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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<239>グライペルらエース格と新戦力が融合 ロット・スーダル 2018年シーズン展望

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 1月14日に行われたクリテリウム「ピープルズ・チョイス・クラシック」で幕を開けたサントス・ツアー・ダウンアンダー。そこで2位に入った勢いのまま、2日後の本戦第1ステージを制したのは、エーススプリンターのアンドレ・グライペル(ドイツ)だった。長年チームを引っ張ってきたベテランが復調ののろしを上げ、2018年シーズンの好スタートを切ったロット・スーダル。王国・ベルギーの雄として長年プロトンの中心を走ってきたチームは、今年も実力者をそろえてトップシーンを駆ける。今回は、エース格と新戦力の融合が期待されるこのチームの戦力を分析する。

2018年シーズン開幕戦、サントス・ツアー・ダウンアンダーのチームプレゼンテーションに立ったロット・スーダルの選手たち =2018年1月13日 Photo: Yuzuru SUNADA

「自分自身への挑戦」と位置付けるグライペル

 “ミスター・ダウンアンダー”の健在を印象付ける好スプリントを、オーストラリアで見せているグライペル。大会はおろか、シーズンも始まったばかりとあって、1勝だけですべてを測ることはもちろんできない。特に、グライペルのような十分すぎるほどの実績を持つ選手は、この先のレースでも勝利量産を義務付けられる。

サントス・ツアー・ダウンアンダー第1ステージで勝利を挙げたアンドレ・グライペル =2018年1月16日 Photo: Yuzuru SUNADA

 とはいえ35歳となり、トップスプリンターでは最古参ともいえる地位にありながら、台頭する若きスピードスターたちを退けるあたり、老獪なテクニックと合わせて、スプリントスピードの衰えも感じさせない。

 それでも、昨年は悔しい1年となり、衰えを指摘されても致し方ないシーズンとなってしまった。

 これまでシーズン10勝以上を挙げてきたが、昨年は5勝にとどまった。ジロ・デ・イタリアでは第2ステージを制し、1日だけながらマリアローザにも袖を通したが、その後のツール・ド・フランスでは初めての未勝利。自国の後輩であるマルセル・キッテル(チーム カチューシャ・アルペシン)ら、ライバルをリスペクトしつつも、自身のふがいない走りに落ち込んだ。

 さらには、シーズンオフに母親を亡くし悲しみに暮れた。死の直前まで、妻子と過ごす自宅から母のもとまでケアのために何百kmもの往復をしていたこともあり、シーズンインに向けたトレーニングが不足していることも明かしている。

 「生活の中でレース活動よりも大切なことがある」との信念で母の看病に努めたが、シーズンの始まりを前に「母の病気が自らのレース結果に影響を及ぼしたとの言い訳はしない」と述べ、現状をポジティブに捉えることに努めている。

「自分自身への挑戦」と位置付けシーズンインを果たしたアンドレ・グライペル =サントス・ツアー・ダウンアンダー2018チームプレゼンテーション、2018年1月13日 Photo: Yuzuru SUNADA

 そうして迎えた今シーズンを「自分自身への挑戦」と位置づけ、その幕開けに相性抜群のダウンアンダーへ4年ぶりの“帰還”。そして自らの力をもって証明した復調ぶり。勝つことでチームを引っ張るグライペル本来の姿に戻りつつあるようだ。この先目指すは、ツールでの2年ぶりのステージ優勝となるだろう。

 グライペルの持ち味といえば、“ゴリラ”と称される筋骨隆々の体から繰り出される圧倒的なパワーとスピード。残り200mでトップ付近に位置取りができれば、あとはフィニッシュラインまで猛突進。ライン取りも絶妙で、スプリント時の落車やトラブルが他のスプリンターと比較して少ない点も見過ごすわけにはいかない。発射台のイェンス・デブシェール(ドイツ)やマルセル・シーベルグ(ドイツ)といった、リードアウトに欠かせない職人の働きも大きい。プロトン屈指のホットラインによって、どれだけの勝ち星が得られるかは興味深いところだ。

 ダウンアンダー後のレーススケジュールについては言及していないグライペルだが、例年通りであれば北のクラシックを走った後、グランツールモードへと切り替えることになる。ジロの回避をすでに表明しており、ツールに集中する見通しだ。

ランブレヒトがダウンアンダーに出場できず

 グライペルの好調に沸くチームだが、ダウンアンダー開幕直前にちょっとしたトラブルが発生した。

サントス・ツアー・ダウンアンダーのチームプレゼンテーションに臨んだビョルグ・ランブレヒト。第1ステージ前日に出場できないことが決まった =2018年1月13日 Photo: Yuzuru SUNADA

