『Cyclist』選出・サイクリストへお勧め図書④島一周ロングライドに挑戦したい人におすすめ『「環島」ぐるっと台湾一周の旅』

by 後藤恭子 / Kyoko GOTO
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 「環島」(ファンダオ)という言葉は、自転車乗りなら一度は耳にしたことがあるかもしれない。台湾で“本島一周”を表す言葉だ。筆者も自転車を始めて1年が過ぎた頃、仲間から環島を誘われたことがある。国内の様々な場所を走り、もっと遠くへ、もっと長い距離を─と貪欲に走る場所を求めていた頃、その挑戦に胸が高鳴った。ただ、超長距離の挑戦とだけ考えていた当時、次第にその関心は薄れていった。が、もし当時、環島の真の意味や魅力について知ることができる本作に出逢っていたら判断は変わっていたかもしれない。今回の「サイクリストへお勧め図書」は一青妙(ひとと・たえ)さんの著書『「環島」ぐるっと台湾一周の旅』(東洋経済新聞社)を紹介する。

一青妙さん著『「環島」ぐるっと台湾一周の旅』の挿絵。約800km9日間をかけて走破したルートが描かれている Photo: Kyoko GOTO

台湾人にとっての環島

 台湾では環島をテーマとした映画『練習曲』が2007年に大ヒットしたのがきっかけで、自転車等で巡る環島が台湾社会で注目を浴びることになった。一青さんによると、この背景には台湾の戦後の歴史が関係しているという。

『「環島」ぐるっと台湾一周の旅』(東洋経済新聞社)。第1章~6章で構成され、環島の歴史から体験記、装備情報、観光ガイド等、環島に関する情報が満載 Photo: Kyoko GOTO

 日本統治時代の50年間、日本人として教育を受けてきた台湾の人々は、戦後は中国人としての教育が徹底された。1988年以降民主化が進むにつれ、もっと台湾を知りたいという「認識台湾」の動きが高まった。「環島を通して自分のアイデンティティを認識したいという思いが根底にある」と一青さんは説明する。

 著者である一青さん自身も台湾人の父と日本人の母の間に生まれ、台北市で幼少期を過ごした後11歳から日本で暮らしている。最近、自分にとっての“故郷”とは何かを考えるようになったという一青さん。2016年11月、台湾に拠点を置く自転車メーカー「ジャイアント」からの誘いで環島に挑戦することになったことを機に、「環島」という言葉の意味を紐解くところから自身の「台湾人」としてのルーツをたどり始めた。

環島のあらゆる情報が詰まった一冊

 環島の背景をめぐって少しシリアスな内容から始まる本作だが、何せ一青さん自身、スポーツバイクは当時まったくの初心者。第2章からの環島挑戦記はジャイアントからの「運命のメール」に対して「どう断ろうか…」という戸惑いからスタートする。初めてロードバイクに乗り始めたときの本音や不安が入り混じる練習模様は、サイクリストなら誰しも「うんうん」と頷かずにはいられないシーンだ。

 練習もままならないまま、いよいよ環島本番へ。一青さんが参加したのは台湾一周サイクリングイベント「FORMOSA900」(フォルモサ900)。台湾政府が主催し、ジャイアントがサポートする年1度のツアーイベントだ。1日100km前後、9日間で約1000kmを走る。不安の抱きようもなかったという途方もなく長い距離。もちろん初日から人生最長距離だが、持ち前の潔さで覚悟を決め、迫りくる課題に体当たりで挑む姿が清々しい。

9日間の自転車旅で日々変化していく心の描写に引き込まれていく。写真も多めで読みやすい Photo: Kyoko GOTO

 緊張のなか走り抜けた最初の3日間が過ぎ、次第に視野が広がり、他の参加者たちとの距離も縮まり始める。そして、熟知しているはずのエリアが自転車で走ると違って見えたことなど、自然体な感性と豊かな表現力で綴られる心情の変化に、ともに環島をしているような気分になっていく。

 数々の苦難を乗り越え、やがて無事ゴールを迎えた最終日、彼女の中に変化が起きる。そして、かつて時代に翻弄され、台湾人としてのアイデンティティを見失いながら“環島”を果たしたという亡き父に思いを馳せるシーンが印象的。過去の経験者による名言として紹介した「実行しなくてもどうということはないが、実行すれば何かが変わる」という言葉が、これから挑戦を試みる者の背中を押す。

 なお、本作には挑戦記以外にも自転車で環島をするための具体的な方法やビギナーに優しい必要なもの情報、立ち寄りたい観光・グルメスポットなども事細かに紹介されている。環島を歴史、文化、観光のあらゆる面から味わい深く教えてくれる一冊。これから環島を挑戦を考えている人、または興味をもっている人は、本作を読んで旅をイメージしてはいかがだろう。

一青妙(ひとと たえ)

エッセイスト・女優・歯科医として活躍。台湾の名家・顔家の長男の台湾人の父と、日本人の母との間に生まれ、幼少期を台湾、11歳から日本で暮らし始める。現在、台南市親善大使や石川県中能登町観光大使に任命され、日台の架け橋となる文化交流活動に力を入れる。家族や台湾をテーマにエッセイを執筆し、著書に『私の箱子』『わたしの台南』『わたしの東海岸』などがある。著書を原作にした日台合作映画『ママ、ごはんまだ?』が2月に全国公開し、今春に台湾でも公開予定。主題歌を妹・一青窈が歌い、自身も出演する。

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