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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<231>アルらの加入で大幅戦力アップ UAE・チームエミレーツ 2018年シーズン展望

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 前回からお届けしている、UCIワールドチームを中心とした2018年のシーズン展望。今回は、UAE・チームエミレーツをピックアップ。チームはこのオフ、グランツールレーサーのファビオ・アル(イタリア、アスタナ プロチーム)、ダニエル・マーティン(アイルランド、クイックステップフロアーズ)、さらにはスプリンターのアレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、カチューシャ・アルペシン)らを獲得。大幅な戦力アップを図り、すでに来季に向けた活動をスタートさせたチームの状況を見ていきたい。

今年のストーブリーグの目玉となったファビオ・アルのUAE・チーム エミレーツ移籍。チームにとってウィークポイントになりつつあったグランツールの戦いにメドが立った =ブエルタ・ア・エスパーニャ2017第13ステージ、2017年9月1日 Photo: Yuzuru SUNADA

アルとマーティンでグランツール棲み分け

 今シーズンは、2月のアブダビ・ツアー(UCIワールドツアー)でルイ・コスタ(ポルトガル)が総合優勝。チーム本拠のUAEでの勝利と、幸先のよいスタートを切ったUAE・チームエミレーツ。その後、ビッグレースではジロ・デ・イタリア第4ステージでのヤン・ポランツェ(スロベニア)、ブエルタ・ア・エスパーニャ第7ステージでのマテイ・モホリッチ(スロベニア)、9月のGPモンレアル(カナダ)、10月のツアー・オブ・ターキー(トルコ)でのディエゴ・ウリッシ(イタリア)の優勝と、要所で見せ場を作った。

 しかし、グランツールの総合成績で見ると、ツール・ド・フランスで総合8位に入り、新人賞のマイヨブラン争いにも加わったルイ・メインティス(南アフリカ)だけが奮起していた格好。同様に、春のクラシックでもコスタやウリッシが上位戦線に加わったとはいえ、目立った走りとまでは言えないのが実情だった。

今年のツール・ド・フランス第15ステージでのひとこま。これまでライバルとしてしのぎを削ったダニエル・マーティン(左端)とファビオ・アル(右から2人目)が移籍によりチームメートとなる =2017年7月16日 Photo: Yuzuru SUNADA

 そこで、チームはウィークポイントになりかねない部分の強化に着手。メインティスが移籍により退団することもあり、グランツール、クラシックそれぞれでの絶対的エース候補の獲得に力を注いだ。その結果、グランツールレーサーではアルとマーティンの加入が決定した。

 3年契約を結んだアルは、2015年のブエルタ制覇を筆頭に、すっかりグランツールの総合上位争いの顔となっている。今年は地元・サルデーニャ島開幕だったジロでの総合優勝を狙っていたが、直前の落車負傷で無念の欠場。ターゲットをツールへとシフトし、一時はマイヨジョーヌを着用するなど最終的に5位とまとめた。

 けがの回復からツールへ急ピッチで仕上げたことから、その後は息切れ気味となったが、オフにしっかりと休んで来シーズンはより元気な姿を見せてくれることだろう。現所属のアスタナ プロチームのゼネラルマネージャー、アレクサンドル・ヴィノクロフ氏が契約問題から違約金を求めて訴えを起こす可能性も指摘されているが、アル自身はできる限り競技に集中したいところ。

 今のところ、来シーズンはジロでの雪辱を目指す方向。11月29日にコース発表がなされるが、その内容を受けてより方向性を明確にすることだろう。そして、ジロからスケジュールを逆算して、シーズンインの時期も決まるはずだ。

UAE・チーム エミレーツ入りが決まり、首脳陣との記念写真に収まったダニエル・マーティン ©︎UAE Team Emirates

 ジロはアルに任せ、ツールをターゲットとするのはマーティン。安定感のある登坂力は、緩急問わず山岳での走りに直結。ステージレースでの山岳ステージでは確実に上位に入ってくる点で、チーム首脳陣も計算しやすいだろう。今年のツールでは自己最高となる総合6位になったが、上りの強さだけならもっと上位に入っていても不思議ではない実力。来年の大会に関していえば、チームタイムトライアルとパヴェをどう走るかもポイントになりそうだ。

 また、マーティンといえば得意とするアルデンヌクラシックからも目が離せない。今年はフレーシュ・ワロンヌ、リエージュ~バストーニュ~リエージュともに2位。リエージュでは2013年に優勝するなど、春のレースでの実績も豊富。これまで、この時期にチームを引っ張ってきたコスタやウリッシとの共闘は、新たなタイトル獲得への追い風になるに違いない。

