title banner

福光俊介の「週刊サイクルワールド」<241>デゲンコルプらが開幕から好スタート トレック・セガフレード 2018年シーズン展望

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
  • 一覧

 過去にフランクとアンディのシュレク兄弟(ルクセンブルク)、ファビアン・カンチェラーラ(スイス)、そしてアルベルト・コンタドール(スペイン)と、トップシーンをにぎわせた“スーパーエース”が籍を置いたトレック・セガフレード。実力・話題性とビッグネームに頼りがちだったチームは、昨シーズン限りでのコンタドールの引退によって、変革の時を迎えようとしている。しかし、すでに確たるエースたちがそろい、幅のきいた戦いが可能なまでにチーム整備がなされている。そこで今回は、シーズンのダークホースとなりうるチームの戦力を見ていく。

ツアー・ダウンアンダーに出場した別府史之。今シーズンも若い選手を引っ張る姿が見られるだろう =2018年1月19日 Photo: Yuzuru SUNADA

シーズン開幕戦を席巻

 2018年シーズンのスタートを切ったチームは、オーストラリアで開催されたサントス・ツアー・ダウンアンダー(1月14、16~21日)のほか、スペイン、アルゼンチンでそれぞれ開幕戦へと臨んだ。そして、早くも勢いのあるところを見せている。

ブエルタ・ア・サンフアン第7ステージではジャコモ・ニッツォーロ(中央)が優勝 Photo: Ilario Biondi/BettiniPhoto

 1月21~28日にアルゼンチンで開催されたブエルタ・ア・サンフアン(UCIアメリカツアー2.1)では、14.4kmで争われた個人タイムトライアルで新加入のライアン・ミューレン(アイルランド)が優勝。チームに今季初勝利をもたらした。さらには、ジャコモ・ニッツォーロ(イタリア)が最終の第7ステージを勝利。総合成績では上位進出はならなかったが、試運転のレースとしては上々の結果といえそうだ。

トロフェオ・リュセタで新加入のトームス・スクインシュが独走勝利 =2018年1月27日 Photo: XXVII Playa de Palma-Challenge Ciclista a Mallorca

 4つのワンデーレースで編成されるチャレンジ・マヨルカ(スペイン)では、ジョン・デゲンコルプ(ドイツ)が初戦のトロフェオ・カンポス(1月25日、UCIヨーロッパツアー1.1)と最終戦のトロフェオ・パルマ(1月28日、UCIヨーロッパツアー1.1)で優勝。新加入のトームス・スクインシュ(ラトビア)も、第3戦のトロフェオ・リュセタ(1月27日、UCIヨーロッパツアー1.1)で独走勝利を挙げた。

 シーズン開幕から1カ月に満たない期間で、早くも5勝を挙げた。これらの結果から見えてくるのは、チームの主力と新戦力がそれぞれにしっかりと結果を残している点。「仕上がりが早すぎるのでは?」といった心配が出るのも否めないが、この先に控えるビッグレースに向けて、ライバルに威圧感を与える意味では十分すぎるスタートダッシュとなっている。

計算できるエースを中心にビッグレースを戦う

 好調なシーズンスタートを切ったチームだが、今シーズンの布陣を見ていけば、現在の状況がフロックではないことはおおよそ見当がつく。この先に向けては、シーズンの高まりに合わせて各レースシリーズでのエースを擁立し、その選手を中心にチームオーダーを組んでいくことになりそうだ。

チャレンジ・マヨルカではジョン・デゲンコルプ(左)が2勝を挙げる活躍 =トロフェオ・パルマ2018、2018年1月28日 Photo: XXVII Playa de Palma-Challenge Ciclista a Mallorca

 デゲンコルプは先のスペインでの2勝で、完全復活をアピール。シーズンインを目前とした時期のキャンプで大事故に遭ったのが2年前。以来、スプリントでのキレが失われつつあったが、苦しい時期を乗り越えて今年は勝利量産となるか。スプリントと合わせて魅力なのは、クラシックでの走り。2015年にはミラノ~サンレモ、パリ~ルーベと制覇。昨年もビッグクラシックでは上位でまとめており、スピードだけでなく勝負勘や安定感にも長ける。当面は、3~4月のクラシックシーズンが目標だ。

石畳系クラシックのエース候補、ジャスパー・ストゥイヴェン =パリ〜ルーベ2017、2017年4月9日 Photo: Yuzuru SUNADA

 石畳系クラシックといえば、昨シーズンたびたび上位進出を果たしたジャスパー・ストゥイヴェン(ベルギー)も控える。スプリント、急坂ともに強く、レース展開次第ではリーダー役を務めることも想定される。デゲンコルプとのダブルエース体制は、他チームから見ても脅威だろう。

