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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<210>総合争いの形勢が見えたジロ前半戦 第2週のカギは「TTでの攻撃」と「回復」にあり?

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 ジロ・デ・イタリア第100回記念大会は、前半戦が終了。第9ステージまでを走り、いよいよ個人総合争いの形勢が見えてきた印象だ。思わぬハプニングによる有力選手の脱落などもあったが、力のある選手たちは要所でしっかりと走り、マリアローザをはじめとする各賞争いに名乗りを上げ始めている。今回は、ここまでの戦いぶりを振り返り、第2週となる第10~15ステージを展望していきたい。

ジロ・デ・イタリア第9ステージ、1級山岳ブロックハウスで争う3選手。左からナイロアレクサンデル・キンタナ、ヴィンチェンツォ・ニーバリ、ティボー・ピノ Photo: Yuzuru SUNADA

第9ステージに調子を合わせた総合上位陣

 王者の証であるマリアローザを賭けた個人総合争い。サルデーニャ島での序盤3日間を含み、大会前半に設けられた上級山岳ステージは2つ。エトナ火山を上った第4ステージと、7年ぶり登場のブロックハウスの頂上を目指した第9ステージとが設けられたが、勝負という観点で見れば後者の比重が高くなった。

エトナ火山を上った第4ステージはまだ横一線だった有力選手たち Photo: Yuzuru SUNADA

 第4ステージのエトナ火山も、平均勾配6%の上りが18km続くとあって、仕掛けどころとしては最適だったが、大会の開幕直後とあって総合優勝を狙う選手たちでもあの段階ではエンジンがかかっていないようだった。第9ステージで快走を披露したナイロアレクサンデル・キンタナ(コロンビア、モビスター チーム)にしても、地元シチリア島でのステージに意欲を見せていたヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、バーレーン・メリダ)にしても、ペースアップやアタックを試みたが、その姿には本来の力強さが欠けていた。実際、キンタナはその日のレース後、「まだまだ調子は上がっていない」とのコメントを残していた。

 3週間の戦いとなるグランツールにおいては、大会序盤から最後まで常にベストコンディションで走り続けることは難しい。21日間走り続けていれば、やはり調子の上がらない日もある。総合順位を狙う選手たちにとっては、勝負どころとなるステージが大会後半に設けられることが多いだけに、開幕からしばらくは調子を上げつつ、しかるべきタイミングで力を発揮するのが鉄則でもある。

 その意味では、第4ステージのみならず、フィニッシュ前が急坂だった第6、第8ステージで総合優勝候補たちが一団となってレースを終えたことは、この先を考えれば何ら不思議なことではなかった。

総合2位につけたティボー・ピノ(左)、同じく3位につけたトム・デュムランも第9ステージに調子を合わせてきた Photo: Yuzuru SUNADA

 一方で、第9ステージでは総合優勝候補筆頭との呼び声が高いキンタナが本領を発揮。同じく前評判が高かったティボー・ピノ(フランス、エフデジ)や、進境著しいトム・デュムラン(オランダ、チーム サンウェブ)も上位で続いた。その走りからは、この日に「1度目のピーク」を充てていた印象を受けた。休息日直前のステージであったことや、中盤戦に向けた探り合いなど、要素としてはさまざま考えられるが、選手たちの動きを見た限りでは、この日に調子のピークを合わせやすかったという点が挙げられそうだ。

個人TTの走りとその後の回復がポイントとなる第2週

 では、なぜ第9ステージに調子を合わせやすかったかを分析してみたい。

 第10ステージから始まる第2週は、約40kmの個人タイムトライアル(TT)が控えているものの、それ以外は平坦ステージが2つ、中級山岳ステージが2つ、そして上級山岳頂上フィニッシュが1つという編成となっている。

 もちろん、どのステージも簡単ではないし、攻撃的なレースが展開される可能性も大いにある。だが、総合を争ううえで最重要なのは、急峻な山々を越える第3週。それ以前に大勢が決することは考えにくく、第1週と第2週ではライバルから遅れることによるタイムの取りこぼしを防ぐことと、1秒でも優位に立ってこの先の戦いに備えることが求められる。

 ステージ詳細は後述するが、総合上位陣にとっての第2週は、TTでの攻撃的な走りと、その先を見据えた回復が重要なポイントとなりそうだ。それを前に、大会前半戦最後の1日だった第9ステージで一度調子を上げて攻撃的な走りをすることによって、順位やタイム差で優位に立ったり、その先の戦いのプランを探るなどのメリットがあると見ていたのではないだろうか。

 現時点では、首位キンタナから2位ピノまでの総合タイム差が28秒、3位デュムランが30秒、4位バウケ・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード)が51秒。