 アルとマーティンによってメドが立ったグランツール。圧倒的な登坂力の一方で、ともに課題となるのが個人タイムトライアル。アルは上位を狙える走力を持つものの、好不調の波が激しく、ペースに乗り切れないままブレーキに終わるケースがしばしば。マーティンもタイムトライアルステージで総合順位を落とす傾向にあり、山岳とTTの走りをそろえられるかが最終的な上位進出のカギとなるだろう。

クリストフはツールと北のクラシックを目指す

 今年のストーブリーグ(移籍市場)では、強力スプリンターたちによる“玉突き移籍”が発生。大物による新たな環境の選択が次々と明らかとなった。そのきっかけを作った1人がクリストフだ。

今年のパリ〜ルーベで力走するアレクサンダー・クリストフ。移籍後はルーベ制覇も目指すと宣言 =2017年4月9日 Photo: Yuzuru SUNADA

 2014年にミラノ~サンレモ、2015年にはツール・デ・フランドルを制したほか、ツールではステージ通算2勝と、スプリンターとして、さらにはクラシックハンターとして確たる地位を築き続ける30歳。今年もシーズン序盤に勝利を量産するなど好調に見えたものの、その後はなかなか勝ちに恵まれず。春のクラシックではあと一歩のところで優勝を逃し続け、5月のフランクフルト一周(ドイツ、UCIワールドツアー)を制したのがせめてもの救いだった。

 調子が上がらない状況と並行して、チームの首脳陣との確執も噂された。特に体重増加を指摘する声が大きく、自身はそれを勝てない原因としなかった点で意見の相違が発生。早い段階でクリストフ本人が来シーズンの移籍の意向を示すまでに至った。

UCIロード世界選手権では銀メダルを獲得。表彰台で笑顔を見せるアレクサンダー・クリストフ =2017年9月24日 Photo: Yuzuru SUNADA

 UAE チーム・エミレーツとは、8月上旬には移籍に向けて大筋合意していたことを明らかにし、その数週間後に正式サイン。これらが関係しているか定かではないが、シーズン後半に入って復調。同月にはヨーロッパ選手権ロードレースを制し、大陸チャンピオンジャージを獲得。9月には世界選手権ロードレースでも銀メダルを獲得した。

 晴れやかなヨーロッパチャンピオンジャージを手に、チームへと加わる。目標となるのはもちろん、北のクラシックとツール。タイトル奪還へ、ミラノ~サンレモとツール・デ・フランドルへの注力はもちろんだが、この2レースほど重視していなかったパリ~ルーベにも“本気”を出す心積もりのよう。

 ツールに関しては、これまでチーム事情によってスプリントのみに集中できる環境が与えられていたが、これからはマーティンら総合系ライダーとのチーム編成となる可能性が高まる。もともと上れるスプリンターとして鳴らしてきたクリストフだけに、スプリントのみならず、必要に応じてアシストに回ることも考えられる。

 日頃からトレーニングをともにする後輩のスヴェンエリック・ビストラム(ノルウェー)を引き連れて、新チームへ。自国コンチネンタルチームの頃にはチームメートとして一緒に走っていた、ヴェガールステイク・ラエンゲン(ノルウェー)とも2009年以来の再会。心強い仲間の存在が大きなモチベーションとなる。

25選手で新シーズンを戦う

 チームは11月上旬に来年所属する25選手を正式に発表。クラシックレースで中心となるウリッシや、1週間のステージレースでの活躍が期待されるコスタらも名を連ねた。

ビッグレースに強いベン・スイフトはジロ・デ・イタリア出場の意向を示している =ツール・ド・フランス2017第18ステージ、2017年7月20日 Photo: Yuzuru SUNADA

 昨年のミラノ~サンレモ2位、今年の世界選手権ロードレース5位と、ビッグレースにめっぽう強いベン・スイフト(イギリス)は、同じ脚質のクリストフとのバランスを重視する意向を示し、グランツールシーズンはジロのステージ勝利を狙う姿勢。

 また、選手のみならず首脳陣もこのチームへの“移籍”を決めている点も押さえておきたい。今年はバーレーン・メリダを指揮したフィリップ・モデュイがスポーツディレクター職に就くほか、今シーズン限りで現役を退くパオロ・ティラロンゴ(イタリア、アスタナ プロチーム)がアシスタントスポーツディレクターとして採用されたことも明らかに。ティラロンゴのスタッフ加入は、アルの移籍決定に大きな影響を及ぼしたと見られる。

 体制が整ったチームは、11月上旬にこのオフ1回目となるチームビルディングキャンプをイタリアとスイスで実施。一部の欠席者をのぞき、選手・スタッフが集結し、メディカルチェックやミーティング、来年使用するアイテムのフィッティング、さらには登山などに時間を費やした。

