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門田基志の欧州XCマラソン遠征記2017<6>試される脚力・判断力・経験 UCIステージレース「アルペンツアー」初日の激戦レポート

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 マウンテンバイク(MTB)・クロスカントリー(XC)の門田基志選手(チームジャイアント)と、まな弟子の西山靖晃選手(焼鳥山鳥レーシング)が、6月8~11日の4日間にわたってオーストリアで開催されたUCIステージレース「アルペンツアー」に出走しました。第1ステージは61km、獲得標高2800mという超激坂コース。脚力と判断力、経験を総動員して臨んだという門田選手本人の臨場感あふれるレースリポートをお届けします。

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UCIステージレース「アルペンツアー」 ©AlpentourTrophy2017

◇         ◇

 ヨーロッパに来て10日が経過した6月8日、とうとう最初のレース日がやって来た。初めて走るUCI S1のステージレースは楽しみでもあるが、試走で苦しんだ‟激坂2連発”が待っていることを考えると憂鬱な気分になったりもする…。

 細身で激坂に強いの西山に対し、師匠としての威厳も保たないと…(笑)。というよりどこまで走れるのか楽しみでもある。中途半端に長いXCM(クロスカントリーマラソン)なら5時間程度。それに対しステージレースは各3時間前後に設定されていて、ロングというほどでもないが短くもなく、その分装備品にも迷う。

補給はいつもの「MeitanCC」と「電解質パウダー」、「2RUN」「superMEDALIST9000」 Photo: Motoshi KADOTA

 朝10時スタートということもあり、ヨーロッパで走るレースの中では比較的ゆっくりとした印象。朝6時半頃に起床し、といっても時差ボケが軽く残っていて自然と6時半頃には目覚める。歳のせい、自分の方が若い西山より遅く目覚める事はない。いくらでも眠れた若い頃の記憶は遠い昔。現実は寝るのも体力を消耗する気がする40歳台である。

 ヨーロッパ山岳地帯の朝は気温一桁から始まり、太陽とともに一気に気温が上昇して半袖ででも過ごせる気温になるので、本当にウエアのチョイスが難しい。白人は体温が高く薄着だが、この雰囲気に流されたら僕ら日本人は凍えてしまうので冷静な判断が必要だ。

ビニールテープで色々と必要な物を巻き付けるのは世界標準 Photo: Motoshi KADOTA

 今回は「ウエイブワン」の夏用長袖を着用。アンダーウェアは「カペルミュール」の冬用の袖を切り、胴体部分のみ保温するようにアレンジしたものを用意した。バイクにはチューブやCO2ボンベ、携帯工具とチェーンのリンクなど必要と思える物をビニールテープで巻き付ける。この方法は世界中でわりと標準的な方法で、何でもビニテで巻くスタイルが軽量で便利である。

 スタート20分前に招集ということで、40分程度前にホテルから出発し、会場になる「PLANAI STADION」というマウンテンバイクパークまで軽く足を回し、少しずつウォーミングアップした。

見えている場所は全てコース

 ステージ1は61km、獲得標高2800mの超激坂コースで、大きく2つの山を上る。僕のゼッケンナンバーは「27」で、コールされスタートラインでスタート30秒前!しっかり集中力を高め、ゴールの合図を待った。

スタート地点に集まった選手たち ©AlpentourTrophy2017

 「ドッキュン!!」とものすごい轟音が鳴り響いた!(日本の「パンッ」という感じではない)あまりの音の大きさにビビって集中力が切れそうになりながら街中をパレードスタート。パレードといってもすでに位置取りが始まっていて、すごく攻撃的でリスキーな走行となる。街中のコース上には普通に駐車車両や大きなゴミ箱、花壇、自転車、ありとあらゆる物が日常と同じ場所に置かれている。その中を警察先導で先に進むが、先に何があるのか見えない中を前の選手を信じて進む、が…裏切られて急ブレーキのストップ&ゴーを繰り返した。本当に落車しなくて良かった。

©AlpentourTrophy2017

 すごい密集度で集団は林道に入り、隙間無く選手がひしめく中で本スタートの合図が鳴る。それとともにペースアップするのは先頭の方だけで、僕らがいる中盤は位置取り合戦で前に上がろうにも上がれない。前輪と後輪が干渉し合う音にタイヤのロック音、罵声と本当に賑やかだ(笑)。

