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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<204>フランドル総括とルーベ展望 北のクラシック後半戦をチェック

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 難所のオウデ・クワレモント2回目で飛び出し、約55kmの独走劇。かつての世界王者フィリップ・ジルベール(ベルギー、クイックステップフロアーズ)劇場となったツール・デ・フランドル。勝負を動かしたあらゆる要素がすべて彼に味方した、そんな1日となった。今回は、ジルベールによる“伝説の勝利”を中心に、主役たちの「今」をお伝えしたい。そして、間近に迫るパリ~ルーベを展望。北のクラシックのハイライトとなるその日に思いを馳せる。

ツール・デ・フランドルで約55kmを独走する歴史的勝利を挙げたフィリップ・ジルベール。観客の声援を背に3回目のオウデ・クワレモントを力走する Photo: Yuzuru SUNADA

自身、そしてチームの“復権”を証明したジルベールの勝利

 約55km、石畳や急坂のセクションにして8つを単独で駆け抜け、フィニッシュまで先頭を譲ることのなかったジルベール。長年の実績から、その強さは知られるところだが、まさかまさか、フランドルで独走劇を演じるとは誰も思ってはいなかったことだろう。

2回目のオウデ・クワレモントで集団から抜け出すフィリップ・ジルベール。ここから独走劇が始まった Photo: Yuzuru SUNADA

 それは自身も同じ。「あの区間で独走に持ち込むことは考えていなかった」といい、一緒にメイン集団から先行していたチームメートのトム・ボーネン(ベルギー)、マッテーオ・トレンティン(イタリア)とペースアップを試みた過程から偶発的に起こった飛び出しだったと、レース後に振り返っている。

 クイックステップフロアーズは近年、ボーネンのほかにトレンティンやニキ・テルプストラ(オランダ)、ズデニャック・シュティバル(チェコ)といった、パヴェ(石畳)のスペシャリストをそろえ、この時期を戦ってきた。基本はボーネンを軸としながらも、実力者ぞろいゆえの戦術的な問題がしばしば発生していた。選手間での連携が機能しないケースや、先頭集団を走る選手が後方を走るエースを「前待ち」している間にライバルのアタックを許すなど、数的優位をものにできないケースもあった。

大歓声を受けてのフィニッシュ。フィリップ・ジルベールはバイクを高々と掲げてみせた Photo: Yuzuru SUNADA

 そんなチーム事情を変化させているのが今シーズンチームに加入したジルベールだ。3月26日に行われたヘント~ウェヴェルヘムを除き、メジャーな石畳系クラシックでメンバー入り。レースでは中盤の主要区間でメイン集団から飛び出し、ライバルチームが追わざるを得ない状況を作り出す役割を担ってきた。いわば“ジョーカー”的な働きをしてきたわけだが、ジルベールクラスの選手がこのような動きを見せるのは、他チームにとっては脅威でしかない。3月22日のドワーズ・ドール・フラーンデレンでは、チームメートのイヴ・ランパールト(ベルギー)の優勝をアシスト。その2日後のE3ハレルベークでは2位。メイン集団に追撃の余地を与えない走りが光っていた。

 そして実を結んだフランドルでの勝利。目前に迫る引退に向け、大仕事をもくろむボーネンも「あくまでもチームの勝利が最優先」と言って喜び、友人でもあるジルベールの快走を祝福。仮にジルベールが追走またはメイン集団に捕まっていたとしても、別の手立てがチームにはあったというが、今のところジルベールが先行するパターンはチーム戦術にフィットしているといえそうだ。

ポディウムで優勝したフィリップ・ジルベールと3位に入ったチームメート、ニキ・テルプストラが喜び合う Photo: Yuzuru SUNADA

 2011年にはアルデンヌクラシック3レースで全勝し、その翌年には世界王者に輝いたジルベールだが、ここ数年はイメージ通りの走りができずにいた。昨年まで所属したBMCレーシングチームでは、グレッグ・ヴァンアーヴルマート(ベルギー)と“ライバル状態”になってしまい、あえて北のクラシックを回避して、この時期はブエルタ・アル・パイス・バスコ(スペイン、UCIワールドツアー)を走ることも増えていた。チームを変え、そして「チームプレーを優先する」意識の変化が、自らの走りに輝きを取り戻すきっかけとなっている。昨年まで北のクラシックのエースを託していたヴァンアーヴルマートに、自国最大のレースで勝利したのは何とも皮肉な話でもある。

 このところの活躍によりパリ~ルーベへの出走が期待されていたが、ひとまず今年は欠場することを表明。ひとまず、というのは過去3人しか達成していないモニュメント全制覇を意識していることを自身も認めており、将来的な出場には含みを持たせているからだ。ちなみに、ジルベールが制しているモニュメントは今回のフランドルのほか、リエージュ~バストーニュ~リエージュ、イル・ロンバルディア。残すはミラノ~サンレモとパリ~ルーベだ。2007年以来のルーベ出場は、来年以降のお楽しみとなる。

