2017ロードレース名場面プレイバック<2>いま一番勝てるピュアスプリンター ガビリア、キッテル、ユアンの勝ちパターン

by あきさねゆう / Yuu AKISANE
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 サイクルロードレース2017年シーズンの名場面、印象的なシーンを振り返る連載の第2弾は「スプリンター名場面をプレイバック」と題して、3人のスプリンターに注目する。フェルナンド・ガビリア(コロンビア、クイックステップフロアーズ)、マルセル・キッテル(ドイツ、クイックステップフロアーズ)、カレイブ・ユアン(オーストラリア、オリカ・スコット)。いま最も集団スプリントで勝てるスプリンターの活躍を振り返っていく。

2017年、UCIワールドツアーで多くの勝利を挙げた(左から)フェルナンド・ガビリア、マルセル・キッテル、カレイブ・ユアン Photo : Yuzuru SUNADA

最も集団スプリントで勝っている選手は

 まず、2017年シーズンのワールドツアーのレースで、集団スプリントになったレースとその勝者を調べてみた。ここでいう集団スプリントの定義は、いわゆるピュアスプリンターが活躍するような平坦フィニッシュで、各チームともにトレインを組んで激しいポジション争いの末にスプリント勝負に持ち込まれたレースとした。

 1月のツアー・ダウンアンダーから10月のツアー・オブ・グアンシーまで、計60回の集団スプリント勝負が行われた。

 その中で最も勝った選手は、ガビリアの8勝だった。次いでキッテルとユアンが7勝ずつで並んでいる。

ガビリアの強みは卓越したバランス感覚

ガビリアが勝った集団スプリント

ティレーノ~アドリアティコ第6ステージ
ジロ・デ・イタリア第5、12、13ステージ
ツアー・オブ・グアンシー第1、2、3、6ステージ
計8勝

 ガビリアは2016年まではトラック競技を中心に走っており、2015、2016年とトラック世界選手権オムニアムで2連覇を果たしている。プロ2年目となる2017年シーズンからはロードレースに専念し、全選手中最多タイとなるシーズン14勝をあげた。

トラック世界選手権オムニアムで優勝したフェルナンド・ガヴィリア(2016年ロンドンにて) Photo : Yuzuru SUNADA

 トラック競技で培ったバランス感覚の良さが、ガビリアの武器となっている。その象徴的なシーンといえるレースが、ジロ・デ・イタリア第13ステージだ。

 集団スプリントに持ち込まれたものの、ガビリアはリードアウト役のマクシミリアーノ・リケーゼ(アルゼンチン)とはぐれてしまった。残り250m地点でガビリアは10番手付近を走行しており、先頭を走るサム・ベネット(アイルランド、ボーラ・ハンスグローエ)が最も有利な位置でスプリントを開始した。

 さらに、このステージのフィニッシュ地点は1車線ほどの道幅となっていて、4〜5人が横に並べば追い抜いて前に出ることが難しい狭いコースだった。ガビリアの前には10人近い選手がいたため、前に出るコースが塞がれている状況だった。

 残り200mを切ったあたりで、先行するリケーゼがチラリと後ろを振り返る。ガビリアの姿を確認すると、路上の端の柵との間にギリギリ1人通れるくらいのスペースを確保した。そのスペースを狙って進路を変えようとしたユアンを、リケーゼがブロックすると、後方からガビリアが何の躊躇もなく狭いスペースに突っ込んだ。柵とリケーゼの間の自転車1台がギリギリ通れるわずかな隙間を猛加速しながらくぐり抜けていったのだ。

 活路を開いたガビリアは、一気に集団先頭に躍り出て、前を行くベネットを抜き去り勝利を飾ったのだ。

初出場のグランツールで大会4勝目を飾ったフェルナンド・ガビリア Photo : Yuzuru SUNADA

 Velon社が公開しているデータによると、ラスト21秒間の平均スピードは時速64.8km、最高スピードは時速72.8km、平均パワーは1098W、最大パワーは1478Wとのことだ。

 ガビリアはライバルスプリンターの背後から抜き去るテクニックとパワーに優れた選手だ。なおかつ、凄まじいパワーの持ち主でもある。目まぐるしく状況が変化する集団スプリントにおいて、どんな状況からでも勝利を狙えるアドバンテージは大きい。

圧倒的なパワーで制するキッテル

キッテルが勝った集団スプリント

アブダビツアー第2ステージ
ツアー・オブ・カリフォルニア第1ステージ
ツール・ド・フランス第2、6、7、10、11ステージ
計7勝

 キッテルも2017年シーズンはガビリアと並ぶシーズン14勝をあげた、世界で最も勝っている選手の一人だ。

 ジュニア・U23時代はタイムトライアル競技での成績が良かったため、TTスペシャリストとして見込まれて2011年にスキル・シマノでプロデビューした。しかし、ツール・ド・ランカウイの集団スプリントでプロ初勝利をあげると、スプリンターとして起用されようになる。すると一気に才能が開花して、シーズン17勝をあげる鮮烈なプロデビューを飾った。

