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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<211>新王者誕生の第100回ジロを総括 僅差の総合争いに見る勝負のポイントとは

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 地中海に浮かぶサルデーニャ島をスタートし、シチリア島を経由しながらイタリアを南から北へ進んだ今年のジロ・デ・イタリア。第100回の記念大会であることも関係してか、現在のプロトンを象徴する実力者がそろったレースとなった。最終ステージまでもつれた総合争いを制したのは、トム・デュムラン(オランダ、チーム サンウェブ)。稀にみる僅差の戦いとなったマリアローザ争いを振り返り、勝敗を分けたポイントに目を向けてみたい。

第100回ジロ・デ・イタリアを制したトム・デュムラン。誇らしげにトロフィーを掲げる Photo: Yuzuru SUNADA

大会終盤の山岳ステージが勝負を分ける

 このところの戦いぶりや実績から、戦前はマリアローザ候補として10人以上の名を挙げられるほど、ハイレベルの戦いが期待された今大会。第9ステージで発生した大規模クラッシュや体調不良で人数を減らしながら、勝負は大会の終盤戦にゆだねられた。

第20ステージのひとこま。総合上位陣が並んで走る Photo: Yuzuru SUNADA

 結果的に総合で上位を占めた4選手、デュムラン、ナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター チーム)、ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、バーレーン・メリダ)、ティボー・ピノ(フランス、エフデジ)の力が抜けていた印象だ。3週間走り続けるグランツールにはつきものの、突如調子を崩す日が訪れる「バッドデイ」などがありながらも、山岳ではおおむね高い水準で安定した走りを披露。山岳ステージではそれぞれステージ優勝も挙げており、総合争いを左右する山での戦いでしっかりと実力を発揮したといえるだろう。

 ただ何より、2ステージ合計68kmの個人タイムトライアル(TT)の設定は、総合争いにおいて比重が大きかった。一方で山岳だけに偏らず、個人の総合力を測る戦いという見方では、今回のジロは比較的バランスのよいステージ配置だったと見ることができる。その中で、得意のTTでタイムを大きく稼ぎ、山岳でも上位をしっかりと押さえたデュムランが頂点に立ったのである。

第20ステージフィニッシュ直後のトム・デュムラン。ライバルに先着こそ許したが、遅れを最小限にとどめ、その後のマリアローザ獲得につなげた Photo: Yuzuru SUNADA

 筆者が考える、マリアローザ争いでのポイントは、デュムランがジャージを失った第19ステージと、続く第20ステージにあったと見ている。第19ステージではキンタナから1分以上の遅れを喫してジャージを奪われ、第20ステージでも先着を許したが、この2日間で大崩れせずに最終日の個人TTに向けて射程圏内で終えられたことが、勝負を決定づけたのではないだろうか。もっとも、それまでに稼いだ貯金も大きく、第14ステージではライバルを置き去りにしてマリアローザを着てのステージ優勝と、終始攻撃的な姿勢を崩さなかったあたりも、大会終盤を苦しみながら耐えられた要因だろう。

オランダ人初のジロ覇者となったデュムラン

 晴れて、記念すべきオランダ人初のジロ王者となったデュムラン。キンタナらと同い年の1990年生まれ、「ゴールデンエイジ」の1人については、レースを追っている方なら個人TTでの圧倒的な強さは知られるところ。さらには、2015年のブエルタ・ア・エスパーニャで総合優勝争いを演じてからは、その総合力から「グランツール制覇は秒読み」とまで言われるようになった。そして、その日がやってきたのである。

トム・デュムランは個人タイムトライアルで圧倒的な強さを発揮。タイムを大きく稼いでマリアローザ獲得を呼び込んだ Photo: Yuzuru SUNADA

 TTでリードを稼ぎ、山岳で粘るそのスタイルは、往年のツール・ド・フランス王者ミゲル・インドゥライン氏の再来ともいわれるほど。また、現役ツール王者のクリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ)も山岳・TT両面で強さを発揮するとあって、将来的なツールの覇権争いを楽しみにする声も出てきている。

 グランツールの頂点に立ったとはいえ、課題はいくつもある。今大会では山岳アシストをリタイアで失ったこともあり、重要なステージでは早々に単騎となる場面も見られたが、デュムランを支える選手たちの台頭が待たれる。そのあたりは、チームとしても考慮すべき点として挙げており、選手のスカウティングや現有戦力の契約延長など、あらゆるアプローチを施していくことになる。

 また、第16ステージでは突如の腹痛による“トイレトラブル”でタイムを大きく失ったが、高所での補給食の摂り方に問題があるとデュムランは分析。このトラブルがなければ、もっと楽にマリアローザを確保できた可能性もあるだけに、フィジカル面での改善も視野に入れる。

 なお、デュムランの次なるターゲットはブエルタになるものと見られる。6月2日からオランダで行われるハンマーシリーズには参戦するが、その後のツールは回避する見通しだ。

第20ステージでの体調不良を明かしたキンタナ

 ジロ、ツール両グランツールでの制覇「ダブル・ツール」を視野に、今大会に臨んだキンタナ。総合2位に終わり、1998年にマルコ・パンターニ(イタリア)が成し遂げて以来、数選手が挑戦しながらも跳ね返された離れ業は、キンタナの前でも大きな壁として立ちはだかった。

本調子ではないながらも総合2位を確保したナイロ・キンタナ。ツール出場はあるか Photo: Yuzuru SUNADA

 レースを見た限り個人TTでタイムを失った印象のキンタナだが、実際のところはベストコンディションでジロを戦えたわけではなかったことを明かしている。その先にあるツールも見据えての調整だったこともあり、100%の状態でイタリア入りできたかというと、決してそうではなかったようだ。さらには、第20ステージでは発熱気味で、翌日の個人TTに向けてタイムを稼いでおきたかったところで、思い通りの走りに至らなかったようだ。

