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入門編「チャレンジコース」に挑戦台風も大雨も楽しんだ「松野四万十バイクレース」 悪路で親子の絆深めた41kmの大冒険

by 澤野健太 / Kenta SAWANO
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 昨年2016年に初開催され、エクストリーム系レースとして注目を浴びた「松野四万十バイクレース」(MSBR)。2017年は最高峰のアルティメット部門は昨年の130㎞(獲得標高3000m)から140km(獲得標高3300m)によりハードになり、日本でもハードなマウンテンバイク(MTB)レースとして、厳しいレースを求めるMTBライダーの間で注目されていた。一方で今年から松野四万十の自然をより気軽に楽しめるコースとして41.2キロの「チャレンジ部門」も新設された。10月29日に行われた第2回大会に、Cyclist編集長が、マウンテンバイク競技を始めたばかりの中学生の長男とタッグを組み「チャレンジ部門」に出走。台風22号の接近の中、思い出に残るコースを堪能。意外な結果が待っていた。

大雨の中、親子で初タッグを組み、松野の目黒林道を上る Photo: MSBR MATSUNO SHIMANTO BIKE RACE

前日には松野町の名勝を訪問

 松野四万十バイクレースは2~4人でチームを組み、四万十の大自然と地元のグルメ、さらに盆踊りやお茶などの文化を楽しみながら、順位を競うMTBレースとして第1回目の昨年から人気を集め、噂になっていた。上級のアルティメット部門から入門用「チェレンジ部門」まで大会の時だけ特別に走れるルートが準備。自分にとってもMTBレースは初体験。本来は100km以上のコースを走りたいが、自分の経験が少ないことと、中学生の長男が参加することができるということから「チャレンジ部門」(41.2km)を選択。子供にオフロードの大変さと、自分がリードして父親らしいところを見せようとしたのも、1つの狙いだった。

ナショナルチームの「松野四万十対策」講座も好評

前日には、ナショナルチームの「松野四万十対策トークショー」も好評だった。(左から)西山選手、門田選手。池田選手 Photo: MSBR MATSUNO SHIMANTO BIKE RACE

 大会は台風22号の影響で、開催自体が危ぶまれる中、10月28日金曜日、大会運営を担当する門田基志さん(TEAM GIANT)から、「開催する方向で明日決断します」との連絡が入った。気分も高まり、29日始発の飛行機で愛媛に向かった。松山市は雨、台風の影響はまだなかったが、松野町に到着すると、悪天候を考慮しナショナルチームとの四万十体験ツアーが中止になったため、松野町を観光。日本の棚田百選に選ばれているという「遊鶴羽(ゆずりは)の棚田」、いろいろな伝説の残る「天が滝」でマイナスイオンを浴び、リフレッシュ。おさかな館で四万十の“幻の魚”アカメやピラルクなどの淡水魚を見て、松野町の歴史や、自然を親子で学ぶことができた。

 夕方に行われた前夜祭では、MTBマラソンナショナルチーム(以下ナショナルチーム)の3人から松野四万十の攻略法講座が開催され、参加者から活発な質問が飛んだ。私たちはビギナーだが「スタート何時間前に食事すれば良いか」「松野四万十に最適な空気圧は」など、具体的な質疑応答は非常に参考になった。特に門田選手の「
杉の枝を車輪に巻き込んだ時の注意点」は私にとって、翌日に早速生きてくる重要なアドバイスだった。

日本の棚田百選に選ばれているという、奥内の棚田 Photo: Kenta SAWANO
マイナスイオンがたくさんの天が滝 Photo: Kenta SAWANO
宿泊した旅館「末廣」では夕食に川ガニを堪能 Photo: Kenta SAWANO
ヘルメット、キャップ、ボトルも枕元に置き準備万端 Photo: Kenta SAWANO 

 あとは天気を運に任せるだけ。川ガニや鮎など、松野町特産の夕食を、旅館「末廣」でナショナルチームの皆さんといただく。親子そろって川ガニを食べるのも初めて。宿の方からカニのむき方、カニみその食べ方を習い、締めは池田祐樹さんが一人ひとりに配ってくれた愛媛みかん。マウンテンバイク競技を目指すこどもにとって一流選手の気遣いを含め、勉強になることばかりだった。 

 そんな和やかななか、気になるのはテレビの天気予報のみ。「警報が翌朝出ていたら中止」。大会開催の基準は、そのわかりやすい一点だった。子供は警報を心配する大人たちに混じり「雨のレースの方が盛り上がって楽しみだね」と興奮気味にゼッケンやレインウェア、バナナをしっかり準備。午後10時には就寝した。