プロ初勝利を飾ったマルセル・キッテル(2011年ツール・ド・ランカウイ第3ステージにて) Photo : Yuzuru SUNADA

 2017年シーズンを終えて、プロ通算86勝をあげている。いま29歳であり、名実ともにトップスプリンターとしてキャリアの絶頂期を迎えている。

 キッテル最大の武器は身長188cmの肉体から生み出される凄まじいパワーだ。その象徴的なシーンといえるレースは、ツール・ド・フランス第2ステージだ。

 ドイツ人であり、ベルギーチームに所属するキッテルにとって、ドイツをスタートしベルギーへとフィニッシュする第2ステージは是が非でも勝ちたいレースだった。

 しかし、大会最初の集団スプリントとあって、勝利を渇望する選手は山ほどいる。混戦のなかで、キッテルは集団の中に埋もれてしまい、残り500mで20番手付近にポジションを落としていた。

 このままでは勝てないと判断したキッテルはポジションをあげるために、ゴールまでまだ距離のあったこの段階からスプリントを開始する。混戦の集団前方を避けて、開けた路上の真ん中を突っ切っていくと、残り200mを切ったあたりで先頭に躍り出た。なおもキッテルは踏みをやめずに、トップスピードを維持。そのまま先頭でフィニッシュし、ステージ勝利を飾った。

絶対に勝ちたいレースで勝利し、雄叫びをあげるマルセル・キッテル Photo : Yuzuru SUNADA
レース後は地面に座り込み、涙を流す姿も見られた Photo : Yuzuru SUNADA

 絶対に勝たねばならないプレッシャーから解放されたためか、チームと自身にとって地元を走るレースで勝った喜びからか、レース後は涙を流す姿も見られた。

 letourdataが公開しているデータによると、残り450mで時速67kmに達してから、残り150m付近まで時速67km以上を維持している。フィニッシュ地点にたどり着いた際も、時速65km程度を保っているため、実質的に500m近いロングスプリントを決めたということになる。

 通常集団スプリントは残り200mから250m付近から始まるのだが、500mのスプリントとなるともはや別次元の距離である。それだけ長時間にわたって、ハイパワーを出力することができることが、キッテルの大きなアドバンテージとなっている。

極端な前傾姿勢で空気抵抗を減らすユアン

ユアンが勝った集団スプリント

ツアー・ダウンアンダー第1、3、4、6ステージ
アブダビツアー第4ステージ
ジロ・デ・イタリア第7ステージ
ツール・ド・ポローニュ第4ステージ
計7勝

 ユアンは2017年シーズンは世界6位タイとなる10勝をあげた。

 ユアンといえば、身長165cmと決して恵まれた体格ではないものの、身体の小ささを逆用して空気抵抗を極限まで減らした極端な前傾姿勢から繰り出されるパンチ力のあるスプリントが魅力の選手だ。

 しかし、前を塞がれていたり、横に張り付かれているような状況では極端な前傾姿勢でのスプリントができない。接触によりバランスを欠いて転倒する危険があるからだ。したがってユアンが勝つためには、混戦を避けて集団の先頭、もしくは開けたところでスプリントを開始することが重要となる。

写真の真ん中で先頭でスプリントするカレイブ・ユアン。両サイドにもスペースがあり、完全な勝ちパターンといえよう(2016年ツアー・ダウンアンダー第1ステージにて) Photo : Yuzuru SUNADA

 実際に集団先頭でユアンがスプリント開始した場合、無類の強さを誇る。フィニッシュ寸前で勝ちを確信して踏みを止めた隙に、差し込まれて負けたアブダビツアー第2ステージを除けば、2017年の勝率は100%だった。

 ユアンによるスプリントの象徴的なシーンといえるレースは、アブダビツアー第4ステージだ。

 砂漠性気候のアブダビでは、非常に珍しく大雨が降るなか、ヤス・マリーナ・サーキットのコースで順調に周回を重ねていった。最終周回の最後のコーナーの手前で、リードアウトのロジャー・クルーゲ(ドイツ)が先頭に立つ。背後にはしっかりとユアンがついている。

 雨で滑りやすいコーナーを慎重にクリアすると、ユアンを発射するために最後の加速を開始。ライバルスプリンターたちに並ばれることなく、クルーゲのリードアウトが終了し、ユアンを解き放った。

超前傾姿勢のままフィニッシュラインへ突っ込むカイレブ・ユアン Photo : Yuzuru SUNADA

 あとは、フィニッシュまで一直線。得意の超前傾姿勢のスプリントを繰り出して勝利を飾った。前述したとおり、2日前の第2ステージでは勝利を逃していた反省からか、フィニッシュラインを通過したことを確認してからガッツポーズをした。

 先頭でスプリント開始すれば勝てる、という明確な勝ちパターンを持っていることがユアンの大きなアドバンテージだ。

◇         ◇

 ガビリア、キッテル、ユアン。それぞれ全く特徴が異なるスプリンターである。

 2017年シーズンに、ガビリアとユアンはジロとツアー・オブ・ブリテンで直接対決し、集団スプリントでの勝利数はお互いに4勝ずつだ。キッテルとユアンは、アブダビツアーで直接対決し、お互いに1勝ずつ。そしてガビリアとキッテルはチームメイトだったこともあり、直接対決の機会は一度もなかった。

 2018年シーズン、キッテルはカチューシャ・アルペシンに移籍し、3人は2018年のツールに出場予定だ。トップスプリンターの競演を今から待ち遠しく思う。

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