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猪野学の“坂バカ”奮闘記<21>自転車を捨てた“雪バカ”俳優  「ひがしね雪祭りシクロクロス」の表彰台争い

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 これまで幾多の悪路を自転車で走ってきたが、「一番楽しかった悪路は?」と聞かれたら私は迷わず雪上と即答する。サラサラの新雪をファットバイクで走ると何ともいえない浮遊感が得られて最高に楽しい。が、一番難しくもあるのが雪。悪路中の悪路とも言われ、ペダリングが上手くないと走ることができない。気温によってころころ状況は変わるし、見た目で判断できない。新雪だと思って突っ込んだら表面だけで中は氷だったり。グシャグシャ雪だと思ったらバキバキに凍ってたり、まるで思春期の乙女の様に扱い辛い。今回は少し遡って2014年に山形県東根で開催された「ひがしね雪祭りシクロクロス」という雪上レースに挑戦した思い出を紹介する。

レース挑戦のため、雪上特訓を敢行した筆者 (左)

雪上を走るための“忍者走法”

 実は私はスキーの準指導員の資格を持っている。したがって雪をスキーで滑ることには慣れているが、自転車で雪上を走るのは初めて。という事でMTBのレースで活躍し、雪上レースに10年出場し続けている“雪の匠”こと、堂城賢(たかぎ・まさる)さんに雪上レースの攻略法を習うことになった。

“雪の匠”こと堂城賢さん

 まずはフッカフカの新雪に挑戦! 勢いをつけて新雪に突っ込む!が、雪が深すぎてあっという間に埋もれてしまう。しかし雪の匠、堂城さんが漕ぐと沈む自転車を浮かせながら器用に走るではないか!

走りはパワフルだが、指導は優しい堂城さん

 なんと堂城さんは、自転車が沈み込んでしまう前にクランクを回し、脱出しながら走っているのだ。抜き脚差し脚…まるで「忍者走法」。忍者の技にペダリングの極意があるとは思いもよらなかった。ただ、これらの極意はフォームを崩さないボディバランスがないとできない。忍術以前に強靭な体幹も必要なのだ。

特訓中の筆者。慣れない雪に大苦戦…

 私はいつもより熱心に特訓に特訓を重ねた。それには理由がある。今回の出場者は全部で75人。40代男子は23人…。読者の皆様には分かるだろうか?この胸のときめきが…。そう!憧れの表彰台に登れる確率が極めて高いのだ!こんなチャンス滅多にない!という事で私はこの忍術を完璧にマスターした。

実はランの方が得意!

 時は来た!レース当日。1周3.5kmのコースを制限時間60分で周回を競う。コースといっても田んぼの畦道をスノーモービルで固めただけ。なんとも手作り感満載の大会だ。スタートはル・マン式。スタートから20m先に自転車を雪に刺して置き、スタートと同時に自転車まで走るのだ。しかし、私はここで痛恨のミスを犯してしまう。なんと自転車を一番手前に置いてしまったのだ!

 スタートから一番遠い場所に置いた方が有利なのはスタートしてすぐにわかった。自転車を押す人でごった返し大渋滞が起きたのだ。少し考えれば分かる事だ…。己の頭の悪さを呪う。

ひがしね雪祭りシクロクロスがスタート!

 渋滞はなかなか緩和されない。仕方ないので自転車を押し続ける。ここでおかしな現象が起き始める。スタートして随分経つのに、誰も自転車に跨がろうとしないのだ。痺れを切らした人が自転車に飛び乗るが、見事に悪雪にタイヤを取られ、後方へと消えて行く。

 この日の東根は異常に気温が高く、雪が溶けザクザクになってしまっていたのだ。忍者走法も通用しないくらいザックザクのベッチャベチャ! あの特訓は何だったのだと嘆く。が、ふと気付くと周りの選手は遥か後方へ遅れ、私一人になっていた。そう…何を隠そう、私は某テレビ局の周りを周回する赤坂5丁目マラソン(オールスター感謝祭)でオリンピック銀メダリストのワイナイナ選手を抑え、6位に入賞するほどランには定評がある。

自転車で走れる舗装路はたったの30メートル!

 「今日は俺の日だ! 今日こそ憧れの表彰台だ!」と喜んだのも束の間、遥か前方にスタートダッシュに成功した数人が逃げを決めているではないか! よく見ると逃げグループも自転車を押して走っている。

 「しめた!マラソンでなら追い付ける!」

 私はチャリダーが自転車情報番組である事を忘れ、猛然とケイデンスならぬピッチを上げた。自転車になんか乗るものか!

 すると田んぼ区間が終わり、唯一の舗装路が現れた。ここではさすがに皆 自転車に股がる。しかし舗装路はたったの30mしかない。一周3kmで自転車に乗るのは30mだけ。これは完全にマラソン!私向きの展開だ!

真面目に遊ぶ面白さが醍醐味

 2周目、再び田んぼ区間に戻る。マラソンになると確実に前との差を縮めている。先頭集団がだいぶ大きく見え出した。そして3周目に突入!しかしここで制限時間的に「ラスト一周!」とコールされた。

これはマラソン大会なのか!?

 さらにピッチを上げ、田んぼ区間が終わる頃に何とか集団の後方に追い付いた。しかし! 舗装路区間は道幅が狭く、抜くポイントがない!結局だんご状態で集団後方のままゴール!

 結果は…4位。あと1人…あと1人及ばなかった。またも表彰台は憧れのまま…。しかしなぜか妙な笑いが込み上げて来る。周りを見ても皆さん変な笑いに満ちている。雪上レースなのに参加者全員が自転車を押して走るという…馬鹿さ加減から来る笑いだろうか?

 そう…この「真面目に遊ぶ面白さ」が、手作りレースの醍醐味なのだ。私は表彰台よりも、何かかけがえのないものを得たような気がした。

 異常な暖かさの東根は午後から雨となり、雪に残った数々の足跡ならぬタイヤ痕を消していった。しかし自転車情報番組の出演者が、マラソンの方が得意という番組スタッフの疑問は…いつまでも消える事はなかった。

(写真提供:NHK/テレコムスタッフ)

猪野 学猪野 学(いの・まなぶ)

俳優・声優。自転車情報番組NHK BS1『チャリダー☆』(毎週土曜18:00~18:25)にレギュラー出演し、「坂バカ俳優」という異名で人気を博す。自転車の他、空手やスキーなども特技とするスポーツマン。俳優として舞台や映画、ドラマなどで活躍する一方、映画『スパイダーマン』のトビー・マグワイアの声優としても知られる。ウェブサイト「マナブログⅡ

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