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猪野学の“坂バカ”奮闘記<20>猪野流ファンライドのススメ 力をもらった「アワイチ」“爆走”150km

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 ファンライド。それは読んで字の如く、誰もが楽しめるイベントだ。素晴らしい景色やその土地のグルメを満喫できて、初心者から上級者まで気軽に参加できる。私もかつて、グランフォンド八ヶ岳というファンライドに参加した事がある。しかしそのときも八ヶ岳の激坂で火が付いてしまった私は数々のエイドを全てすっ飛ばし、2位でゴールするという偉業(?)を成し遂げた。念のために言っておくがファンライドは速さを競う競技ではない。しかし楽しみ方は人それぞれ自由なのだ。

筆者にとって思い出深い大会「淡路島ロングライド150」、通称「アワイチ」 ©NHK/テレコムスタッフ

チャリダー検定の任を背負って

 昨年はテレビ番組『チャリダー★』でもファンライドに参加した。淡路島を一周する「淡路島ロングライド150」だ。淡路島は番組MCの朝比奈彩さんの故郷。彼女にとってはまさに凱旋ライドなのだが、容赦なくハードルが高い挑戦となった。

スタート前のアワイチ、台風一過で快晴 Photo: Manabu INO

 今回のイベントでは同時にチャリダー検定4級の試験も行う。4級では160kmを体の痛みや大きなペースの落ち込み無く走れるかをチェックする。標準の制限時間は160kmで8時間だが、今回は交通量の多い区間もあるため、150kmで8時間となった。今回は一般の参加者28人とともに、うじきつよしさんと朝比奈さんも挑戦した。私はというと150kmは日常茶飯事なので受験者の“基準”として4級合格ラインを走ることに。私より遅かったら不合格というわけだ。

「チャリダートレイン」で体力消耗

 前日の台風の強風が残るなか朝6時にスタート! 風は強いが追い風のため、序盤は快調に走る。洲本市内に入ると朝比奈さんが昔バイトしていたコンビニの店長や、高校の陸上部の顧問が次々と現れ、昔話に華が咲いた。しかし刻々と失われて行く時間。チャリダー検定の集団からもかなり遅れをとってしまった。そうこうしていると山岳地帯が現れた。淡路島南側は坂があると聞いていたが何のことはない。緩い峠だ。

 しかし大の坂嫌いの朝比奈さんは見事に失速する。応援し続けたいが、私にも4級合格ラインを走る義務がある。峠を終えた所で別れを告げ、遅れを取り戻すべく疾走する! しかし南側の海岸線は猛烈な向かい風!パワーメーターは260Wを表示してるのに時速37kmしか出ない。普通なら230W程度で出せる速度なのに。

故郷の坂が朝比奈さんを手荒く歓迎 ©NHK/テレコムスタッフ

 しばらく一人で走って後ろを見ると、案の定「チャリダートレイン」が出来ていた。このチャリダートレインには2種類ある。「坂バカ」に戦いを挑み、名を上げようとする人達によって出来るトレインと、ただただテレビに映りたいトレイン。今回私にカメラは付いてないので前者のトレインということになる。

さらば朝比奈彩!武運を祈る… ©NHK/テレコムスタッフ

 背後から勢いよくアタックをかけ私に勝負を挑んで来る若者が!すかさず後ろに付く。しかしメーターを見ると時速35km…「おととい来やがれ!」と再び前に出る。するとまた一人アタックが!今度は時速33km、向かい風を舐めてはいけない。私は敢えて前に出るよう後続に促すが、誰も前に出ようとはしなかった。

 結局鼻水だらだらで一人でチャリダートレインを引いてエイドに到着。「猪野さん強いですねぇ」「いえいえ僕も死にそうでしたよ」と、社交辞令が交わされる“チャリダーあるある”で別れを告げた。

「アワイチ」ナメてました!

 エイドでは竹谷さんが検定受験者にクリニックを行っていた。工具を使ってポジションを修正したり大忙し。教えている時の竹谷さんの生き生きとした顔を見ると、この方は本当に「自転車を教える愛」に溢れているなと心底感動する。

ドクター竹谷と「チャリダー★検定御一行様」。うじきさんも元気一杯だ ©NHK/テレコムスタッフ

 すると、なんと別れを告げた筈の朝比奈さんがエイドにやって来たではないか! どうやら親切な方々に牽引してもらったらしい。アイドルは得だ。今すぐ出発すれば4級合格の可能性がまた出てくる。休憩したがる朝比奈さんを追い立てエイドを出発!