 チームは15日、今シーズンから加入した20歳のビョルグ・ランブレヒト(ベルギー)のダウンアンダー出場は許可しないとの通達を、国際自転車競技連合(UCI)から受けたと発表。

 これは、「UCIワールドチームと契約したネオプロ(新人)は、自身にとってシーズン最初となるUCIワールドツアーレースの開幕までの42日間分の居場所情報をADAMSに登録する必要がある」との規定によるもの。

 チームによると昨年12月14日、UCI主催のもと英語による「ADAMS居場所情報システム」のオンラインセミナーを行い、ランブレヒトも受講。翌日ADAMSにログインした際に、ツアー・ダウンアンダーに出場する選手は12月17日以降30日間の居場所情報を提供するよう指示があったという。

 それにしたがって情報提供したランブレヒトだったが、本来のルールである42日間分の情報が提供されていないとの理由から、ダウンアンダーへの出場は許可されず。チームは、UCIからの通達時に同意できない旨を伝えたが、他選手への影響を考慮しフルエントリーから1人少ない6選手での出走を決定。欠場を余儀なくされたランブレヒトもオーストラリアに残り、1月28日に行われるカデル・エヴァンス・グレート・オーシャン・ロードレース(UCIワールドツアー)でデビューすることとなった。

 一方で、ランブレヒト以外にもネオプロがダウンアンダーに出場中。前述したセミナーからの日数を勘案すると、大会に出場するネオプロ全員が開幕前42日間の居場所情報を提供できていない可能性が高く、チームやランブレヒトがルールの矛盾を指摘するのも無理はない、ということになる。

ウェレンス、クークレールら計算できる戦力が充実

 グライペル以外にも勝ちを狙える戦力がそろう。今シーズンはビッグレースで表彰台の頂点に立つ姿が数々見られるかもしれない。

ステージレースやクラシックレースでの活躍が期待されるティム・ウェレンス =ツール・ド・フランス2017第3ステージ、2017年7月3日 Photo: Yuzuru SUNADA

 ティム・ウェレンス(ベルギー)は、1週間のステージレースで結果を残し続けている。昨年はシーズンイン直後にスペインのレースで連勝。シーズン後半にはビンクバンクツアー(オランダ、ベルギー)で個人総合2位、ツアー・オブ・広西(中国)で個人総合優勝と、UCIワールドツアーでの実績を積む。中級山岳に強く、短い上りでのアタックが強力。今年は4月のアルデンヌクラシックでも上位をうかがいたいところ。脚質的にはチャンスがある。

 デビューイヤーの2015年にツール・デ・フランドルで5位となり、関係者を驚かせたティシュ・ベノート(ベルギー)は勝負する路線を計っている段階。3年間で北のクラシック、アルデンヌクラシック、ステージレースなど大きなレースは一通り経験し、今年はよりストロングポイントを生かしていきたい。昨年のツールでは総合20位となり、グランツールの総合を狙える可能性も見えている。3月に24歳となり、新人賞のマイヨブラン候補の1人との見方もある。

 ユルゲン・ルーランズ(ベルギー)のBMCレーシングチーム移籍で空いた北のクラシックのエースの座は、イェンス・クークレール(ベルギー)をオリカ・スコットから招くことで落ち着いた。これまではエースクラスがひしめくチームで走っていたこともあり、自身が勝負できるかはレース展開にゆだねられる側面があったが、晴れて自国のチーム入りを果たし、単独エースとなるプランも出てきた。2015年にはパリ~ルーベ6位、昨年もヘント~ウェヴェルヘムで王者グレッグ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー、BMCレーシングチーム)との死闘を演じるなど、勝負が許された時の走りのクオリティは高い。

若手有望株のティシュ・ベノート =ツール・ド・フランス2017第17ステージ、2017年7月19日 Photo: Yuzuru SUNADA
オリカ・スコットから加入のイェンス・クークレール。北のクラシックでの走りに注目だ =ヘント〜ウェヴェルヘム2017、2017年3月26日 Photo: Yuzuru SUNADA

 グライペルとならぶエーススプリンター候補のモレノ・ホフラント(オランダ)、個人タイムトライアルのヨーロッパチャンピオンジャージを手にチーム入りしたヴィクトール・カンペナールツ(ベルギー)といった選手の活躍も見込まれる。

 そして、ロット・スーダルといえば忘れてはならない“鉄人”たちの存在。その元祖ともいえるアダム・ハンセン(オーストラリア)は、グランツール20大会連続出場に王手。また、再三の逃げでレースを盛り上げるトマス・デヘント(ベルギー)や、昨年のブエルタ・ア・エスパーニャでは逃げからステージ2勝を挙げたトーマス・マルチンスキー(ポーランド)といった、衰えや疲れを知らないベテランたちも健在。観る者の目と心を奪う彼らこそが、チームの屋台骨を支えているといってもよいだろう。

