Cyclist編集部が密着ANA飛行機輪行の裏側に潜入、「自転車は、お客様と一心同体」羽田~松山間の輸送とは
遠いけれど輪行でサイクリングしてみたい場所がある。そんな時に速くて便利なのが飛行機輪行だ。しかし輪行初心者でもベテランサイクリストでも、電車やクルマとは違って目の届かない所に運ばれることに不安を覚える人もいるだろう。そこでCyclist編集部は空港内に潜入し、羽田~松山空港間で運航する全日空(ANA)の便を追跡。預けた自転車が丁寧に運ばれるプロセスを取材した。
手荷物カウンターで重量やサイズをチェック

この日は羽田空港で自転車を預け、松山空港に輸送されるまでの間、自転車がどのように運ばれるのかを追った。まずは輪行ケースを持って手荷物カウンターへ。ANAでは自転車とその他の荷物を合わせて20kgまで無料(プレミアムクラスは40kgまで)で預けることができる。その重量を超える場合は、超過手荷物料金を支払うことで預けられる。
重量のほかケースのサイズも確認。サイズは3辺の合計203cm以内が基準だ。また自転車を含め手荷物はX線検査を行うが、検査機を通らないサイズの場合、輪行バッグ・ケースの開被検査で中身を確認することがある。
預けたケースには、横倒しになったり上下が逆さになったりしないようシールが貼られ。カウンター内では通常のレーンとは異なる長尺用のレーンに載せて運ばれる。ここまでは利用者の目が届くところだが、気になるのは飛行機に積まれ、降ろされる過程だ。
厳重な扱いでコンテナへ積載
預けた荷物はコンテナに収容され、飛行機に積載される(一部の小型飛行機を除く)。自転車はキャリーケースなどの荷物よりも厳重に扱われコンテナに積み込まれる。
キャリーケースなどはコンテナに積み込む作業エリアまで通常のレーンで運ばれるが、自転車はスタッフの手持ちかカートに載せて運搬、または傾斜と速度が緩やかな長尺手荷物や精密機器対応のベルトコンベアを使用することもある。
自転車を積み込むのは幅や高さが1.5mほどのコンテナ。ケースに入った自転車を置くと、ちょうどコンテナの幅いっぱいになるくらいのサイズだ。今回は2台をコンテナに積んだ。

コンテナ内に積んだ自転車は、頑丈なベルトで固定される。輸送中に動かないようしっかり固定されるが、フレームやパーツを傷つけたり輪行バッグ・ケースを汚したりしないよう養生シートを挟んで保護される。自転車を積み終わったコンテナは、ドーリー(台車)に載せられ、トーイングトラクターという車両で飛行機まで運ばれる。

コンテナを機内に積み込む際には、「ハイリフトローダー」が貨物室の扉までコンテナを押し上げ、一つ一つ積載していく。機内に積み込まれる一連の動きはなめらかで、コンテナに衝撃が加わりそうな場面は見受けられない。
コンテナの積載、乗客の搭乗が終わるといよいよ出発。トーイングタグ車という車両で、飛行機が滑走路まで移動できるよう、飛行機の前側からプッシュバックさせる。ある程度バックしてから、飛行機は自走に切り替え滑走路まで進み離陸する。

飛行機が目的地に到着すると、コンテナは積み込まれた時と同様に一つずつゆっくりと降ろされ、空港ビルまで運ばれる。コンテナ内の荷物を確認したうえで、手際よくベルトを外し、スタッフが担いだりカートに載せたりして到着ロビーまで運んでいく。レーンに流れてくる荷物とは違って、スタッフが運び手渡される。自転車を預けてから手元に戻るまでの間、運搬からコンテナの積み降ろしまで、すべての行程でスタッフが丁寧に扱っているのだ。
サイクリストにやさしい松山空港

この日の目的地である松山空港は、しまなみ海道や四国一周サイクリングなど自転車での地域振興に力を注いでいる愛媛県の玄関口。そうした環境に合わせて、国内の空港では随一のサイクリストにやさしいサービスが提供されている。
空港内には、サイクリストと四国八十八カ所巡礼のお遍路さんが利用できる更衣室が用意されている。更衣室があることでサイクルジャージで空港内にいても違和感がなく、サイクリストにとってうれしい空気感が作り出されている。また、空港ビルの外にはサイクルラックとフロアポンプが置かれたサイクルステーションがあり、ここで自転車の組み立て、帰りの際は輪行の準備ができる。


空港のインフォメーションカウンターでは一式そろった工具セットの貸し出しを行っているほか、輪行バッグやケースの預かりサービスを行っている。四国一周サイクリングに挑戦する人が利用できるよう、2週間まで預けることができ、その間は倉庫に保管される。小さくまとめることができない輪行バッグ・ケースの場合、それをどこに置くかが悩みどころだが、空港に預けることでそのまま身軽にサイクリングに出発できる。


ANA中四国支社の小林文武・松山支店長はサイクリストが安心して預けられるクオリティのサービスを提供できるよう、スタッフと意識を共有しているという。「自転車はお客さまがカスタマイズやチューニングをした一心同体のような大切な乗り物なので、お客さまと同様の丁寧な対応を心がけている」という姿勢が、自転車の取り扱いに表れている。
また「サイクリングしまなみ」のような大きな大会をはじめ、年間を通して多くのサイクリストが松山空港を利用することで、自転車を取り扱うスタッフのスキルも向上しているという。小林支店長は「少し自転車に慣れてきて『どこかに行ってサイクリングできたらいいな』という人に利用してもらえたら」と思いを語った。
早めの手続き、充分に保護できるケースを
飛行機輪行をする際にはいくつか注意したいことがある。まず自転車を預ける際は、その他の荷物も合わせて出発時間の1時間前までに手続きを済ませるのが理想的だ。手続きや運搬・搭載などに時間がかかるため、預けるのが間際になると、出発の時刻に遅れが出るなどの恐れがある。また大きなサイクリングイベントやレースの際には扱う台数が増えるため、さらに早めの行動を心がけた方がいいという。
自転車を入れるのは薄い輪行袋ではなく、ハードケースや緩衝材が充分に入った輪行バッグを使用するのが望ましい。ANAでは輪行袋の場合でもできるだけ緩衝材で保護して積載するそうだが、ケース自体が充分に保護できる性能をもっていた方が安心して使えるはずだ。
危険物として、液体のパンク修理剤や50mlを超えるCO2ボンベは預けることも機内持ち込みもできない。50ml以下のボンベであればどちらも可能になる。また、電動アシスト自転車用のバッテリーは、受託も持ち込みも受け付けていない。
大切な自転車を預けるうえでは、これらに注意しながら準備を整え、手荷物カウンターに向かうのがいいだろう。