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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<2018新春特別編・2>世界王者を決めるアルプス決戦 UCIロード世界選手権2018徹底分析

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 「週刊サイクルワールド」新春特別編としては初の試みとして、9月23〜30日に開催されるUCIロード世界選手権について触れてみたい。今年の開催地は、オーストリア西部の都市・インスブルック。すでにUCI(国際自転車競技連合)は各種目のコースを発表しており、アルプスの山々に囲まれたこの街ならではの難しいセッティングとなっている。スピード勝負だった近年とは趣きを大きく変えた今年の大会だけに、早めにコース分析に取り組むべく、今回のテーマとさせてもらう。

UCIロード世界選手権男子エリートロードレースで3連覇中のペテル・サガン。アルプスの地形を生かしたインスブルックのコースも攻略できるか =2017年9月24日 Photo: Yuzuru SUNADA

男子エリートは全種目激坂勝負に

 風光明媚な観光地として有名なインスブルック。ウィンタースポーツが盛んな街としても知られるが、それだけにロードレース世界一を決める今年の大会のコースはアルプス山脈の地形をフルに生かした印象になっている。

●チームタイムトライアル

 男女それぞれエリートカテゴリーで争われるチームタイムトライアル(TT)。どちらもトレードチーム(UCI登録チーム)で競われ、1チーム6人編成、チーム内4番手フィニッシュした選手のタイムが反映される。大会の開幕種目となる女子は、53.8kmに設定。全体的に平坦基調で、スピード感のある勝負となりそう。

 一方、62.1kmと長距離での勝負となる男子は、スタートから40km過ぎに急坂区間が待ち受ける。登坂距離4.6km、平均勾配5.7%、最大勾配13%は上りの半ばに控える。直後の下りもテクニカルゆえ、TT能力と巡航力だけでなく、登坂力やダウンヒルテクニックも含めたオールラウンドな力が出場選手には要求される。下り終えてからフィニッシュまでの約10kmをどう走るかも、勝負の行方を分ける要素となりそうだ。

女子エリートチームタイムトライアル コースプロフィール ©︎www.innsbruck-tirol2018.com
男子エリートチームタイムトライアル コースプロフィール ©︎www.innsbruck-tirol2018.com

●個人タイムトライアル

 大会2日目から3日間、5つのカテゴリーが行われる個人タイムトライアル。この種目からは、出場枠を獲得した各国の代表選手がしのぎを削る。

男子エリート個人タイムトライアル コースプロフィール ©︎www.innsbruck-tirol2018.com

 細かなアップダウンこそあれど、大きな変化がない4つのカテゴリーに対し、男子エリートのみレース後半にヤマ場が待ち受ける。54.2kmのルートは、スタート直後の丘越えを経てからはしばらく平坦。30km地点を過ぎて勝負どころとなる急坂区間が登場。登坂距離4.9km、平均勾配7.1%、その間約2kmにわたって10%を超える勾配が続く。ここで選手間での走りの差が出ることだろう。直後のテクニカルな下り、さらにフィニッシュまでに約10km。TT巧者をもってしても、攻略は簡単ではないだろう。

 その他カテゴリーは、女子ジュニアが20.2km、男子ジュニア、男子アンダー23、女子エリートが28.5kmに設定されている。

女子ジュニア個人タイムトライアル コースプロフィール ©︎www.innsbruck-tirol2018.com
男子ジュニア、男子アンダー23、女子エリート個人タイムトライアル コースプロフィール ©︎www.innsbruck-tirol2018.com

●ロードレース

 女子ジュニアをのぞく4つのカテゴリーは、インスブルックから東に約90kmの街・クーフシュタインを出発。インスブルックへと向かう間にも厳しい上りがあるものの、勝負は確実にインスブルックの周回コースで動くことになる。

 基本となるのが、1周23.9kmの小周回。男子エリート以外のカテゴリーはすべてこの周回で勝者を決める。ラップ数は女子ジュニア(70.9km)が1周、男子ジュニア(132.8km)が2周、男子アンダー23(180.6km)が4周、女子エリート(156.7km)が3周。小周回のポイントとなる上りは、7.9kmで平均勾配5.7%。中間部が10%前後となっている。麓から頂上まで高度にして約400mを一気に駆け上がる。頂上からは約6kmの下りと約7kmの平坦となっているが、上りで地力を見せられる選手であれば逃げ切りも可能だろう。接戦になれば、上りで前方に位置できた選手と、下りで後方から合流した選手とによるスプリント勝負となる。獲得標高は、女子ジュニアが975m、男子ジュニアが1916m、男子アンダー23が2910m、女子エリートが2413mとなっている。

