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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<222>“攻撃的”第1週を終えたブエルタ いよいよ本格山岳での戦いへ、フルームに疲れは?

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 熱戦続くブエルタ・ア・エスパーニャは、1回目の休息日を経て、第2週の戦いへ。第9ステージまでを終えて、個人総合首位に立つクリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ)の強さが際立っている印象だ。果たしてこの勢いが続くのか。もちろんライバルたちも黙ってフルームの走りを見過ごすことはないはずだ。そこで、各選手の攻撃的姿勢が随所で見られた大会前半を振り返りつつ、この先に待つ戦いを見据えていきたい。

ブエルタ・ア・エスパーニャ2017第9ステージでステージ優勝。総合リードを広げることに成功したクリストファー・フルーム =2017年8月27日 Photo: Yuzuru SUNADA

フルーム「攻撃は最大の防御」

 序盤の中級山岳ステージで、個人総合のマイヨロホ争いの主役となるであろう選手たちが絞られた今大会。当初総合上位につけた選手のうち、数人が脱落したとはいえ、ほぼ同じ顔ぶれのまま第1週を終えた。違いを挙げるとするならば、首位のフルームと総合2位以下とのタイム差がステージを終えるたびに広がりを見せている点であろうか。

「攻撃は最大の防御」の姿勢がクリストファー・フルームのアグレッシブな走りを生む =ブエルタ・ア・エスパーニャ2017第9ステージ、2017年8月27日 Photo: Yuzuru SUNADA

 大会前半の締めとなる第9ステージで、ついにステージ優勝を挙げたフルーム。今シーズンは、総合優勝を果たしたツールでもステージを獲ることがなかったが、厳しい山岳が舞台となるブエルタでいよいよ本領発揮となるか。

 この勝利にあたり、「攻撃は最大の防御」との言葉を残した。ライバルとのタイム差を見ながらのディフェンシブな走りより、チャンスを見極め攻撃を仕掛ける。それを成功させることによって、マイヨロホ争いで優位に立とうという構えだ。

 「最大の防御」である攻撃的な走りを可能とするのは、今大会のコースレイアウトも関係しているといえそうだ。山頂フィニッシュがそろうことに加え、グランツールの中でも屈指の難易度を誇る上りが多数登場するブエルタは、安定した登坂力とアタックの爆発力が備わるフルームにとって、アグレッシブな走りをするには最適だ。そうした傾向は、アルベルト・コンタドール(スペイン、トレック・セガフレード)らと飛び出した第5ステージや第8ステージでも見てとれた。上級山岳登坂後にダウンヒルを経てフィニッシュすることの多かった今年のツールでは、よりスマートな走りが求められたが、ブエルタならではのステージ設定は、今のところフルームのスタンスに合致しているのだろう。

クリストファー・フルームを支えるアシストの存在も大きい。ミケル・ニエベ(左)とワウテル・プールスは山岳では重要な役割を果たしている Photo: Yuzuru SUNADA

 また、第9ステージの勝利においては、最終局面まで自らを牽引したミケル・ニエベ(スペイン)の走りを称えている。今大会ではジャンニ・モズコン(イタリア)の働きも高く評価されているように、堅実かつ実力のあるアシストが勝負どころでのフルームのアタックを可能にしている。

 とはいえ、大会は前半を終えたばかり。ツールとブエルタの2冠「ダブル・ツール」に向けて、「最高のスタートを切った」と手ごたえを語るフルームだが、やはり激しいシーズンを送ってきた疲れがまったくない、ということは考えにくい。上級山岳が本格的に登場する第2週が、本当の勝負のスタートだ。そこをどう走るかで、マイヨロホの行方も明確となるだろう。

 ダブル・ツール実現に向けてポジティブな点を挙げるならば、今シーズン前半をゆっくり送ったことだろうか。出走レース数はブエルタ第9ステージを終えた時点で57日と、例年とそう変化はないが(近年は60レース前後)、無理に優勝争いに加わらず、コンディション調整に終始したことが、ツールに続きブエルタでも奏功するか。第2週以降に明らかになるだろう。

打倒フルームか 現実路線か 後続の判断は?

 快調にリードを広げるフルームに対し、追う立場の総合2位以下は早くも厳しい状況に立たされている。タフな山々をめぐる第2週は、今後の戦いをどのように進めていくかの判断が求められる。

総合2位につけるエステバン・チャベス(右)が「打倒フルーム」の一番手か =ブエルタ・ア・エスパーニャ第9ステージ、2017年8月27日 Photo: Yuzuru SUNADA

 総合2位のエステバン・チャベス(コロンビア、オリカ・スコット)は、フルームとのタイム差36秒。総合タイム差1分以内につける唯一のライダーである。第9ステージでは敗れたとはいえ、猛烈な追い込みで一度はフルームに迫ったあたり、今の順位にふさわしい走りは見せたといえるだろう。

