福光俊介の「週刊サイクルワールド」<221>マイヨロホ“有資格者”が絞り込まれたブエルタ序盤戦 今後の勝負のポイントを占う

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 8月19日に開幕したブエルタ・ア・エスパーニャ。シーズン最後のグランツールとあって、好選手が勢ぞろい。序盤戦にして早くも総合争いを見据えた動きが勃発している。この先に控えるハードなステージをチェックしながら、戦いを展望していきたい。

大会序盤から熱い展開となっているブエルタ・ア・エスパーニャ。クリストファー・フルーム(左から2人目)を軸に総合争いが繰り広げられる Photo: Yuzuru SUNADA

ライバルを把握し次なる局面へ

 ブエルタはここ数年、大会序盤から急峻な上りが組み込まれるなど、早い段階から総合首位の証であるマイヨロホ争いが絞られる傾向にある。今年は前回同様、第3ステージに中級山岳が登場。有力選手たちがこの大会に向けて鍛えてきた“脚”を見せ合った。

第3ステージで総合優勝候補たちが上位に進出。マイヨロホを見据えた戦いがいよいよ本格化する Photo: Yuzuru SUNADA

 大会4日目までを終えて、総合タイム差でトップから1分以内に位置する選手は10人。マイヨロホ“有資格者”がおおむね明確となった印象だ。チームタイムトライアルでチーム力が測られた第1ステージ、次々とやってくる横風区間での対応力が試された第2ステージ、そして登坂力とスピードが求められた第3ステージ、スプリント勝負で決まった第4ステージと、あらゆる条件下で生き残った選手たちだけに、後々に控える厳しいコースでの戦いにおいても主導権を争う存在となるだろう。

 ツール・ド・フランスとの「ダブルツール」を目指すクリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ)、王座奪還を目指すヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、バーレーン・メリダ)、ファビオ・アル(イタリア、アスタナ プロチーム)、初のブエルタ参戦となるロマン・バルデ(フランス、アージェーデュゼール ラモンディアール)らは順当に上位を走行中。ダビ・デラクルス(スペイン、クイックステップフロアーズ)といった新鋭や、エステバン・チャベス(コロンビア、オリカ・スコット)ら実績豊富な若い選手もひとまずは期待通りの走りを見せる。

 総合優勝候補たちが動きを見せた第3ステージに関してフルームは、「誰がライバルとなるのかを見極めるレースに位置付けた」と述べ、勝負すべき相手をチェックする1日に据えたという。自身のアタックに食らいついたチャベスや、このステージを制したニーバリ、終盤のダウンヒルで勢いを見せたアルやバルデといった選手たちの動きを確かめた様子。これはフルームに限らず、他の選手たちも同様だ。

ロマン・バルデも順当に総合上位へ浮上。今後の戦いに期待が高まる Photo: Yuzuru SUNADA

 マークすべき選手を把握した彼らにとって、ブエルタは次なる局面へ。これからしばらくは互いの好不調を見合いながらステージが進行していくことだろう。ここまでに多くのビッグレースをこなしてきた選手たちにとって、シーズン後半のグランツールは「疲労との戦い」といった側面もあるからだ。ジロ・デ・イタリアを終えてからの再調整を経て臨む選手、ツールからの連戦となる選手、その他さまざまな条件下で今大会入りしているライダーたち。コンディションを維持し、ハイパフォーマンスを継続することは決して簡単なことではない。グランツールで恐れられる「バッドデイ」が突如やってくるかもしれない。

 暑さや高難易度のコース設定と並んで、いかに調子を保つことができるかもキーポイントとなる。

1秒を惜しまない姿勢が勝負を左右する?

