『かもめ☆チャンス』著者の自伝的コミック思わずうなずく愉快な自己満足の世界 玉井雪雄著『じこまん~自己満~(1)』

なぜ高級車を何台も買ってしまうのか、プロでもないのになぜ食事制限を課してまで体重をコントロールするのか、そもそもなぜ苦しい思いをして峠を上り続けるのか――11月に発売された『じこまん~自己満~』(日本文芸社)は、ロードバイクを楽しむサイクリストの、端から見れば“不思議”とも取れる自己満足的なカルチャーが描かれたコミックだ。
じこまん~自己満~(1)
著者: 玉井雪雄
出版社: 日本文芸社(ニチブンコミックス)
版型: B6
価格: 620円(税込)
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著者の玉井雪雄さんは、サラリーマン・レーサーの葛藤や夢を描いた『かもめ☆チャンス』(小学館)を連載し、自身もロードバイク、ピストバイク、マウンテンバイクを計8台所有する大の自転車愛好家。以前インタビューをした際にも、颯爽と愛車を駆る様子が印象的たった。『じこまん』では、そんな玉井さんの日常や、自転車にまつわるストーリーによって、サイクリストの“じこまん”具合がひも解かれていく。
今回発売された第1巻には、全17コンテンツを収録。千葉県房総半島を男性3人で疾走する「房総快走」や、新潟・佐渡島で毎年5月に開催されるイベント「佐渡ロングライド210」を舞台にした「漕ぎ行きて…佐渡」といったタイトルが並ぶ。玉井さんが過去に3回参加してきたという佐渡ロングライドは、風景の美しさやコースの過酷さ、参加者それぞれの楽しみ方などが愛着をもって描かれている。
自転車を愛好しているからこそ目につく、改善されるべきサイクリストのマナーに触れたコンテンツもある。「仁義なき自転車道」では、河川敷などの道路で“じこまん”であっても自己中心的な走行にならないよう呼び掛けている。そのほか、軽車両として路上を走るためには「ドライバーなどと目を合わせることが大切」という安全走行のポイントも。
自転車に深く入れ込む“ヘビーサイクリスト”が共感できるストーリーが詰まった『じこまん』だが、専門用語の説明があるのはもちろん、走行中遭遇する状況や感覚などの描写は、サイクリストでなくてもわかりやすい。逆にそれが、サイクリストにとっては客観的で、おもしろい。
本書のカバーを外すと、表紙には“Yes, it’s only JIKOMAN”というフレーズが。たかがじこまん、されどじこまん。自己陶酔? ノン、ノン、じこまん。誰でも思わずうなずいてしまう、愉快な“じこまん”の世界を、一読あれ。(柄沢亜希)