女子ジュニアロードレース コースプロフィール ©︎www.innsbruck-tirol2018.com
男子ジュニア、男子アンダー23、女子エリート、男子エリートロードレース コースプロフィール ©︎www.innsbruck-tirol2018.com
インスブルック周回コースプロフィール ©︎www.innsbruck-tirol2018.com

 大会の最終種目として行われる男子エリート(259.4km)は、6周する小周回に加え、最終盤に31kmの大周回を走ってフィナーレを迎える。レイアウトは小周回にもう1つ山越えする格好。最後の上りは、登坂距離2.8kmにして平均勾配11.5%。特に頂上まで1kmを切ったところで最大勾配となる25%の激坂が登場。レースのハイライトとなること必至だ。

 頂上からは、約6kmの下りと約3kmの平坦を経てフィニッシュへ。激坂区間で抜け出した選手が一目散にフィニッシュに飛び込むのか、はたまたアタックの打ち合いに生き残った数選手による勝負となるのか。いずれにしても、大集団スプリントになることはないだろう。そして、獲得標高は驚異の4670mである。

 各カテゴリーとも、個人タイムトライアルとロードレースそれぞれの優勝者には、白地に虹をあしらったジャージ「マイヨアルカンシエル」が送られ、次回大会までの1年間着用する権利が与えられる(ジュニアやアンダー23は生まれ年によりカテゴリーが上がると着用権利を失う)。

クラシックハンターとグランツールレーサーが軸の争いか

 実力が拮抗する男子エリート。ロードレースの国別出場枠は最大で9人。その大前提として、UCIワールドツアーが主な対象になる世界国別ランキングで上位に入ることが必要となる。出走メンバーを1人でも多くそろえられれば、それだけアシストの人数を充実させることができ、レースのコントロールや優勝を目指すエースのフォローに徹することができる。特に、インスブルックのコースは登坂力のあるアシストで固め、エースを最後の上りで解き放ちたい。

 シーズン中のトラブルなくこの大会を迎えられることや、出場意思を持っていることが条件になるものの、出場すれば活躍が期待される選手としてはクラシックハンターやグランツールレーサーの名が挙がる。

ヴィンチェンツォ・ニーバリはイタリアに久々のマイヨアルカンシエルをもたらすことができるか =イル・ロンバルディア2017、2017年10月7日 Photo: Yuzuru SUNADA

 多くの出場枠獲得が見込まれる国から見ていくと、イタリアはヴィンチェンツォ・ニーバリ(バーレーン・メリダ)やファビオ・アル(アスタナ プロチーム→UAEチーム・エミレーツ)。スペインはけがからの完全復活を目指すアレハンドロ・バルベルデ(モビスター チーム)、ヨン・イサギレ(バーレーン・メリダ)。フランスはロマン・バルデ(アージェードゥーゼール ラモンディアル)、ジュリアン・アラフィリップ(クイックステップフロアーズ)。いずれも「上り」「下り」「アタック」「逃げ切りを可能にする独走力」に長け、レース巧者としての顔を持つ。

クライマーぞろいのコロンビアは新鋭のエガン・ベルナルも計算できる戦力となっている =イル・ロンバルディア2017、2017年10月7日 Photo: Yuzuru SUNADA

 南米が誇る一大勢力・コロンビアは、ナイロ・キンタナ(モビスター チーム)、エステバン・チャベス(ミッチェルトン・スコット)、リゴベルト・ウラン(チーム EFエデュケーションファースト・ドラパック)、セルジオ・エナオ(チーム スカイ)といったグランツールレーサーがひしめく。一発勝負のワンデーレースでも上位に食い込む力を持っており、どこからでも勝負ができる。21歳になったばかりエガン・ベルナル(アンドローニ・シデルメクボッテキア→チーム スカイ)といった新鋭も台頭してきた。