タイムトライアルに絶対の自信を持つトム・デュムランは、どの程度タイムを稼ぎ出すか Photo: Yuzuru SUNADA

 この先の展開を予想するなら、個人TTで争われる第10ステージを終えた段階で、ピノ以下がキンタナとのタイム差を縮小、または逆転すると見られる。特に、TTに絶対的な強さを見せるデュムランにとっては、トラブルさえなければ30秒は十分に挽回可能なタイム差。同様にTTを得意とするピノ、このところ改善がみられるモレマも上位を確保することだろう。キンタナはTTに改良の余地があるとはいえ、上り基調のレイアウトだけにしっかりとまとめて、ライバルとのタイム差を最小限にとどめておきたいところだ。

TTステージを上手くまとめたいナイロアレクサンデル・キンタナ(左から2人目)。第10ステージを終えた段階での総合順位やタイム差によって、その後の動きが決まりそうだ Photo: Yuzuru SUNADA

 TTステージの走りを受けて、各選手ともにこの先の走り方を決めることになるだろう。グランツール中盤の中級山岳ステージは逃げを容認するケースが多く、総合上位陣はできるだけ体力を温存しながらの走りに努める傾向にある。大きな動きがあるとすれば、頂上フィニッシュの第14ステージとなりそうだが、これもやはりTTステージを終えた段階でのタイム差次第といえそう。あまり無理をせずに第3週での勝負に備えたい選手と、少しでもタイム差を挽回したいと考える選手、またはマリアローザを着る選手が後続との差を広げたいとの意思を働かせるかもしれない。

 とはいえ、第14ステージですべてが決するとは考えにくい。総合上位陣に関しては、先々の戦いを見据えた駆け引きに終始することが予想される。

第9ステージ大規模落車の続報

 第9ステージ残り15km地点でメイン集団に起きた大規模落車によって、総合優勝候補だったゲラント・トーマス(イギリス)やミケル・ランダ(スペイン)のチーム スカイ勢、アダム・イェーツ(イギリス、オリカ・スコット)が巻き込まれ、最終的にトップから大幅に遅れてステージを終える結果となった。

ジロ第9ステージで大規模落車に巻き込まれたゲラント・トーマス。肩を負傷した Photo: Yuzuru SUNADA

 原因となった停車中のモーターバイクに接触したウィルコ・ケルデルマン(オランダ、チーム サンウェブ)は、手の指を骨折し手術を受けることに。全治4~6週間との診断が下っている。トーマスは肩を負傷。左脚を広範囲に痛め、フィニッシュまでほぼ右脚でのペダリングのみで走ったというランダは、MRIでの検査を必要としていることが分かっている。

 この一件に関して大会ディレクターのマウロ・ヴェーニ氏は、コース左脇に停車し選手との接触を引き起こしたモーターバイクがイタリア警察のものであることを明らかにした。同時にドライバーの判断ミスであることを認め、致命的な事態と悲劇的な出来事が重なって起きたトラブルだとした。

 一方で、イタリア警察が70年以上にわたって大会の安全確保に尽くしてきていることも強調。残念なトラブルであるとしながらも、大会におけるイタリア警察の役割は変わらないことも明言している。

 今大会にあっては、モーターバイクがプロトンに近づきすぎているとの一部選手からの指摘や、イタリアメディアによる問題提起なども出ている。かねがね話題に上るレースにおける関係車両の在り方について、いま一度考えるきっかけとなることは必至だ。

ジロ・デ・イタリア 第10~15ステージ展望

●5月16日(火) 第10ステージ フォリーニョ~モンテファルコ 39.8km個人タイムトライアル 難易度★★★★

ジロ・デ・イタリア2017第10ステージ コースプロフィール ©RCS SPORT

 今大会1つ目となる個人タイムトライアルステージ。中盤以降はアップダウンに富んだコースとなっており、TTで力を発揮するオールラウンダー向けといえそう。総合争いにも大きな影響を及ぼすことが予想され、有力選手間に分単位の差がつく可能性もある。


●5月17日(水) 第11ステージ フィレンツェ~バーニョ・ディ・ロマーニャ 161km 難易度★★★★

ジロ・デ・イタリア2017第11ステージ コースプロフィール ©RCS SPORT

 カテゴリー的には2級と3級ながら、4つの山岳を越えるハードな1日。総合争いよりは、ステージ優勝争いに注目が集まりそうだ。総合タイムで遅れている選手が次々と、序盤から逃げを試みるとみられるが、最後は登坂力に長けた選手が有利となりそうだ。