 戦いを終えて、「表彰台を確保できて満足している」と口にしたが、今後の焦点は予定通りツールに向かうのかどうか。ひとまず、6月中はレースに出場しないことを発表しているが、その間の休養やトレーニングを通じて、ツールに向けた決定がなされることだろう。もっといえば、ツールに参戦したところでコンディションが整わなかったり、苦戦が続くようでは、ジロからツールにかけての取り組みそのものを疑問視する向きも生まれる。そうした面も含めて、自身とチームとで慎重な判断が求められる。

ライバルを突き放せなかったニーバリ

 本調子ではなかったといえば、総合3位のニーバリも同様。得意のダウンヒルを生かして鮮やかに勝利した第16ステージこそ輝いたが、それ以外のステージではデュムランやキンタナを突き放すことはできなかった。

第16ステージを制したヴィンチェンツォ・ニーバリ。最終表彰台を確保でき満足しているという Photo: Yuzuru SUNADA

 痛かったのは、デュムランが制した第14ステージ。ここでニーバリは43秒の遅れを喫している。全21ステージを終えての最終タイム差は40秒。あくまでも数字上の話ではあるが、1ステージでも大差で敗れるわけにはいかない状況下で、タイム差をつけられてしまったのは後々に響いてしまったと見ることができる。

 こちらも「最終表彰台を確保できたことに満足している」と述べる。最終日の個人TTの段階ではすでに「脚に十分な力がなかった」と敗北宣言。これまでに3つのグランツールすべてを制しているが、勝った時に共通しているのが「勝負強さ」と「山岳での圧倒的な強さ」。この両面で不発に終わった今回は、いささか厳しい見方になるが、敗れるべくして敗れてしまったというところだろうか。

 ニーバリの今後のレーススケジュールも気になるところだが、ツールには出場しない方針であることを、彼のコーチであるパオロ・スロンゴ氏が明らかにしている。同時に、ブエルタを目指して調整していくとのこと。再び、デュムランらとのマッチアップの可能性が高まりそうだ。

ステップアップを誓うガビリア

 総合争いに負けず劣らず、ポイント賞のマリアチクラミーノを獲得したフェルナンド・ガビリア(コロンビア、クイックステップフロアーズ)の存在も今大会のハイライトだ。

グランツール初出場でポイント賞を獲得したフェルナンド・ガビリア。スプリント4勝に加え、アシストとしてもチームに貢献した Photo: Yuzuru SUNADA

 苦戦するスプリンターたちを尻目に、第3、第5、第12、第13ステージを勝利。ステージ4勝を挙げ、大会終盤の山岳も乗り切ってジャージを守り抜いた。

 早い段階からジロ出場を明言し、調整を続けてきたことはもちろんだが、テクニカルなコースレイアウトをものともしないバイクテクニックやポジショニング、そして勝負強さが今回の活躍を呼んだといえそうだ。それでいて、チームメートのボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク)がマリアローザを着用して出走した第5~9ステージを中心に、アシストとしても機能。自らの勝利だけにとどまらない、献身的な姿勢は高い評価に値する。

 チームの育成方針もあり、ツールは回避する。次のターゲットとしては、ブエルタと秋のワンデーレースとなるようだ。ジロを終えた直後のインタビューで「グランツールを経て、さらに強くなることができると確信している」と話し、自身の走りに強い手ごたえをつかんだ様子。この先の勝利量産に期待してもよさそうだ。

今週の爆走ライダー−ローレンス・テンダム(オランダ、チーム サンウェブ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 ジロ第21ステージのレース後、チームのエースであるデュムランがマリアローザを確定させて喜ぶ輪の中には、ベテランのテンダムの姿もあった。まるで自分が総合優勝したかのようにヨーロッパメディアのインタービューや取材を受け、勝利の歓喜をしばし味わった。

ジロ第10ステージ、個人タイムトライアルを走るローレンス・テンダム。エースのトム・デュムランに尽くした3週間だった Photo: Yuzuru SUNADA

 喜びを爆発させるのも無理はない。このジロのコースが発表になった際、デュムランから直々に相談を受けていたという。TTの比重が大きくなると見たデュムランは、すぐにジロ出場を希望し、テンダムにアシストを依頼したのだ。当時を振り返り、「次々とジロ出場を決める強豪が現れるのを見て、トムはツールに回った方がよいのではないかと思ったんだ」。

 その見立ては杞憂に終わった。「山岳の走りには感銘を受けた」といい、エースの成長に驚いた。山岳アシストのウィルコ・ケルデルマン(オランダ)を落車負傷で失いながらも、自らの力でそれをカバーするだけの走りをしてみせたと手放しで評価した。

 ラボバンクで走っていた2009年には、デニス・メンショフ(ロシア)のジロ総合優勝をサポート。それからの7年間では、自身がツール総合トップ10に入るなど強さを磨き、今ではその経験を若い選手の活躍につなげる。

 数年前には自宅のあるアメリカのチームへの移籍を模索するなど、残りのキャリアについて悩んだこともあったが、頂点に立ったエースからの信頼もあり、もう少し今のまま走り続けることになりそうだ。チーム最年長の36歳には、将来を嘱望される選手たちを束ねる役割をまっとうする責任がある。そう簡単に、チームを離れるわけにはいかないのだ。

トム・デュムラン(左から2人目)を支えたチーム サンウェブのメンバー。ローレンス・テンダム(左)には若い選手たちを束ねる役割がある Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。自転車情報のFacebookページ「suke’scycling world」も充実。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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