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栗村修の“輪”生相談<115>10代男性「長期入院して衰えた選手と同じトレーニングをすれば、同じくらい速くなれる?」

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 いつも楽しく見させていただいてます。

 いつも疑問に思っている事があります。それは、プロ選手は落車などで大きなけがをしてしまう事があると思います。数カ月など長期間の入院が必要な場合もあり、それで病院で療養中に筋肉がかなり落ちるはずです。

 けがが治る時にはアマチュア選手よりも筋肉が落ちているでしょう。その時にアマチュア選手などが、けがをした選手(ワールドチームに所属しているレベル)と完全に同じトレーニングをしたら、脚質が同じと仮定して、理論的にはその選手と同じくらい速くなれるのではないかと思っています。

 もしそれが可能なら、日本人がツールドフランスでステージ優勝することも夢ではないと思っています。それとも現実はそんなに甘くないのでしょうか。

 元プロ選手の栗村さんの意見が聞きたいです。

(10代男性)

 確かに、けがなどで長期離脱した選手のフィジカルが、アマチュア並に落ちることはあるでしょう。しかし、アマチュアがそこから強くなるのと、プロが力を元に戻すのは、はたから見ると同じようでも、まったく別の現象だと思うんです。

 ブランク明けの選手は、しばしば、力を戻すどころかブランク前以上に強くなるケースもあります。僕も経験したことがあります。ずっと不思議に思っていたんですが、最近、この現象はパソコンでいう、OSの再インストールみたいなものじゃないかと思うようになりました。スマホなら、初期化です。

 再インストールをすると、たいがい、前よりも早く、軽くなりますよね。それがつまり、強くなるということです。なぜ強くなるのかというと、おそらく、裏で知らない間に悪さをしていたスパイウェアとか、重いアプリとか、不要なキャッシュとか、そういうものがいなくなるからじゃないかと想像しています。

 選手にはトレーニングへの強迫観念があり、どうしてもやりすぎてしまうリスクがあります。トレーニングの手を休めることが、怖くてできないんですね。それがオーバートレーニングやトレーニングのマンネリ化に繋がるケースは少なくありません。

 そこに急に、落車なり故障なりでブランクが訪れる。トレーニングができなくなった選手の焦りは相当のものですが、ようやく休息が得られた肉体は「回復モード」に入り、疲労が抜けていく。ブランクの間は食べ物やストレッチなど、回復に力を注ぐはずですから、それも回復にはプラスになるでしょう。したがって、肉体に一種の超回復が起こるんじゃないでしょうか。メンタルもフレッシュになりますよね。

 もちろん、休んだだけパフォーマンスは落ちますよ。いきなりOSを再インストールするはめになるわけですから、もろもろの設定や保存していない作業は消えてしまい、またやりなおす手間が生じる。これが、ブランク明けの選手がパフォーマンスを戻す作業に相当します。

 しかし選手がパフォーマンスを戻すのには、大した時間は要りません。それまでの蓄積があるからです。そして再設定が終わると、以前より快適になったパソコンが手元に残る…という具合です。皆さんも、パソコンやスマホで経験がおありだと思います。

ツール・ド・フランスをアメリカ人として初めて制覇したグレッグ・レモン。初優勝の翌年である1987年、猟銃の事故で生死の境をさまようが、見事に復活。1989、1990年にも個人総合優勝を果たした =1990年ツール・ド・フランス Photo: Yuzuru SUNADA

 ですが、OSの再インストールのために一時的に真っ白になったパソコンと、買いたてで真っ白なパソコンとでは、同じ「真っ白」でも、意味が全然違うわけですよ。

 もうお分かりだと思いますが、前者はプロ、後者がアマチュアです。それまでの蓄積がある人が再設定をするのと、ゼロから設定を積み重ねるのとでは、必要な時間が違います。

 それともう一点重要な点を加えると、トップレベルにあった選手というのは、最高レベルのCPUとメモリを積んだ「超高性能マシーン」であるということです。これは持って生まれた部分と、一度高いレベルのパフォーマンスを身体に覚え込ませたことがあるという部分の二面があります。

 真っさらのアマチュア選手というのは、その選手が果たして最高のCPUとメモリを持って生まれているのかはわからない状態ですし、そもそもまだ高いレベルのパフォーマンスを身体が記憶していません。

 とはいえ、真っ白から再設定を行う手順だけは、プロもアマチュアも一緒です。もしかしたら、プロの「OS再インストール作業」には、強くなるためのヒントがあるかもしれませんね。

 ヒントといえば、最近、一時的に自転車競技から引退していた飯野智行選手と話す機会があったのですが、彼曰く、長時間のパワーは元に戻っても、短時間高強度はなかなか元通りにならないらしいんです。それは僕もなんとなく感じていて、今もたまにロードバイクに乗ると、長時間じわじわ走るシチュエーションはなんとかなるんですが、ダッシュとか、短時間が厳しい。速筋系を戻すのには時間がかかるということなのでしょう。

 もしそれが事実なら、ウエイトトレーニングなどの補助トレーニングが有効になるかもしれません。このエピソードは、ヒントになりましたか?

(編集 佐藤喬)

回答者 栗村修(くりむら おさむ)

 一般財団法人日本自転車普及協会 主幹調査役、ツアー・オブ・ジャパン 大会ディレクター、スポーツ専門TV局 J SPORTS サイクルロードレース解説者。選手時代はポーランドのチームと契約するなど国内外で活躍。引退後はTV解説者として、ユニークな語り口でサイクルロードレースの魅力を多くの人に伝え続けている。著書に『栗村修のかなり本気のロードバイクトレーニング』『栗村修の100倍楽しむ! サイクルロードレース観戦術』(いずれも洋泉社)など。

※栗村さんにあなたの自転車に関する悩みを相談してみませんか?
 ml.sd-cyclist-info@sankei.co.jpまで、タイトルを「輪生相談質問」としてお寄せください。

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