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つれづれイタリア~ノ<92>自転車は過疎化と国有財産を救う 歴史的建築がホテルやサイクルステーションに

by マルコ・ファヴァロ / Marco FAVARO
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 5月になりましたので、イタリアはピンク一色になりました。イタリア最大の自転車の祭典、ジロ・ディタリアを応援するために、あちらこちらでピンクのバルーンやデコレーションが目立ち、人々もピンクのTシャツや帽子をかぶっています。さらに午後にバールに入りますと、固唾をのんで選手の活躍を見守る人々であふれます。とにかく国中が祭りムードに包まれています。

 今年は毎日のように総合チャンピオンのシンボルであるマリア・ローザが次から次へ持ち主を変え、中盤になってもフィナーレが読めない展開となっています。レースとして最高なのです。

 さて、ジロ・ディタリアを含め、ヨーロッパではグランツールは別の大きな役割を担っています。レースが通る自治体にとっては大きなメリットがあります。世界中のテレビやマスメディアが集中するので、地域を宣伝するための絶好の機会なのです。ジロやツールをテレビで見ると、景色の美しさから「いつかその場に行きたい」と誰もが思うでしょう。景色の美しさの保全と自転車が今日のコラムのテーマなのです。

プリア州、廃墟となった農家(イタリア国有地管理局提供)

美しい景色に危機が訪れている

 イタリアでは古くから「景色の美化」が大きな課題の一つです。さかのぼることローマ時代から、裕福な地主の周りにある農園は、計画的で美しくでなければならないと、ローマ時代の皇帝たちが命じていたとされています。その影響で現在もイタリアの田舎は美しいものです。畑のど真ん中に大理石で作られた教会や彫像物があるのも我々にとっては日常の光景なのです。しかし、地域のこの美しさに危機が訪れようとしています。「過疎化」の波がイタリアにも寄せているからです。

 20年前に誕生したヴィンテージバイクをテーマとしたサイクリングイベント、L’Eroica(エロイカ/209019)の影響で、イタリアではスローサイクリングがブームとなっています。交通量の少ない田舎道やグラベル道路を走り、変わらない田舎の美しさを楽しむことが目的の一つです。地元自治体も努力を惜しみません。2月から11月にかけて、毎週末どこかで大きなサイクリングイベントが行われ、コースが通る地域では、伝統的な衣装を身にまとったボランティアたちが郷土料理やワインを振舞い、どこへ行っても大賑わいです。大会の日以外もサイクリストが訪れるため、観光客が絶えることがありません。

バジリカ州、アッピア街道沿いにあるカザ・カントニエーラと呼ばれているイタリア旧王国警備隊宿舎

 一方、最近は廃村や放置された農園が目立つようになりました。少子化の波がイタリアの美しい風景に暗い影を落としています。廃墟となった歴史的、美術的価値のある建物、お城、修道院、廃校、レンガ造りの工場、廃線沿いにある駅舎、農家などは地域の貴重な財産とされ、なんとか救おうと、国が動いています。その多くは国有化され、国が修復と保全に膨大な資金を投じています。もちろん、国民の税金です。

地域再生プロジェクト発足

 無人でも地域のシンボルとなっている建物が多く、壊すこと、放置することを国民は許せませんでした。何か有効利用できないかと有識者と国の担当者が集まり、2015年に成功した国家プロジェクト「Valore Paese Fari(郷土に価値を!灯台の再評価)」※ がベースとなり、サイクリングルートに特化した妙案が生まれました。

※「Valore Paese Fari(郷土に価値を!灯台の再評価)」とは、海岸線にそびえ立つ、使われなくなった歴史的な灯台や建物、要塞を50年間無料貸し出しし、飲食店や宿泊施設に転換させるプロジェクト。国内外から募集が殺到し、昨年第2募集も終了。

 誕生したのは、スロー観光、スローサイクリングブームで人気の大会のコース上、または有名なサイクリングルート上にある国有地を貸し出し、ホテルやレストラン、サイクルステーションとして蘇らせる企画です。

Valore Paese公式ロゴ(イタリア国有地管理局提供)

 企画は「Valore Paese ? Cammini e percorsi(郷土に価値を!ルートの再評価)」と呼ばれます。具体的な中身を見てみると、イタリア国土交通省や文部科学省所有の建物を40歳以下の若い実業家に無料で貸し出し、観光客も地元の人も利用できる施設、またはホテルやユースホステルなどに転換するものです。

 現在、選ばれているルートは全国的に広がり、ローマから延びる古代アッピア街道、イタリア中部のフランチジェナ街道と聖なるフランチェスコ街道、イタリア南部の風・太陽・水サイクリングロードなどがあります。

第一次国有財産無料貸し出し全図(イタリア国有地管理局提供)

 すでに一般募集が始まり、6月26日に締め切られます。2018年から無料貸し出しを開始する予定です。無料貸出期間は9年間(9年延長可能)。さらに、国が毎年300万ユーロ(約3億700万円)の補助金を出す予定で、経験の浅い若い起業家に手厚いサポートを行うとされています。

 国や地元自治体の狙いは、観光客のサポートだけでなく、地元経済の活性化と人口の増加。まさに一石三鳥の政策なのです。実際に、エロイカが通るコース、南トスカナ州では10年前から人口流出が止まり、プラスに転じています。

 やはり誰もが美しい景色の中で走りたいと思います。日本の課題でもある地域再生にもつながると思います。イタリア国有地の無料貸し出しには国籍の制限がないのでご興味のある方は、イタリア国有地管理局「Azienda Demanio」のウエブサイトをご覧になってください。

マルコ・ファヴァロMarco FAVARO(マルコ・ファヴァロ)

東京都在住のサイクリスト。イタリア外務省のサポートの下、イタリアの言語や文化を世界に普及するダンテ・アリギエーリ協会や一般社団法人国際自転車交流協会の理事を務め、サイクルウエアブランド「カペルミュール」のモデルや、欧州プロチームの来日時は通訳も行う。日本国内でのサイクリングイベントも企画している。ウェブサイト「チクリスタインジャッポーネ

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