山下晃和さん選出・サイクリストへお勧め図書③自転車旅の仕方を知りたい人におすすめ『大事なことは自転車が教えてくれた』

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 『Cyclist』の連載『ツーリングの達人』の執筆者としてもおなじみ、旅サイクリストでモデルの山下晃和さんが「この冬おすすめしたい一冊」は石田ゆうすけ氏著『大事なことは自転車が教えてくれた』(小学館)。自転車旅の魅力だけでなく、具体的な旅の方法やトラブルのエピソードなども記されるなど、山下さんをして“実用書”という一冊。今年は自転車旅をしてみたいと考えている人は、冬のうちに心の準備から始めてみてはいかがでしょう?

石田ゆうすけさんが約7年半をかけて世界一周した様子を綴った著書『大事なことは自転車が教えてくれた』(小学館) Photo: Akikazu YAMASHITA

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 海外放浪旅を自転車で行こうと思ったのは、石田ゆうすけさんの著書『行かずに死ねるか‐世界9万5000km自転車ひとり旅‐』(実業之日本社)に出会ったことが一つのきっかけだった。雑誌やブログでも文章を書いている和歌山県白浜町生まれの人気旅行作家だ。僕自身、幼い頃から英会話を習っていたこともあって、海外に興味があった。いつか旅を仕事にしたいとも思っていた。なので大学を卒業したら、大きなバックパックを背負って海外を旅してまわりたいと考えていたが、この本に出会ってから自転車で行くほうが面白そうかも、という考えに変わった。

 この本の内容は、著者が約7年半かけて世界一周をする話。アメリカのアラスカを皮切りにいろいろな事件に巻き込まれながらも、自転車乗りと出会いや別れを繰り返し、笑いあり、涙ありの旅エッセイをまとめた一冊。僕も同じようにランドナーをオーダーし、サイドバッグを4つ付けるスタイルで海外を旅をしたが、パートで走るのと世界一周とではスケールが違う。

 本人の文章にも書かれているが「自転車にも旅にも、まったく関心のない人が読んでもおもしろいものを」という思いがあったようだ。「人」および「生きる」というテーマに重点を置いてプロットを組み立て、それに沿って書いてきたものらしい。出発前の不安や、旅をしているときの心のうちやその変化、旅をしている最中に自分という存在を確立していくところにも読み物としての魅力があったように思う。

 しかし、この作品のなかには自転車に関して詳しいことがほとんど書かれていない。どんな道具を積んでいたのか、自転車のトラブルはどういうところから起きたのか、といったような「自転車旅の仕方」という項目は濁されている。すなわち、自転車乗りなら誰もが知りたいであろうと思われる情報は書いていなかったのである。よって、自転車乗りにオススメの本を絞るとすれば、『大事なことは自転車が教えてくれた』(小学館)なのだ。

自分の足で地球を動かして前に進む

 こちらは、自転車乗りが抱えるお尻の痛みの問題からの導入というのもなかなか面白い。著者は15歳のとき、自転車(ロードマン)を手に入れ、和歌山県を一周したことで自転車の旅にのめり込んでいったとある。その後、高校、大学と進学し、社会人を経験した後に貯金をはたいて世界一周の旅に出る。

 当初は3年半かけて世界を巡るつもりで旅立ったそうだが、2倍近い時間がかかったという時間のかけ方からしても、そういう余裕が、人生の大きな余白があったことにも驚かされる。冒頭の“お尻問題”からはじまり、クスッと笑える内容と海外自転車旅で役立つ知恵がリズミカルに入ってくるので、読んでいて飽きない。旅の本というのは、ただ単に行った国と起こったことを書いているだけだと面白みに欠けるところがあるが、この本にはそんなこところが微塵もない。

著書にも出てくるマレーシアのペナン島から入ったすぐのコンビニ兼ガソリンスタンドで店員さんと撮った写真 (山下晃和提供)

 自転車旅をしている道中に起こる様々な事件もじつにリアルに描かれている。海外ではよく起きる「自然と高速道路を走ってしまう問題」も、あたかも自分がその道を走ってしまい、警官に止められ、怒られているかのような錯覚に陥る。自転車旅であれば、起こりうるちょっとした事件とそれに対しての対処法を網羅しながら、旅気分を味わえるという贅沢な内容だ。

 前述のとおり、著者自身が海外に出る前に自転車で日本一周した経験もおありなのと、現在も雑誌などで国内の各地へ自転車旅に出かけた旅紀行文を連載で書いていることもあり、国内のツーリングのことなども参考になるだろう。

 これは僕の考えになるが、海外に長期でツーリングをする人間は、おおまかに2パターンに分類できると思う。わりと引っ込み思案で、それほど口数も多くなく、非常に真面目で職人気質タイプ。目立ちたがり屋で、誰とでも仲良くなるが、なんとかなるだろうと思って失敗するゴーイングマイウェイタイプ。じつは前者がほとんどで、後者が僕のようなお調子者だ。

 著者は、この前者のタイプから後者のタイプになりたいと思って旅に出たと推測するが、じつはその両面を持っている希少な存在。だからこそ、このような文章が書けるのだと思う。

自転車旅でネパールを走ったときに体験した“ネパールゴールデンタイム”。朝モヤと太陽の光が混じった金色の世界は旅サイクリストでしか体験できない幻想的な風景 (山下晃和提供)

 自転車旅の素晴らしさをこう表現しているのも興味深い。「自転車の旅が、あらゆる面ですばらしいと思えるところ。それは自分の足で地球を動かして、前に進むということ。汗をかいて、ひたすら前に進む獣のようになれるということ。ときどき瞬間的に、とてつもないパワーで地球を感じ、喜びに震えることができるということ。そして、それらの体験と活動を積んでいくことで、まるで自ら発電しているかのようにタービンを回し、前に向かうエネルギーを己の中に生み出せるということ―。」

 ツーリングをものすごくエネルギッシュに表現している。もしかしたら、自転車でどこか遠くに行きたいというモチベーションはものすごい原動力なのかもしれない。そう思うと、旅に固執してしまう僕の行動も肯定されているようでなんだか嬉しいのだ。

山下晃和山下晃和(やました・あきかず)

タイクーンモデルエージェンシー所属。雑誌、広告、WEB、CMなどのモデルをメインに、トラベルライターとしても活動する。「GARVY」(実業之日本社)などで連載ページを持つ。日本アドベンチャーサイクリストクラブ(JACC)評議員でもあり、東南アジア8カ国、中南米11カ国を自転車で駆けた旅サイクリスト。その旅日記をもとにした著書『自転車ロングツーリング入門』(実業之日本社)がある。趣味は、登山、オートバイ、インドカレーの食べ歩き。ウェブサイトはwww.akikazoo.net

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