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マルコ・ファヴァロさん選出・サイクリストへお勧め図書⑧日本の自転車の歴史を知りたい人におすすめ『自転車物語「スリーキングダム」王国の栄枯盛衰』

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 『Cyclist』の人気連載『つれづれイタリア~ノ』でもおなじみのマルコ・ファヴァロさんが「この冬おすすめしたい一冊」は、国内でも数少ない日本の自転車の歴史を綴った『自転車物語「スリーキングダム」王国の栄枯盛衰』(角田安正著、八重洲出版)。幕末~明治、大正時代にかけて日本国内で自転車がいかにして普及し、産業化したのかを紹介する内容ですが、生き生きとした文章にマルコさんいわく「臨場感を覚える」とのこと。誰もが知るあのメーカーも登場する、マルコさんおすすめ度「★★★★★」の一冊です。

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マルコさんおすすめ『自転車物語「スリーキングダム」王国の栄枯盛衰』(角田安正著、八重洲出版) Photo: Marco FAVARO

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 海外出張が多いため「飛行機は図書館」と定義しています。長いフライトの場合、時間が有り余って、本や雑誌をカバンに入れます。推理や恋愛小説にあまり興味がないので、歴史や哲学の本を好んで読みます。

 私の出身国・イタリアで旅の友はやはり本です。主要駅の書店にはスポーツコーナーが意外と充実しています。そして他のスポーツと比べて自転車関連の書籍は多い。日本では「How to」やムックといったマニュアル本が主流のようですが、イタリアでは、自転車の歴史をテーマにした書籍が多い。日本ではおそらく「向上心を満たしたい、スキルアップをしたい」という人が多いことの現れでしょうか。逆にイタリアでは過去を理解した上で今を知りたいと考えている人が多いと推測します。

 日本は自転車の歴史に関する書籍が少ないですが、やっと増えつつあります。その中で八重洲出版の「自転車物語シリーズ」に出会いました。今回紹介したいのが『自転車物語 スリーキングダム』(角田安正著)という作品です。タイトルは理解し難いものですが、正直な感想を申し上げますと、久しぶりに良い本に出会いました。

Photo: Marco FAVARO

その場・時代にいるような錯覚

 ドイツで自転車が誕生して以降、幕末~明治、大正時代にかけて、どのようにして日本国内で自転車が普及し、日本を代表する商社やメーカーが生まれたかを紹介する本です。執筆スタイルがユニークでとても面白い。著者である角田安正氏は、ただ単に数字と名前を淡々と並べるだけでなく、登場人物に生き生きとした表情を与え、会話をさせ、読者がまるでその場にいるような錯覚に陥る“技”を見事に取り入れています。

 歴史本でありながら、小説を読んでいるような爽快感があります。出てくる人物はバラエティに富み、夏目漱石から慶應義塾大学のおぼっちゃま達、双輪商会などを作り上げた初代社長、今では忘れ去られた伝説のレーサーたち。さらに宮田製作所や岡本ノーリツ、日本自転車など、国産自転車メーカーの誕生秘話。知っている名前ばかりで、ためになる本です。

当時の自転車魂が伝わってくる

 よかったことは、著者がいかにして読者を取り込み、作品の中で出てくるデータをわかりやすくするかということに神経を尖らしている点です。たとえば、当時の自転車の価格を現代のお金に換算して値段を表すのではなく、当時の給料と比較しながらどれぐらい高価なものだったか、という比較方法を選びました。説得力があり、明治時代に流行っていたアメリカ製とイギリス製の自転車がいかにも高価なものだったのか、それに立ち向かう日本勢は自転車の価格を安くするためどれほど努力していたのかがよくわかります。

 当時の生活スタイルもセンス良く紹介されます。興味深い話に、販売開始間もない日本製の自転車のヘッドロゴが日本語だったので売らない!というエピソードがありました。昔から日本人には外国に対する強い憧れがあったことが伺えます。

 そして、登場人物の性格と特性が細部まで紹介され、極めて親しみやすい存在となっているのも特徴的です。歴史を扱う本だと、一般的に登場人物についてあまり語られず、年号や数字だけ淡々と並ぶ本が多い中で、パイオニア時代の自転車業界は創業者か職人の性格が自転車作りに強く反映されるため、この作品の中でその“魂”のようなパワーを感じることができます。明治時代の商社や、職人のハングリーさから学ぶ必要があるとさえ感じました。

タイトルと表紙は目をつぶって…

 ただ、残念なのがタイトルと表紙です。スリーキングダムは「三つの王国」を意味します。最初は「三国志」の話かなと思って、友達の推薦がなければこの本は眼球にも入りませんでした。そして表紙。何が写っているのか、コアな自転車ファンであって極めてもわかりにくい。せめて自転車のヘッドマークやホイールの写真やイラストを選んだ方が良かったのではないかと思います。編集者、あるいは著者の意図はわかりませんが、完全な失敗です。

 そして持論。第1章に著者の強い訴えが登場します。「自転車はドイツではなく、日本で生まれたものだ」という主張です。15世紀の天才発明家、レオナルド・ダ・ヴィンチが自転車の原型を描いたと信じる人は、特にイタリア人に多いですが、近代的な意味での自転車を作り、販売に成功させたのは、紛れもなくドイツのフォンドライス男爵であることは間違いありません。

 ま、最初の数ページを除けば全体の内容は素晴らしく、絶対に読むべき本の一つだと思います。

マルコ・ファヴァロMarco FAVARO(マルコ・ファヴァロ)

東京都在住のサイクリスト。イタリア外務省のサポートの下、イタリアの言語や文化を世界に普及するダンテ・アリギエーリ協会や一般社団法人国際自転車交流協会の理事を務め、サイクルウエアブランド「カペルミュール」のモデルや、欧州プロチームの来日時は通訳も行う。日本国内でのサイクリングイベントも企画している。ウェブサイト「チクリスタインジャッポーネ

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