 焦らず隙間を見つけて前に出てみるも、ちょっとしたインカット(コースの道の脇や歩道、縁石飛び越え)で振り出しに戻る。見えている所は全てコースなんだ!と久々のヨーロッパでのレースを再認識し、頭を切り替えた。

 さあここから14km先の1800mを目指すわけだが、気が遠くなる程に長い!本当に長い! 登坂で前も後ろも見える、いわゆる‟気持ちが折れる坂道”へ突入。コーナーの先に見える景色はきれいだが、走ってる最中はそんなことは関係ない。ペダリングに集中し、先を考え冷静になり、背中のポケットから「メイタンサイクルチャージ」のミニボトルを取り出しチャージ!この補給があとから効いてくるのだ。

©AlpentourTrophy2017

 標高が1600…1650m、と少しずつ頂上へ近付くが標高とともに酸素が薄くなり、体が普段よりも重く感じて酸素の大切さを痛感する。「大きく息を吸って~吐いて〜」という体操の掛け声を思い出す。試走で入った頂上のカフェを横目に下りに突入。超高速の林道を23km地点辺りまで一気に下るとダートでは時速60kmを軽く超える!ちょっとした判断ミスが即コースアウトに繋がるので集中を切らさないように、攻めの走りで下り切った。

一瞬の判断ミスが命取り

 平坦区間を足の合う選手でローテンションし、35km2000mの雪の山岳地帯へ続く道へ突入した。ヘアピンコーナーが続く道の先は何段も上まで見渡すことができた。そして前を行く選手も見える!目標にもなるが、追い付かれそうな集団が見えると気持ちが焦る、地獄のようなロケーションだ。先を見て、下を走る選手を見て、ずっと先の行き着く雪山を見て、頭が下がって地面を見る…。そして地面を見る回数が増える(笑)。この時は笑えないけれど。

©AlpentourTrophy2017

 取りあえず激坂はダンシングでクリアしつつ、シッティングを織り交ぜてペースを何とか維持して走る。少しずつ前に追い付き、集団で進む事になったその先に、試走で食事をした山小屋レストランに到着!補給の水をもらい飲みながら走る。

 …で思い出すのはこの先「超激坂区間の雪の道」であるということだ。主催者は「雪は少ない」と説明していたが、「試走時にあんなに残っていたのにそんなわけないやろ」と思って進むと、試走で押していた雪の道がすっかりきれいな激坂に変わっていた。インナーロー固定ギアの壮絶な時間のスタートだ。道があまりに急勾配なので先が空に続いているように見えるが、続いている先は雪と池と岩山だ。

 やはり最後の区間は雪が残っていて押し担ぎになったが、長くはないので一瞬でクリアした。

 解けかけた雪でシューズが湿ってきたが、先を考えると雪解け水のリバークロスや沼がひどくなっているのは容易に想像出来たし、何よりもレースだから気にはしていられない。すごくきれいで幻想的だった湖を横目に、雪が溶けて超絶冷水のリバークロスを勢い良く駆け抜けると、背筋がキュンっとする程の冷たさを足と腰で味わう。

©AlpentourTrophy2017

 試走時より明らかに岩が出て、泥と雪で走りにくいコースは前を行く選手もペースダウンしていた。ここでジャイアント「ANTHEM」のマエストロリンクの性能をフルに発揮し、岩も滑りやすい路面も気にせず一気にペースアップして前の集団をとらえ、さらに攻めの走りで前を追った。

 一瞬の判断ミスからラインを間違うと失速し、すぐに追い付かれるし追い付くことも出来るコース。コースとはいえ、広大な土地にラインは張られていない。行く道が解けた雪の間から何となく見えていて、何となく選手は道に見える所を走っている感覚だ。最終的にはリバークロスではなくて雪解水が流れる道を走り、靴もびしょ濡れで足首や指先が冷えて痛い。

