2017ロードレース名場面プレイバック<5>勾配15%超えは当たり前 激坂スペシャリストのトゥーンス、バルデ、バルベルデの戦い方

by あきさねゆう / Yuu AKISANE
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 サイクルロードレースとは筋書きのないドラマである。激闘を繰り広げる選手たちにより、数え切れないほどの名場面、印象的なシーンが生み出されてきた。そんな2017年シーズンを振り返るシリーズの、最終回となる第5弾では、「激坂フィニッシュ名場面をプレイバック」と題して、ディラン・トゥーンス(ベルギー、BMCレーシングチーム)、ロマン・バルデ(フランス、アージェードゥゼール・ラ・モンディアル)、アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスターチーム)の3人に注目する。

2017サイクルロードレースを、激坂フィニッシュ名場面からプレイバック Photo: Yuzuru SUNADA

激坂フィニッシュはまるでスプリント勝負のよう

 ヒルクライムはサイクルロードレースの華であり、主役はクライマーたちだ。スプリントは路上の格闘技とも称され、スプリンターたちによる身体と身体がぶつかり合う激しい勝負が繰り広げられる。激坂フィニッシュはヒルクライムとスプリントの要素を合わせ持っている。

 ときには勾配20%を超えるような凄まじい上り坂。これを制するには登坂力が重要なのはもちろん、道幅が狭いことの多い激坂区間では位置取りのセンスも必要になる。コースに合わせて集団の適切な位置を走り、フィニッシュに向かってハイパワーを出し続けなければ勝てない点は、じつはスプリントに似ている。そのため10km以上にわたって上り続けるようなヒルクライムを得意にする選手が、激坂フィニッシュに適しているとは限らない。

 激坂という言葉の明確な定義はないが、平均勾配10%以上で1km以上の上り区間、または最大勾配15%以上の上りは激坂といえるだろう。その激坂を経てフィニッシュするコースレイアウトのことを、激坂フィニッシュと呼んでいる。

 2017年シーズンもいくつもの激坂フィニッシュ名勝負が生まれてきた。そのなかから、3人の激坂スペシャリストを紹介したいと思う。

シーズン8勝をあげたトゥーンス

トゥーンスの主な戦績

フレーシュ・ワロンヌ3位
ツール・ド・ワロニー(2.HC)総合優勝&ステージ2勝
ツール・ド・ポローニュ総合優勝&ステージ1勝
アークティックレース・オブ・ノルウェー(2.HC)総合優勝&ステージ2勝

 トゥーンスは2017年に突如として大覚醒を見せた25歳の若手選手だ。年間48勝をあげたBMCレーシングチームの中でチーム最多の8勝をあげている。

 トゥーンスがあげた勝利はすべて、比較的短いパンチ力のある上りを経てフィニッシュするコースレイアウトだった。上り坂における瞬間的な爆発力は世界トップクラスだといえよう。その象徴的なシーンといえるレースが、ツール・ド・ポローニュ第3ステージだ。

激坂への高い適性を示すディラン・トゥーンス(写真は2017年フレーシュ・ワロンヌにて) Photo : Yuzuru SUNADA

 フィニッシュまでのラスト1kmは平均勾配11%・最大勾配18%に達するような激坂区間だった。

 残り600mで、ヴァレリオ・コンティ(イタリア、UAEチーム・エミレーツ)が抜け出して、7秒近いリードを築いてもトゥーンスは落ち着いて集団前方で上りをこなしていた。そして、残り400mでアダム・イェーツ(イギリス、オリカ・スコット)のアタックに反応し、背後をピタリとマークした。リーダージャージを着るペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)を含む有力選手たちは、イェーツとトゥーンスの動きを静観した。

 2人は残り300mでコンティを捉えて一気に抜き去った。イェーツは時折シッティングを混じえるなど苦しそうな動きを見せる一方で、トゥーンスは変わらず軽やかなダンシングで駆け上がっていた。

チーム最多の8勝をあげたディラン・トゥーンス(写真は3位に入った2017年フレーシュ・ワロンヌにて) Photo : Yuzuru SUNADA

 すると、コーナーの内側の一番傾斜が厳しいところでトゥーンスは更に加速。イェーツを置き去りにして独走に持ち込み、一気にフィニッシュに駆け込んだ。最終的にサガンらと同タイム扱いでのフィニッシュとなったが、同じタイミングでアタックしたイェーツは9秒遅れのステージ8位だった。コンティは23秒遅れでフィニッシュしている。

 というように、サガンら有力選手たちは残り600・400mでの仕掛けを見送ったのは、平均勾配10%を超える激坂区間では失速するに違いないと判断したのだろう。確かにコンティとイェーツは失速したが、トゥーンスは見込みを遥かに上回るパワーを見せて逃げ切ったのだ。

 このステージで獲得したボーナスタイムが非常に大きく、最終的にトゥーンスは2位に2秒差で総合優勝に輝いた。有力選手たちの判断を狂わすほどのトゥーンスは激坂への高い適性を示したステージだった。

フルームに22秒差つけたバルデ

バルデの主な戦績

フレーシュ・ワロンヌ13位
リエージュ~バストーニュ~リエージュ6位
ツール・ド・フランス総合3位&ステージ1勝

 バルデはどちらかといえば、ツールで2年連続総合表彰台に上っているように、激坂スペシャリストではなく本格的なクライマーに分類するほうが適しているかもしれない。

フランスを代表する総合グランツールレーサーであるロマン・バルデ(写真は2017年ツール・ド・フランス第18ステージにて) Photo : Yuzuru SUNADA

