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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<244>フルームの動向は? 主力選手は好調アピール チーム スカイ 2018年シーズン展望

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 昨年12月に明らかになったクリストファー・フルーム(イギリス)の薬物問題。シーズンオフの話題を独占し、フルーム個人はもとより、サイクルロードレース界全体を揺るがした出来事は、UCI(国際自転車競技連合)の裁定が待たれる状況にある。落ち着かないオフを過ごしたフルームとチームだが、まずはレースに集中する姿勢を貫く。充実する戦力をフルに生かすのは、豊富な資金と徹底した組織性。そのチーム力は、シーズンインからまもない段階で早くも発揮されている。今年の戦いぶりが注目されるチーム スカイについて、今回は展望してみる。

シーズン序盤からチーム力を発揮し勝利を重ねるチーム スカイの選手たち。写真はブエルタ・ア・アンダルシア第1ステージでのひとこま Photo: Vuelta a Andalucia

渦中のフルームはスペイン・アンダルシアで今季をスタート

 昨シーズン、ツール・ド・フランスとブエルタ・ア・エスパーニャの総合2冠「ダブル・ツール」を達成したフルーム。そのブエルタ期間中の検査で、医薬品「サルブタモール」に関して、使用が認められる基準の2倍という異常値が検出された。UCIによる裁定を待つ段階でのレース出場に関しては、他チームの所属選手や関係者、各種団体からの賛否は聞かれるものの、フルーム本人やチームはUCIの発表や規定に沿いつつ通常通りの行動に努めている様子だ。

※記事公開当初、サルブタモールを禁止薬物と表記していましたが、TUE(治療使用特例)申請なしで使用できる医薬品で、禁止薬物ではなかったため訂正しました。

ブエルタ・ア・アンダルシアでシーズンインしたクリストファー・フルーム Photo: Vuelta a Andalucia

 そのフルームはシーズンインを前に、かつて生活拠点を置いていた南アフリカでトレーニング。過去2年は2月上旬にオーストラリアでシーズンインを迎えていたが、今年は2月14~18日にスペインで行われたブエルタ・ア・アンダルシア(UCIヨーロッパツアー2.HC)を初戦に据えた。

 例年とは違った注目度の中で迎えた今季の幕開けは、まだまだ本調子からは程遠い走り。総合リーダーはワウト・プールス(オランダ)に託し、自身は先々を見据えてレース勘をつかむための走りに終始した印象だった。それでも、本格的な山岳ステージとなった第2ステージでは、アタックを繰り出すライバルに対して自らのリズムを保ちながら一時的に先頭合流を果たすなど、ところどころで“らしさ”は見せた。最終日に設けられた14.2kmの個人タイムトライアル(TT)ではトップから27秒差の11位に甘んじ、総合でも10位に終わったが、本来の実力やこれまでの実績を考えれば、ここからしっかりと調子を上げていくことは間違いない。

2017年はツール・ド・フランスとブエルタ・ア・エスパーニャの2冠を達成したクリストファー・フルーム。2018年はジロ・デ・イタリアとツールでダブル・ツールを目指す =ブエルタ・ア・エスパーニャ2017第21ステージ、2017年9月10日 Photo: Yuzuru SUNADA

 抱えている問題の終結を急ぎたいところだが、ひとまずは当初の予定通りジロ・デ・イタリアとツールの2冠を目指す方向で今年の目標は定まっている。近年は圧倒的な登坂力というよりは、絶対的な強さを持つ個人TTと山岳とのバランスで勝負する傾向にあるが、32歳という年齢やライバルとなる選手たちの脚質が多様になってきていることを考えると、王者がとるべきスタンスとしては自然なことといえる。最初のターゲットとなるジロには、同様の戦い方を得意とするトム・デュムラン(オランダ、チーム サンウェブ)が前回覇者として立ちはだかる。TT重視の両者のマッチアップには期待が膨らむばかりだ。