午前5時前、台風による雨もなんのその、準備にいそしむ参加者たち Photo: MSBR MATSUNO SHIMANTO
松野四万十バイクレース2017の参加賞。MEITANの各製品、松野町のおいしい梅を使った「うめサイダー」、さらには緊急用の発煙筒まで至れり尽くせり Photo: Kenta SAWANO 

上級クラスだけコース短縮で決行

 翌朝4時。窓の外は大雨。洗面所で一緒に歯を磨いていた西山選手に開催の有無を聞くと「松野町は警報出ていないので開催します」とのこと。警報が出ている高知県の部分はカットし、チャレンジコースはそのままの距離で開催。エキスパート部門とアドバンスド部門はチャレンジ部門のメーンとなる中山林道を3周し、競われることになった。

 午前5時、スタート地点の「道の駅虹の森公園」には台風の大雨を嫌がるどころか、雨で盛り上がる猛者が集まった。1回目からお馴染みとなった、アロママッサージ(1回1000円)で足を温めてもらい、ウォーミングアップは十分。しかし本音は「この雨で4、5時間走るのはつらい。子供は途中でリタイアと言い出さないか」と心配した。ところが長男は真っ暗闇の中、大勢のライトだけが雨を照らす独特の風景に大興奮。「雨でよかったね。盛り上がるね」と頼もしい?答えが返ってきた。

午前5時過ぎ、まだ暗闇のスタート地点で「2人で助け合って走ろう」と誓い合う Photo: MSBR MATSUNO SHIMANTO BIKE RACE
午前5時30分スタート! 濡れた路面を無数のライトが照らしながら進む幻想的なシーン Photo: MSBR MATSUNO SHIMANTO

 国道318号線を封鎖したスタート地点。MTBの公道スタートはなかなか日本では見たことがなく、貴重な体験だ。「どんなことがあっても2人で走り切ろう」と親子で誓い合い、午前5時30分、合図とともにスタート。真っ暗闇の国道を先導のオートバイと先頭集団のライトだけが照らす。MTBの太めのタイヤが鳴らす音と変速の音だけが、静かな田園の中に響く。時速25㎞あまりでそのまま先頭集団についていった。

 チャレンジ部門は中盤に約20㎞の目黒林道をメインとした、松野四万十の“おいしいところ”を凝縮した総距離41㎞のコース。全てのコースを熟知した今回の公式カメラマン・中川裕之さんも「目黒林道は、(最難関の)アルティメット部門のコースの最後にも組み込まれており、ハードなアルティメットのコースを走った選手が最後に景色が楽しめるような“ご褒美”のようなコースなんです。チャレンジ部門はそこをメーンに走れるのできっと楽しんでもらえると思います」と説明してくれた。

序盤は子供をアシストし面目保つ

 国道から細い舗装路に入るといよいよ、山上りがスタート。そんなについていけないスピードでないと思い、国道で先頭集団についていったのが影響し、長男が少しずつ苦しそうにする。後ろから徐々にペースを上げてきたGiant Japanの湯浅さんから「ペースを上げすぎないように気を付けてください。ここからきつくなるから」とアドバイスいただくと、そこから勾配がどんどん急になってきた。

真っ暗闇の森をライトの明かりを頼りにチームで進む Photo: MSBR MATSUNO SHIMANTO

といってもライトの灯りが、頼りなので実際の勾配は、目にははっきり見えず、ライトで照らされる前と、体感で勾配を感じるというはじめての体験。長男に「マイペースで行こう。周りの人に迷惑かけないよう、フラフラしないように」と声をかけ、一列で子供を引く。

 「はじめて子供を後ろにつけ、親として、いいところを見せられているかな」と親として少し満足しながら坂を上った。森の中を抜ける、九十九折。目の前には杉木立の間から、無数のライトが光る幻想的な光景を見ながら力を合わせて進んだ。集団全員に抜かれ、完全に子供と2人で暗闇を進んだ。2人の吐く息と、頭に当たる雨粒の音だけが耳から入る、感覚が研ぎ澄まされる状況で、不思議と辛いどころか、ここまで自転車に集中したのは初めてではないかと感じた。

第1エイドステーションに着いても、森はまだ夜が明けていなかった Photo: MSBR MATSUNO SHIMANTO BIKE RACE
第1エイドステーションで約15分、茹で上がるのを待った鹿肉ソーセージは格別だった Photo: Lemond SAWANO 