ミカル・クフィアトコウスキーには2014年以来2回目の世界選手権優勝のチャンスがめぐってきた =2014年9月28日 Photo: Yuzuru SUNADA

 ベルギーはグレッグ・ヴァンアーヴェルマート(BMCレーシングチーム)、フィリップ・ジルベール(クイックステップフロアーズ)といったクラシックハンター頼り。アダムとサイモンのイェーツ兄弟が強力なイギリス、2014年の世界チャンピオンであるミカル・クフィアトコウスキー(チーム スカイ)擁するポーランド、トム・デュムラン(チーム サンウェブ)の走りが計算できるオランダも戦力に富む。

 現・世界王者のペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)は、4連覇を目指して大会に乗り込むか。ポイントは繰り返し訪れる上りへの対応力だが、最後までレース前方で走るようであれば、スプリント勝負で優位に立てる。同様に、マイケル・マシューズ(オーストラリア、チーム サンウェブ)も、スプリント要員としてメンバー入りするようだとレースがおもしろくなる。

 コースや獲得標高が似ているという意味では、4月に開催されるリエージュ~バストーニュ~リエージュや、10月に行われるイル・ロンバルディアで活躍するタイプの選手向きとイメージしてもよさそうだ。

 昨年のノルウェー・ベルゲン大会同様に、オールラウンドな力が要求される個人タイムトライアル。ベルゲンでは上りの頂上にフィニッシュが置かれたが、インスブルックは下りのテクニックも重要となる。

男子エリート個人タイムトライアルは現・世界王者のトム・デュムランが防衛に挑む =UCIロード世界選手権2017男子エリート個人タイムトライアル、2017年9月20日 Photo: Yuzuru SUNADA

 2連覇がかかるデュムランは、順調にいけばまずはこの種目に調子を合わせてくるだろう。実力通りの走りができれば、2位に約1分の差をつけた前回の再現もあり得る。

 グランツールレーサーとして今後の飛躍が期待されるプリモシュ・ログリッチェ(スロベニア、チーム ロットNL・ユンボ)や、グランツールのTTでは無敵の強さを誇るクリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ)は昨年表彰台を占めたのに続き、デュムランに最も近い位置にいる選手たち。トニー・マルティン(ドイツ、チーム カチューシャ・アルペシン)やヴァシル・キリエンカ(ベラルーシ、チーム スカイ)といった、かつての世界チャンピオンも黙ってはいないだろう。

女子エリートはアンナ・ファンデルブレッヘンらオランダ勢の層が厚い =アムステルゴールドレース、2017年4月16日 Photo: Yuzuru SUNADA

 女子エリートは、選手層ナンバーワンのオランダ勢が引き続き有力。オールラウンダーとしては現在世界トップの地位にいるアンナ・ファンデルブレッヘン(ブールス・ドルマンスサイクリングチーム)を筆頭に、昨年のロードレース覇者のシャンタル・ブラーク(ブールス・ドルマンスサイクリングチーム)、アンネミーク・ファンフルーテン(ミッチェルトン・スコット)、エレン・ファンダイク(チーム サンウェブ)と、ロード・TTともに強力な選手をそろえる。普段はファンデルブレッヘンらとチームメートの、エリザベス・ダイグナン(イギリス)、アメリー・ディデリクセン(デンマーク)といった選手たちが、オランダ勢の牙城を崩そうと意気込む。

 日本勢は、まず出場枠獲得が当面の目標となる。男女エリート、男子アンダー23は、シーズンの成績に応じて最大何人出場できるかが決まる。なかでも男子エリートは、昨年の1枠を上回る、複数人が参加できる状況を作り出したいところだ。

UCIロード世界選手権2018 大会スケジュール

9月23日 女子チームタイムトライアル、男子チームタイムトライアル
9月24日 女子ジュニア個人タイムトライアル、男子アンダー23個人タイムトライアル
9月25日 男子ジュニア個人タイムトライアル、女子エリート個人タイムトライアル
9月26日 男子エリート個人タイムトライアル
9月27日 女子ジュニアロードレース、男子ジュニアロードレース
9月28日 男子アンダー23ロードレース
9月29日 女子エリートロードレース
9月30日 男子エリートロードレース

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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