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池田祐樹選手による独占レポート米コロラド州のMTBステージレース「ブレックエピック3デイズ」で総合優勝 「逆境が高めた集中力」

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 アメリカ・コロラド州で8月16日~18日に開催されたマウンテンバイク(MTB)のステージレース「ブレックエピック」に、池田祐樹選手(トピークエルゴンチームUSA)が出場し、3日間のステージレースで総合優勝を果たしました。10日前のステージレースからの間もない参戦に加え、パンクのトラブルに見舞われながらも最後まであきらめず戦い抜いたレースの様子を、池田選手本人によるレポートで紹介します。

米国コロラド州で開催された「ブレック・エピック」(3デイズ)で総合優勝を果たした池田祐樹選手 ©Linda Guerrette

◇         ◇

 7月30日から7日間にわたってコロンビアで開催されたステージレース「ラ・レイェンダ・デル・ドラド」から10日後、私の競技人生においてこの短いインターバルでステージレースを連戦することは未知の領域であり、新たなチャレンジだった。不安もあるが、自分がどんなパフォーマンスを発揮できるかという期待もあった。

 アメリカの私のベース地であるコロラド州のブレックで開催される世界的に人気のステージレース「ブレックエピック」。スタートですでに標高約3000mもある険しくも美しいコロラドロッキー山脈で、体力、気力、技術のすべてが試される。短期決戦の3日間と長期戦の6日間を選択できるが、今回は前レースの疲労も考慮し、3日間への参戦を決めた。

ステージ1:アクアダクト
距離44マイル(約70km)/獲得標高6300フィート(約1920m)

ネーム入りの趣向を凝らしたクールなナンバープレート Photo: Yuki IKEDA

 ネーム入りの趣向を凝らしたクールなナンバープレートがレーサーの士気を高めてくれる。コースプロファイルをハンドルバーに付け、補給ポイントや勝負どころを確認する。

 川を渡ったり、沼や砂地も通ったりと過酷な条件下が予想されるので、チェーンルーブは乾く心配のないフィニッシュライン・セラミックウェットチェーンルーブをたっぷりと塗布。そしていつも通り、日本から持参した有機梅干しをスタート前に摂取する。良質な電解質、クエン酸、そして日本のふるさとの味でパワーが漲ってくる。

 ポリスカーによる先導でいよいよレースがスタート。先導車が消え、舗装路区間を終えると真のレースが始まる。

ステージ1のスタート地点 ©Eddie Clark Media
先導車が消え、舗装路区間を終えると真のレースが始まる ©Eddie Clark Media

 最初の上りでUCIプロロード選手でもあるアンドリュー・クレメンス選手(Cycleton)と飛び抜ける。クレメンス選手のスムーズな路面での登坂の強さは圧巻。付いていくのも至難の業だ。しかし、テクニカルなセクションでは私が主導権を取る。上りで遅れても、下りで追いつくというデッドヒートが延々と続いた。

念願のリーダーズジャージを獲得 Photo: Yuki IKEDA

 コロンビアでのレース後、ほぼトレーニングをしていなかったせいか中盤に足が攣り始めてしまった。今シーズン初めての痙攣にとまどう。さらに上りで遅れ始めてしまうが、こちらに優位なダウンヒルで攻めに攻めてその差を埋める。

 ほぼ互角の勝負を繰り広げ、最後の最後で交わして2分のリードでステージ優勝を収めた。レース時間は3時間40分16秒。初日から足を攣ったりとかなりのダメージを受けたが、今季初の海外レース勝利。そして、念願のリーダーズジャージを獲得。明日はこのジャージを着用してスタートに立つ。

ステージ2:ウィーラー
距離32マイル(約51km)/獲得標高4900フィート(約1493m)

