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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<245>勝利を呼び込む積極策も、財政に不安要素 アスタナ プロチーム 2018年シーズン展望

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 2018年シーズン序盤のスタートダッシュに成功したチームの中でも、2月に入って軌道に乗せた印象を与えているのがアスタナ プロチーム。この月だけで6勝を挙げたほか、2位フィニッシュ10回、同じく3位が9回と、多数の表彰台入りを獲得している。勢いある戦いの要因となっているものとして何が挙げられるのか、有力選手の動向と合わせて探っていきたいと思う。

ドバイ・ツアーのチームプレゼンテーションでパフォーマンスを行うアスタナ プロチームの選手たち =2018年2月5日 Photo: Yuzuru SUNADA

光る積極性 勝利を呼び込むプロトンでの動き

 チームは2月10日のブエルタ・ア・ムルシア(スペイン、UCIヨーロッパツアー1.1)でのルイスレオン・サンチェス(スペイン)の勝利を皮切りに、次々と好成績を収めている。直近では、24日のオムループ・ヘット・ニュースブラッド(ベルギー、UCIワールドツアー)でミケル・ヴァルグレン(デンマーク)が独走勝利。翌25日には、ミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア)がアブダビ・ツアー(UAE、UCIワールドツアー)で個人総合3位となっている。

2月25日開催のセミクラシック、オムループ・ヘット・ニュースブラッドでミケル・ヴァルグレンが鮮やかな独走勝利 Photo: Yuzuru SUNADA

 今シーズンに入ってのアスタナ プロチームの戦い方は特徴的だ。レース中盤以降にアシストを複数固めてプロトンのコントロールを行う場面が目立っている。アレクセイ・ルツェンコ(カザフスタン)が個人総合優勝したツアー・オブ・オマーン(UCIアジアツアー2.HC)や、先のアブダビ・ツアーなど、ステージレースではそうした姿勢が顕著である。

 また、オムループ・ヘット・ニュースブラッドでは、有力選手のみに絞られたレース終盤の先頭集団にヴァルグレン、ルツェンコ、オスカル・ガット(イタリア)を送り込むことに成功。優勝を争うグループにあって、3選手が入ったのはアスタナのみ。数的優位な状況を作り出して勝利を呼び込んだ。

 こうした積極策が、シーズンインからここまで奏功していると見てよいだろう。そして、そんな戦いを可能にしているのが、充実する戦力。何より、確たるエースが存在し、その走りが計算できるものであることが最大の要因といえるのである。

フルサング、ロペスがグランツール総合エースを務める

 チームは、ビッグレースを中心にどの選手をエースに立てるかといった方向性を早々に固めた。エースクラスの選手たちにとっては、目標の設定やそこに至るまでのレースプログラムを決めやすく、モチベーションを高めることにもつながっているようだ。

2018年はツール・ド・フランスで総合エースを務める見込みのヤコブ・フルサング。昨年のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネ個人総合優勝の実績を誇る =2017年6月11日 Photo: Yuzuru SUNADA

 まず、グランツール路線はヤコブ・フルサング(デンマーク)とロペスが総合エースを務める。両者によほどのことがなければ、ツールがフルサング、ジロはロペスがリーダーとなることが確定的だ。

 フルサングは昨年、ツールで無念の途中リタイア。前哨戦のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネで総合優勝を果たし、ツール本番での戦いぶりに注目が集まったが、期待に応えることができなかった。とはいえ、山岳・個人タイムトライアルともに安定して上位を押さえられる点で、チーム内での信頼度も高い。ここ数年は、ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、現バーレーン・メリダ)や、ファビオ・アル(イタリア、現UAE・チーム エミレーツ)との共闘、または山岳最終アシストの立場でグランツールへ臨むことが多かっただけに、ビッグリザルトには恵まれていないが、本人・チームともに今ツールへの自信を見せている。すでにシーズンインからトップ10フィニッシュを繰り返しており、前途は明るい。

アブダビ・ツアーで個人総合3位に入ったミゲルアンヘル・ロペス。総合エースを務めるジロ・デ・イタリアに向けて明るい材料を得ている =2018年2月25日 Photo: Yuzuru SUNADA