●5月18日(木) 第12ステージ フォルリ~レッジョ・エミリア 229km 難易度★

ジロ・デ・イタリア2017第12ステージ コースプロフィール ©RCS SPORT

 前半と中盤に2級、3級のカテゴリー山岳がそれぞれある以外は、おおむねフラットなコースレイアウト。難易度が示す通り、スプリンターのための1日となりそうだ。残り2kmからコーナーが続き、最後は残り350m左コーナーを回ってフィニッシュへと飛び込む。


●5月19日(金) 第13ステージ レッジョ・エミリア~トルトーナ 167km 難易度★

ジロ・デ・イタリア2017第13ステージ コースプロフィール ©RCS SPORT

 イタリア北部へと入り、勝負どころとなる山岳地帯へと徐々に近づいていく。ただ、この日に関してはカテゴリー山岳のない、オールフラットなコースレイアウト。なお、この日が今大会最後の平坦ステージとなるため、レース後のスプリンターの動向にも注目だ。


●5月20日(土) 第14ステージ カステッラーニア~オロパ 131km 難易度★★★

ジロ・デ・イタリア2017第14ステージ コースプロフィール ©RCS SPORT

 イタリアが生んだ名チャンピオン、ファウスト・コッピを称えて出身地の小さな村・カステッラーニアを出発。第2週唯一の山頂フィニッシュとなるオロパを目指す。最大勾配13%のオロパは、10%超えの急坂が断続的に現れる。総合上位陣に動きは見られるか。


●5月21日(日) 第15ステージ ヴァルデンゴ~ベルガモ 199km 難易度★★★★

ジロ・デ・イタリア2017第15ステージ コースプロフィール ©RCS SPORT

 山頂にフィニッシュする前日よりも難易度が高いのは、フィニッシュ前のレイアウトに理由があるようだ。残り5kmから始まる最後の上りは最大勾配12%。石畳区間もあり、選手たちの脚力を試す場となる。残り3.4kmはベルガモ市街地めがけてのダウンヒルだ。


今週の爆走ライダー−ゴルカ・イサギレ(スペイン、モビスター チーム)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 レースを先行した4人によるステージ優勝争いとなった、5月13日のジロ第8ステージ。逃げ切りを決めたメンバーの中で、ヴァレリオ・コンティ(イタリア、UAE・チームエミレーツ)に勢いがあることは、それまでの動きを見ていた誰もが理解していた。もちろんイサギレもそれは分かっていて、「コンティに勝つのは難しい」と思いながら最終局面を迎えたのだった。

ジロ・デ・イタリア2017第8ステージを制した瞬間のゴルカ・イサギレ Photo: Yuzuru SUNADA

 そんな状況が一変したのは残り1km。上り基調のヘアピンコーナーでコンティが落車。直後を走っていたイサギレは上手くかわすと、他の選手たちと差が開いていることに気づいた。「フィニッシュまでの距離が残っていたから、正直攻撃するのは早いと思ったけれど、あの状況では行くしかなかった。フィニッシュまで1kmを切っていたし、それ以上走る必要もない。後ろとの差も開いていたし、チャンスだと思ったんだ」。優勝を争ったメンバーには、昨年までのチームメートであるジョヴァンニ・ヴィスコンティ(イタリア、バーレーン・メリダ)もいて、ライバルの脚質を把握していたこともプラスに働いたと振り返る。

 トップシーンにおいて、兄弟で活躍する選手たちは数組存在するが、イサギレもその1人。弟は昨年までチームメイトで、今年からバーレーン・メリダで走るヨン・イサギレ。近年は弟の活躍が目覚ましく、アルデンヌクラシックや1週間のステージレースで好走を連発している。そして、ヨンも2012年にジロでステージ優勝を挙げている。

 ジロでの勝利、という意味では弟に並ぶこととなった。プロキャリアでも最高の勝利だが、弟が勝った時を思い返すと「トレーニング中で勝った瞬間を見ていなかったんだ」とのこと。ここしばらくも兄弟で連絡を取っておらず、あまり弟と比較されることへの興味はないという。

 それよりも大切なミッションを今は抱えている。エースであるキンタナを盛り立てる役割があるのだ。第8ステージは幸い自由を与えられたが、勝った直後に「明日からは新しいジロが始まる」と話したように、キンタナのために、そしてチームのために全力を尽くすと誓った。

 第1週を終えて、そのチームリーダーが首位に立った。第2週、そして運命の第3週と戦いは続く。ここでの働きが、自らの人生をも変えるチャンスにつながっていることも自覚している。自らの勝利だけにはとどまらない、大きな成果をつかむために走り続ける意志を今後の走りで表す心積もりだ。

自らの勝利に沸いたゴルカ・イサギレ。ジロ第2週、第3週はチームの勝利に貢献すべく走ることを誓った Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。自転車情報のFacebookページ「suke’scycling world」も充実。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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