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つれづれイタリア~ノ<98>イタリアのアマチュア大会で機材ドーピング発覚 市民レースにもメスが入る!

by マルコ・ファヴァロ / Marco FAVARO
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 以前から懸念されていた不祥事が、7月30日にイタリアで起きてしまいました。イタリア北部ブレシャ近郊で行われた市民レースで、機材ドーピングを行った疑いで53歳の参加者、A氏が失格処分を受けたそうです。イタリア複数メディアが伝える情報によると、マスター50カテゴリーのレースに参加した53歳の男性が3位でゴールしましたが、審査員が使用した自転車を調べ、隠しモーターが入っているか問い正したところ、本人が認めたため大会を追放されました。

Vivax Assistのモーターとフレーム © vivax drive GmbH & Co KG

数カ月でプロをしのぐ成績

 2016年に19歳の女子MTB選手、フェムケ・ファン・デン・ドリエッシェ(ベルギー)の機材ドーピングが世界で初めて発覚して以来2件目の例となりますが、アマチュアレースでは初めてのケースです。

 報道によると、A氏は長い間自転車に乗らなかったにも関わらず、数カ月でプロのレーサーを凌ぐ好成績を記録し始めました。それをおかしいと思った参加者が大会の組織委員会に報告。事態を重く見た大会組織委員会が、機材ドーピングを専門的に調べることができる審査員に検査を依頼し、5位以内にゴールをしたすべての参加者のバイクにチェックが初めて行われました。

 レースを終えたA氏のフレームから高温反応が出たため、メカニックによる精密検査が命じられましたが、本人がモーターを隠し持っていることが認めたため、大会から追放され結果も抹消されました。

 懸念されていた事態がとうとう現実になり、大会を企画したイタリア最大のスポーツ振興財団CSI(イタリアスポールセンター、会員115万人)や、他の市民レースを企画する組織委員会の間で衝撃が走りました。

自転車用モーターは2010年から話題に

2010年のツール・デ・フランドルで圧勝したファビアン・カンチェッラーラに、モーター疑惑が Photo : Yuzuru SUNADA

 2010年4月のこと。この年に行われた春のクラシックの一つ、ツール・ド・フランドルでは、当時サクソ・バンクに所属していたファビアン・カンチェッラーラ(スイス)が、決定的なポイントだとされていたカペルミュールの激坂でアタックをかけ、猛スピードでトム・ボーネン(ベルギー)を引き離し勝利を飾りました。しかし、あまりの豪快さとスピードで自転車にモーターが入っているのではないかと噂されるようになり、検証が行われました。このことでロードバイク用のモーターが話題になりました。

 その一カ月後、イタリアの人気テレビコメンテーターで、現イタリア代表チーム監督のダヴィデ・カッサーニが、テレビでロードバイクに使用できるモーターを紹介しました。イタリア大手自転車メーカー、カレラがちょうどその開発を始めたばかりで、テストモデルが紹介されました。結果として2010年に行われたツール・ド・フランスで、空港で使うような大型スキャナーが自転車レースに初めて導入されました。すべての自転車がスキャンされましたが、不正は見つかりませんでした。

 しかし、2016年にフランス国営テレビ、フランス2が放送したスクープ映像をきっかけに、また大きな衝撃が走りました。テレビクルーが温度を映像化できるサーモグラフィカメラを使い、春に行われたプロのレースと市民レースを撮影したところ、クランク部分に高温反応を示すバイクが数台見つかりました。形状と位置からするとモーターが隠されている可能性があるとされ、検査に消極的だったUCIがモーターを感知できる機材の開発に乗り出しました。そして2016年のジロ・ディタリアから本格的にスキャナーが導入されました。

 一方、チェックが始まったプロの世界に対し、一般市民を対象としたレースではチェックはほとんど行われていませんでした。一般の薬剤によるドーピング検査に加えて、機材ドーピング検査に高額の費用がかかるためです。疑わしいケースがあっても、検査権限のないスタッフしかいないため放置せざるをえませんでした。しかし、今回はモーターが見つかったので、全国のグランフォンド大会で対策が急に進められています。その中で機材ドーピング違反に関する記述が追加されつつあります。

機材ドーピングについて

 UCIおよびFCIが定める1.3.101および12.1.013条例に順じ、大会組織委員会及び運営委員会は参加が使用する機材に対し検査を行うことができる。機材に不備が見つけかった場合、また、参加者が検査を拒否した場合、大会から即追放が命じられる。
(ローマグランフォンドの規定より)

グランフォンドの賞金それとも自慢話のため?