 24歳になったばかりのロペスは、昨年のブエルタ・ア・エスパーニャでステージ2勝。個人総合でも8位に入り、いよいよグランツールレーサーとしての歩みを始めたところ。魅力は何といっても急峻な山岳での走りだ。早めのアタックで独走に持ち込むことにも長け、一度広げたタイム差を維持、または拡大してフィニッシュまで持ち込めるあたりは、ライバルにとって脅威。タイムトライアルも得意としており、TTステージで好位置につけて山岳勝負、といった戦術も今後見られることだろう。今年もすでに山岳ステージをメインに好走。ツアー・オブ・オマーンでは山頂フィニッシュを制したほか、アブダビ・ツアーでも総合表彰台を決定づける登坂を見せている。

 彼らを盛り立てるアシストとしては、ダリオ・カタルド(イタリア)、セルゲイ・チェルネトスキー(ロシア)、タネル・カンゲルト(エストニア)、ペリョ・ビルバオ(スペイン)といった経験豊富なクライマーの名が挙がる。さらに、“山岳賞ハンター”のオマール・フライレ(スペイン)や昨年のジロ総合12位のヤン・ヒルト(チェコ)が加入。これまで以上に山岳に特化したメンバーを編成する可能性も高まっている。

ツアー・オブ・オマーンで個人総合優勝を果たしたアレクセイ・ルツェンコ。スピードを武器にクラシックでの活躍を狙う ©️A.S.O.

 クラシック路線については、オムループでの好成績によってメドが立った。このレースを制したヴァルグレンは、同じ北のクラシックにあたるツール・デ・フランドルをターゲットにすることを明言。2年前にはアムステル・ゴールド・レースでも2位となった実績があり、春のクラシックシーズンはパヴェからアルデンヌクラシックまで、大車輪の働きが見込まれる。小集団でのスプリントも得意のルツェンコが脇を固めるほか、石畳スペシャリストのガットも北のクラシックでは大きな戦力。リエージュ~バストーニュ~リエージュといった丘陵地での戦いでは、フルサングも上位進出にチャレンジするだろう。

スプリント力が魅力のマグナス・コルトニールセン(左)。ドバイ・ツアーでステージ優勝するなど存在感を発揮している =2018年2月9日 Photo: Yuzuru SUNADA

 グランツールの総合やクラシックレースほど注力してこなかったイメージのスプリントについても、移籍加入したマグナス・コルトニールセン(デンマーク)が貴重なチャンスを生かしている。2年前にはブエルタのマドリードステージ(最終ステージ)を制したスピードマンは、ピュアスプリンターにも負けない勝負強さを誇る。リードアウトがなくともバイクコントロールとポジショニングで局面打開できるテクニックを持ち、自らで勝利までのシナリオを作ることができる稀有な存在。「上れるスプリンター」としてもプロトン有数の実力者。今年はツアー・オブ・オマーンで1勝を挙げているほか、ドバイ・ツアー(UAE、UCIアジアツアー2.HC)でも個人総合2位と健闘している。

突如降りかかった資金問題 選手たちはレースに集中を強調

 選手たちの活躍の一方で、チームの運営には黄色信号がともっている。

アスタナ プロチームゼネラルマネージャーのアレクサンドル・ヴィノクロフ氏。突如降りかかった資金問題で奔走中だ =2017年5月23日 Photo: Yuzuru SUNADA

 カザフスタンのウェブサイトで23日に掲載された、ゼネラルマネージャーのアレクサンドル・ヴィノクロフ氏のインタビュー。そこで語られたのは、「既存のチーム資金を切り崩して運営を行っている」ことだった。

 2007年に同国の国家プロジェクトとして動き出したチームは今年、12年目を迎える。数々の国営企業を統括するファンド「サムルーク・カズィナ」をメインスポンサーに、いわば政府からの資金によって運営がなされている。この資金がチームにわたっておらず、これまでの活動による蓄えで今をしのいでいるのが実情だ。これにより、選手・スタッフ合わせて50人以上の給与が未払いとなっているとも報じられた。

 こうした状況を打破すべく、ヴィノクロフ氏が奔走中。給与未払いに関して、アブダビ・ツアーやオムループに出場した選手たちが「給与を受け取っている」とのコメントを出すとともに、レース活動に集中することを強調している。

