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彼女と自転車<2>「女性のための自転車を作りたい」テニス女子から自転車学校を卒業、新たな道へ進む赤松綾さん

by 澤野健太 / Kenta SAWANO
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 卒業式が各地で行われた3月、日本唯一の自転車学校「東京サイクルデザイン専門学校」(TCD)から1人の女性卒業生が巣立った。赤松綾さんは、「女性のための自転車を作りたい」と、卒業生代表であいさつ。テニス一筋から一転、ハンドメイドでの自転車製作を志し、卒業後新たなステージに進む赤松さんにCyclist編集部がインタビューした。(聞き手・澤野健太)

東京サイクルデザイン専門学校の教室で卒業制作のバイクと並ぶ。タイトルは「1LDK」 Photo: Kenta SAWANO 

卒業生代表であいさつ

 3月16日、東京・渋谷で行われた東京サイクルデザイン専門学校(TCD)の卒業式。赤松さんは卒業生代表として挨拶した。「将来はビルダーになって女性や小柄なライダーを中心にフレーム製作を行いながら、一人でも多くの方に自転車の魅力を知って頂けるような活動を行っていきたい」と新しいステージでの目標を話した。

卒業式で同じ水野学園系列の他校の友人と並んで笑顔の赤松綾さん(左) Photo: Aya AKAMATSU
卒業生代表としてあいさつする Photo: Aya AKAMATSU

 2011年創立のTCDは日本初の自転車の専門学校で、2年コースと3年コースに分かれ、自転車製作やメカニックなどを学べる。赤松さんはその3期生で、日本人としては3年制で初の女性卒業生となった。卒業制作の自転車は「1LDK」というネーミング。「インテリア」がテーマで、落ち着いたクリーム色の塗装が施され、家の中に置いていても部屋に馴染み、溶け込むコミューターバイク(街乗り自転車)だ。

シムワークスなどがアッセンブルされたこだわりのハンドル付近 Photo: Kenta SAWANO
前後輪とも女性にもやさしいディスクブレーキを採用 Photo: Kenta SAWANO
リアライトはシートポストに埋め込んである Photo: Kenta SAWANO

 多くの学生が独創的な自転車をテーマにするなか、「女性や身長が低い人のためのかっこいいバイク」を目指した。卒業制作をアップしたインスタグラムには「私にも作って欲しい」「廉価版にして売り出して欲しい」など女性からのコメントが多く寄せられた。「やはり女性からの反応がとてもうれしかったです」。全くの別畑から自転車製作を志し、自ら行動し続けた赤松さんの努力が実を結んだ。

東京サイクルデザイン専門学校の教室でろう付け作業する Photo: Kenta SAWANO

小学校からテニス一筋

中学時代、硬式テニスの全国大会でプレーする赤松さん(本人提供)

 兵庫県出身の赤松さんは、幼いころから大学まで硬式テニスの世界でプロ選手を目指していた。小学校時代は、奈良くるみ、土居美咲といった、現在日本トップランクの選手たちと切磋琢磨の日々。中学、高校、大学はスポーツ推薦で進んだ。「厳しい練習と、大学時代に将来を考えた時にテニスでは厳しいと思いました」と完全燃焼してテニスを辞めることにした。

 スポーツ自転車への道は1冊の自転車雑誌だった。クロスバイクが欲しくて大手自転車販売店でアルバイトを始め、どういう自転車を買おうか悩んでいたところで、地元姫路の雑誌に紹介されていたおしゃれな自転車店を訪問した。予算は10万円だったが、飾ってあった「チネリのロードバイクに一目ぼれしました」と20万円以上の出費で即購入。

 翌年からプロショップでもアルバイトを始め、トライアスロンの大会にも出るようになった。テニス仕込みの基礎体力と抜群の運動神経もあり「意外と簡単に表彰台に上がることができ楽しかった」とのめり込んだ。自転車もよりレース志向の強いカーボンフレームのものにグレードアップさせた。

卒業生制作のコミューターバイクはカジュアルな服装にピッタリだ Photo: Kenta SAWANO

自分に合うバイクを探す旅

慣れ親しんだRAPHA東京のカフェでインタビューに応じる Photo: Kenta SAWANO

 しかしその一方で、乗っている自転車について不満に思うことも増えてきた。身長160センチの赤松さんは、様々な自転車店に出入りするようになると自分のバイクに違和感を持つようになった。「最初のチネリは自分にはサイズがやや大きく、自分には合っていないと気付いたんです」と、そこから自分に合うバイク探しの旅が始まった。

