンダン・カンティ(オーストラリア)
ヒュー・カーシー(イギリス)
サイモン・クラーク(オーストラリア)
ウィリアム・クラーク(オーストラリア)
ローソン・クラドック(アメリカ)
ジョセフロイド・ドンブロウスキー(アメリカ)
アレックス・ハウズ(アメリカ)
セバスティアン・ラングフェルド(オランダ)
テイラー・フィニー(アメリカ)
ピエール・ロラン(フランス)
トーマス・スクーリー(ニュージーランド)
リゴベルト・ウラン(コロンビア)
トム・ヴァンアスブロック(ベルギー)
セップ・ヴァンマルク(ベルギー)
マイケル・ウッズ(カナダ)

【加入】
マッティ・ブレシェル(デンマーク) ←アスタナ プロチーム
ジュリアン・カルドナ(コロンビア) ←メデリン・インデル
ミッチェル・ドッカー(オーストラリア) ←オリカ・スコット
キム・マグヌソン(スウェーデン) ←チーム トレベルグ・ポストノルド
ダニエル・マルティネス(コロンビア) ←ウィリエールトリエスティーナ・セッレイタリア
ダニエル・マクレー(イギリス) ←フォルトゥネオ・オスカロ
サーシャ・モドロ(イタリア) ←UAE・チーム エミレーツ
ダニエル・モレーノ(スペイン) ←モビスター チーム
ローガン・オーウェン(アメリカ) ←アクセオン・ヘーゲンズバーマン

【退団】
アルベルト・ベッティオール(イタリア) →BMCレーシングチーム
パトリック・ベヴィン(ニュージーランド) →BMCレーシングチーム
ダヴィデ・フォルモロ(イタリア) →ボーラ・ハンスグローエ
クリスティアン・コレン(スロベニア) →バーレーン・メリダ
ライアン・マレン(アイルランド) →トレック・セガフレード
トームス・スクインシュ(ラトビア) →トレック・セガフレード
トムイェルト・スラフテル(オランダ) →ディメンションデータ
アンドルー・タランスキー(アメリカ) →引退
ディラン・ファンバーレ(オランダ) →チーム スカイ
ダヴィデ・ヴィレッラ(イタリア) →アスタナ プロチーム
ワウテル・ウィッペルト(オランダ) →ルームポット・ネーデルランセローテライ

今週の爆走ライダー−ヒュー・カーシー(イギリス、EFエデュケーションファースト・ドラパック)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 今シーズン2戦目として出場したボルタ・ア・カタルーニャでは、クイーンステージと目された第4ステージで9位と健闘。自らアタックし、レースを動かす積極性を見せた。最終ステージで遅れてしまったこともあり、総合トップ10入りは逃したが、険しい山々をめぐるカタルーニャでの走りは、手ごたえをつかむには十分だった。

ボルタ・ア・カタルーニャ第6ステージを走るヒュー・カーシー Photo: Cor Vos

 プロ4年目の23歳。2014年、ツアー・オブ・ジャパン出場で来日した時が19歳。富士山ステージと翌日の伊豆ステージでともに2位となるなど、個人総合6位の走りは、強く印象に残っている人もいることだろう。当時はラファコンドール・JLTの一員だった

 翌年からプロとして走るが、自分の実力と将来を客観視し、その時々にあった選択をしてきた。ビッグチームからの誘いを蹴って、プロデビューに選んだのはカハルラル・セグロスRGA。大物たちの中に埋もれてチャンスを逸するくらいなら、小さなチームでもよいからレギュラーで走ることができるチームをチョイスする。一歩一歩しっかりとした足取りで上ってきた階段では、スペインのステージレースで総合優勝するまでに力をつけた。

 ヴォーターズ氏の「もっと高いレベルで走らせたい」との言葉に応えるべく加入した現チームでは、まだ目立ったリザルトは残せていないが、着々と野望に向かって進んでいるつもりだ。カタルーニャでの好走も、評価に値する上々の走りだった。

 「長期的な目標はグランツールを制すること。ハードであればハードであるほど、力を発揮できる選手になりたい」。今年はその足掛かりとなるシーズンとしたい。ウランや、カタルーニャで共闘した若手のマルティネスら、層が厚くなりつつあるチームの中で、どれだけ存在感を示すことができるか。アピールに成功した先には、無限の未来が広がっている。

グランツールでの活躍を野望に掲げるヒュー・カーシー。着々とその階段を上っている段階だ Photo: Slipstream Sports
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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