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シクロクロス東京2018元プロ選手メレディス・ミラーさん来日 女性チームで“バニーホップ”!

by 後藤恭子 / Kyoko GOTO
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 2月11日に開催された「シクロクロス東京2018」2日目、女性シクロクロッサーの頂上決戦「CL1」レースに1人の海外選手の姿があった。米コロラド州から来日した元プロロードレーサーのメレディス・ミラーさん(44)。シクロクロスでも全米選手権で5度にわたり表彰台に立った屈指の実力派ライダーだ。現役引退後も女性プロサイクリストの地位向上に取り組んでいるミラーさんは、今回の来日でも女性メカニックたちとタッグを組んでレースに臨んだり、女性のための「シクロクロスクリニック」を開催。自身の活動を通して女性たちの秘めた可能性、そしてたくさんの笑顔を引き出していた。

シクロクロス東京CL1レースを終えて。友情の証として“地元”のジャージを交換し合うメレディス・ミラーさん(中央右)、ピットクルーを務めたメカニックの田方佐矢子さん(中央左)と藤森なおみさん(右)。全日本チャンピオンの今井美穂さんも飛び入りして、皆最高の笑顔 Photo: Kyoko GOTO

栄光の裏にある性差の戦い

 ミラーさんはロードレース界で2009年に全米チャピオンとなり、2010から2013年までロードチームのキャプテンを務めた。シクロクロスでは全米選手権で5度の表彰台に立ち、2014年のUCIシクロクロスワールドカップ「クロスベガス」で優勝を果たした輝かしい経歴の持ち主だ。しかし、彼女の栄光の影には女性プロサイクリストとして、男女の地位の格差と戦ってきた歴史もある。

 自転車競技をめぐる世界は米国でも男女差が大きく、とくにシクロクロス界は女性プロライダーは不遇な扱いを受けている。賞金の額は男性の3分の1程度。レース時間も男性が60分以上であるのに対してわずか40~45分と短く、メディア露出もほぼないのが現状だという。

元プロロードレーサーのメレディス・ミラーさん。輝かしい戦績を重ねる一方で、レース界の男女平等を呼び掛けて活動を続けてきた Photo: Kyoko GOTO

 そんな女性シクロクロッサーをめぐる状況に変化が起きた。2017年9月、米国のエレン・ノーブル選手がレースでバニーホップした後に、その画像をSNSで「#bunnyhopthepatriarchy」(男性上位制の社会をバニーホップで飛び越えろ)というハッシュタグとともに発信した。男女平等を求めての小さなメッセージだったが、このハッシュタグはいま、女性の力強いムーブメントの象徴となっている。

 ミラーさんも早い時期からロードやシクロクロスの世界で男女平等を呼び掛け、活動していた1人。彼女の話によると、いまなお待遇や環境で男女の格差があるが、彼女がプロの世界に入った2002年当時は、不満を口にすることすら否定されていた。それでもめげずに声を上げ続けた選手たちがいたことで、その声が少しずつ大きくなり、組織を動かすところまできたという。ミラーさんは「自分たちの当然の権利は主張し続けるべき。権利をあきらめて手放すことはしてはいけない」と語る。

女性による女性のためのシクロクロスを

 今回の来日では、わずか4日間という滞在期間にも関わらず精力的に活動を展開した。シクロクロス東京の初日には午前6時半から大会会場付近の公園で、女性のための「シクロクロスクリニック」を開催。冬の早朝、しかも開催告知が間際であったにも関わらず、ビギナー含む12人もの女性が集まった。

ミラーさんによる「シクロクロスクリニック」。わざわざ関西から足を運んだ女性も Photo: Hiroki MITSUI

 ミラーさんがプロの世界に入った当初、先輩の女性ライダーからさまざまなことを教わった。その経験は彼女のプロとしてのスタートとその後のキャリアを支えた。「私が経験したことを少しでも多くの女性に教えたい。自分が教わって大切だと感じたことを、機会があれば伝えていきたい」と語る。参加した女性は「説明もすごく具体的でわかりやすかった。男性と女性では悩むポイントに違いがあって伝わらないことも多い。女性だけで練習する意味を感じた」と語っていた。

レース前、リラックスした表情で談笑するメレディス・ミラーさん(左)とメカニックの田方佐矢子さん Photo: Isao SAIKI

 彼女の強い意志を尊重し、レースのピットクルーも2人の女性で構成した。ラファアンバサダーで数々の女性イベントでライドリーダーを務める藤森なおみさんと、日本では数少ない女性メカニックの田方(たかた)佐矢子さんだ。

 田方さんは長崎県の大村市でプロショップ「サイクルフレンド・タカタ」の店長を務める。亡き祖父の跡を継ぐために18歳の頃から自転車販売店店主としてメカニックの道に進んだという変わった経歴の持ち主。女性ならではの視点で初心者に分かりやすい説明を心掛け、地元ではサイクリングイベントを主催している。

ミラーさんのバイクをチェックする田方佐矢子さん。「こういう機会をいただけて光栄」 Photo: Kyoko GOTO
33歳という若さながらメカニック歴は早15年で、腰に下げた工具袋もスタイリッシュ Photo: Kyoko GOTO