 次戦は3月7~13日のティレーノ~アドリアティコ(イタリア)となる見通し。そこにはデュムランのほか、ファビオ・アル(イタリア、UAEチーム・エミレーツ)、ロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール ラモンディアル)ら、グランツールでの“打倒フルーム”に燃える選手たちが続々と参戦を表明している。ハイレベルな戦いに、調整途上のフルームがどう臨むのか見ものだ。

シーズン序盤の重要レースで勝利を量産

 ゆっくりと調整するフルームの一方で、主力選手たちが好調をアピール。2月に入ってすでに9勝を挙げ、チームは軌道に乗り始めている。

初開催のコロンビア・オロ・イ・パスではエガン・ベルナルが個人総合優勝 Photo: Colombia Oro y Paz

 2月上旬に行われたコロンビア選手権で、エガン・ベルナルが個人TT、セルジオルイス・エナオがロードとチャンピオンを分け合うと、その直後に開催されたステージレースのコロンビア・オロ・イ・パス(UCIアメリカツアー2.1)でベルナルが個人総合優勝。今年チームに加入したばかりの21歳が初代王者の座をゲット。共闘したエナオも総合4位とまとめている。

ヴォルタ・アン・アルガルヴェはステージ2勝を挙げたミカル・クウィアトコウスキーが総合も制覇 Photo: Volta ao Algarve

 コロンビア勢に続いたのが、2月14~18日のヴォルタ・アン・アルガルヴェ(ポルトガル、UCIヨーロッパツアー2.HC)を走ったミカル・クウィアトコウスキー(ポーランド)とゲラント・トーマス(イギリス)。山岳の第2ステージでまず、トーマスのアシストによりクウィアトコウスキーが優勝。続く第3ステージでは20.3kmの個人TTをトーマスが制覇。最終の第5ステージは早々に30人以上が集団を抜け出す荒れた展開となったが、この中に潜り込んだクウィアトコウスキーがしっかりと締めてステージ優勝。第2ステージ以降トーマスが保持していたリーダージャージを引き継ぎ、個人総合優勝も決めている。

 フルームが走ったブエルタ・ア・アンダルシアでは、第2ステージの1級山岳頂上フィニッシュをプールスが制すると、新加入のダビ・デラクルス(スペイン)も最終第5ステージの個人TTで優勝。プールスは個人総合でも2位に食い込んでいる。

 クラシックやグランツールのエース候補と目される選手たちが仕上がりの良さを示し、今後の戦いぶりが楽しみになってきている。

適材適所の選手配置を可能にする層の厚さ

 チーム スカイといえば、豊富な資金力をバックに隙のない布陣を整える点に大きな強みを持つ。今シーズンの所属選手は、UCIワールドチームの上限である30人。かつてはイギリスの国家プロジェクトに近い趣きのあったチームは、いまや12カ国から精鋭が集まる多国籍軍に。どこからでも、そして誰でも勝負に絡むことができるだけの戦力を今年もしっかりと整えた。

 そうした意味では、誰をどのレースに配置するのかが気になるところだ。

ブエルタ・ア・アンダルシアで好走したワウト・プールス。クラシックやグランツールでの活躍が期待される Photo: Vuelta a Andalucia

 フルームがこのままジロとツールへと向かうことになれば、これまでと同様に山岳に強いアシストをきっちりそろえることになるだろう。ツールへはクウィアトコウスキーがメンバー入りに意欲を見せているほか、プールスやエナオといった総合力のある選手、実績十分のヴァシル・キリエンカ(ベラルーシ)らもアシスト候補にリストアップされているものとみられる。また、昨年はジロとツールともに落車負傷の影響で途中リタイアとなったトーマスが、チーム2番手の立場として総合成績を狙う方針であることも欧米のサイクルメディアで報じられた。