 実は最近、電動アシストバイクの普及を受け、イタリアのグランフォンドの多くでモーター付きのバイクの参加が認められています。特別枠が儲けられ、200ワットを超えないアシストまでなら、どのバイクも参加が可能となります。ただし、スタートが最後の列になり完走すれば賞がもらえる反面、タイムに記載されません。あくまでもレースの主役は脚の力です。ところが不正登録となればやはり問題になります。

 なぜ不正をしてもグランフォンドに参加したい人がいるのか。考えられる理由は様々です。まずは自慢話です。同じサークルの人の前で自慢話をしたい人は必ずいます。一方、賞金狙いの人もいます。日本と比べて、イタリアで行われるグランフォンドでは賞金がでる大会が多いです。数百ユーロから1000ユーロ(13万円)までです。そしてスポンサーが提供する機材や高級フレームもあります。年間に数百の大会が行われるため、2、3回勝ってしまえばいい金額になります。

機材ドーピングキットが手に入れやすい?

Vivax Assistのモーター。Vivax Assist社はオーストリアで初めてロードバイクに適用できるモーターを開発した © vivax drive GmbH & Co KG

 機材ドーピングが増えたとされている背景には、ある要因があるように見られます。モーターの入手が簡単になったと考えられます。8年前からオーストリアの企業が、ロードバイクのダウンチューブに入れるような形状のエンジンの製造に成功し、ヨーロッパではBOSSというブランドで販売しています。そして昨年からイタリア大手ブランド、チポッリーニも電動アシストロードバイク「MCM2」の販売に踏み切りました。自転車が好きだけれど、パワーが出なくなったというお年寄りが主なターゲットです。

チポッリーニブランドの電動アシストバイク「MCM2」© Mcipollini

MCM2の主な仕様

最高出力:240ワット
継続時間:6時間
フレームセット価格:13000ユーロ(169万円、モーター含む)
フレームサイズ:44~63
スピードアシストモード:15、20、25㎞/h

 ところがモーターが常備されている上記の自転車以外に、自転車を加工してしまう人もいます。それを可能にしているのが、最新のモーターの進化です。最新のモーターは高性能でコンパクト。バッテリー込みの重さは1800g、フル作動でも50分も持ちます。大容量のバッテリーは、ドリンクボトルにカムフラージュできるので、気付きにくい。さらに値段は2500ユーロ(32万円)と比較的に安く、ほぼすべての自転車のダウンチューブに適応します。

 さらにモーターを隠すために、もっと巧妙に加工されているフレームも出回り始めているようです。裏ルートを通して有名なブランドのコピー商品がアジアからヨーロッパに入ってきています。この商品はモーターが内蔵されていることを見つかりにくくするために、内視鏡カメラによる検査が行われた場合、特殊な空間に誘導し、モーターがないように見せかけます。実際に7月30日に不正発覚したAさんが使用したのは正規のフレームではなく、精密に作られたコピー商品だったようです。

 今回の事件は自転車競技のイメージにさらなる悪影響を与えかねない出来事ですが、この事件に対するコメントを読む限りでは、個人のモラルの問題だと考える人たちが大半です。イタリアでも電動アシスト自転車を愛用する人が多く、けがや年齢で自転車に乗れなくなった人にとっては希望の光であり、自転車のすばらしさを再発見できた人もいます。ただし、ルールは守ってもらいたいものです。

マルコ・ファヴァロMarco FAVARO(マルコ・ファヴァロ)

東京都在住のサイクリスト。イタリア外務省のサポートの下、イタリアの言語や文化を世界に普及するダンテ・アリギエーリ協会や一般社団法人国際自転車交流協会の理事を務め、サイクルウエアブランド「カペルミュール」のモデルや、欧州プロチームの来日時は通訳も行う。日本国内でのサイクリングイベントも企画している。ウェブサイト「チクリスタインジャッポーネ

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