 スポーツバイクメカニックとして多くの自転車関連資格を積極的に取得する一方、自身もロードやシクロクロスに乗り、「お客様にスポーツバイクの楽しみを少しでも伝えたい」と、地元・長崎でライドイベントなどに取り組んでいる田方さん。「今回、このような機会をいただけて光栄。自分はメカニックという立場だけど、もっと多くの女性に自転車の魅力を伝えたいという気持ちはメレディスと同じ。シクロクロスのレースメカニックも初めてなので、これを機に色々と吸収したい」と語った。

パワフルな走りで会場を魅了

列の中盤でスタートを切った Photo: Kyoko GOTO

 国内の女性シクロクロッサーの増加傾向を反映するように、今回のシクロクロス東京では女性の参加者総数が113人と、昨年大会の倍近くになった。毎年エントリーしている女性が、例年通りのタイミングでエントリーしたところ、すでに定員に達していたというエピソードも耳にした。

 そんな女性たちの頂上決戦「CL1」カテゴリーのレースが2月11日午後1時過ぎにスタート。全日本チャンピオンの今井美穂選手(CO2bicycle)や坂口聖香選手(S-FAMILIA)らエリート選手を先頭に、ミラーさんも集団半ばでスタートを切った。

サンドセクションを走るメレディス・ミラーさん。試走では「難コースね!」と顔をしかめていたが、さすがのバランスで砂をものともせず、みるみる順位を上げていく Photo: Kyoko GOTO

 試走時に「とても難しいコース。米国では砂のコースがないのであまり経験がないから。これはテクニックが必要だけど、大丈夫。きっと走れる」と笑顔で感想を語っていたミラーさん。その言葉通り、最初は難儀していたサンドセクションも周回を重ねるごとに次第に攻略。乗る、担ぐの判断も素早く、スピードとパワフルさが増していった。

バイクを担いでサンドセクションを走る姿もパワフル Photo: Kyoko GOTO
シケインも走るスピードを落とさずクリア Photo: Kyoko GOTO
テクニカルな林間コースもクイックなハンドルさばきで走り抜ける Photo: Kyoko GOTO
前を行く坂口聖香選手を次第に追い上げる Photo: Kyoko GOTO

 序盤は坂口選手、今井選手、そしてミラーさんが続く先頭争いが展開されたが、中盤からミラーさんが追い上げ、今井選手をサンドセクションで引き離した。4周目の林エリアで大きく挽回し、坂口選手と数秒差までタイムを縮め、一時は坂口選手の背中を間近に追うところまで距離を縮めた。しかし、相手も砂を得意とする坂口選手。そう簡単には順位を譲るまいと、勢いを落とすことなく巧みにサンドセクションを漕ぎ進んだ。

ピットでのバイク交換。待ち受ける田方さんからセカンドバイクを受け取るメレディスミラー選手 Photo: Kyoko GOTO

 4周目、ピットエリアに近づいたところでミラーさんが手を挙げた。バイク交換の合図だ。バイクを受け取る藤森さんとセカンドバイクを田方さん。ミラーさんの勢いを止めることのない、息の合ったチームプレイを見せた。

 このバイク交換で先頭を走る坂口選手とのタイム差は広がった。このバイク交換は必要性に疑問を抱いた観客も多かっただろう。しかしそれよりも、自分をサポートチームが全て女性で構成されていることを観客に見せることの方が、彼女にとっては重要だった。

声を上げ続けることの大切さ

ゴールに向けて最終コーナーを曲がる Photo: Kenta SAWANO

 最終周回となった5周目、フライオーバーを越えゴールへと向かうストレートでミラーさんはスピードを緩め、ゆっくりと走りながら笑顔で観客の声援に応えた。

 レースを走り終えた直後、ミラーさんは「砂のコースは本当に難しかった。でも、違う環境で違う国の女性たちとレースを走れたことはとてもエキサイティングな体験。日本の女性たちもとても強くて楽しかったし、刺激を受けました。私もまだまだ練習しないと!」と嬉しそうに語っていた。

ゴールゲートをくぐるメレディス・ミラー選手。観衆の声援に手を伸ばして応える Photo: Kyoko GOTO
ゴール後、健闘を称え合っていた今井美穂選手。「サンドセクションでのスピードもすごいし、ラインの選び方も上手で強かった。刺激を受けました」 Photo: Kyoko GOTO
表彰式に集まったファンたちの声援に、エリート男子、CL1の選手たちとファンの声援にこたえるメレディス・ミラーさん Photo: Kyoko GOTO
レースを支えた田方佐矢子さん(左)、藤森なおみさん(右)と Photo: Kyoko GOTO

 チームの一員としてサポートにあたった藤森さんは、「メレディスの言葉や行動はすごく心強く感じたし、共感できることが多かった。プロ選手と内容は違っても、女性として自分たちの日常に置き換えたときに似たような状況はある。やはり声を上げていくこと、ひとりでも多くの共感を呼んで、ひとりでも多くの人がまた声を上げていくことが大事だと感じました」と語った。

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