 一方のジロへ向けては、ベテランのフィリップ・ダイグナン(アイルランド)に加えて、ケニー・エリッソンド(フランス)が山岳アシストを務める公算であることが明らかになっている。なお、先のアンダルシアで好走したデラクルスは、ブエルタに照準を定めるとしている。

久々に北のクラシックに注力するゲラント・トーマス。パリ〜ルーベも視野に入れる =E3ハーレルベーケ2015、2015年3月27日 Photo: Yuzuru SUNADA

 時期が迫るクラシックもメンバー争いが熾烈。ビッグネームでは、クウィアトコウスキーがミラノ~サンレモ、ツール・デ・フランドル、そして彼にとって“本番”ともいえるアルデンヌクラシックを目指すと明言。トーマスは3年ぶりの参戦を決めたパリ~ルーベを中心に、北のクラシックでタイトル獲得を視野に入れる。

 クウィアトコウスキーは昨年、ミラノ~サンレモを制したほか、アムステル・ゴールド・レース2位、ラ・フレーシュ・ワロンヌ7位、リエージュ~バストーニュ~リエージュ3位と高いレベルで安定。短めの急坂への対応力や小集団でのスプリント力、そして勝負強さと、ワンデーレーサーとして必要な能力に長ける。上々のシーズンインを果たしている点を踏まえても、今年はさらなるビッグタイトルを手にするチャンスが出てきそうだ。ここにリエージュ優勝経験のあるプールスや、上りに強いディエゴ・ローザ(イタリア)らが脇を固めることによって、戦いの幅が広がる。

 トーマスが軸となる北のクラシックでは、2年前のパリ~ルーベで3位を経験しているイアン・スタナード(イギリス)が控えるほか、昨年のフランドルで4位に入ったディラン・ファンバーレ(オランダ)が移籍加入したことによって攻撃的布陣を敷くことが可能になった。

クラシックシーズン注目の1人であるジャンニ・モスコン。レース展開次第ではビッグタイトル獲得の可能性も見えてくる =イル・ロンバルディア2017、2017年10月7日 Photo: Yuzuru SUNADA

 そしてもう1人。クラシック班のジョーカー的存在となり得るのが、ジャンニ・モスコン(イタリア)。昨年のルーベで5位となり一躍注目を集めたが、その後もワンデー、ステージレース問わず存在感を発揮。10月のイル・ロンバルディアでは3位に入るなど、あらゆるレースで適応力の高さを見せている。個人TTでイタリアチャンピオンになるなど、独走力も武器となるだけに、展開次第では独走で逃げ切るケースが出てきても不思議ではない。1月下旬からレースに参戦し、すでに表彰台を確保するなどこちらもシーズンを好スタート。レースプログラムについて今のところは何も語っていないが、それも近々分かることだろう。

 今シーズンは8選手が新加入となったが、2年前のアンダー23(23歳未満)世界王者のクリストファー・ハルヴォルセン(ノルウェー)ら半数の4人が初のプロ契約。将来を嘱望される選手たちをどう一流に仕立て上げるか、その育成力も問われることとなる。

チーム スカイ 2017-2018 選手動向

【残留】
フィリップ・ダイグナン(アイルランド)
ジョナサン・ディッベン(イギリス)
オウェイン・ドゥール(イギリス)
ケニー・エリッソンド(フランス)
クリストファー・フルーム(イギリス)
タオ・ゲオゲガンハート(イギリス)
ミカル・ゴワシュ(ポーランド)
セバスティアン・エナオ(コロンビア)
セルジオルイス・エナオ(コロンビア)
ベニャト・インチャウスティ(スペイン)
ヴァシル・キリエンカ(ベラルーシ)
クリスティアン・クネース(ドイツ)
ミカル・クウィアトコウスキー(ポーランド)
ダビ・ロペス(スペイン)
ジャンニ・モスコン(イタリア)
ワウト・プールス(オランダ)
サルヴァトーレ・プッチョ(イタリア)
ディエゴ・ローザ(イタリア)
ルーク・ロウ(イギリス)
イアン・スタナード(イギリス)
ゲラント・トーマス(イギリス)
ルーカス・ヴィシニオウスキー(ポーランド)

