門田基志の欧州XCマラソン遠征記2017<4>別世界に迷い込んだようなコース…美しくも厳しいUCIステージレース「アルペンツアー」

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 自転車の本場・ヨーロッパに1カ月間にわたって遠征中のマウンテンバイク(MTB)・クロスカントリー(XC)の門田基志選手(チームジャイアント)と、まな弟子の西山靖晃選手(焼鳥山鳥レーシング)。今回は、6月8~11日に行われるMTBのUCIステージレース「アルペンツアー」の試走の様子を紹介。門田選手いわく「まるで別世界に迷い込んだ」ような、美しくも厳しいコースだったそうです。

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雪と緑の幻想的な景色は、まるで別世界のように感じた Photo: Yasuaki NISHIYAMA

 最初の滞在地、ドイツのフリードリヒスハーフェンを後にして、UCI S1のステージレースを走るためにオーストリアのシュラードミングに向かう。そこまでの移動距離は450km。一般道でも制限速度100kmというエリアがあるヨーロッパでは大した距離ではない。

 ヨーロッパの高速道路移動では「Vignette」(ヴィニエット)という通行チケットが必要な国と、無料の国があるのでしっかり調べて高速道路に乗らないと大変な事になる!─と昔ドイツに在住していた仲間に教えられた。「基本を志す」という名前の「基志」だから基本的な教えには忠実に従う。

 シュラードミングのホテルに到着すると、ドアに「motoshi kadota」の名前が書かれた封筒がセロテープで無造作に貼られていた。この緩さがヨーロッパの田舎っぽくて好きだ。

 封筒の中身を見ると、「英語で僕らをお迎えする事は出来ないので勝手に部屋に入れ!」という内容に2人で爆笑。鍵を空けて部屋へ入って10日程度暮らすこの部屋を快適にするために、一通り買い物をして時差ぼけ真っ只中の睡魔に負けて就寝となった。

雷の洗礼

この日は晴天。部屋のテラスで朝日を浴びながらバイクの用意をする Photo: Motoshi KADOTA

 2日目の朝は移動の疲労で体が硬くむくみ気味だったが、そんなときもスイッチを入れてコースの試走に出発した。土地勘がない僕らの生命線はGPS。地図データにGPXデータを落としてコースを試走する。ヨーロッパのレースではGPSデータを公開して参加者がDLしてコースを把握するスタイルが多い。

 西山のGPSを頼りに試走に出ると、「そこ右です」「真っすぐです」とテキパキとガイドをしてくれる。本当に頼もしい弟子だ。

ステージ1はスタートから気持ちの良い川沿いの道を進む Photo: Motoshi KADOTA

 寒いと思って着込んいだウェアを途中で脱いでいると、同じくコース試走をしている女子選手が半端ない速さで横を通り過ぎていった。

 何となく天気悪いなぁ〜と思いながら曇天の下をこぎ進んでいると、わりと近くで「ゴロゴロゴロ〜ドッカ〜ン!」と大きな雷が鳴り響いた。でもまあ、大丈夫やろってことで先に進む。しかし一向に鳴り止む気配はなく、至近距離で「ゴロゴロガッガ〜ン!!」と激しく何度も鳴り響く雷に戦意喪失。しかも雨も降り出した。

 この標高で雨に打たれるリスクを昨年の遠征で痛感している僕らは、雨での撤退は速い!とあるスーパーの付近にさしかったとき雨は豪雨に変わり、そこで雨宿りをすることにした。

 雨も小降りになり、宿に帰ってくつろいでいたら西山が「あああぁ〜しくじった!!」と叫んだ。「なにを!?」とたずねると、ステージ1と信じ切っていたコースが実はステージ3のコースだったという。「頼もしい弟子」から降格して「やはり修行が必要な弟子」になった。弟子は弟子。育てると決めたからには色々と一人前になるように僕自身も努力が必要だ。あと忍耐も。まぁ、西山も僕について行くのは忍耐だと思っているに違いないが(笑)。