メディカルチェックを受けるディエゴ・ウリッシ ©︎UAE Team Emirates
チームビルディングキャンプで登山を行うUAE・チーム エミレーツの選手たち ©︎UAE Team Emirates

UAE チーム・エミレーツ 2017-2018 選手動向

アナス・アイトエルアブディラ(モロッコ)
ダルウィン・アタプマ(コロンビア)
マッテーオ・ボーノ(イタリア)
シモーネ・コンソンニ(イタリア)
ヴァレリオ・コンティ(イタリア)
ルイ・コスタ(ポルトガル)
クリスティアン・ドゥラセク(クロアチア)
ロベルト・フェラーリ(イタリア)
フィリッポ・ガンナ(イタリア)
ヴェガールステイク・ラエンゲン(ノルウェー)
マルコ・マルカート(イタリア)
ユスフ・ミルザアルハマディ(UAE)
マヌエーレ・モーリ(イタリア)
シモーネ・ペティッリ(イタリア)
ヤン・ポランツェ(スロベニア)
エドワルド・ラヴァージ(イタリア)
ベン・スイフト(イギリス)
オリヴィエーロ・トロイア(イタリア)
ディエゴ・ウリッシ(イタリア)

【加入】
ファビオ・アル(イタリア) ←アスタナ プロチーム
スヴェンエリック・ビストラム(ノルウェー) ←チーム カチューシャ・アルペシン
アレクサンダー・クリストフ(ノルウェー) ←チーム カチューシャ・アルペシン
ダニエル・マーティン(アイルランド) ←クイックステップフロアーズ
アリャクサンドル・リャブシェンコ(ベラルーシ) ←チーム ソリーゴ・アマル・パラッツァーゴ・シリオ(アマチュア)
ローリー・サザーランド(オーストラリア) ←モビスター チーム

【退団】
アンドレア・グアルディーニ(イタリア) →バルディアーニ・CSF
マルコ・クンプ(スロベニア) →CCCスプランディ・ポルコヴィチェ
ルイ・メインティス(南アフリカ) →チーム ディメンションデータ
サーシャ・モードロ(イタリア) →チーム EFエデュケーションファースト・ドラパック
マテイ・モホリッチ(スロベニア) →バーレーン・メリダ
プシェメスワフ・ニエミエツ(ポーランド) →未定
フェデリーコ・ズルロ(イタリア) →未定

今週の爆走ライダー−フィリッポ・ガンナ(イタリア、UAE・チームエミレーツ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 チームメートからは一足早く、10月上旬にはロードシーズンを終了。大急ぎで“本職”である冬場のトラックシーズンの準備に入った。1カ月も経たないうちに行われたヨーロッパ選手権では、専門種目であるインディビジュアルパシュート(個人追抜)で快勝。上々のシーズンインを果たしている。

10月21日に行われたトラックのヨーロッパ選手権でインディビジュアルパシュートを制したフィリッポ・ガンナ。ヨーロッパチャンピオンジャージを獲得した  Photo: Roberto Bettini/BettiniPhoto©2017

 ジュニア時代からトラックとロードを並行して走ってきた。ここまでのキャリアでは、どちらかというとトラックでの実績がロードを上回る。昨年はインディビジュアルパシュートで世界選手権優勝。今年も銀メダル獲得と、21歳にしてその地位を固めている。

 ただ、ロード関係者もその才能は見過ごしていない。身長193cm、85kgの体躯は魅力十分。将来的には北のクラシックや個人TTでトップに立てる逸材との見方が多い。期待に違わず、昨年はパリ~ルーベ・エスポワール(23歳未満対象のパリ~ルーベ)で独走勝利。プロ1年目の今年は個人TT要員として、ヨーロッパ選手権のイタリア代表にも抜擢された。

 今年はロードでのレース数を抑え、経験重視の1年とした。本人もロードでの未来にその気のようだが、トラックでも世界王者を狙える立場ゆえに、もうしばらくは両立しながら走り続けることになりそうだ。両方取り組みながら、そのどちらもでトップライダーとなっているエリア・ヴィヴィアーニ(チーム スカイ)のようなお手本が身近にいるのも大きい。

 近いうちに、ロードでも驚異的なパワーと独走力が見られる日がやってくるだろう。いまのうちから押さえておきたい若手有望株である。

しばらくはトラックとロードを並行して取り組むフィリッポ・ガンナ。ロードでは北のクラシックやタイムトライアルでの活躍が期待されている =ティレーノ〜アドリアティコ2017第6ステージ、2017年3月13日 Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。自転車情報のFacebookページ「suke’scycling world」も充実。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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