 ただ、残り200mでフルームに突き放されたことについては、「4度ツールを制しているだけある」とコメントしたように、その強さに感服している様子。アダムとサイモンのイエーツ兄弟との共闘が心強いとはいえ、36秒差を縮めるのは容易でないことは十分に理解しているに違いない。

ファビオ・アル(手前)とヴィンチェンツォ・ニーバリは第2週以降の巻き返しなるか =ブエルタ・ア・エスパーニャ2017第9ステージ、2017年8月27日 Photo: Yuzuru SUNADA

 総合3位で終えたジロ・デ・イタリア以降、ブエルタをターゲットにすることを宣言していたヴィンチェンツォ・ニーバリ(バーレーン・メリダ)、ツールではマイヨジョーヌを着るなど活躍したファビオ・アル(アスタナ プロチーム)のイタリアンオールラウンダーが第1週で不発気味だったことも気がかり。ニーバリは第3ステージこそ勝利を収めたが、それは下りで遅れを挽回してのものであり、上りでは苦戦を強いられていた。総合では4位と7位につけるが、ここ数ステージはフルームの攻撃への対応ができず、目立ったアクションを自ら起こせているわけでもない。コンディションについてもう少し見極める必要がありそうだが、好選手がひしめく中で総合順位を劇的にジャンプアップさせることは決して容易ではない。

 実績豊富なニコラス・ロッシュ(アイルランド)と、ここしばらくの不振を脱却する兆しを見せているティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ)のBMCレーシングチーム勢、ダビ・デラクルス(スペイン、クイックステップフロアーズ)やマイケル・ウッズ(カナダ、キャノンデール・ドラパック)といった新鋭は、ここまで堅実な走りで総合タイム差1分台にとどめている。グランツールの上位常連を相手に、どう立ち向かうかも楽しみだ。

アルベルト・コンタドールの攻撃もこの先脅威となりそうだ =ブエルタ・ア・エスパーニャ第5ステージ、2017年8月23日 Photo: Yuzuru SUNADA

 そして、再三のアタックでレースを盛り上げるコンタドールも注目しておきたい。第1週を終えての総合順位は、トップから3分32秒差の13位。やはり第3ステージでの大幅な遅れが痛いが、攻撃をやめないスタイルはまさにコンタドールらしいといえよう。2012年のブエルタではアシスト総動員での「前待ち」でマイヨロホを奪取したが、フルームをはじめとするチーム スカイの戦力を見るに今大会での「前待ち」戦術は難しいと分析する。また、この作戦が多用されるようになり、有力チームの思惑がぶつかりやすくなっていることも挙げられるだろう。相手のかく乱を狙うのではなく、“正攻法”で残り2週間を戦うことになりそうだ。

 「打倒フルーム」でトライを続けるか、総合順位を確たるものとすべく現実路線へとシフトするか。第2週は、各チームや有力選手の考え方がより明確となることだろう。

個人総合時間賞(第9ステージ終了時)

1 クリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ) 36時間33分16秒
2 エステバン・チャベス(コロンビア、オリカ・スコット) +36秒
3 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、BMCレーシングチーム) +1分5秒
4 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、バーレーン・メリダ) +1分17秒
5 ティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシングチーム) +1分27秒
6 ダビ・デラクルス(スペイン、クイックステップフロアーズ) +1分30秒
7 ファビオ・アル(イタリア、アスタナ プロチーム) +1分33秒
8 マイケル・ウッズ(カナダ、キャノンデール・ドラパック) +1分52秒
9 アダム・イェーツ(イギリス、オリカ・スコット) +1分55秒
10 イルヌール・ザカリン(ロシア、カチューシャ・アルペシン) +2分15秒

ブエルタ・ア・エスパーニャ第2週ステージ展望

●8月29日(火) 第10ステージ カラバカ・フビラール~エルポソ・アリメンタシオン 164.8km(平坦)

ブエルタ・ア・エスパーニャ2017第10ステージコースプロフィール © Unipublic

 主催者発表こそ平坦にカテゴライズされているが、レース後半に控える2カ所のカテゴリー山岳を見る限り、スプリンターのチャンスはかなり低いというのが実情。フィニッシュまで40kmを切って迎える3級のアルト・デル・モロン・デ・トタナから、1級コリャド・ベルメホまで、上りが約20km続く。そして、フィニッシュまで約20kmのダウンヒル。逃げグループがリードを守るか、人数が絞られた集団での勝負となるか見もの。

●8月30日(水) 第11ステージ ロルカ~オブセルヴァトリオ・アストロノミコ・デ・カラール・アルト 187.5km(中級山岳)

ブエルタ・ア・エスパーニャ2017第11ステージコースプロフィール © Unipublic

 中級山岳ステージながら、終盤に標高2000m前後の山を2つ上るハードな1日。頂上のフィニッシュを目指すオブセルヴァトリオ・アストロノミコ・デ・カラール・アルトは、ラスト10kmからしばらく緩斜面が続く。それまでの急坂からの変化に、リズムを保てるかどうかがカギ。ここで走りが崩れるようだと、最終局面で再び迎える急坂が苦しくなる。