 その後テクニカルな岩のセクションを一気に走り抜け、超高速の林道をかっ飛ばしていると、コーナーが思ったよりも深くて危うくコースアウトという危険な状態に。何とかスライドさせ、方向を変えて復帰した。他の選手達もかっ飛ばしているが何年も同じコースということでコースを覚えているのか?それともこれが普通なのか?ちょっと疑問を抱くほどのテクニック。

 「いかん!集中だ!」と前に追い付くために攻めの走りに徹した。最終的に下り終わる直前のシングルトラックでは前の集団が、なぜか一気にスローダウン!?前日の雨で濡れて滑りやすい路面は苦手な人が多いようで、集団に復帰できた。

攻めの走りで前を追う ©AlpentourTrophy2017

 10km程の下り基調の平坦を行く集団は、前に出ない選手や遅れる選手たちでそれぞれのペースになるが、集団内の立場をキープするためにはある程度は前を引かないといけない。これはヨーロッパで学んだ集団内の‟掟”のようなものだ。前を引かずして下りや細い道で前に出させてはくれず、補給地点でも場所が空かないという事になる。

 そして最後の補給地点で水分が少なくなってきたので手渡しの紙コップを取ろうしたが失敗。ボトル内のわずかな水で残り10km弱を戦わなくてはならない状態となった。

 草原の上りを集団の先頭で通過し、MTBパークPLANAIへ続く舗装路でペースアップ。前を走る選手を数人パスすることに成功したが、足も売り切れ状態でボトルの水分も底をついた。が、あとは登坂の最後からパークの下りへの入り口を間違わなければゴールとなる。集団からはきれいに抜け出し、単独でパークのDHコースへ入る。ゴールへ向かうコースは斜度があり、ブレーキポイントがウォッシュボードでガタガタ…そして長い。ボロボロの上半身がさらにキツい状況になるが、「ANTHEM」が楽し過ぎてバンクで攻め、ジャンプを飛んでゴールラインを52位で切った。

「あと3日、もつのか?」

Photo: Motoshi KADOTA

 ゴール後、疲れた体に飲み物とバナナ等の補給をもらい、6分〜7分ほどして西山が降りてきて師弟の再会となった。お互い「坂、やばかったな」と心が折れそうになった話をしつつ、バイクを洗う。ホテルに戻る道でのちょっとの登坂も、もはやキツかった。まだ初日、あと残り3日。大丈夫なのか?明日はまだ今日よりも長いコースだ。でも考えるのは止めよう(笑)。なるようになる!

レース後にマッサージサロンのテラスで。さっきまでのレースでの激闘を忘れる穏やかさ Photo: Motoshi KADOTA

 そして用意周到な僕らは、アロママッサージのサロンをレース期間中予約をしている。今日も14時から予約をしていたので、軽く補給を済ませてサロンへ向かった。サロンはオバちゃん1人がやっているので、1人がうけている間は1人は休んでいるのだがテラスでソファーに寝転がっての昼寝タイムとなり、くつろいだ上にマッサージは極上の時間となった。とはいえ、疲労が全て取れるわけではないのだが。

夜ご飯は大きなホールでケータリングで好きな物を好きなだけ食べるスタイル。<br />表彰式や明日のレースや説明も食事を取りながら見る Photo: Motoshi KADOTA
夜ご飯は大きなホールでケータリングで好きな物を好きなだけ食べるスタイル。<br />表彰式や明日のレースや説明も食事を取りながら見る Photo: Motoshi KADOTA

 だいぶ軽くなった体で、次は表彰式と夕食。一緒の会場でパーティー形式で行われた。ほとんどの選手が一緒に食事をし、交流する場はカナダで走ったBCバイクレースのようだった。

 ステージ1、長いようで短い1日目が終わり、明日に備えて眠りについた。

⇒<7>UCIステージレース「アルペンツアー」第2ステージリポート

門田 基志門田 基志(かどた・もとし)

1976年、愛媛県今治市生まれ。世界最大の自転車メーカー、ジャイアント所属のMTBプロライダー。選手として国内外のレースに参戦する一方、レース以外のサイクリングツアーも展開。石鎚山ヒルクライム、サイクリングしまなみなど数多くの自転車イベントを提案し、安全教室の講師やアドバイザーも務めるなど、自転車文化の発展に奔走している。

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