 しかし本当の地獄はここからだった。勾配15%を越える激坂が現れたのだ。しかも1つや2つではない。「淡路島には激坂がない」なんてウソだった。朝比奈さんはこの激坂で完全にとどめをさされ脚を付いて歩き出してしまう。見るからにご機嫌斜め。4級合格どころか完走すら難しい状態だ。

 これ以上一緒にいると怒りの矛先が私に向きそうなので、今生の別れを告げ、再び自分の任務に戻る。朝比奈さんの歩きに付き合っていたせいで集団から相当の遅れをとってしまった。何とか追い付きたいが、なかなか集団は見えてない。山岳が終わっても厳しいアップダウンが続く。私は完全にアワイチをナメていた。

“助太刀侍”あらわる!

 さらにここでスタッフから驚愕の事実を告げられた。4級合格ラインでゴールするには残り40kmを70分で走らなければならない。これはファビアン・カンチェラーラでも無理じゃないのか! 慌ててエイド名物オニオンスープを飲み干し、再スタートを切った。ここに来てまた猛烈な向かい風が吹き付けるが、何とか高強度を維持。「坂バカ女子部」も合格した4級に監督が落ちるわけにはいかないのだ!

淡路島名産の玉ねぎ入り豚汁。ファンライドならではの楽しみだが、味わっている余裕はない

 ふと後ろを振り向くと、7人の侍に出て来そうな真っ黒に日焼けした年配のライダーが笑顔で「猪野さん!ちょっと付かせてもらってもいいですか?」と言って来た。私は事情を説明し、先頭交代を促した。するとなんと「微力ながら助太刀致す!」と言い、前に出てくれた。これは有り難い! 速度を保ちつつ休む事ができた。先頭交代を繰り返すうちに助太刀侍は遥か後方に小さくなり、笑顔でこちらに手を振っていた。何と気持ちの良い侍たちだろうか! 「かたじけない」と心で呟き、先を急ぐ。

 暫くまた一人で走っていると、今度は大柄で屈強な若者が「いつもチャリダー観てます!」と笑顔で付いて来た。私はまたも事情を話し、ローテーションを要請した。すると「分かりました!3回が限界だと思いますが」と力強く前に出てのしのしと重いギアで牽いてくれるではないか!なんと言う自己犠牲だろうか。その後も二人連れの地元の学生や見知らぬ人達の協力により、向かい風の区間を信じられないスピードで駆け抜け、制限時間ギリギリでゴールする事ができた。

ファンライドはハッピーエンドで

 ゴール後、1人へたり込んでいると、引いてくれた人達も次々とゴール。心から御礼を言い、健闘を称え合った。皆「ヤバい巡航速度でしたね!」と子供のような笑顔。改めて、ファンライドは色々な楽しみ方があるものだと感じた。今回はエイドを楽しんだりする余裕はなかったが、皆さんの善意溢れるグルービングと疾走感を、忘れることはないだろう。

すっ飛ばした数々のエイドステーション。次回こそはゆっくりご当地グルメを味わいたい… Photo: Manabu INO

 完走すら危ぶまれた朝比奈さんも、地元のチームの献身的な牽引により足切り30分前にゴール! チャリダー検定4級も28人中15人が合格! この日還暦を迎えたうじきさんも見事に合格を果たし、番組としても実にハッピーエンドなファンライドとなったのであった。

 めでたしめでたし。

猪野 学猪野 学(いの・まなぶ)

俳優・声優。自転車情報番組NHK BS1『チャリダー☆』(毎週土曜18:00~18:25)にレギュラー出演し、「坂バカ俳優」という異名で人気を博す。自転車の他、空手やスキーなども特技とするスポーツマン。俳優として舞台や映画、ドラマなどで活躍する一方、映画『スパイダーマン』のトビー・マグワイアの声優としても知られる。ウェブサイト「マナブログⅡ

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