【加入】
レオナルド・バッソ(イタリア) ←ジェネラルストア・ボットーリ・ザルディーニ(アマチュア)
エガン・ベルナル(コロンビア) ←アンドローニ・シデルメックボッテッキア
ヨナタン・カストロビエホ(スペイン) ←モビスター チーム
ダビ・デラクルス(スペイン) ←クイックステップフロアーズ
クリストファー・ハルヴォルセン(ノルウェー) ←ヨーケル・イコパル
クリストファー・ローレス(イギリス) ←アクセオン・ヘーゲンズバーマン
パヴェル・シヴァコフ(ロシア) ←BMCデヴェロップメントチーム(アマチュア)
ディラン・ファンバーレ(オランダ) ←キャノンデール・ドラパック

【退団】
イアン・ボズウェル(アメリカ) →カチューシャ・アルペシン
ピーター・ケニャック(イギリス) →ボーラ・ハンスグローエ
ミケル・ランダ(スペイン) →モビスター チーム
ミケル・ニエベ(スペイン) →ミッチェルトン・スコット
ダニー・ファンポッペル(オランダ) →ロットNL・ユンボ
エリア・ヴィヴィアーニ(イタリア) →クイックステップフロアーズ

今週の爆走ライダー−フィリップ・ダイグナン(アイルランド、チーム スカイ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 プロ14年目のシーズンは、少々騒がしいなかで始まった。絶対的なチームリーダーであるフルームとともにアンダルシアへと向かったが、受ける取材はどれも薬物問題のことばかり。フルームのレース出場について賛否あることについては、「クリスはレースに出場する資格がある」ときっぱり。各所で報じられることは気にならないといい、「自分たちの仕事で証明するだけ」とベテランらしい言葉を残した。

カルロス・サストレから学んだサーヴェロ テストチーム時代。2009年のブエルタ・ア・エスパーニャ第18ステージで勝利を挙げたフィリップ・ダイグナン =2009年9月17日 Photo: Yuzuru SUNADA

 さまざまなチームを渡り歩くとともに、数多くの経験を積んできた。2009年から2年間所属したサーヴェロ テストチームでは、2008年にツールを制したカルロス・サストレ(スペイン)から走り方を直接学んだ。2009年のブエルタではステージ1勝を挙げ、総合でも9位。それ以降は大きなリザルトこそ残していないが、山岳を中心に堅実なアシストぶりを見せる。念願かなって現チームに加わったのは2014年のことだった。

 そして迎える今年も自身よりチームの結果を最重要視して走る。目標はジロでフルームのために働くことを掲げる。長いキャリアの中でツールの出場経験はないものの、ジロには6回の出場経験を誇る。その経験を生かすとともに、「どんな状況下でも仕事ができるよう準備ができていないといけない」と自身に高いノルマを設定する。

 何より、コンディションのよさが自信を与えているようだ。このオフは5週間バイクから離れたが、ベースを置くモナコにとどまり、たっぷり休息したことでよい体調を保てているのだとか。チームベースのあるフランス・ニースとも近く、あれこれ考えずに過ごせたことが心身に好影響を与えたとも述べる。

 心穏やかに目指すべきところへと進んでゆく。いつになく多くの視線がチームに注がれる中、感情が乱されることなくレースに集中できる状況を作ることも、職人肌のベテランの仕事。ダイグナンには走りとはまた違った、精神的な面での役割も求められることになる。

ジロ・デ・イタリア2017第15ステージを走るフィリップ・ダイグナン。今シーズンもジロが目標になる。これまでの経験を元にいつになく注目が集まるチームを支える =2017年5月21日 Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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