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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<237>サガンやマイカの活躍でビッグシーズンへ ボーラ・ハンスグローエ 2018年シーズン展望

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 ロードレースの現役世界王者であり、ワールドワイドな人気を誇るペテル・サガン(スロバキア)。いまのプロトンは、彼を中心に回っているといってもよいだろう。前所属のティンコフ解散にともない移籍したボーラ・ハンスグローエでも、環境の変化などお構いなしに次々と勝利を量産。UCIロード世界選手権3連覇でシーズンを締めくくった。そんなサガンにも、獲得できていないビッグタイトルが残されている。グランツールレーサーであるラファル・マイカ(ポーランド)らとともに、2018年をビッグシーズンにすることができるか。王国ドイツ復権の象徴でもあるチーム、ボーラ・ハンスグローエの新シーズンを展望する。

ボーラ・ハンスグローエの顔でもあるペテル・サガン。クラシックやツールでのリベンジを狙う新シーズンを迎える =UCIロード世界選手権男子エリートロードレース、2017年9月24日 Photo: Yuzuru SUNADA

クラシックとツールのリベンジを狙うサガン

 2017年シーズンは12勝を挙げたサガン。兄のユライをはじめ、ティンコフ時代からの気心知れたアシストたちに支えられ、要所でしっかりと勝ち星を挙げた。一方で、ポイント賞のマイヨヴェール6連覇を狙ったツール・ド・フランスでは、第4ステージでのスプリントでマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チーム ディメンションデータ)との接触トラブルで失格処分となり大会を離脱。勝ったシーン以上に大きなインパクトを残す形となってしまった。

難産だったUCIロード世界選手権3連覇。フィニッシュ後は喜びに浸った =UCIロード世界選手権男子エリートロードレース、2017年9月24日 Photo: Yuzuru SUNADA

 それでも、ツール閉幕後に戦線に復帰すると、UCIワールドツアーのステージレースであるツール・ド・ポローニュ(ポーランド)やビンクバンクツアー(オランダ、ベルギー)で総合優勝争いを展開。どちらも終盤ステージで崩れ、リーダージャージ獲得とはならなかったが、健在ぶりをアピール。極めつけは、UCIロード世界選手権での意地の3連覇。マイヨアルカンシエル防衛の裏には、アシストを失い集団内でのポジション確保に苦心したり、強敵の飛び出しを許しスプリントのチャンスを失いかけるなど、サガン本人も「優勝を諦めかけた場面があった」と振り返ったほどに厳しい戦いを強いられていたのだった。

 こうして世界王者の座を保って迎えることとなった新たなシーズン。現状では具体的な言及はしていないものの、これまで通り春のクラシックとツールが当面の目標となってくるものとみられる。

 今年は春のビッククラシックで未勝利。連覇を狙ったツール・デ・フランドル(ベルギー)では落車、初優勝を狙ったパリ~ルーベ(フランス)ではトラブルもあり勝負どころを前に脱落と、不運が重なった。

ミラノ〜サンレモ2017では2位だったペテル・サガン(左)。まだタイトルを獲得していないビッグレースの1つ =2017年3月18日 Photo: Yuzuru SUNADA

 数々のタイトルを獲得しているサガンだが、ミラノ~サンレモ(イタリア)とルーベは優勝経験がない。クラシックレースの中でもひときわ高い格式を誇る「モニュメント」の中では、フランドルしか優勝していないというのも意外だ。春のクラシックの花形である、ミラノ~サンレモ、ルーベあたりはサガンのキャリアからして、そろそろタイトルを獲得してもよい頃。前者は300km近い長距離のレース、後者は難攻不落のパヴェが立ちはだかり、どちらも運を必要とするが、これまでの歴史で勝つべき選手が勝ってきたことも事実。サガンの実力をもってして、流石に「不運」だけで片付けることはできない。

チームプレゼンテーションでマイクを持つペテル・サガン(右)。ゼネラルマネージャーのラルフ・デンク氏(前列左から2人目)の脚に刻まれたタトゥーについて語る © BORA - hansgrohe / VeloImages

 ツールに関しても、マイヨヴェール奪還を目指してリスタートの大会となる。平坦ステージを中心に、確実に上位フィニッシュしたうえで、山岳ステージでも逃げグループに潜り込んで中間スプリントでポイントを稼ぐ、おなじみの「ポイント貯金」。サガンならではの戦術は、マイヨヴェール争いで圧倒的優位に立つことができる。また、15セクターに及ぶパヴェを経てルーベにフィニッシュする第9ステージも優勝候補。チームオーダーによっては総合エースのアシストに徹する可能性も少なからずあるが、ポイント加算を優先的に考えれば勝ちにいきたいステージだ。