落車のサガン「自分のミス」

 3回目のオウデ・クワレモント。追撃態勢が整いつつあったヴァンアーヴルマート、ペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)、オリヴィエ・ネーセン(ベルギー、アージェードゥーゼール ラモンディアル)を襲ったアクシデント。何かに絡むようにサガンがバランスを崩すと、ヴァンアーヴルマート、ネーセンも巻き込まれてしまった。今年の北のクラシックを盛り上げている3人がそろって、悲劇に見舞われた。

3回目のオウデ・クワレモント、追撃態勢を整えていた選手たちにアクシデントが発生。ペテル・サガン、グレッグ・ヴァンアーヴルマート、オリヴィエ・ネーセンが石畳に叩きつけられた Photo: Yuzuru SUNADA

 ヴァンアーヴルマートは「クラッシュしたとしても、レースが終わるまであきらめてはいけない。ただ、この結果には失望している」と述べる。パリ~ルーベへの出走を予定しているが、「この悔しさはルーベで晴らすことはできない」とフランドルがいかに特別なレースであるかを強調した。

 SNSを中心にあらゆる角度から落車の瞬間をとらえた映像がレース後に配信されたが、コース脇のフェンスにかけられていたジャケットに、サガンのハンドルがとられていることが明らかになっている。この日は気温が高く、ファンも熱くなるうちにジャケットを脱いでいたのだろう。

 ただ、これもレースの一部。このクラッシュが回避できていれば、先頭を走るジルベールに追いつくことができたかどうかは誰も分からない。

 そして、それを最も理解しているのが選手たちだ。落車のきっかけを作った格好のサガンは「自分のミス」と認め、「ジャケットか何かに引っかかったようだ」と当時の状況を説明した以上は多くを語らなかった。それよりも、ジルベールを勝利に導いたクイックステップフロアーズの動きに対応できなかったことを敗因に挙げている。

 この悔しさをルーベにぶつけることで雪辱とするかは、選手個々の価値観にゆだねられる。だが、不運に見舞われずに本来持つ実力を発揮できることが一番。ヴァンアーヴルマート、サガン、ネーセンには、パリ~ルーベで日の当たる場所に立つことができるだけの大きな可能性を持ち合わせていることは確かである。

優勝候補筆頭と目されながら2位に終わったグレッグ・ヴァンアーヴルマート Photo: Yuzuru SUNADA
3回目のオウデ・クワレモントを攻めるペテル・サガン。追撃態勢を整えたこの後、悲劇に見舞われた Photo: Yuzuru SUNADA

ボーネンは残り2レースで引退

 パリ~ルーベ出走をもって長かったキャリアに終止符を打つボーネン。ここまでは、中盤以降に集団を飛び出したチームメートが逃げ切る場面が多いことから、自身は目立つリザルトこそ残せていないが、しっかりと調整しコンディションを合わせてきている。

中盤に見せ場を作ったトム・ボーネン。引退へのカウントダウンが進む Photo: Yuzuru SUNADA

 フランドルでは、コースに復活したミュール・カペルミュールでペースアップ。集団分断のきっかけを作り、チームを優位な展開へと導いた。当初はレースを動かす場所ではないと見られたカペルミュールだが、力をもってその予想を覆してしまうあたり、ボーネンの役者ぶりをうかがわせる。

 かつて幾度となく勝利を呼び込み、“ボーネンベルグ”との愛称までついているセクション、ターイエンベルグを目前にメカトラに見舞われ脱落したのは運命のいたずらか。それでも、ジルベールの勝利を喜び、次の主役は自分との思いを強めているようだ。

 引退までは残り2レース。4月5日のシュヘルデプライス(ベルギー、UCIヨーロッパツアー1.HC)、そしてパリ~ルーベだ。フランドルのスタート前には、輝かしいキャリアを祝う盛大なセレモニーが行われたが、残すレースでは自らの走りで有終の美を飾りたい。

 大きな体躯とスプリント力、圧倒的なパワーから「トルネード・トム」として愛されたフランドルの英雄が華々しいラストシーンを迎えようとしている。

第115回パリ~ルーベ展望

 「クラシックの女王」として高い権威を誇るパリ~ルーベが、4月9日に開催される。今回で第115回となる大会は、北のクラシックを締めくくるレースであり、ワンデーレースの最高峰に位置付けられる「モニュメント」の1つでもある。

第115回パリ〜ルーベルートマップ ©︎ A.S.O.

