あきさねゆうさん選出・サイクリストへお勧め図書② 自転車で旅したい人におすすめ『行かずに死ねるか!―世界9万5000km自転車ひとり旅』

by あきさねゆう / Yuu AKISANE
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 冬場は寒さや雪の影響で、自転車に乗れない日々も多いかと思う。そんな時は自転車関連の書籍を読んで、来るべき時に備えて心の充実を図るのも一興かと思われる。そこで、今回は読めば必ず自転車旅に出たくなるであろう『行かずに死ねるか!―世界9万5000km自転車ひとり旅』を紹介したい。

『行かずに死ねるか!』は石田ゆうすけさんのデビュー作にして、海外でも発売され累計24万部を誇るベストセラーだ Photo:Yuu AKISANE

パンク回数通算184回の自転車旅

 本書は著者の石田ゆうすけさんの自転車世界一周旅行記である。という一言で収まりきらない理由がその旅行記のスケールにある。

 期間:7年5カ月
 走行距離:9万4494km
 訪問国数:87カ国
 パンク回数:184回
 スポーク折れ:34回
 チェーン切れ:8回
 使用タイヤ:37本

 これが一連の世界一周旅行での積み重ねられた数字である。

 自転車に乗って1日に100km移動するだけで、多くの出来事に遭遇し、日記の1つや2つを書くことは容易である。本書にはその945倍の距離を走行して遭遇した出来事が綴られている。

 これまでの人生で海外旅行を経験した回数は何回くらいあるだろうか? 2015年の日本人の実質出国率が8.8%と、年間でおよそ10人に1人が海外出張を含む海外旅行を経験しているとのことだが、一方で海外旅行の経験がないという人も決して少なくないだろう。だが、著者は87カ国に訪問している。

 生涯でパンクに見舞われた回数はどれほどあるだろうか? 184回はプロでもなかなか達しない数字ではなかろうか。

 ちなみに私はスポーク折れとチェーン切れはそれぞれ一度だけ経験したことがある。それでも、今後生涯をかけても34回もスポークを折り、8回もチェーンを切る自信はない。タイヤ沼にはまってしまった人ならば、37本以上のタイヤを履き替えた経験があるかもしれないが、ホビーユースしている限りではなかなか到達しない本数だろう。

 そして極めつけが7年5カ月という期間の長さだ。小学生6年生が大学に入学するほどの時間で経験した出来事が、本書には詰まっているのだ。

濃厚な旅行記で、世界一周旅行の追体験

 とても美しい風景を見た、面白い人に出会った、危険な目に遭った。いずれの出来事も、文字情報だけでその情景がありありと頭の中に浮かぶような文章が綴られているので、まるで自分が著者の石田ゆうすけさんになったかのように世界一周旅行を追体験することができる。

 カナダのユーコン河での1週間のカヌー旅で体験した壮大な静けさ、アメリカのモニュメントバレーの神々しい岩に見とれて4泊もとどまってしまったこと、メキシコの遺跡群のなかでナンバーワンと断言するティカル神殿の強烈な魅力。もはや世界の景勝地ガイドブックといっても差し支えない。

 キノコ頭で4時間ぶっ続けで自己紹介をしてきたアクの強い日本人トラベラーと各地で度々再会する話は笑いを誘ってくる。また、エストニアで出会った11カ国語を操る”15歳”の天才女子”大学生”との切ない別れの話も、胸の奥をくすぐってくる。

 一方で、南米のペルーでは強盗に襲われ、拳銃を突きつけられる状況で追い剥ぎに遭ってしまい、パスポート、貴重品、キャンプ道具からカメラ、衣類、薬、工具など一切の装備品を失ってしまったし、アフリカではマラリアに感染している。

巻頭には選りすぐりの写真が掲載。だけれども、本書を読むと実際に自分の目で見てみたくなること受け合いだ Photo:Yuu AKISANE

 波乱万丈喜怒哀楽、7年5カ月・9万5千キロに及ぶ引き出しの宝庫の中から、選りすぐりの濃厚エピソードばかりが抽出されているので、どの章も読み応えが抜群となっている。

 追体験するだけでも十分に面白いのであるが、やはり自分の目で確かめたいという感情を引き立てられる。本書にユーコン川、モニュメントバレー、ティカル神殿の写真も掲載されているが、写真と文章以上の感動を味わうことはできない。

 そして、著者は次のように語っている。

 「自分が未体験ならば、そこは紛れもなく”フロンティア”である。実際そこに行って己の目で見ない限り、それは自分にとって永遠に”未知”なのだ」と。

 追体験でさえ感動できるようなものを、実際に自分の目で見たらどうなるだろうか。想像以上の感動が待っているかもしれない。

自転車の機動力でたくさんの未知と出会う

 私も本書の影響を受けて、海外に自転車を持って旅行したことがある。といっても、ランドナーに乗って、キャンピングセット一式を搭載した本格的な自転車旅ではなく、電車に乗って輪行するようなノリで、飛行機輪行をしたのだ。

 行き先はアメリカのシアトルだった。中心地から20kmほど離れた、郊外のなんてことはない幹線道路沿いにあった小さな湖に立ち寄ってみた。

ガラケーで撮影したシアトル旅行での思い出の一枚 Photo:Yuu AKISANE

 湖に向かって真っ直ぐ伸びる小道と、湖面に映り込んだ空の青と、はるか遠くに浮かぶ巨大な白い雲。私の中のアメリカのイメージに合致する壮大な風景に見とれてしまい、小一時間眺めていた記憶がある。シアトル旅行の思い出として真っ先に蘇るのは、当時マリナーズに在籍していたイチロー選手への大歓声と、この小さな湖の景色だった。

 改めて写真を見直したが、アメリカのシアトルでなくとも、どこかにありそうな景色ではある。だが、決して徒歩と公共交通機関を使っての旅だったら訪れることはないであろう場所であり、異国の地で唯一無二の相棒と共に走って見つけた景色は、他の誰でもない自分だけのものであると強く感じた。思い入れが強くなるのだ。

 旅行とは未知との遭遇の連続だと思う。自転車旅ならば、その機動力を生かして、未知との遭遇チャンスが格段に増える。

 「いまのぼくにとって世界はひどく謎めいていて、途方もなく大きい。あちこちフロンティアだらけである。それらを片っ端から見てやるのだ。自分の足を使って大陸を泳ぎ、世界中にちらばっている最高の宝をひとつひとつ探していく」と、本書で著者が語るように、世界はもちろん国内でさえ自分の知らない景色はいくらでも残っている。

 数年ぶりに本書を読み返してみて、改めて自転車旅の魅力に触れることができた。未知なるフロンティアを求めて、旅の計画でも立ててみようと思った次第である。

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