 チームは2009年にも同様の問題に窮し、同年のジロではスポンサー企業名を薄めた別注ジャージをまとってレースに臨むといった事態が発生している。このときは数日後に資金のメドが立ち給与が支払われているが、今回も無事資金調達できるのか。この原稿を執筆している時点では、いまだ不透明な状態にある。

アスタナ プロチーム 2017-2018 選手動向

【残留】
ペリョ・ビルバオ(スペイン)
ザンドス・ビジギトフ(カザフスタン)
ダリオ・カタルド(イタリア)
セルゲイ・チェルネトスキー(ロシア)
ローレンス・デヴリーズ(ベルギー)
ダニイル・フォミニフ(カザフスタン)
ヤコブ・フルサング(デンマーク)
オスカル・ガット(イタリア)
アンドリー・グリブコ(ウクライナ)
ドミトリー・グルズジェフ(カザフスタン)
ジェスパー・ハンセン(デンマーク)
タネル・カンゲルト(エストニア)
トルルス・コルシャイス(ノルウェー)
バーフティヤール・コージャタイエフ(カザフスタン)
ミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア)
アレクセイ・ルツェンコ(カザフスタン)
リカルド・ミナーリ(イタリア)
モレーノ・モゼール(イタリア)
ルイスレオン・サンチェス(スペイン)
ニキータ・スタルノフ(カザフスタン)
ルスラン・トルウバイエフ(カザフスタン)
ミケル・ヴァルグレン(デンマーク)
アルチョム・ザハロフ(カザフスタン)
アンドレイ・ツェイツ(カザフスタン)

【加入】
マグナス・コルトニールセン(デンマーク) ←オリカ・スコット
オマール・フライレ(スペイン) ←ディメンションデータ
エフゲニー・ギディッチ(カザフスタン) ←ヴィノ・アスタナモータース
ヤン・ヒルト(チェコ) ←CCCスプランディ・ポルコヴィチェ
ユーゴ・ウル(カナダ) ←アージェードゥーゼール ラモンディアル
ダヴィデ・ヴィレッラ(イタリア) ←キャノンデール・ドラパック

【退団】
ファビオ・アル(イタリア) →UAE・チーム エミレーツ
マッティ・ブレシェル(デンマーク) →EFエデュケーションファースト・ドラパック
アーマン・カミシェフ(カザフスタン) →ヴィノ・アスタナモータース
パオロ・ティラロンゴ(イタリア) →引退(UAE・チーム エミレーツ アシスタントスポーツディレクター就任)

今週の爆走ライダー−ユーゴ・ウル(カナダ、アスタナ プロチーム)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 今年から2年契約でチームに加入したカナダ人ライダー。チーム唯一の英語圏の選手だが、プロ入り以降はフランスを拠点としている。

今シーズン、アスタナ プロチームに加入したユーゴ・ウル Photo: Luca Bettini/BettiniPhoto

 もっとも、チームがカナダ発のバイクブランド「アルゴン18」を使用していることから、マーケティング面重視の採用という側面は否めない。ウル自身はそれを理解しつつも「国際色豊かなチームでグランツールやクラシックを目指すことができるのは興味深い」と前向きな姿勢を見せる。昨年、自身は出場しなかったものの、自国開催のグランプリ・シクリスト・ド・ケベックの時期に合わせて、移籍加入を発表してくれたチームの粋な計らいがうれしかった。

 さまざまな事情があるものの、シーズンインはまずまずの出来。ビッグリザルトこそないが、10位台でのフィニッシュを継続しており、戦力として計算できるところを見せている。昨年まで所属したアージェードゥーゼール ラモンディアルでは、北のクラシックや平地系レースでのアシストや逃げを任されることが多かったが、新たなチームでもその役割を引き受けることになりそうだ。

 2015年には、個人タイムトライアルで自国とアメリカ大陸の王者を経験。かつては警察官を夢見たというが、人生をロードレースに賭ける決意をし、着々と実績を重ねる今に満足する。自転車にまたがる以上は、ツールに出場したい。プロ転向以来抱き続けるツールへの思いは、新しいチームで成就させると心に誓った。

得意の個人タイムトライアルではカナダやアメリカ大陸王者を経験しているユーゴ・ウル。次なる野望はツール・ド・フランス出場だ =UCIロード世界選手権2017男子エリート個人タイムトライアル、2017年9月20日 Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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