 例年同様、スタートはパリ近郊のコンピエーニュ。昨年より2つ多い29カ所ものパヴェ(石畳)セクションが、97km地点から始まる。コースそのものは平坦基調だが、全行程257kmのうちパヴェが総延長55kmを占める。

 それぞれのセクションは5段階の難易度で示され、最高の5つ星は19番“アランベール”ことトロエ・ダランベール(161.5km地点、距離2.4km)、11番モンス・アン・ペヴェル(208.5km地点、距離3km)、4番カルフール・ド・ラルブル(240km地点、距離2.1km)の3カ所。

 アランベールを目指す段階では、まだメーン集団が大規模であることから、各チームがゴールスプリントさながらの位置取りを繰り広げる。もっとも、このセクションで集団の人数が一気に絞られる傾向にあり、少しでも遅れたりトラブルに見舞われたりすると、勝負する資格が事実上失われる。例年、優勝候補がパンクやメカトラブルで足止めされる事態が発生し、その後メイン集団への復帰が果たせないまま終えることがほとんどだ。

2016年のパリ〜ルーベから。アランベールを進む選手たち Photo: Yuzuru SUNADA

 モンス・アン・ペヴェルでは有力選手による一気のペースアップ、カルフール・ド・ラルブルでは優勝争いに直結するアタックが見られるなど、難易度の高いパヴェほどレースが大きく動く傾向にある。

 また、雨が降ればパヴェ上に泥が浮き上がり、メカトラやクラッシュの危険性が一気にアップ。姿かたちが分からなくなるほど選手たちは泥まみれになる。一方で、晴れていても土埃が舞い上がり、乾燥した路面でトラブルが多発。熱狂する沿道のファンと接触する事態も増えており、さまざまな要素が絡み合う驚異のレースである。

ルーベのヴェロドロームまで優勝争いがもつれ込めば、スプリンターに有利となる Photo: Yuzuru SUNADA

 優勝争いは、今年の北のクラシックで主役を演じるヴァンアーヴルマートやサガンが軸となりそう。ここまでのレースでは、急坂区間を利用した動きが多かったが、パリ~ルーベのような平坦のレースでも圧倒的なパワーを見せることだろう。

 クイックステップフロアーズは、引退レースとなるボーネンを何としても表彰台の頂点に送り出したい。テルプストラやシュティバル、ランパールトがレースを作り、要所でボーネンが仕掛ける展開に持ち込めるか。

 このところの躍進が光るネーセンの走りにも期待が膨らむ。優勝争いがスプリントになると分が悪いが、強力なアタックや独走力は魅力的。5つ星パヴェで仕掛けて、終盤を独走できれば勝機あり。

2連覇がかかるマシュー・ヘイマン。イェンス・クークレールとの2枚看板となりそうだ Photo: Yuzuru SUNADA

 昨年はマシュー・ヘイマン(オーストラリア、オリカ・スコット)が5人のスプリントを制して優勝したが、ルーベのヴェロドローム決戦となればスプリンターが有利。2年前の覇者であるジョン・デゲンコルブ(ドイツ、トレック・セガフレード)や、アレクサンドル・クリストフ(ノルウェー、チーム カチューシャ・アルペシン)は勝負強さで群を抜く。また、オリカ・スコットは2連覇がかかるヘイマンに加え、イェンス・クークレール(ベルギー)が計算できる。

 本来であれば有力なセップ・ヴァンマルク(ベルギー、キャノンデール・ドラパック プロサイクリングチーム)は、本調子とは言えず、さらにはフランドルで落車負傷。代わって、フランドル4位と健闘したディラン・ファンバーレ(オランダ)がエースを担う可能性が高い。

今週の爆走ライダー−ディラン・ファンバーレ(オランダ、キャノンデール・ドラパック プロサイクリングチーム)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 ツール・デ・フランドルでは終始前方でレースを展開。2度のバイク交換をしいられながらも、果敢な走りが実って4位入賞。最後は力尽き、2位争いのスプリントに加わることができなかったが、エースのヴァンマルクを失い落胆していたチームに光明をもたらす好走となった。

ツール・デ・フランドル終盤、ディラン・ファンバーレ(左)はグレッグ・ヴァンアーヴルマートらと追走グループを形成した Photo: Yuzuru SUNADA

 運もよかった。2度のバイク交換はいずれもメイン集団より先行していたタイミングだったこと。また、3回目のオウデ・クワレモントではヴァンアーヴルマートらから遅れを喫していながら、彼らの落車を逃れたことで再度上位争いに復帰することができた。「前方で何が起こっていたのか理解できなかったが、あの瞬間に自分が2位を走っていることが分かった」。その後のパテルベルグも「あの上りで生き残ることができれば、脱落することはないと思っていた」と振り返る。冷静な走りが好結果を呼び込んだといえそうだ。

 来たるパリ~ルーベでは、負傷したヴァンマルクに代わってチームをリードする立場になる可能性が高まっている。2年前にはドワーズ・ドール・フラーンデレンで3位になり、北のクラシックでのポディウムも経験済み。ルーベでも臆せず戦うことができるだろう。

 1988年のソウル五輪オランダ代表でトラック中距離で活躍したマリオ氏を父に持つ2世選手。ジュニア時代から平地系レースでタイトルを総なめにし、プロデビューした2014年にはツアー・オブ・ブリテンでいきなり総合優勝と、そのタレント性は高く評価される。

 「将来的にはクラシックで勝てるライダーになりたい」と口にするが、そんな彼の思いはルーベでの走りで成就するかもしれない。未来を嘱望される24歳は、パヴェで魅せる強さによってその約束をつかみ取ろうとしている。

早くからタレント性が注目されていたディラン・ファンバーレ。いよいよその能力が開花しようとしている Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。自転車情報のFacebookページ「suke’scycling world」も充実。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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