 しかし、ツール第12ステージのフィニッシュ地点であるペイラギュードの上りで見せた走りは激坂スペシャリストと呼ぶにふさわしい走りだった。

 ペイラギュードは空港の滑走路として活用されている場所で、麓から山頂までの登坂距離2.4km・平均勾配8.4%となっており、残り200mは16%の激坂となっているが、コースプロフィール以上に滑走路の上りはキツかった。

 残り350mでファビオ・アル(イタリア、アスタナ)がファーストアタックを仕掛け、残り250m付近から総合1位のクリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ)が徐々に遅れだしたのだ。ダンシングが維持できなくなり、シッティングで大きく蛇行しながら苦しむフルームを横目に、バルデは落ち着いてアルの背後を捉えていた。

 残り100mでもう一段階ギアを上げて、アルを抜き去った。アルはこらえきれず、サドルに腰を下ろしてしまうが、バルデはダンシングしながら激坂区間を駆け上がっていった。

ペイラギュードの激坂で、リゴベルト・ウランとファビオ・アルを振り切るロマン・バルデ Photo : Yuzuru SUNADA

 全身を使ってありったけのパワーを生み出したバルデが見事にステージ優勝を飾った。フルームに対しては22秒も差をつけていた。

 後にフルームは、この日は体調不良でバッドデーだったと語っている。とはいえ、ツールの絶対的王者から250mほどの激坂区間で22秒ものリードを築いたバルデの走りは特筆すべきものがあるだろう。

 フルームがタイムトライアルという絶対的な得意分野を持つように、バルデも激坂という得意分野を生かした戦いができることを示した。

フレーシュ・ワロンヌ4連覇のバルベルデ

バルベルデの主な戦績

ブエルタ・ア・ムルシア(1.1)優勝
ブエルタ・ア・アンダルシア(2.HC)総合優勝&ステージ1勝
ボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャ総合優勝&ステージ3勝
ブエルタ・アル・パイスバスコ総合優勝&ステージ1勝
フレーシュ・ワロンヌ優勝
リエージュ~バストーニュ~リエージュ優勝

 37歳の大ベテランにもかかわらず、2017年シーズンはキャリア最高に近い凄まじい勝ちっぷりを見せていた。ムルシアでは70km独走して2位以下に2分10秒差をつける格の違いを見せつけ、カタルーニャやパイスバスコでは山頂フィニッシュはもちろんのこと、小集団スプリントでも勝ちまくり、全局面で圧倒的なパフォーマンスを見せ続けており手がつけられない状態だった。

 そうして挑んだフレーシュ・ワロンヌは、目下3連覇中の得意レースだ。フィニッシュ地点のユイの壁は登坂距離1.3kmながら平均勾配9.6%、最大勾配は26%と文字通り壁が立ちはだかっている。

 バルベルデは、2013年フレーシュ・ワロンヌ覇者のダニエル・モレーノ(スペイン)にアシストされながら、集団前方でユイの壁を上っていった。これほどの上り坂ではそれほど速いスピードは出せないため、空気抵抗をあまり気にする必要がない。むしろフィニッシュに一番近いメリットの方が大きく、バルベルデは集団先頭に立ち、自分のリズムで走り続けていた。

ダヴィド・ゴデュのアタックをチェックするアレハンドロ・バルベルデ Photo : Yuzuru SUNADA

 残り250mで、ダヴィド・ゴデュ(フランス、エフデジ)がアタックすると、バルベルデは即座に反応し、残り200mでカウンターアタックを仕掛けた。これに真っ先に反応したのはトゥーンスだった。

 しかし、バルベルデの加速はあまりにも強烈で、一気にトゥーンスとの差を2車身ほど開いた。最後まで一切差を詰められることなく頂上まで走り切り、大会4連覇を達成したのだ。

矢を放つポーズでフィニッシュするアレハンドロ・バルベルデ。フレーシュ・ワロンヌの「フレーシュ」(Fleche)とはフランス語で「矢」の意味だ Photo : Yuzuru SUNADA

 続くリエージュ~バストーニュ~リエージュも制し、シーズン後半もどれだけ勝てるのか楽しみだっただけに、ツール第1ステージで落車して大けがを負ってしまったことがあまりにも残念だった。

最後まで踏み抜いた者が激坂を制す

 3人の走りに共通していることは、激坂フィニッシュにおいてアタックを仕掛けてからフィニッシュするまではずっとダンシングを継続していることだった。逆にいえば、激坂で失速する選手の特徴は、ダンシングの途中でサドルに腰を落としてしまうことである。

 最後まで踏み抜くパワーを持つだけでなく、どのタイミングで仕掛けるかという判断力も非常に重要である。激坂フィニッシュとは一瞬の判断により、ステージレースであれば数十秒単位で遅れを喫しかねないコースレイアウトでもある。

 それゆえ、激坂フィニッシュには集団スプリントのような見応えがある。来シーズンも、多くの名勝負が生まれることを願って、激坂フィニッシュとなりそうなレースをチェックしていきたい。

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