グランツール20大会連続出場がかかるアダム・ハンセン =ツアー・ダウンアンダー2017第1ステージ、2017年1月17日 Photo: Yuzuru SUNADA

ロット・スーダル 2017-2018 選手動向

【残留】
サンデル・アルメ(ベルギー)
ラースユティング・バク(デンマーク)
ティシュ・ベノート(ベルギー)
ジャスパー・デブイスト(ベルギー)
トマス・デヘント(ベルギー)
イェンス・デブシェール(ベルギー)
フレデリック・フリソン(ベルギー)
アンドレ・グライペル(ドイツ)
アダム・ハンセン(オーストラリア)
モレノ・ホフラント(オランダ)
ニコラス・マース(ベルギー)
トーマス・マルチンスキー(ポーランド)
レミー・メルツ(ベルギー)
マキシム・モンフォール(ベルギー)
ジェームス・ショー(イギリス)
マルセル・シーベルグ(ドイツ)
トッシュ・ヴァンデルサンド(ベルギー)
イエール・ヴァネンデル(ベルギー)
イエール・ワライス(ベルギー)
ティム・ウェレンス(ベルギー)
エンゾ・ワウテルス(ベルギー)

【加入】
ヴィクトール・カンペナールツ(ベルギー) ←チーム ロットNL・ユンボ
イェンス・クークレール(ベルギー) ←オリカ・スコット
ビョルグ・ランブレヒト(ベルギー) ←ロット・スーダルU23(アマチュア)
ローレンス・ナーセン(ベルギー) ←WBベランクラシック・アクアプロテクト

【退団】
クリス・ブックマンス(ベルギー) →ヴィタルコンセプト サイクリングクラブ
ショーン・ドゥビー(ベルギー) →ベランダスウィレムス・クレラン
バルト・デクレルク(ベルギー) →ワンティ・グループゴベール
トニー・ガロパン(フランス) →アージェードゥーゼール ラモンディアル
ユルゲン・ルーランズ(ベルギー) →BMCレーシングチーム
ラファエル・バルス(スペイン) →モビスター チーム
ルイス・ヴェルヴァーク(ベルギー) →チーム サンウェブ

今週の爆走ライダー−ラースユティング・バク(デンマーク、ロット・スーダル)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 平地系のレースになると、必ずと言ってよいほどプロトンの先頭に立つ“牽引職人”。スプリンターチームでもあるロット・スーダルトレインの一コマ目となる大ベテランだ。

サントス・ツアー・ダウンアンダーのチームプレゼンテーションに臨んだラースユティング・バク。新しいシーズンが始まった =2018年1月13日 Photo: Yuzuru SUNADA

 今年でプロキャリア17年目を迎えるが、ビッグネームのそばにはいつもバクの姿があった。アシストした大物の中には、チーム サクソバンク時代のファビアン・カンチェラーラ(スイス)、HTC・ハイロード時代のマーク・カヴェンディッシュ(イギリス)らの名も。大きなレースでの勝利の陰には、バクのアシストがあった。

 2012年から現チームで走るが、グライペルのためのスプリントトレイン構築という役割がすっかり定着した。チームが誇るエーススプリンターとの出会いは2010年。HTCで走っていた時代にさかのぼる。だが、この年はカヴェンディッシュのアシストを務めることが多かった。チーム解散をきっかけに今の環境へと移ることとなったが、直々のアシスト指名に至ったグライペルにとっても、当時のバクの働きはインパクトが大きかった。

 かつては逃げで勝つこともあり、2012年のジロでも1勝を挙げたが、今では自由を与えられることはなくなった。裏を返せば、それだけ勝ちを狙うチームに必要とされている証拠。スプリントのためには欠かすことのできないピースなのだ。

 実は、現在出場中のダウンアンダー第1ステージが行われた1月16日は、バクの38歳の誕生日。グライペルにとっても、勝たなければならない理由があった。年々研ぎ澄まされる集団牽引のお返しとしてエースが捧げた会心の勝利。年齢的にどうしてもキャリアの終わりを自他ともに気にしてしまうが、走り続ける理由がたびたび舞い込んでくる。大切な仲間やチームの期待に添う仕事は、もう少し続くことになりそうだ。

ロット・スーダルのスプリントトレインには欠かせない存在のラースユティング・バク。2018年もプロトンを引く姿が見られるはずだ =ツール・ド・フランス2017第6ステージ、2017年7月6日 Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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