 決定的な差が生まれやすい上級山岳ステージや個人タイムトライアルステージは第2週以降での登場。それも関係し、大会中盤までは有力選手間でのふるい落としはあれど、特定の選手が大きな差をつけてマイヨロホ争いを独走することは考えにくい。タイム差だけで見ていくならば、互角といえる日々が続くと予想される。

 そうした状況下でライバルとの差を作る手段となるのが、ボーナスタイム。ブエルタは、中間スプリントが1位通過から3秒、2秒、1秒と付与。フィニッシュでは10秒、6秒、4秒と設定される。仮に同一ステージで両ポイントを1位通過したならば、総合タイムを13秒短縮できることになる。

第3ステージで中間スプリント、フィニッシュとボーナスタイム獲得に動いたクリストファー・フルーム。過去の苦い経験を生かし、1秒たりとも無駄にしない Photo: Yuzuru SUNADA

 その恩恵にあずかろうと、ボーナスタイムに並々ならぬこだわりを見せている男がいる。歴戦の王者、フルームである。第3ステージでは、中間スプリントで2位通過し2秒のボーナスを獲得すると、フィニッシュでは3位となりさらに4秒を獲得。この日得た6秒のボーナスタイムが、総合首位浮上につながった。

 このスタンスには、過去の苦い経験が関係しているという。2011年のこの大会ですい星のごとく現れた彼だったが、ファンホセ・コーボ(スペイン、当時ジェオックス・TMC)との死闘の末、総合2位で大会を終えた。このときのコーボとの最終的な総合タイム差は13秒。ボーナスタイム確保の仕方によっては、順位が入れ替わっていても不思議ではない僅差であった。

 フルームの場合、直近の戦いである7月のツールでも総合2位のリゴベルト・ウラン(コロンビア、キャノンデール・ドラパック)とは54秒差という接戦を演じている。それらの経緯から、打倒フルームに燃える選手たちが迫りつつある現状に危機感を抱いているのかもしれない。

 実力・実績ともに出場選手の中で群を抜く存在フルームだが、あらゆる手段を講じてこその巧みなレース運び。1秒の積み重ねが大きな成果につながることを、誰よりも知っている。

 今後、総合上位陣がボーナスタイムを意識して激しく動くようだと、レースは大きな盛り上がりを見せる。フルームのみならず、多くの選手のアクションによるマイヨロホを賭けた激戦を期待したい。

ブエルタ・ア・エスパーニャ第1週ステージ展望

●8月23日(水) 第5ステージ ベニカシム~アルコッセブレ 175.7km(中級山岳)

ブエルタ・ア・エスパーニャ2017第5ステージコースプロフィール © Unipublic

 今大会最初の頂上フィニッシュ。5カ所のカテゴリー山岳は、その1つ1つの難易度は高くはないものの、終盤に向けてボディーブローのように効いてくる。フィニッシュへの上りは距離にして3.4km、平均勾配は4.2%。総合上位陣であればハイスピードで駆け上がることだろう。


●8月24日(木) 第6ステージ ヴィラ・レアル~サグント 204.4km(中級山岳)

ブエルタ・ア・エスパーニャ2017第6ステージコースプロフィール © Unipublic

 この日も5カ所のカテゴリー山岳を越える。最後の上りからフィニッシュまでは約36km。終盤は下り基調とあって、逃げグループにもステージ優勝のチャンスがありそう。かたや、総合上位陣が含まれる集団がトップを走るようだと、フィニッシュ手前約8kmに設けられる中間スプリントと合わせて、ボーナスタイム争いが熾烈になる。


●8月25日(金) 第7ステージ リリア~クエンカ.シウダー・パトリモニオ・デ・ラ・ウマニダ 207km(中級山岳)

ブエルタ・ア・エスパーニャ2017第7ステージコースプロフィール © Unipublic

 今大会の最長ステージ。前半2カ所の3級山岳をクリアできれば、上れるスプリンターにもチャンス十分の1日だ。スプリントに向けた最終関門は、フィニッシュ手前約14km地点に待つ3級の上り。登坂距離2km、平均勾配7.2%を乗り越えられれば、可能性がグッと高まる。