 10kmほど過ぎた頃、真っ暗闇の先に一段と明るいライトが見えてきた。最初のエイドステーションだった。ここで楽しみにしていたのが「鹿肉ソーセージ」。しかし、こちらの到着が早すぎたため、まだ茹で上がっておらず、あと10分以上かかるという。レースのタイムを取るか、グルメを味わう方を取るか。「間違いなく、地元グルメでしょ」と親子の意見は一致し、体を冷やさないように気をつけて、食べる。松野のグルメの名物の一つで低カロリー・高タンパクで癖のない味だ。ふだん補給食で食べることのない「ソーセージ」にパワーをもらって再スタートを切る。ここからが一番きついが景色がきれいだという「目黒林道」だ。

まだ暗いうちはライトを点灯し、林道を上った Photo: MSBR MATSUNO SHIMANTO BIKE RACE 

 明るくなってくると、雨が思った以上に降っていることに気づく。しかし集中して走ると、あまり気にならなくなって来た。さらに足元には無数の杉の枝が落ちていた。杉の枝が後輪に巻き込まれるアクシデントもあったが、前日に門田さんから受けたアドバイス「後輪が杉の枝を巻き込んだ場合は、ホイールをロックさせて回さなかったら自転車は壊れない」を守って、事なきを得た。目黒林道の巨岩は濡れていることで存在感が増し、紅葉もしっとりしたトーンに映り、雨のおかげと思われる景色を、あちこちで見ることができた。

台風の影響があったからこそ味わえる景色もたくさんあった Photo: MSBR MATSUNO SHIMANTO

親子で「エースとアシスト」立場が逆転

 10km地点から、チャレンジコースの最高標高770mまでは、標高差500mを8㎞かけて上った。筆者は序盤のハイペースと、格好をつけて子供を引き続けたため、疲れが出始めた。また、この地点から雨の流れを横に流すための高さ10センチほどのゴム製の土留めが一定の感覚で林道を横切るように設置されていた。足に負担は来ないが、ストレスとして徐々に負担になって来た。逆に子供は疲労が回復したのか、スタミナがあるのか、上りのテンポが良くなって来て、役割が交代。生まれて初めて、子供に前を引いてもらうという、立場逆転の危機がやってきた。ロードレースでいう「エースとアシストの世代交代」なのか、とショックながらも、嬉しい成長を感じていた。

美しい緑と、荒々しい岩場が調和した目黒林道を進む Photo: MSBR MATSUNO SHIMANTO

 少しすると、「前の人たちを抜こうよ」とグンとペースが上がる。OKといいながらも内心は必死に食らいついていく。大丈夫? 大丈夫だよ。という親にとってやせ我慢な、やりとりが続く。夜が明けても、雨と霧が山々を覆い、神秘的な風景が続く。5メートルから10メートルはある岩盤がずっと続く林道もあり、そこから水が流れ出しているシーンも独特の風景だった。そして2時間ほどかかって、18㎞地点の最高標高地点にあり2番目のエイドステーションに到着した。晴れていればおそらく、四国の山々が見下ろせる素晴らしい景色が見れると思われた。そこからは5㎞ほどアップダウンを繰り返すと、お楽しみの下りが始まった。
 

後ろについて子供を見守るつもりが、必死についていく始末 Photo: MSBR MATSUNO SHIMANTO

約6㎞のダウンヒル、子供についていく

 上りの遅れを取り戻そうと、「ダウンヒルでは先頭を引っ張り、子供にいいところを見せよう」と再び前を引いた。そして「濡れた大きな石に気をつけよう!スピードに、気をつけていこうね」と下り始めたのも束の間、子供が「前を走るよ!」とすぐに先頭交代。スピードを緩めないばかりか、杉の間伐が行われているダイナミックな景色の中、どんどん差を広げられた。

待ちに待ったダウンヒル。子供を引っ張るはずが、子供に必死についていく Photo: MSBR MATSUNO SHIMANTO

 親として「危ないから気をつけて!」と注意を促したものの「いつもはもっと下りでスピードを出しているから大丈夫。腰をもっと引いて下りなよ! 」と逆にアドバイス(ほぼ指示)が返ってきた。毎日、山をMTBで走っている長男は、かなり確実に安全なラインを走っている。前の組に追いついたので、しっかりついていこうとすると、逆に前へどうぞ、と言われ、子供と前を引く事態になった。下りは約6km続き、子供の背中のゼッケンは泥だらけ、その後ろを走る私の顔も泥だらけ。口の中も泥の味がして来たが、スピードを緩めるわけにはいかない。他のグループとも合流し、一列で集落に到着した。

