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つれづれイタリア~ノ<99>フルームの年俸は現役最高の6億5000万円 プロロードレーサーの懐事情

by マルコ・ファヴァロ / Marco FAVARO
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 スペインで今年最後のグランツール、ブエルタ・ア・エスパーニャがスタートし、まだまだ眠れない夜が続いています。今後は世界選手権や秋のクラシック、ジャパンカップなどが開催され、いよいよレースの終盤が近づいていると感じさせる時期です。レースの結果が気になるところですが、この時期のもう一つの大きな関心事は、選手の移籍交渉に関するニュースです。

2017年8月26日の時点でワールドツアーランキング再開のディメンションデータ Photo: Yuzuru SUNADA

 来年からUCI(国際自転車競技連合)がルールを改訂し、サッカーリーグのように昇格制度が導入されることが予定されています。UCIポイントの一番低いチームが下のカテゴリーに転落してしまうので、最下位に近いチームほど一生懸命に生き残ろうと動いています。各チームのポイントは所属選手の獲得したポイントによって計算され、選手が移籍するとそのポイントは新しいチームに加算されます。そのため、各チームUCIポイントを持っている選手の獲得に必死となっています。もちろん、魅力的な報酬が支払われなければ、選手の心はなかなか動きません。

 というわけで、今回は自転車選手の懐事情という重要なお話をします。プロの世界に飛び込みたい若者にもぜひ読んでもらいたい記事です。

エースとアシストで給料は大きく変わる

 どのスポーツでも、チームのランクと選手の成績が給料を大きく左右します。サッカーや野球と比べて自転車競技選手の給料は高くないと言われていますが、トップスターは決して悪くない額を手にします。資金源は、各チームのマネージャーがスポンサーからかき集めた予算であり、一部は選手個人のスポンサー契約です。UCIが定める最低年俸は、ワールドチームが3万6300ユーロ(471万円)、プロコンチネンタルチームは3万250ユーロ(393万円)です。

 今年初めに公開された契約内容を見てみると、ロードレース部門においてはクリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ)の年俸が一番高いようです。年間契約は500万ユーロ(およそ6億5000万円)。彼が所属しているチーム スカイが2010年に誕生して以来、サイクルロードレース界で給料の水準が上がるという大きな変革がもたらされました。

ツール・ド・フランスで4回総合優勝しているクリストファー・フルーム(チーム スカイ)の年俸が最も高い Photo: Yuzuru SUNADA

 チーム スカイは世界最大のテレビネットワークがメインスポンサーになっているので、ほかのチームと比べて好待遇です。スタッフを含め、給料に割り当てられる年間予算は2500万ユーロ(およそ32億5000万円)。このチームは重要な広告塔の役割も果たしていますので、スカイグループが豊富な資金を投入しつづけています。

 フルームと同等の金額をもらっているのが、ペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)。やはり彼のカリスマ性や強さ、注目度によって給料がアップしました。その次に続くのが、我がイタリアのヴィンチェンツォ・ニーバリ(バーレーン・メリダ)。アスタナ プロチームから移籍するのには、400万ユーロ(およそ5億2000万円)という重要な動機が必要でした。

世界選手権など数々の勝利をおさめているペテル・サガン(ボーラ・ハンスグローエ) Photo: Yuzuru SUNADA
3つのグランツールで総合優勝を飾っているヴィンチェンツォ・ニーバリ Photo : Yuzuru SUNADA

 ほかの有名な選手の契約を見てみると、クイックステップフロアーズのマルセル・キッテル(ドイツ)とフィリップ・ジルベール(ベルギー)、マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ)やナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター チーム)らは年間200万ユーロ(約2億6000万円)で契約をしているようです。

 リッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシング)、ダニエル・マーティン(アイルランド、クイックステップフロアーズ)、ロマン・バルデ(フランス、アージェーデュゼール ラモンディアール)のような、グランツールで総合優勝争いができるビッグネームの給料も悪くない。100万~150万ユーロ(およそ1億3000万~2億円)が相場のようです。

 一方、リーダーの活躍に必要不可欠な存在であっても、アシストになると金額はぐんと下がります。6~9万ユーロ(およそ780万~1170万円)がほとんどですが、個人スポンサー契約がつくことが多いので、実際にもらえる金額はもう少し多くなります。

 ネオプロの場合、年俸は一気に下がり、2万ユーロ前後(約260万円)となります。サラリーマンの初任給とほぼ変わりません。

プロになるためには、お金が必要?

 しかし、チームのランクが下がると、給料額の支給をめぐる状況は一変します。

資金が潤沢ではないUCIプロコンチネンタルチームはスポンサー獲得がチーム存続に関わる Photo: Yuzuru SUNADA

 90年代後半のドーピングスキャンダルによる打撃と、2008年に世界を襲ったリーマンショックと呼ばれる経済危機以降、経営難に直面しているチームも少なくありません。特にプロコンチネンタルチームやコンチネンタルチームの一部では、最低限の給料しか支払われないどころか、選手自身がスポンサーをチームに引っ張っていかないと、給料さえ支払われないケースがあるという噂が流れていました。もちろん、それはUCIルールに違反しています。

 この状況は、2015年にイタリア大手新聞、コッリエレ・デッラ・セラ紙がスクープ記事で暴露し、大きな反響が起こりました。さらに2016年には、イタリア選手権U23タイムトライアルの2011年王者マッテオ・マッミーニが、スイス国営テレビに出演して同様の証言をして、UCIの調査が入りました。

 なぜ待遇がそんなに悪いのか。原因の一つは、放映権の問題です。サッカー、野球、NFLなどは試合を放送するために、各テレビ局が放映権を買い、その一部はチームにも還元されます。一方、自転車競技の場合、放映権はすべて大会組織委員会に吸収されます。

 例えば、ツール・ド・フランスを運営しているフランス大手のスポーツ企画会社、ASOが発表した収入の内訳を見てみると、10%はスタート・ゴールとなる自治体、40%は大会スポンサー、残りの50%はテレビ放映権による収入です。ちなみにテレビ放映権のうち、フランス国営テレビが2017年に支払った金額は2400万ユーロ(約31億円)、海外テレビ局からの放映権収入は5000万ユーロ(約65億円)です。

ジャージに多数のスポンサー名が入っている、UCIプロコンチネンタルチームのバルディアーニ・CSF Photo : Yuzuru SUNADA

 それら収入の一部は、賞金としてチームに支払われます。でも賞金はあくまでもボーナスのようなもので、選手の給料はスポンサーからの資金をもとにした年俸で賄われています。イタリアのプロコンチネンタルチームのジャージがスポンサーで埋め尽くされている理由はここにあります。

 プロを目指す人が自己満足のために走るか、給料のために走るかは本人次第ですが、経済的に恵まれたいのであれば、良い成績を収め、良いチームに入るしかないです。

◇         ◇

 さて、次回のコラムは記念すべき100回目を迎えます。そして私がゲスト参加する「伊豆大島御神火ライド」の開催もありますので、楽しいこと続きですね。皆さん、今後とも末永くお付き合いください。

マルコ・ファヴァロMarco FAVARO(マルコ・ファヴァロ)

東京都在住のサイクリスト。イタリア外務省のサポートの下、イタリアの言語や文化を世界に普及するダンテ・アリギエーリ協会や一般社団法人国際自転車交流協会の理事を務め、サイクルウエアブランド「カペルミュール」のモデルや、欧州プロチームの来日時は通訳も行う。日本国内でのサイクリングイベントも企画している。ウェブサイト「チクリスタインジャッポーネ

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