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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<223>初のダブルツールに前進したフルーム 熱戦のブエルタは運命の第3週へ

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 シーズン最後のグランツールであるブエルタ・ア・エスパーニャは、第2週までを終了。個人総合争いは、優勝候補筆頭のクリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ)が盤石のレース運び。マイヨロホをキープしている。そして、残すは6ステージ。勝負を揺るがす重要ステージが控えており、フルームがトップを守るのか、はたまたヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、バーレーン・メリダ)らの猛追はあるのか。ラスト1週のポイントを押さえていこう。

ブエルタ・ア・エスパーニャ2017は第2週までを終了。クリストファー・フルーム(中央)がマイヨロホを守っている。右は総合2位のヴィンチェンツォ・ニーバリ、左は同4位のウィルコ・ケルデルマン =ブエルタ・ア・エスパーニャ2017第11ステージ、2017年8月30日 Photo: Yuzuru SUNADA

際立ったスカイのチーム力

 第2週終了までマイヨロホを守ったフルーム。超級山岳を含む、上級山岳ステージでも崩れることなく、総合2位のニーバリとは1分1秒のリードを持つ。ここまでの走りを見る限り、同一シーズンに2つのグランツールを制する「ダブルツール」の達成に大きく前進したようにも思える。

落ち着いた走りで難関山岳をクリアしたクリストファー・フルーム。ツール・ド・フランスとのダブルツールが近づいている =ブエルタ・ア・エスパーニャ2017第15ステージ、2017年9月3日 Photo: Yuzuru SUNADA

 実現するとなれば、2008年にジロ・デ・イタリアとブエルタを制したアルベルト・コンタドール(スペイン、当時アスタナ、現トレック・セガフレード)以来。ツール・ド・フランスとブエルタとなれば、1963年のジャック・アンクティル氏、1978年のベルナール・イノー氏(ともにフランス)以来、3人目の快挙となる。

 ちなみに、アンクティル氏とイノー氏がダブルツールを達成した頃のブエルタは、4月下旬から5月に開催されており、現在のレーススケジュール(8月下旬から9月上旬にかけての開催)に移行してからは、いまだツールとブエルタ2冠を果たした選手は現れていない。

 フルームの第2週の走りは、「上手くまとめた」というのが筆者の印象だ。ステージ1勝を挙げるなどの果敢な走りでリードを得た第1週を経て、大会中盤はライバルの動きを見ながらの走りを重視していたように思う。

 その要因として挙げられるのは、第12ステージの下りでの2度にわたる落車の影響だ。このトラブルで手や膝を負傷。今大会最初の上級山岳であった第14ステージのレース後には、「落ち着いて終わらせることを重視した」とコメントしているが、これは回復具合を見ながらの走りに徹したことを示唆していると捉えることができる。

 また、シーズンの疲れが徐々に表れてきていても不思議ではない。今季序盤からしばらくはゆったりとレースを送ってきたとはいえ、激戦のツール以降高いコンディションを維持したまま走り続けるのはフルームとて難しいこと。緊張感が続く日々の中で、疲労が出てきても不思議ではない。

メイン集団を牽引するワウト・プールス(先頭)。クリストファー・フルームを支える大きな原動力だ =ブエルタ・ア・エスパーニャ2017第14ステージ、2017年9月2日 Photo: Yuzuru SUNADA

 そんなフルームの状態を補ったのが、チーム スカイのチーム力だ。特に好材料なのは、山岳アシストのワウト・プールス(オランダ)が尻上がりに調子を上げている点。個人総合でも10位に浮上しており、自身の成績も狙えるところまできている。今年は故障で出遅れたが、ここへきてベストコンディションを迎えているといえそうだ。ニーバリらライバルの出足を摘む絶妙なペースメイキングは、第3週も脅威となるに違いない。

 チーム力に支えられ、余裕をもって走ってきたフルームの真価が見られるのは、休息日明けの第16ステージ、40.2kmの個人タイムトライアル(TT)となるだろうか。絶対的な力を見せる個人TTでライバルにどれだけの差をつけられるかで、残りステージの走り方も決まってきそうだ。落車負傷の影響やコンディション低下の不安を払拭する快走で、ダブルツールに王手をかける可能性は高い。

個人TTの結果いかんで総合大シャッフルも

 追う総合2位以下は、日々順位の変動こそあったものの、トップをゆくフルームに迫るまでには至らず。「打倒フルーム」に燃える選手たちだが、重要局面までにアシストを失ってしまうことが多く、終盤になっても複数アシストをそろえるチーム スカイとの差が浮き彫りになっている。

ブエルタ第2週を終えて総合2位につけるヴィンチェンツォ・ニーバリ。クリストファー・フルームとの差を縮めるまでには至らなかった =ブエルタ・ア・エスパーニャ2017第15ステージ、2017年9月3日 Photo: Yuzuru SUNADA

