別世界だったトップ集団「ようやくスタートラインに立てた」 Cyclist松尾が2回目のツール・ド・おきなわ210kmに挑戦

by 松尾修作 / Shusaku MATSUO
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 全国のホビーレーサーを魅了する「ツール・ド・おきなわ」。その最高峰カテゴリーである市民210kmは、強豪選手による激しい争いが繰り広げられている。昨年、初参加したCyclist編集部の松尾修作記者は今年、さらなるトレーニングを積み参加。優勝した高岡亮寛選手のチームメートとして31位でフィニッシュした。前回と同着ながら、新たな視点で見たレースの最前線をレポートで紹介する。

チームメートの優勝は自分のことのように嬉しい Photo: Naoi HIRASAWA

昨年の倍以上の準備で挑戦

 「ツール・ド・おきなわ」の市民カテゴリーで最も長い距離を走る「市民210km」。強豪アマチュアレーサーが一同に顔を揃え、大会に対して凄まじいモチベーションで臨む、まさに“ホビーレーサーの甲子園”と称するにふさわしいレースだ。上位を狙う選手は仕事を持ちつつも、トレーニングに励む時間や犠牲は計り知れないものがある。昨年、社会人という立場で初出場をし、31位という順位でレースを終えた。

距離を重ねるごとに人数を減らすメイン集団 Photo: Naoi HIRASAWA

 このレースの魅力は“リアルロードレース”ができることに尽きる。持久力、瞬発力、判断力など一つでも欠けると、良いリザルトどころか完走することも危うい。210kmという国内最長の距離で、補給食はいつ、何を食べるのかといった、状況に応じた繊細な判断も繰り返し行いながら、大勢のライバルに挑まなければならない。

 前回、初めて参加し、市民210kmの魅力に虜になった私は、今大会を1年の最大の目標レースとして設定。前大会で2連覇4勝目を飾った高岡選手が立ち上げたチーム「Roppongi Express」に入り、半年計画で本番へ向けたトレーニングを進めた。1度出場した経験をもとに、食事やトレーニング内容を決めていくのだが、徐々にコンディションが上がる身体の変化や、当日が近くなるとざわつくライバルのブログ、その環境に身を置いていることが自体が楽しい。すでにレースが始まっていたと感じるほどだ。

 スタートラインには高岡選手と並んで立った。チームメートとして同じジャージを着てレースに臨む。私の目標は高岡選手のアシストをしつつ、10位以内の順位を目指すこと。独走で優勝を重ねている高岡選手の後方支援を行いつつ、彼を追うライバルのチェックに入ることで力を抑えて走ることが、自らのリザルトにも繋がるだろうと考えがあったからだ。

1年越しで成長を実感

 レースがスタートすると、すぐに9人の逃げグループが形成。長いレースなので、大きな脅威に感じることはないが、タイムギャップが開きすぎないよう集団先頭のローテーションに加わり、メイングループの動きが止まらないよう立ち回った。

 目の届く範囲から逃げグループが消え、タイム差が分からないままレースが進んだ。小畑郁選手(なるしまフレンド)と「メイン集団は上りで踏み過ぎて消耗するより、ペースで上り、平坦と下りで集団の利を生かしてタイム差を縮めたほうがいい」という意見で合致し、集団内の有力選手と会話しながら共有。逃げ集団もメイングループも、ライバル選手と協調して進めていく臨場感は、おきなわならではだ。普久川ダムの上り手前でようやくバイクから伝えられたタイム差は4分40秒だった。

昨年遅れた2回目の普久川ダムの上りに挑む Photo: Naoi HIRASAWA

 1回目の普久川ダムを一定ペースで越え、70km/hを上回る高速ダウンヒルを終えるとタイム差は半分までに縮まっていた。どうやら逃げグループも消耗しているらしい。タイム差を知ってメイン集団はサイクリングペースまでスピードが落ちる。周りの選手たちは背中のポケットからジェルなど補給食を取り出し、残り100kmある後半への走りに備えていた。

 2回目の普久川ダムの上りへとやってくる。ここは昨年、頂上を前にして遅れた地点だ。1回目の上りは300Wほどのペース走で楽に上れたものの、やはり不安が残る。高岡選手はレース前と最中、しきりに「勝負は2回目のダムを越えてから。それまでは何もしなくていいし、焦る必要はない」と指示をくれたが、そもそも2回目の上りで遅れる可能性もある。しかし、コンディションを上げ、対策を講じてきた身体はツラさを感じず、軽快にクリアすることができた。成長を感じた瞬間だった。

 補給地点を過ぎ、短い下りを終えるといよいよ有力選手が動き出す。昨年、2位の成績を収めている井上亮選手(Magellan Systems Japan)を先頭に厳しいアップダウン区間へと突入。私は下り区間終盤で抜けた井上選手の後ろにつき、次の展開へと備える。「ここからだぞ」と隣に並んだ高岡選手からの言葉に緊張が高まった。

ゴールラインで腰もあげられないほど疲労していた Photo: Naoi HIRASAWA

 この辺りから集団の空気は一変した。明らかに一つのアクションに対する反応の早さが増し、ピリピリとした雰囲気が高まっている。特に積極的に先頭でペースアップを図る高岡選手、井上選手の動き全てに皆が反応。集団は緩い上りでは500~600Wで踏み始め、上りでも縦長になるペース。その強度に耐え切れず、一人また一人と脱落者が生まれていく。

 私に関しては「高岡選手の動きに後追いするだけでいい」という、状況判断としてはわかりやすい状態。しかし同時に、有力選手に合わせたペースの強弱に強制的に合わせなければならない。昨年は経験しなかったいわゆる“勝負どころ”で繰り広げられるアタックは想像より遥かに激しい。「まだ踏むの?」と心の中で何度も呟いたほど、長い時間高強度が続いた。

出場するたびに新たな視点を発見できる。その奥深さがツール・ド・おきなわの魅力だと実感した Photo: Naoi HIRASAWA

 高岡選手の抜け出しは実現しなかったものの、チームメートの私が先頭集団内にいることで、ほんの少しの抑止力としては機能を果たしたと思う。しかし、最終盤を前についに私も脱落してしまった。脚には少しの力も残っておらず、30km/hを維持することも厳しいほど。その間、高岡選手は6人まで人数を絞り込み、小集団の先頭でフィニッシュ。通算5勝目を飾っていた。私は何とかゴールにたどり着き、前回と奇しくも同じ順位の31位でフィニッシュした。

 昨年の倍以上の時間と用意で臨んだ210kmだが、リザルト上の順位は同じだった。しかし、レース中に見た景色は全くの別物だ。前回遅れたさらにその先の地点で、優勝争いを展開する選手の考え、動き、スピードを肌で感じることができた。

各クラスに出場したチームメートと健闘を称えあう Photo: Naoi HIRASAWA

 もしかしたらライバルの動きに反応せずアベレージで走っていたら、もう少し長い間トップ集団に留まることができたかもしれない。しかし、その場で体験した強度や辛さがなければ絶対に次のレースへ対応したトレーニングを積むことはできない。市民210kmに限らず、自らのレベルを上げて挑戦しても、その実力を上回るライバルが全国から切磋琢磨して集まる。そうした奥深さが多くのホビーレーサーを虜にする理由だろう。2年かけてようやくスタートラインに立てたように思う。

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