 目の前にそびえる標高3800mを越える峠を2回も上る。しかも、乗車不可能な場所も多く、長い“担ぎ”のハイキングセクションもある。きついコースだが、その絶景や達成感は他には代え難い。MTB本来のアドベンチャー要素が凝縮された超級山岳バックカントリーコースだ。

ステージ2の舞台となった「ウィーラー」 ©Eddie Clark Media
森林限界を越えた異惑星のような世界 ©Jeff Kerkove

 スタートから惜しみなく、全力投球。昨日と同様、上りを先行するクレメンス選手を視界から逃さないように必死に追う。空気も非常に薄く、低地の倍くらい負荷がかかる感覚だ。

 森林限界を越えた異惑星のような世界。きつい上りの後には、危険も伴うが、極上のダウンヒルが待っている。ここからが私の挽回のチャンスだ。

極上のダウンヒル。ここからが私の挽回のチャンス ©Karen Jarchow

 2つ目の大きな上りでクレメンス選手に追いつき、峠まで抜きつ抜かれつを繰り返してほぼ同時に登頂。ここまで白熱した勝負は久しぶり。この緊張感、スリル、興奮、我慢比べがレーサー魂に火を点けてくれる。

 ここからのダウンヒルがとんでもなくテクニカル。滑落の危険性もあり、一瞬たりとも気が抜けない。ドロッパーシートポストの恩恵を最大限に生かす。上りで劣る分だけ下りでどれだけ引き離せるか、それが私にとっての目標であり、正念場だ。

落車スレスレのハイスピードで飛ばす ©Linda Guerrette
下りでタイム差を意識しすぎて攻め過ぎた感はあった。パンクとかすり傷のみで済んだのは不幸中の幸いだったのかもしれない Photo: Yuki IKEDA

 高速ダウンヒルセクションで勢いよく飛んだのは良いが、飛んだところからは見えなかった着地地点に大きな穴があり、避けられずに前輪から激しく着地。激しくクラッシュすると思ったが、これもドロッパーのおかげでなんとか横の茂みに不時着。奇跡的に大怪我を免れ、かすり傷程度で済んだが前輪がパンクした。

 空気の減りが早いので、急いで「サムライスウォード」のプラグで2つの穴を塞ぎ、 25gCO2ボンベで空気を素早く充填する。CO2ボンベを一つ使い切るが、もう一つの穴がなかなか埋まらない。

パンクがあったのでフィニッシュではこの微妙な笑み ©Kenny Wehn

 3つ目のプラグを震える手で準備して、差し込む。スタンズのシーラントの効果もあり、空気漏れはほぼ収まったが、持っていた2つの25gCO2ボンベを全て使い果たしてしまった。もうこれ以上パンクはできない。

 幸い修理中に抜かれることはなく、リードはまだ保っている。残りのアップダウンセクションをパンクに細心の注意を払いながらも、全力でフィニッシュまで追い込んだ。

 3時間11分11秒でリードを守り切り、ステージ優勝。2位には7分半の差を付けてリーダーズジャージを死守した。パンクがあったにもかかわらずこのタイム差をつけられたことはラッキーだった。

 今季2度目の優勝。2位とは2日間で約9分半差。総合優勝まで何が起こるかわからない。最後まで集中力を切らさずに戦うのみ。

今季2度目のステージ優勝(写真中央が筆者)

最終ステージ:ゴールダスト
距離30マイル(約48km)/獲得標高4800フィート(約1463m)

 最終ステージはテクニカル度は低く、ハイペースのレースが予想された。プロファイルは大きな峠を上って下り、それを折り返すシンプルな設定で、2位のクレメンス選手にとって有利なコース設定だ。案の定、クレメンス選手は最初の上りから勝負をかけてくる。必死についていこうとするが置いていかれる。焦る気持ちを抑え、峠までのタイム差を最低限に抑えて下りで抜かすポジティブな展開をイメージした。