可能性を秘めた電動アシストMTB

 夕飯を食べ、天気予報を確認すると昼過ぎから雨という事で、翌日は少し早めの8時出発をめざして支度をした。

偶然一緒になって少し話をした男性がオーガナイザーの1人だった。ヨーロッパのレースで試走していると必ずといって良いほどオーガナイザーに会う Photo: Yasuaki NISHIYAMA

 用意万端でスタートしてシュラードミングの中心に位置するスタート地点に移動し、試走開始。予め動画でコースの状況を確認していたので、見覚えのある感じで試走を進めていたが、とにかく寄り道したくなるポイントがたくさん。我慢出来ず滝のポイントに止まって撮影開始していると、数人のマウンテンバイカーとすれ違った。地元の人かバカンス中の人か定かではないが、ロードよりもMTBの方が圧倒的に多かった。

ヨーロッパの道は激坂か、緩やかで回りまくっている Photo: Yasuaki NISHIYAMA

 このコースは2000m程度まで大きく2回上るコースで、最初の山岳にアタックするとヨーロッパらしい緩やかに曲がりくねった道が斜面に見えて、果てしなく遠くまで続いているように見える。ダラダラと坂を上り出すと西山は強い。僕は気持ちが直ぐ折れる。やはり登坂は嫌いだ。

 かろうじて景色で誤摩化しながら坂道をクリアしていくと次第に人が多くなり、賑やかになってきた。ゴンドラの駅だ。景色も良く、そしてカフェもある。迷わずカフェで休憩をとっていると、僕のバイクに興味津々の中年の夫婦が話しかけてきた。

ハイカーとバイカーも交流する場所。お互い尊重し合い譲り合い、共存している Photo: Motoshi KADOTA
山頂には良いカフェがあった。迷わずカフェには立ち寄るのが“門田流” Photo: Yasuaki NISHIYAMA

 話を聞くと、男性の方は電動アシストMTBだった。そう、ヨーロッパに来てとても印象的なのは電動アシストMTBの普及率。これが本当にすごいのだ。実は、最初の登坂の入り口で出会った人(この大会のオーガナイザーの1人)も電動アシストMTBだった。

僕らのバイクに興味をもつ人々 Photo: Motoshi KADOTA

 昨年、ドロミテで電動アシストMTB借りて乗ったのでその性能のすごさは知っているが、今年はさらに増えているよう。日本でも使えるようになれば、多くの人が自転車の楽しみを幅広く体験出来るだろう。とくに愛媛で開催する「松野四万十バイクレース」や、四国一周サイクリングで電動アシストMTBを使えれば、四国一周出来る人の範囲は広がるだろう。自転車の楽しみ方を変える大きな可能性を、電動アシストMTBは秘めていると思う。

高度順応も計画的に

 コーヒーブレイクを終え、今度は一気に1000mを下る。「下ったらまた上らないとゴールまで行けない…」などとグダグダいいながら次の登坂に入った。

酸素が薄いから、休憩多め。景色が良いので飽きない Photo: Yasuaki NISHIYAMA

 標高が上がるとやはり酸素も薄く、体が思うように動かなくなる。今回のレース遠征で最後に来る世界選手権で高地順応ができているように、という公算で組んだスケジュール。今はシンドイ時期ということで仕方ないが、軽く頭痛もし始めていた。補給が出来る場所なんて山中にそうそうあるわけもないが、口を開けば「腹減った」という言葉しか出ない(笑)。

 もう何か食べないと先に進めない状態になっていたそのとき、きれいに開けた断崖絶壁の下に建物が!よく見ると芝生の上にテーブルと椅子?レストランに違いない!まるでオアシスのように思えた。

山の中でいきなり現れたオアシス。みんなが集まるレストラン Photo: Motoshi KADOTA
オーストリアの伝統料理、名前は知らないがストロングチーズを混ぜたショートパスタ Photo: Yasuaki NISHIYAMA

 テーブルにつくと気の良いオジさんが注文をとりに来たが、やはり英語のメニューはない。オジさんの説明を受けて僕は「ストロングチーズのヌードル」を頼んだ。一息ついて回りを見渡すと、やはりこのレストランもハイカーやバイカーが集う交流の場になっていた。