●8月26日(土) 第8ステージ エリン~ソレット・デ・カティ.コスタ・ブランカ・インテリオール 199.5km(中級山岳)

ブエルタ・ア・エスパーニャ2017第8ステージコースプロフィール © Unipublic

 注目は何といっても、最後の上りとなる1級山岳ソレット・デ・カティ。主催者発表の最大勾配は18%だが、コース取りによってはその勾配は22%にも上るとか。5kmにわたる急坂で、力の差がはっきりと出ることだろう。頂上からフィニッシュをめがけての下りも見どころとなるはず。


●8月27日(日) 第9ステージ オリウエラ.シウダー・デル・ポエタ・ミゲル・エルナンデス~クンブレ・デル・ソル.エル・ポブレ・ノウ・デ・ベニタチェル 174km(平坦)

ブエルタ・ア・エスパーニャ2017第9ステージコースプロフィール © Unipublic

 平坦にカテゴライズされながら、最後は頂上フィニッシュというブエルタならではのコース設定。1級山岳アルト・デ・プイグ・ジョレンカは、上り始めて約1km進んだところで最大勾配21%を迎える。レースはおおむね地中海沿いを走るだけに、風の強いコンディションとなれば、有力チームの分断作戦が実行される可能性もある。終始緊張感のある1日となりそうだ。


今週の爆走ライダー−ヘスス・エルナンデス(スペイン、トレック・セガフレード)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 今年のブエルタを最後にキャリアを終えることを宣言したアルベルト・コンタドール(スペイン、トレック・セガフレード)。年齢による衰えが隠せなくなっていたとはいえ、数々の栄光を勝ち取ってきた選手の引退発表はやはりロードレース界に衝撃を与えた。

ヘスス・エルナンデス(左端)にとって最後のグランツールとなるブエルタ・ア・エスパーニャ2017。友人であるアルベルト・コンタドール(右端)と臨む最後のビッグレースだ =2017年8月18日、ブエルタ・ア・エスパーニャ2017チームプレゼンテーション Photo: Yuzuru SUNADA

 あまり話題には上っていないが、コンタドールとともにプロキャリアに幕を閉じようと決めた選手がいる。ヘスス・エルナンデス、35歳のスペイン人クライマーだ。

 13年間のプロ生活で挙げた勝ち星はゼロ。グランツールではステージ上位に入ったことや、2009年のブエルタ総合19位といった実績はあるが、ポディウムに上がって祝福を受けるような派手な経験があるわけではない。ただ、彼を語るときに欠かせないのは、コンタドールが公私にわたり信頼を置いていた友人である、ということだ。

 プロ入り前から強い関係を築き、ともに大切なリーダーであるコンタドールが薬物違反で資格停止となっていた間も、彼に寄り添い続けた。同じタイミングでの引退は、心を常に共にしてきた何よりの証拠だろう。

 ブエルタ第3ステージでは早々に脱落。勝負どころで遅れたコンタドールを支えることができなかった。大舞台をともにする時間は残りわずか。何とか残る力を振り絞りたいところだ。

 エルナンデスといえば、コンタドールが大逆転劇を演じたブエルタ2012第17ステージで、ホアキン・ロドリゲス(スペイン、当時カチューシャ チーム)をピッタリとマークし、総合首位から陥落させた働きが印象的。ロドリゲスの後ろで、ニンマリとガッツポーズした姿を覚えている方も多いことだろう。

 その再現とまではいかずとも、何かインパクトを残す働きを見せて、プロトンを後にできるだろうか。地元スペインでのレースが、その格好の舞台となる。

ヘスス・エルナンデス(右)とアルベルト・コンタドールがともに出場したジロ・デ・イタリア2011休息日のひとこま。その後、コンタドールに資格停止処分となるが、その間もエルナンデスは寄り添い続けた =2011年5月23日 Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。自転車情報のFacebookページ「suke’scycling world」も充実。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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