 来季も順調にいけば、クラシック、ツールともに確立した彼なりの戦術で見る者を魅了することだろう。4連覇がかかるUCIロード世界選手権への意向も気になるところだが、まずはツールまでで一区切りといったところか。スプリンターとしての脚はもとより、逃げにも対応でき、展開によっては独走も狙える。“その気”になれば山岳もこなせてしまう。これまで、レース中の回復力に長けている点など、ロードレーサーとしての天性ともいえる体質もクローズアップされてきたが、近々28歳となり精神面での充実も見込まれる。心身が満たされれば、レースへの集中力や勝負強さにもつながっていくはずだ。

 なお、シーズンインは今年と同様にツアー・ダウンアンダー(1月16~21日、オーストラリア)に決定。早速、躍動するマイヨアルカンシエルが見られそうだ。

マイカはツールで総合を狙う

 ステージレースのエースであるマイカは2018年、ツールで総合を狙う方針を公言。サガンと共闘しながら、自身のリザルトを求めていく。

チームプレゼンテーションでマイクを手に笑顔を見せるラファル・マイカ。2018年はツール・ド・フランスの総合成績を狙うと公言した © BORA - hansgrohe / VeloImages

 これまで、ジロ・デ・イタリアでは2016年に総合5位、ブエルタ・ア・エスパーニャでは2015年に同3位と実績を残してきているが、ツールの総合は2016年の27位が最高。とはいえ、ステージ通算3勝を挙げ、2014年と2016年には山岳賞に輝くなど、本来であればツールの総合を狙えるだけの力があることを証明してきた。好調で開幕を迎えた今年のツールは第9ステージの落車負傷で大会を離脱したが、その雪辱にも燃える。

 持ち前の山岳での果敢な走りを生かしながら、1ステージのみとなる個人タイムトライアル、大会前半に設けられるチームタイムトライアルとパヴェステージをどうクリアしていくかがツール総合上位進出のカギ。マイヨヴェールを狙うサガンとの兼ね合いから、山岳アシストが手薄になる可能性があるが、一方でサガンを支える平地系アシストが、チームタイムトライアルやパヴェといった特殊なステージでマイカのフォローにも回っておきたいところ。前半ステージでの取りこぼしがなければ、大会中盤からの山岳ステージで上位戦線に加わることができるはずだ。

ツール・ド・フランス2017では総合15位と健闘したエマヌエル・ブッフマン。来季の総合エース候補に名乗り出る =ツール・ド・フランス2017第17ステージ、2017年7月19日 Photo: Yuzuru SUNADA

 チームはマイカに続く総合系ライダーの育成にも力を注ぐ。エマヌエル・ブッフマン(ドイツ)は、今年のツール総合15位。当初は山岳アシストとして臨んでいたが、マイカのリタイアにより総合エースに昇格しまずまずの成績を残した。パトリック・コンラッド(オーストリア)は、ジロで総合16位。春にはブエルタ・アル・パイス・バスコ(スペイン)でも総合7位に入っており、オールラウンダーとして着実に力を伸ばしている選手だ。

 2018年からは、今年のジロ総合10位のダヴィデ・フォルモロ(イタリア)や、山岳アシストとして計算できるピーター・ケニャック(イギリス)が加入。選手層に厚みが増し、ステージレースと合わせ、丘陵地帯が舞台のアルデンヌクラシックに向けても期待が高まっている。

 グランツールでのトップ10経験が豊富なレオポルド・ケニッグ(チェコ)は、ひざの故障からの復活を目指している。本来であればマイカとならんでグランツール路線を引っ張るべき選手だが、タレントがそろう中で自らの居場所を確保できるか、今シーズンが正念場となる。

実力派ライダーがそろうチーム編成

 派手さはないものの、実力派ライダーがひしめくメンバー構成。これまでのように、新たな力が来シーズンも台頭する可能性を秘める。

 今シーズン10勝を挙げたサム・ベネット(アイルランド)は、サガンとならぶエーススプリンターとしてチームを引っ張る。来年はジロまたはブエルタでポイント賞争いに加わりたい。今年はジロのスプリントステージでたびたび上位進出。いまだ果たせていないステージ優勝をきっかけに、ジャージ獲得へと飛躍したい。

 今年のジロ第1ステージで逃げ切り勝利を挙げ、すい星のごとく現れトップシーンに名を刻んだルーカス・ペストルベルガー(オーストリア)も、すっかりチームの主力に成長。得意とする逃げで、レースを盛り上げる存在となりたい。

2017年は10勝を挙げたサム・ベネット。頼れるエーススプリンターの1人 © BORA - hansgrohe / Stiehl Photography
ジロ・デ・イタリア2017第1ステージで優勝。すい星のごとく現れトップシーンの一員となったルーカス・ペストルベルガー =2017年5月5日 Photo: Yuzuru SUNADA