自然の美しさと厳しさは紙一重

山間の残雪を横目に激坂を登る西山 Photo: Motoshi KADOTA

 コーヒーを飲んだら再出発。GPSを見ながら「こっちです!」と迷わず突き進む西山の背中を見ながら「これマジで行くの?」と言いたくなるような激坂を、まるでサドルの先にケツが刺さるようなポジションで上って行く。と…そこにはなんと残雪が。雪が積もらない四国に住む僕らは少しテンションが上がるが、先を見ると道がないではないか(笑)。

押しても進まない、三歩進んで一歩下がる感じで滑りまくる溶けかけた雪の道 Photo: Yasuaki NISHIYAMA

 溶ける寸前の雪は柔らかくよく滑り、よく埋まり、足をつくと濡れる。ゴールまで行くには押すしかないので、渋々押しているとこれがわりと楽しい。テンションは高めで足取りは軽いが、滑るので三歩進んで一歩戻る的な進み方だ。

 ようやく越えたと思い、先を見るとさらにもう一つ山が見えた(笑)。土と雪と緑の幻想的な景色は、まるで別世界に通じているかのようにも感じた。眼下に広がる凍った湖と残雪の岩山。寒そうだがそれほど寒くない、快適な気温。本当に体験したことのない世界だった。

越えた先に広がる凍った湖と残雪の岩山は見た事のない幻想的な景色 Photo: Motoshi KADOTA

 この初夏の時期にだけ見られる景色は格別なものだが、MTBのレースとして考えると不安定な路面と雪の下に何があるのか分からないトリッキーな路面はスリリングでしかない。

道を横切る小川は点在する。シューズを濡らすと爪先が凍る Photo: Motoshi KADOTA

 雪解け水の小川が池に流れ込む。横切る時にシューズが濡れないように気をつけて走ったが、レースのときは思いっきり突っ込むだろう。その後、足先がどうなるのか?容易に想像出来て、また幻想的な景色とは裏腹に過酷なレースになることを痛感した。

 “別世界エリア”を抜け、林道をかっ飛んで下っていると「メェェ〜」と鳴く大群に遭遇。羊の群れにコースを塞がれ、暫く待機(笑)。数年前には牛の大群に道を塞がれたことを思い出した。

下っていると羊の群れに遭遇!動物のトラブルはマラソン系のレースにはつきもの Photo: Motoshi KADOTA

 羊をやり過ごし、一気に下るとそこは夏の暑さ。完璧に初夏のヨーロッパを走り、最後は整備されたマウンテンバイクパークの中腹からバンクやジャンプが入り乱れるダウンヒルコースを走りステージ1の試走終了となった!

 喉はからから、ボトルは空っぽの2人は補給を求めて町のカフェへ。相談することなく、2人してジェラート屋に直行!炭酸水を飲み干し、アイスを食べたら火照った体は一気に冷えたが日焼けした足は暑かった。

シュラードミングの町に帰ると日の丸が!この並びになぜ日本の国旗なんだろう? Photo: Motoshi KADOTA

 次は食べ物を買うためにスーパーへ。しかしときは17時55分、この町のスーパーは18時閉店で食料難民予備軍に。ヨーロッパでは週末休みだったり閉店時間が早い店が多いので買い物はそれまでに済ませることが習慣となっている。日本のように店の営業時間を長くすることは考えていないようで、多少不便だが合理的な気もする。

 僕らは開いているであろうガソリンスタンドで食べ物を購入。19時手前、ホテルに到着し、長い一日は終わった。

⇒<5>休足日だけど休息日にならない? 発見続きのカルチャーギャップ

門田 基志門田 基志(かどた・もとし)

1976年、愛媛県今治市生まれ。世界最大の自転車メーカー、ジャイアント所属のMTBプロライダー。選手として国内外のレースに参戦する一方、レース以外のサイクリングツアーも展開。石鎚山ヒルクライム、サイクリングしまなみなど数多くの自転車イベントを提案し、安全教室の講師やアドバイザーも務めるなど、自転車文化の発展に奔走している。

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