●8月31日(木) 第12ステージ モトリル~アンテケラ.ロス・ドルメネス 160.1km(中級山岳)

ブエルタ・ア・エスパーニャ2017第12ステージコースプロフィール © Unipublic

 海沿いを走る前半から一転し、後半は内陸の丘陵地帯へ。1級と2級とカテゴリー山岳が1つずつ設けられる。最後の上りからフィニッシュまでは、約18km。登坂距離や上りの難易度から見て、総合争いを大きく揺るがすものとはならないか。どちらかといえば、逃げグループにステージ優勝のチャンスが大きな1日となりそうだ。


●9月1日(金) 第13ステージ コワン~トマレス 198.4km(平坦)

ブエルタ・ア・エスパーニャ2017第13ステージコースプロフィール © Unipublic

 この日こそは正真正銘、スプリンターのための1日となるか。翌日からは本格的な山岳ステージが控えていることもあり、ここを逃すとマドリードでの最終ステージまで待たなければならない。とは言いつつも、最終局面は上り基調。数少ないチャンスに賭ける選手たちは、しっかりと対応したい。もちろん、総合上位陣にとっても移動ステージと侮ることなく、トラブルなく終えておきたい。

●9月2日(土) 第14ステージ エシハ~シエラ・デ・ラ・パンデラ 175km(上級山岳)

ブエルタ・ア・エスパーニャ2017第14ステージコースプロフィール © Unipublic

 いよいよ始まるブエルタの上級山岳ステージ。標高1790mのシエラ・デ・ラ・パンデラは、今大会最初の超級山岳。その頂上を目指し、登坂距離12km、平均勾配7.3%の上りに選手たちが挑む。フィニッシュまで4kmを切った地点が最大勾配13%。傾斜が厳しい区間で有力選手たちのアタックが見られることだろう。ラスト1kmでいったん下ってから、フィニッシュへの勾配8%の上りでも有力選手たちの力の差が出ることだろう。

●9月2日(土) 第15ステージ アルカラ・ラ・レアル~シエラ・ネバダ.アルト・オヤ・デ・ラ・モーラ 129.4km(上級山岳)

ブエルタ・ア・エスパーニャ2017第15ステージコースプロフィール © Unipublic

 シエラネバダ山脈のアルト・オヤ・デ・ラ・モーラの超級山岳頂上フィニッシュ。手前にそびえる1級山岳アルト・デル・プルチェも合わせると、30km以上上りが続くことになる。マイヨロホ争いに動きが起こることは必至のステージ。レース距離が短いこともあり、中盤の1級山岳アルト・デ・ハザリャナも含め、ハイスピードで推移する可能性も高い。


今週の爆走ライダー−サム・オーメン(オランダ、チーム サンウェブ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 戦術不一致から、実力者のワレン・バルギル(フランス)をブエルタメンバーから“追放”の判断を下したチーム サンウェブ。戦力的には大きな痛手に違いないが、故意のチームオーダー無視も選手たちの士気に影響する。戦術を実行する選手たちで、残る2週間を戦う。

ブエルタ・ア・エスパーニャでグランツールデビューを果たしたサム・オーメン Photo: Yuzuru SUNADA

 揺れるチームにあって、ブレイクを予感させる若きクライマーが存在する。今大会開幕直前に22歳になったばかりのオランダ人ライダーのオーメンだ。第1週を終えて総合12位。チームのエースであるウィルコ・ケルデルマン(オランダ)が1つ上の11位にいることを考えれば、大健闘といえるだろう。第9ステージでは、ケルデルマンを前方へと送り出す役割を果たしながら、自らも8位でフィニッシュ。上りが厳しければ厳しいほど、力を発揮するタイプだ。

 初のグランツールとあって、その力は未知数だが、今の調子が維持できればもう少し上位が狙えそうだ。上りはもちろんだが、個人タイムトライアルも得意。スペシャリストぞろいのオランダにあって、国内選手権6位の走りは決して低いレベルではない。

 アンダー23カテゴリーではラボバンクデベロップメントチームで走り、プロでは現チームと、トム・デュムラン(オランダ)と同じ系譜をたどるあたりは大きな魅力だ。デビューイヤーの昨年にはステージレースの総合優勝を経験するなど、デュムランよりはるかに速いペースでステージレーサーとしての資質を見せているあたりも見逃せない。

 将来有望なだけに、今から無理をさせるわけにはいかないが、そこは「育成のプロ」であるチーム サンウェブ。上手くコントロールしながら、要所で力を発揮させていることだろう。

 今大会はあくまでも通過点。歴戦の猛者たちに食らいついた先には、トップライダーとしての明るい未来が待ち受けている。

グランツールでの活躍が見込まれるサム・オーメン。チームの先輩であるトム・デュムランと同じ系譜をたどっている点でも注目される © Wouter Roosenboom | Team Sunweb
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。自転車情報のFacebookページ「suke’scycling world」も充実。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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