 総合2位のニーバリは、「フルームを孤立させられればチャンス」と意気込んだが、その局面を狙った第15ステージでのアタックに失敗。超級山岳アルト・オヤ・デ・ラ・モーラの中腹で飛び出したが、フルームをおびき出すことはできず、フィニッシュでは逆に6秒差をつけられる苦杯。痛いタイムの取りこぼしを喫した。

 同じく3位、4位につけるイルヌール・ザカリン(ロシア、カチューシャ・アルペシン)とウィルコ・ケルデルマン(オランダ、チーム サンウェブ)は、ともにステージを追うごとに調子を上げてきた選手たち。第2週での好調さが光っただけに、大会序盤につけられたフルームとのタイム差が痛いが、残るステージは総合表彰台を意識したものとなりそう。ステージごとに調子に波がある同5位のエステバン・チャベス(コロンビア、オリカ・スコット)も表彰台争いのライバルとなる。

ステージ2勝を挙げ、一躍注目の存在となったミゲルアンヘル・ロペス。最終週も順位を上げられるか =ブエルタ・ア・エスパーニャ2017第15ステージ、2017年9月3日 Photo: Yuzuru SUNADA

 フルームして「ニーバリと並んでマークすべき選手になるかもしれない」と言わせているのが、6位につけるミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、アスタナ プロチーム)。ここまではアタックが容認されステージ2勝を挙げたが、総合順位を上げている今、最も勢いのある選手としてマークされることになりそう。絶対エースであるファビオ・アル(イタリア)を差し置いて、チーム最上位にいることもライバルが注視する要素となる。

 前述した第16ステージの個人TTは、トップのフルーム同様、追う選手たちにも大切な1日となる。果たしてフルームを追撃する資格があるのか、また総合上位進出が可能なのか、それらを明確にするテストだ。40.2kmという走行距離は、TTスキル次第で1~2分の差を覆すことを可能とする。フルームとニーバリ、ニーバリとザカリンはそれぞれ約1分差、総合3位のザカリン以下は秒差の争い。第17ステージ以降、攻撃チャンスが限られてくることも予想されるだけに、TTでの大きな遅れは絶対に許されない。

 なお、総合上位4選手、フルーム、ニーバリ、ザカリン、ケルデルマンはいずれも個人TTに強さを見せる。ロペスやアルも安定して力を発揮する一方で、分が悪いのはチャベス。昨年のブエルタ第19ステージ(37km)では、優勝したフルームから3分13秒差をつけられる大敗。また、今大会を最後に現役引退を発表している総合9位のコンタドールにとっては、キャリア最後のタイムトライアル。奮起に期待したい。

ブエルタ・ア・エスパーニャを最後に引退を発表しているアルベルト・コンタドール。第3週はキャリアのフィナーレとなる =ブエルタ・ア・エスパーニャ2017第15ステージ、2017年9月3日 Photo: Yuzuru SUNADA

個人総合順位(第15ステージ終了時)

1 クリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ) 62時間6分25秒
2 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、バーレーン・メリダ) +1分1秒
3 イルヌール・ザカリン(ロシア、カチューシャ・アルペシン) +2分8秒
4 ウィルコ・ケルデルマン(オランダ、チーム サンウェブ) +2分11秒
5 エステバン・チャベス(コロンビア、オリカ・スコット) +2分39秒
6 ミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、アスタナ プロチーム) +2分51秒
7 ファビオ・アル(イタリア、アスタナ プロチーム) +3分24秒
8 マイケル・ウッズ(カナダ、キャノンデール・ドラパック) +3分26秒
9 アルベルト・コンタドール(スペイン、トレック・セガフレード) +3分59秒
10 ワウト・プールス(オランダ、チーム スカイ) +5分22秒

ブエルタ・ア・エスパーニャ第3週ステージ展望

●9月5日(火) 第16ステージ シルクイト・デ・ナバーラ~ログローニョ 40.2km(個人タイムトライアル)

ブエルタ・ア・エスパーニャ2017第16ステージコースプロフィール © Unipublic

 ブエルタ最終週の舞台はスペイン北部。その初日は長距離個人タイムトライアル。おおむね平坦で、個々の独走力を測るには十分すぎるコース設定。スタート直後にコーナーが多く、ここでしっかりとリズムに乗ることができるかがカギ。そして、総合争いにおいてはこのステージの結果次第で大きく変化が生まれるはず。


●9月6日(水) 第17ステージ ビジャディエゴ~ロス・マチュコス.モヌメント・ヴァカ・パシエガ 180.5km(上級山岳)