松野南小のチェックポイントでは、レインウェアを着た浴衣美人と盆踊り Photo: MSBR MATSUNO SHIMANTO

 集落にある、松野南小はチェックポイント兼休憩地点。アルティメットの部の選手と思われる速そうな選手たちが、休憩していた。マッサージや、浴衣美人との盆踊りのブースなど、様々なアトラクションがあったが、体がすでに冷えきっており、飲み物だけ補給すると、子供に「早く行こう!」と急かされて、再スタートを切った。

 地図上は、あと10kmほど、ゴールまでいくつかアップダウンが、あるだけ。舗装路なので、追い越される車に気をつけながら走る。午前9時、台風による風が一層強くなって来たので、「やっと親らしい出番を見せることができる」と子供の前に出て「ぴったり後ろについて、風よけにして」と2人のトレインを組んでゴールに向かった。

 「下りは本当に楽しかったね。あんなに荒れて長い下りは初めてだったから」と残り5㎞はレースを振り返り進んだ。途中、とても速い外国人選手や何組の選手に抜かれた。すでに2組以上に抜かれたので、もともと期待もしていなかったが「表彰台はないね」と話しながら松野町の、のどかな田園風景の間を進んだ。午前9時過ぎ、スタート地点横の広見川(四万十川mの支流)を渡り、ゴールに向かう。ゴールのゲートは設置されていたが、人は少なく、兜を被った武士に迎えていただき、3人で記念撮影した。

甲冑の武士が出迎え、笑顔でゴールする参加者 Photo: MSBR MATSUNO SHIMANTO
厳しいレースでもゴールの瞬間はみんな笑顔だった Photo: MSBR MATSUNO SHIMANTO
午前9時過ぎ無事にゴール。松野町の武士?と記念撮影 Photo: Kenta SAWANO

 やけに人が少ないと思っていると、松野町の担当者の方が、あわてて駆けつけ「もう戻って来たんですか? トップだと思います」と意外すぎる答えが返ってきた。自分たちがゴール前に抜かれた選手は、上位クラスの参加者で1周でリタイヤすること決めた参加者らしかった。「まさか優勝?」と親子で顔を見合ったが、うれしさよりも寒さが先で、大会名物の淹れたての抹茶をいただき暖を取った。

優勝盾は特製のガラス製兜。クラスごとに色が違うにも素晴らしかった Photo: MSBR MATSUNO SHIMANTO
GIANT JAPANがイベントを全面サポートしてくれた Photo: Kenta SAWANO

 ゴール後のおもてなしも松野四万十バイクレースの魅力だ。抹茶だけでなく、イノシシ汁でもお腹を満たすと、1等はローラー台も当選する抽選会が開催。ほかにも地元のグルメが楽しめる出店もそろう。筆者は、参加賞に入っていた入浴無料券を手に、会場の近くにある「森の国ぽっぽ温泉」へ。全国でも珍しいという、JR予土線の松丸駅の中にある温泉で身も心も温まり、表彰式を迎えた。

淹れたての抹茶とお饅頭がゴール後に振る舞われた Photo: Kenta SAWANO
淹れたての抹茶は体の芯から温まった Photo: Kenta SAWANO
会場近くの「森の国 ぽっぽ温泉」の足湯で温まる Photo: Kenta SAWANO

優勝賞品は松野産野菜の詰め合わせなど

圧倒的な速さでアルティメットの部で優勝したナショナルチーム。 池田祐樹選手、門田基志選手、西山靖晃選手 Photo: MSBR MATSUNO SHIMANTO

 表彰は7カテゴリーで行われ、トップカテゴリーのアルティメットの部は、昨年に続き、ナショナルチームの門田基志選手、池田祐樹選手、西山靖晃選手の3人が2連覇した。段ボールに詰め込まれた松野特産の野菜のほか、特製のガラスで作られた兜の形をしたトロフィーが格好良い。最後の最後に、Cyclistチームとして筆者親子が呼び出された。自転車競技で親子とも初めての表彰台。いつもは表彰台を撮影したり、インタビューする立場だが、カメラに囲まれこんなに気持ち良いものだと初めて感じることができた。

まさかの優勝。商品の松野産は近所に配り、松野町をPRしました Photo: MSBR MATSUNO SHIMANTO

 レースの内容は、子供に終始引っ張ってもらったので、決して親として満足できるものではなかった。しかし、台風という厳しい環境で完走し、親子の絆が以前より深まったのは間違いない。しかもマウンテンバイクだからこそ楽しめる風景、連帯感にかなり虜になった。親子で挑んだ最初のレースはかなりの伝説になりそうな素晴らしい思い出が詰まっていた。筆者にとっても、子供にとっても一生忘れられないレースになった。

 

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