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4度目のジャパンカップ出場ノボ ノルディスク「バイクチャレンジto宇都宮」 1型糖尿病患者ら23人が134kmを完走

by 後藤恭子 / Kyoko GOTO
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 選手全員が1型糖尿病患者でありながら、UCIプロコンチネンタルチームとして活躍する「チーム ノボノルディスク」が10月20日、4度目となる「2017ジャパンカップ」の出場にあわせて、1型糖尿病患者とともに東京・丸の内からレースの舞台となる宇都宮までの約130kmを自走する「糖尿病の克服を目指す、バイクチャレンジto宇都宮」を開催した。当日は生憎の雨に見舞われながらも23人全員がチームプレゼンテーションの会場となるオリオンスクエアに到着。同チームの創設者、フィル・サザーランド氏は会場に集まった観客に対し「病気を理由に夢を諦める必要はない」と呼びかけた。

「糖尿病の克服を目指す、バイクチャレンジto宇都宮」で江戸川サイクリングロードを北上する大原慎人くんら Photo: Kyoko GOTO

糖尿病の克服が夢への第一歩

 「チームノボノルディスク」は、製薬大手「ノボノルディスク」が支援するスポーツチーム。トップチームの自転車レーサーは全員が1型糖尿病患者で、その他にもマラソン、トライアスロンなどを含めて世界で100人以上の糖尿病患者が活動している。

出発前、23人全員で東京駅前で記念撮影 Photo: Kyoko GOTO
午前9時、東京・丸の内にあるノボ ノルディスク本社を出発 ©novonordisk

 当日は1型糖尿病患者5人のほか、ジャパンカップを舞台とした漫画「Ride Your Dream」(ライド ユア ドリーム)のモデルとなったサザーランド氏、同社社長のオーレ・ムルスコウ・ベック氏、元選手のジャスティン・モーリス氏、そして社内の公募で集まった社員ら総勢23人が参加した。

 チーム ノボノルディスクのミッションである「糖尿病とともに生きる人々が、自分の夢を実現できるように前向きに糖尿病と向き合い、それぞれの人生の目標に向けて糖尿病を克服していくこと」を自転車で走ることで体現し、応援するという趣旨で企画された。

東京都心を抜けるまでは気が抜けない Photo: Kyoko GOTO

血糖管理は特別なことではない

嬉しそうな表情で走る大原慎人くん Photo: Kyoko GOTO

 走者の中に、大原慎人(まなと)くんの姿があった。3年前、10歳で1型糖尿病を発症し、翌年の2015年のジャパンカップで「チームノボ・ノルディスク」の応援に駆け付けた。「僕と同じ病気をもっているのにすごい」と感動を胸に焼き付けた当時から2年。いまはジュニア向けの自転車クラブで練習したり、夏休みの挑戦で自宅から広島までを自走するなど、サイクリストとしての成長を重ねている。

血糖管理も少しずつ体得してきた Photo: Kyoko GOTO

 1型糖尿病とは、生活習慣によるものではなく、自己免疫反応の異常やウイルス感染などが原因ですい臓のβ細胞の働かなくなり、体内でインスリンが分泌されなくなる疾患。インスリンが分泌されなくなると血中のブドウ糖が分解されないため、体内の血糖値を正常に保つには体外からインスリンを補う治療が必要となる。インスリンによる適切な血糖管理が治療のカギとなるが、逆にいえば血糖管理さえできれば健常者と変わりない生活を送ることができる。

都心を抜けてサイクリングロードへ。快適で気持ちよさそうに走るサザーランド氏 Photo: Kyoko GOTO

 当日のライドは30kmごとに休憩が設けられ、そのたびに5人の患者たちは自分の体に耳を傾けるように血糖の高低を確かめていた。概ね自分の体感が基本となるが、その状態がどれくらいの血糖値を把握するために測定機器を用いて管理することもしばしば。最近では採血せずに血糖値を図れる機器も保険適用され、より血糖管理が容易になった。

皮下に入れたセンサーで血糖値を測定できるように。従来のような指先穿刺の必要はない Photo: Kyoko GOTO
ライドを楽しみ、補給食も楽しむ姿は健常者と同じ Photo: Kyoko GOTO

 運動をすることで血糖値が下がることを予測し、自転車に乗るときは通常よりもインスリンを少なめに投与して正常値を上回る数値で走り出す。しかし、走行環境や気候によっても大きく変動するうえに症状は個々に異なるため、自分の適正値は経験によって見出すほかない。