テクニカル度が低く、ハイペースのレースが予想された最終ステージ ©Linda Guerrette

 リアに違和感を感じたのは下り始めてすぐだった。リアタイヤが柔らかく感じる。そして、リアサスが正常に作動していないフィーリングもある。しばらく様子を見ながら下ったが、コーナーリングで後輪が感覚以上にヨレたことでスローパンクを確信する。すぐにストップしてパンク箇所を特定しようとするが、小さすぎるのか音も聞こえない。CO2ボンベで空気を入れて穴を確認し、プラグで埋める。しかしながら、パンクの原因はわからない。

挽回を狙った下りへ突入。ドロッパーも限界まで下げて追撃モード ©Michael Kane

 この隙に数人に抜かれたが、急いで再スタートし、快調に順位を取り戻していく。ところがまた空気が抜けている感触があり、再度ストップを余儀なくされる。タイムを稼ぐ下りで逆にタイムロスをしていることで焦りが募る。

 注意深く音を聞くともう一カ所穴が空いていた。すぐに穴をプラグで埋めて最後のCO2ボンベで空気を充填。これ以上のパンクのリスクを減らすために乗り心地を犠牲にして、通常よりも多めに空気を入れた。

諦めない気持ちが掴んだ総合優勝

 どれくらい時間をロスしただろうか。「総合順位をひっくり返されないだろうか?」不安が一瞬よぎるが、今考えていても仕方がない要素だ。ネガティブな思考は排除し、最後の峠への上りをスタートした。長く、向かい風がきつい上りをガムシャラに精一杯ペダルを踏んだ。

©Eddie Clark Media

 「負けたくない!」「勝ちたい!」ひたすらに心の中で唱えながら最後の峠に到達。そしてフィニッシュへと続く最後の下りへと突入。パンクはもう一回もできない、勝つためにはリスキーに攻めなければいけない。その逆境が極限まで私の集中力を高めた。

 コーナリング出口での無駄のない加速、ロックセクションの点をつなぐ体重移動、人車一体の感覚だ。すべてが一連のフローとなる。早くゴールしたいのに、いつまでもこのトランス状態の世界で乗っていたいという矛盾した欲望に駆られた。

満席の表彰式。チャンピオンジャージと、額に入った写真とチャンププレートをゲット

 トレイルを最高に楽しみながらフィニッシュゲートをくぐり、最終日を終えた。結果は、やはりパンクが響いて最終ステージは無念の4位。しかし総合レース時間は9時間15分35秒とわずか36秒差でリードを守りきり、3日間総合で優勝を果たした。最後の最後まで絶対に諦めないこと、全力を尽くすこと、信じることの大切さを改めて実感した。

 今シーズンはこのレースまでパンクゼロだったが、2日連続でパンク。しないに越したことは無いが今回のパンクは勝つために攻めた結果。リスクを承知で攻めないと勝てない状況であったためだ。パンクしたことはもちろんミスだが、今回は駆け引きを学び、限界以上の力を引き出してくれた「肯定的な」ミスとして捉えている。

写真は1日目のフィニッシュ地点で撮影してもらったポートレイト Photo: Yuki IKEDA

 満席の表彰式。チャンピオンジャージと額に入った写真とチャンププレートを渡された。写真のスマイルと同様に最後もスマイルで終えることができて最高の気分だ。今季初海外レースでの優勝を、このブレックの地で獲得できたことを心からうれしく思う。

 たくさんの応援ありがとうございました。

池田祐樹池田祐樹(いけだ・ゆうき)

1979年東京都生まれ。トピーク・エルゴンレーシングチームUSAに所属するプロMTBアスリート。MTBの長距離、耐久レースの国内第一人者とされる。7年連続でMTBマラソン世界選手権日本代表を務める。日本で開催されたシングルスピード世界選手権の親善大使を務め、テレビ・ラジオ・雑誌などメディアにも多数出演。執筆や講演会も行い、マウンテンバイクの普及活動も積極的に行なっている。東京都青梅市在住

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