 新加入組では、フォルモロやケニャックとならんでダニエル・オス(イタリア)に注目が集まる。求められるのはサガンのアシスト。リクイガス時代の2012年以来、6年ぶりにチームメートとなるが、クラシックにスプリントに、サガンを勝利に導くキーマンとなりそう。レース展開によっては、自身が上位をうかがうこともあるだろう。

 その他、マチェイ・ボドナル(ポーランド)やマークス・ブルグハート(ドイツ)といったベテランもチームに残留。オスらとともに、サガンをクラシックレース優勝に押し上げることがシーズン序盤の大仕事となる。

 チームは12月7日にチームプレゼンテーションを行い、来季所属の選手や着用ジャージを発表。ジャージは黒と鮮やかな緑が映えるデザインとなっている。また、その後スペイン・マヨルカ島でトレーニングキャンプを実施。シーズンインに向けた準備を順調に進めている。

集合写真におさまるボーラ・ハンスグローエの選手たち。シーズンインに向けた準備を順調に進めている © BORA - hansgrohe / VeloImages

ボーラ・ハンスグローエ 2017-2018 選手動向

【残留】
パスカル・アッカーマン(ドイツ)
エリック・バシュカ(スロバキア)
チェーザレ・ベネデッティ(イタリア)
サム・ベネット(アイルランド)
マチェイ・ボドナル(ポーランド)
エマヌエル・ブッフマン(ドイツ)
マルクス・ブルグハート(ドイツ)
ミカル・コラー(スロバキア)
レオポルド・ケニッグ(チェコ)
パトリック・コンラッド(オーストリア)
ラファル・マイカ(ポーランド)
ジェイ・マッカーシー(オーストラリア)
グレゴール・ミュールベルガー(オーストリア)
マッテーオ・ペルッキ(イタリア)
クリストフ・フィングステン(ドイツ)
パウェル・ポリャンスキー(ポーランド)
ルーカス・ペストルベルガー(オーストリア)
ユライ・サガン(スロバキア)
ペテル・サガン(スロバキア)
アレクセイ・サラモティンス(ラトビア)
アンドレアス・シリンガー(ドイツ)
ミヒャエル・シュヴァルツマン(ドイツ)
リュディガー・ゼーリッヒ(ドイツ)

【加入】
ダヴィデ・フォルモロ(イタリア) ←キャノンデール・ドラパック
フェリックス・グロッシャルトナー(オーストリア) ←CCCスプランディ・ポルコヴィツェ
ピーター・ケニャック(イギリス) ←チーム スカイ
ダニエル・オス(イタリア) ←BMCレーシングチーム

【退団】
シェイン・アーチボルド(ニュージーランド) →アクアブルースポーツ
ヤン・バルタ(チェコ) →エルコフ・アーサーサイクリングチーム
シルヴィオ・ヘルクロッツ(ドイツ) →ブルゴス・BH
ジョセ・メンデス(ポルトガル) →ブルゴス・BH

今週の爆走ライダー−リュディガー・ゼーリッヒ(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 チーム カチューシャ(現カチューシャ・アルペシン)で4年過ごし、地元ドイツチームに“帰還”したのが2016年。現チーム2年目の今年からは、スプリンターの最終発射台としての明確な役割が与えられた。

スプリントの最終発射台としてエーススプリンターを支えるリュディガー・ゼーリッヒ =ツール・ド・フランス2017第1ステージ、2017年7月1日 Photo: Yuzuru SUNADA

 ジロではベネットを、ツールではサガンをアシスト。そのツールではサガンが離脱したため、途中から自身がエーススプリンターに“昇格”したが、勝負に絡むにはいまひとつスピードが足りなかった。やっぱり発射台が自身に合った役割のようだ。

 プロ入り当時は大型スプリンターとして期待されていた。2011年にトレーニーとして加わったレオパード・トレック(現トレック・セガフレード)では、シーズン終盤のワンデーレースで優勝。その後チームを変えてプロデビューを果たしたが、個人での勝利はおろか、春のクラシックでメンバー入りするのがやっと。自身のスプリントどころではなくなってしまった。

 そうして模索する中で見つけた役割こそ、現在まっとうする発射台。トラック競技で培ったバイクテクニックや加速力をエーススプリンターのために生かす仕事がピッタリはまった。

 来シーズン、スプリンターたちが勝利を重ねる陰には、ゼーリッヒの働きがきっとあることだろう。自らが勝利を狙うチャンスは減るが、自国のチームに尽くすことで評価を高める。キャリアを積むことで見つけた天職に、いまは集中する。

山岳ステージでファンからのセルフィーに応じるリュディガー・ゼーリッヒ。“天職”であるスプリント発射台では集中力を発揮する =ツール・ド・フランス2017第5ステージ、2017年7月5日 Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。自転車情報のFacebookページ「suke’scycling world」も充実。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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