高校生のときに1型糖尿病を発症した能勢謙介さん Photo: Kyoko GOTO
インスリン注射を衣類の上から腹部に打つ手付きにも経験の長さを感じる Photo: Kyoko GOTO

 走者の1人、能勢謙介さんは同疾患と30年以上“付き合っている”という血糖管理のベテラン。「僕はいったん180まで値を上げて“補正”します。失敗?たくさんしました。でもこれは医師が考えるものではなく、患者自身が自己管理するもの」と話す能勢さんは、10年前に自転車を始め、いまやヒルクライムやタイムトライアルに挑戦するサイクリスト。補給も糖質の量やGI値を考慮しつつ、基本的に自分が好きなスイーツを美味しそうに頬張り、慣れた手付きでインスリンを腹部に注射していた。

1年半前に1型糖尿病を発症したばかりの野島理紗子さん。大学では自転車競技部でトラックの選手 Photo: Kyoko GOTO

 順天堂大学の1年生で自転車競技部に所属する野島理紗子さんは、高校2年生、17歳のときに1型糖尿病を発症した。当初は疾患に対して正しい理解がなされず、15歳から打ち込んでいた自転車競技を医師からあきらめるようにいわれた。それでもあきらめきれなかった野島さんは、サイクリング程度のつもりで乗ったとき、低血糖になった。

 しかし、その後出会った医師から血糖管理の方法を教えてもらい、インスリンの量を調整することで自転車競技に復帰。高校時代は全国JOCジュニアオリンピックに出場し、トラック競技の1つ「スプリント」で優勝することもできた。この日は大学を休んでのライド参加。それでも自分が走る意義があると思った。

 「いつもうまくいかないとき、疾患のせいにする自分がいる。でも同じ疾患をもちながら走る選手たちを見ると言い訳ができなくなる」という野島さん。大会前、緊張で血糖値が上昇するというが、それも含めてコントロールしているノボノルディスクの選手たちは、選手としてのお手本だ。

前を走るサザーランド氏の背中を追う野島さん。「フィルさんをはじめ、しっかり血糖管理をしてレースで戦えている先輩たちは私のお手本」 Photo: Kyoko GOTO

 「私が抱えている疾患のことを周囲の人に知ってほしいし、同じ疾患を抱える人が私と同じように正しく疾患を理解できるためにも、自分がここで走る意義はあるんだと思います」と語った。

慎人くん「将来の夢はジャパンカップ出場」

 時折、強まる雨に打たれながらも全員134kmを走り切り、宇都宮に到着。そして一行は、18時半にプレゼンテーション会場となるオリオンスクエアへと向かった。そこは翌日から始まるジャパンカップのチームプレゼンテーションのステージ。たくさんの観客を前にベック氏、サザーランド氏が立ち、そして慎人君もその横に立った。

「バイクチャレンジto宇都宮」のゴール、オリオンスクエアで。ジャパンカップのチームプレゼンテーション前に到着し、観客から拍手喝采が送られた © novonordisk

 ベック氏は、「雨に降られたけれど、日本の景色を楽しみながら仲間と素晴らしいライドができた。1型糖尿病を抱えていたとしても、ここにいる患者さんたちやチームノボノルディスクの選手たちのようにどんなことでもできる。彼らの姿を見て、とくに若い世代の患者さんは夢をもつことをあきらめないでほしい」と呼びかけた。

完走を果たしたオーレ・ムルスコウ・ベック社長とフィル・サザーランド氏 © novonordisk

 サザーランド氏は、「1型糖尿病は弱みと思われがちだが、私はより良い人生にするための“強味”だと思っている。夢をあきらめずに挑戦する強さを与えてくれる」とし、「今回、慎人のような将来の有能な仲間と走れたことを嬉しく思っている。これからもチームの創設者として、若い人、子供たちが夢をもって生きるためのサポートをしていきたい」と語った。

完走を果たした大原慎人くん(右)と父親の寛昭さん © novonordisk

 最後に慎人くんは、「天候も冴えず途中大変なこともあったけど、走り切れてよかった。一緒に走れたことは自信になった。僕も将来ジャパンカップに出て、勇気を与えられるような存在になりたい」と今後の夢を語り、会場からは慎人くんに惜しみない拍手が送られた。

 付き添って走っていた父親の寛昭さんは、「1型糖尿病を発症したときは落ち込んでばかりだったけど、いまは‟発症したおかげ”と思えるくらい、本人の世界が広がっている。自分の立場も受ける側から発信する側へと変わってきたのを自覚しているようで、頼もしく感じている」と慎人くんの成長を見つめていた。

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2017 ジャパンカップ 2017ジャパンカップ・現地レポート ノボ ノルディスク

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