 デゲンコルプとならんでエーススプリンターとなるニッツォーロは、今年もジロ・デ・イタリアでのポイント賞獲得がターゲットとなってきそう。2015年からポイント賞を2連覇したが、意外にもステージ優勝経験はゼロ。昨年のジロは大会前半で失意のリタイアとなったが、ポイント賞返り咲きへの足掛かりとして、初のステージ制覇といきたい。

グランツールでのチームリーダーとなるバウケ・モレマ =ツール・ド・フランス2017第15ステージ、2017年7月16日 Photo: Yuzuru SUNADA

 このチームの“お家芸”でもあるグランツールの戦いは、実績豊富なバウケ・モレマ(オランダ)に勝負を託すことになる。ツール・ド・フランスでトップ10に入ること3回。最高成績は2013年の総合6位だが、パリ・シャンゼリゼでの総合表彰台を狙えるだけの力を持つ。昨年のツールはコンタドールのアシストに回ったが、それでも数少ないチャンスを生かしてステージ1勝と存在感を示した。

 山岳での安定感や勝負強さは知られるモレマだが、かねがね課題に挙げられる個人タイムトライアルの走りが総合上位進出へのキーポイントになる。また、グランツールでは大会後半にかけて「バッドデイ」を迎えてしまう傾向にあり、それが順位を下げてしまう要因となっている。今年のツールではパヴェやチームタイムトライアルが組み込まれるが、それ以上に自らの走りを上手くコントロールできるかによって、得られる成果が変わってきそうだ。

スピードと登坂力のあるファビオ・フェッリーネはワンデーレースでチームの中心となる =アムステル・ゴールド・レース2017、2017年4月16日 Photo: Yuzuru SUNADA

 クラシックレースをはじめとするワンデーレース路線では、ファビオ・フェッリーネ(イタリア)とミヒャエル・ゴグル(オーストリア)の走りに注目が集まる。フェッリーネは登坂力のみならず、平坦系のレースでも通用するスプリント力も有するだけに、小集団でのスプリント勝負になればそのスピードが発揮される。また、昨年のアムステル・ゴールド・レースで8位に入り一躍脚光を浴びたゴグルは、短い距離の上りを得意とする。4月に行われるアルデンヌクラシックでは、モレマを含めた3人を軸に戦うことが考えられる。

ベテラン別府のレーススケジュールに期待

 チームは今シーズン、18カ国から集まった28選手が所属。プロトン屈指の多国籍編成だ。メインスポンサー・トレック社の本拠であるアメリカはもちろん、各大陸を代表する有力選手が名を連ねる。

 プロ14年目を迎えるわれらが別府史之。チーム内でも年長者の1人であり、その経験を若い選手たちに伝える役割も担う。このところは堅実なアシストぶりが光るが、登坂力やスプリンターにも負けないスピードは健在だ。ツアー・ダウンアンダー、カデルエヴァンス・グレートオーシャン・ロードレースと、オーストラリアでの開幕シリーズを終え、次はロードアジア選手権(2月8~12日、ミャンマー)がターゲットになる。日本代表では、新城幸也(バーレーン・メリダ)とならんでエース格となる。

 また、昨年は春のクラシックや1週間のステージレースがメインのレーススケジュールだったが、今年はどれだけのビッグレース参戦なるかにも期待が膨らむ。

オーストラリアでの開幕シリーズを戦い終えた別府史之。次はロードアジア選手権での金メダルを目指す =2018年1月17日 Photo: Yuzuru SUNADA

 充実した戦力だけに、主役候補がひしめいているあたりも見逃せない。山岳スペシャリストのヤルリンソン・パンタノ(コロンビア)や、ダウンアンダー総合9位のルーベン・ゲレイロ(ポルトガル)といった実力者が今年、どんなシーズンを送るのかは楽しみなところ。

 新戦力では、ミューレンやスクインシュのほか、総合力の高いジャンルーカ・ブランビッラ(イタリア)や山岳を得意とするスガブ・グルマイ(エチオピア)らが加入。エースの脇を固めるだけでなく、出場レースやメンバーの編成次第ではチームリーダーを務められるだけの実力者の獲得に成功している。