ブエルタ・ア・エスパーニャ2017第17ステージコースプロフィール © Unipublic

 プロトンはカンタブリア山脈へ。いよいよ今年のブエルタも最終章を迎える。フィニッシュへ続くロス・マチュコスの上りは、距離こそ7.2kmと短いが、2カ所の激坂区間が選手たちを苦しめる。その勾配26%と25%。人数が絞られた状況で迎えるハードな上りは、総合争いを揺るがす驚異の登坂となる。


●9月7日(木) 第18ステージ スアンセス~サント・トリビオ・デ・リエバーナ 169km(中級山岳)

ブエルタ・ア・エスパーニャ2017第18ステージコースプロフィール © Unipublic

 4つのカテゴリー山岳がレース後半に集中する。ここまでに上ってきた超級山岳などと比較するとイージーとはいえ、気を抜くことはできない。過去に幾度となく中級山岳ステージで総合首位の入れ替わりが起こっているからだ。頂上フィニッシュのサント・トリビオ・デ・リエバーナは、ラスト2kmから急勾配になる。


●9月8日(金) 第19ステージ カソ.パルケ・ナトゥラル・デ・レデス~ヒホン 149.7km(中級山岳)

ブエルタ・ア・エスパーニャ2017第19ステージコースプロフィール © Unipublic

 上って下って、上って下って…を繰り返す。このステージ最後の3級山岳から、フィニッシュ地・ヒホンまでの約15kmにわたるダウンヒルで波乱は起きるか。残りわずかなチャンスに賭けて、捨て身の攻撃に出る選手が現れても不思議ではない。また、逃げを得意とする選手にとっても絶好の機会となる。


●9月9日(土) 第20ステージ コルベラ・デ・アストゥリアス~アルト・デ・ラングリル 117.5km(上級山岳)

ブエルタ・ア・エスパーニャ2017第20ステージコースプロフィール © Unipublic

 2017年ブエルタ最終決戦の場は、最大勾配23.5%に及ぶヨーロッパ屈指の上り、アングリルだ。登坂距離12.5km、平均勾配9.8%の壁で何かが起こる。総合首位の選手はマイヨロホを守り切るのか、土壇場での大逆転はあるのか。すべてはアングリルの上りのみぞ知る。また、その前に超える2つの1級山岳、アルト・デ・ラ・コベルトリア、アルト・デル・コルダルも難所。このステージを走り終えた段階で、総合首位となっている選手がブエルタ制覇を濃厚にする。


●9月10日(日) 第21ステージ アロヨモリーノス~マドリード 117.6km(平坦)

ブエルタ・ア・エスパーニャ2017第21ステージコースプロフィール © Unipublic

 8月19日にフランス・ニームで幕を開けた今大会。その締めくくりは、恒例のマドリード市街地周回コース。アロヨモリーノスを出発後はしばしパレード走行で、選手・スタッフはみな労をねぎらい合う。レースが本格化するのは、マドリード入りしてから。市街地サーキットを8周回し、最後はスプリントフィニッシュが予想される。そして、マイヨロホをはじめ、4賞受賞者が確定する。


今週の爆走ライダー−トーマス・マルチンスキー(ポーランド、ロット・ソウダル)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 今年のブエルタでブレイクした33歳のベテラン。8月24日に行われた第6ステージ、その7日後に行われた第12ステージと勝利。1週間に2勝する快進撃を演じてみせた。

ブエルタ・ア・エスパーニャ第6ステージを制した時のトーマス・マルチンスキー。勝利に会心のガッツポーズ =2017年8月24日 Photo: Yuzuru SUNADA

 特に第12ステージは、自宅に近いモトリルを出発したとあって、並々ならぬ意欲で臨んだのだとか。「友人がたくさん見に来てくれて、特別なモチベーションを与えてくれた」という1日で、最後は独走。途中何度も苦しい場面があったというが、仲間の存在がそれを乗り越えさせてくれたと感謝する。

 もっとも、ブエルタとは相性がよく、ヴァカンソレイユ・DCMで走った2012年には、総合13位で終えたこともある。近年はチームの解散や無所属の時期を経験するなど、苦労が続いたが、それらが報われる今年のブエルタとなっている。

 ブエルタ閉幕まであと1週間残すが、目下の急務は来シーズンの所属先を決めること。ロット・ソウダルとは2年契約の最終年とあって、今後の環境は急いで決めたい。この活躍できっと話が進展することだろう。今大会の快走は、近いうちに実を結ぶはずだ。

トーマス・マルチンスキーにとって、今年がチームとは2年契約の最終年。ブエルタでの活躍が来シーズンのチーム決定に拍車をかけそうだ =ブエルタ・ア・エスパーニャ2017第12ステージ、2017年8月31日 Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。自転車情報のFacebookページ「suke’scycling world」も充実。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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