 赤松さんがスポーツ自転車に乗り始めた2012年頃はまだまだ女性用サイズのラインナップが少なく、我慢して乗っていた。ある日、知り合いが持っていた自転車雑誌でTCDの広告を読み、人生が変わった。大学卒業後の進路として、警察官の道も考えたというが「TCDで自分が乗りたいバイク、女性のためのバイクを作りたい」と思い切って自転車作りの門をたたいた。

東京サイクルデザイン専門学校の教室でろう付けする赤松綾さん Photo: Kenta SAWANO
東京サイクルデザイン専門学校では一般自転車の取り扱いも学ぶ Photo: Kenta SAWANO

3年間で9台を製作

火の扱いも3年間で完全にマスターした Photo: Kenta SAWANO

 性格も職人向きだったのかもしれない。テニス選手時代から「自分に合わせてラケットのガットを貼ったり、グリップを巻きなおす作業が好きでしたし、感覚の微妙なところが狂わないよう自分で調整したかった」という赤松さん。テニスで培った「手首の柔らかさ」も、フレーム製作で様々な場所を溶接する際に活かされた。

 TCDでもすぐに頭角を現し、他の人が大体3年間で3、4台制作するところを9台の自転車を製作した。「女性や小柄な人でも乗れるバイクを作る」という目的も達成。自分のためのシクロクロスバイク、卒業制作、そして世話になった母親のためのミニベロなどを作った。卒業制作後には親しい友人から650C(一般のロードバイクより少し小さなホイール)のフレームを作った。

Rapha東京の店舗でも接客を中心に同社の理念を学んだ Photo: Kenta SAWANO 
赤松さんが初めて参加したRapha Women's 100小淵沢 ©Rapha

 在学中は、色々なアルバイトを掛け持ちした。大手自転車ブランドを扱う販売店と、逆に特色のある個人経営の自転車店を掛け持ちし、色々な自転車の世界を学んだ。

 またサイクリングウェアブランド・RAPHA(ラファ)のイベント「Women’s 100(ウィメンズ ハンドレッド)」との出会いも大きかった。世界中の女性たちが100kmの自転車ライドに挑戦するイベントに初参加。翌年はライドリーダー(引率)も務め、「自立した女性のためのイベント」というテーマに共感した。ラファ東京で店員としてアルバイトするようになり、自身の自転車作りにも大きな影響を受けた。

白州の森バイクロアで森の中を駆け抜ける赤松さん Photo: Yasuhiro NAKASHIMA 

 さらにラファが橋渡しとなり、オフロードの競技「シクロクロス」に出会う。偶然ラファ東京にやってきた南行徳(千葉県市川市)のサイクルショップ「…&Bicycle」(アンドバイシクル)店主の渡辺誠一さんに誘われ、同店のチームに加入。念願だった自作フレームでもレースに参加することができた。シクロクロスの世界にのめり込み、競技歴3年ほどでトップカテゴリーで表彰台に何度も上がった。

卒業後の進路は大手「GIANT」

卒業制作のバイクのフレームには「AYA」と名前が入る Photo: Kenta SAWANO 

 卒業後の進路は、意外にも世界的自転車ブランドの「GIANT」(ジャイアント)。女性ブランド「Liv」(リブ)の世界観に魅かれたからだ。

 「もっと女性サイクリストを増やしたいという理念が素晴らしかったですし、どういう女性が乗っているのかも気になりました。マーケティングにも興味があります」と志望理由を話す。大学から自転車一筋になりもっと広い世界を見たいという狙いもあった。「アパレルを含め、女性や子供さんなど、よりエントリーユーザーに接する仕事につきたいと思い、ジャイアントという企業を選びました」。

 もちろんフレームビルダーの道も捨てたわけではない。卒業式のあいさつの最後に「今まで出会った方々に感謝の気持ちを忘れず、これからも私は私らしく、自分が選んだ道を信じ、進み続けていきます」と締めくくった。前向きに自分の世界を広げていった赤松さん。自らの名前「AYA」とサインの入った自転車を町で見かける日も、そう遠い先のことではないかもしれない。

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Cyclist for Woman インタビュー(女性向け) ラファ 彼女と自転車

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