 コンタドールが去り、新たな方向性を示すべく動き出したトレック・セガフレードの戦いぶりは、今シーズンの見どころの1つに挙げられるだろう。

トレック・セガフレード 2017-2018 選手動向

【残留】
エウジェニオ・アラファーチ(イタリア)
別府史之(日本)
ジュリアン・ベルナール(フランス)
マティアス・ブランドル(オーストリア)
グレゴリー・ダニエル(アメリカ)
クーン・デコルト(オランダ)
ジョン・デゲンコルプ(ドイツ)
ローラン・ディディエ(ルクセンブルク)
ファビオ・フェッリーネ(イタリア)
ミヒャエル・ゴグル(オーストリア)
ルーベン・ゲレイロ(ポルトガル)
マルケル・イリサル(スペイン)
バウケ・モレマ(オランダ)
ジャコモ・ニッツォーロ(イタリア)
ヤルリンソン・パンタノ(コロンビア)
マッズ・ペデルセン(デンマーク)
グレゴリー・ラスト(スイス)
キール・レイネン(アメリカ)
ピーター・ステティーナ(アメリカ)
ジャスパー・ストゥイヴェン(ベルギー)
ボーイ・ファンポッペル(オランダ)

【加入】
ジャンルーカ・ブランビッラ(イタリア) ←クイックステップフロアーズ
ニコラ・コンチ(イタリア) ←ザルフ・ユーロモービル・デジレフィオール(アマチュア)
ニクラス・イーグ(デンマーク) ←チーム ヴィルトゥサイクリング
アレックス・フレーム(ニュージーランド) ←JLT・コンドール
スガブ・グルマイ(エチオピア) ←バーレーン・メリダ
ライアン・ミューレン(アイルランド) ←キャノンデール・ドラパック
トームス・スクインシュ(ラトビア) ←キャノンデール・ドラパック

【退団】
アンドレ・カルドソ(ポルトガル) →未定
マルコ・コレダーン(イタリア) →ウィリエールトリエスティーナ・セッレイタリア
アルベルト・コンタドール(スペイン) →引退
ヘスス・エルナンデス(スペイン) →引退
エドワード・トゥーンス(ベルギー) →チーム サンウェブ
アイマール・ズベルディア(スペイン) →引退

今週の爆走ライダー−ライアン・ミューレン(アイルランド、トレック・セガフレード)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 タレントぞろいのチームにシーズン初勝利をもたらしたのは、加入して間もない23歳だった。ブエルタ・ア・サンフアン第3ステージでの優勝は、国内選手権をのぞけば、これがプロ初勝利。チームだけではなく、自身にとっても記念すべき栄誉となった。

TTスペシャリストのライアン・ミューレン。2014年のUCIロード世界選手権ではアンダー23個人タイムトライアルで銀メダルを獲得した =2014年9月22日 Photo: Yuzuru SUNADA

 目の肥えたファンならTTスペシャリストとして彼の名を知っていることだろう。トラックの個人追抜をバックボーンに、2014年に20歳で出場したUCIロード世界選手権では、アンダー23(23歳未満)個人タイムトライアルで銀メダル。エリート初出場だった2016年大会では、早いスタート順から好記録をマークし、長時間ホットシートをキープ。最終的に5位に入り、思わぬ伏兵の上位進出が関係者を驚かせた。

 そんな意外性の男は、走りとは裏腹に現実的な一面を持つ。2014年のロード世界選手権の後にはプロチームからの誘いがあったにもかかわらず、「自分はまだトップレベルでは通用しない」とオファーを固辞。サンフアンでの勝利に関しても、「体重が重いから上りでは不利になる。平坦であることと距離の短さ(14.4km)が自分に合っていた」と冷静に勝因を分析した。

 年齢的に見てもあらゆる可能性を秘めるが、しばらくは“専門種目”と位置付ける個人タイムトライアルで勝負する心積もりだ。今シーズンの大きなターゲットは2つ。1つ目はこの種目でのアイルランドチャンピオンジャージの防衛。そして、2つ目はヨーロッパ選手権での金メダル獲得。今年の開催地は、イギリス・グラスゴー。自宅に近く、コースを知り尽くしていることから、大会への思い入れも強いのだという。

 サンフアンでの勝利後には「チームのみんなを心から誇りに思う」とサポートに感謝の言葉を口にした彼。自らの走りをもってチームの一員であることを示してみせたあたり、新しい環境に馴染むのにそう時間はかからなかったのだろう。経験を重ねてチームにフィットしたとき、どんな“意外性”が自他を勝利に導くのかがますます楽しみになってくるのである。

しばらくは“専門種目”の個人タイムトライアルで勝負する意欲のライアン・ミューレン。2018年は国内・ヨーロッパそれぞれでチャンピオンジャージ獲得を狙う =ブエルタ・ア・サンフアン2018第3ステージ、2018年1月23日 Photo: Ilario Biondi/BettiniPhoto
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

関連記事

この記事のタグ

チーム展望2017-18 週刊サイクルワールド

  • 一覧

新着ニュース

もっと見る

ピックアップ

ショップナビ

スペシャル

自転車協会バナー

ソーシャルランキング

インプレッション

インプレッション一覧へ

連載