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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<199>フランスの至宝が目指すそれぞれの道 アージェードゥーゼール、エフデジ2017年シーズン展望

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 フランスが誇る伝統のプロチーム、アージェードゥーゼール ラモンディアルとエフデジ。両チームに共通するのは、フランス人ライダーを中心とした編成であることと、その中から絶対的なチームリーダーを輩出している点。いま、アージェードゥーゼールにはロマン・バルデ、エフデジにはティボー・ピノと、20歳代半ばにしてすでにグランツールでの実績十分のスーパーエースが存在する。今回は、この2人を中心にそれぞれの戦力を分析。7月開催のツール・ド・フランスを賑わせること必至のチームを押さえたい。

フランスが誇るグランツールレーサー、ロマン・バルデ(左)とディボー・ピノ。2017年は違った目標を掲げる =クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ第6ステージ、2016年6月11日 Photo: Yuzuru SUNADA

バルデのターゲットは“ツール一択”

 昨年のツールでは、終盤の第19ステージで勝利を挙げるなど、鮮やかな戦いぶりで総合2位と大躍進を遂げたバルデ。ここ数年は自慢の登坂力と、落車を恐れないダウンヒルテクニックを武器に、ツールのトップ10フィニッシュ常連となっていたが、ついに表彰台の一角を確保する栄誉にあずかった。ツールに限らず、シーズンを通してハイクオリティな戦いぶりを見せ、出場したレースの多くでトップ10入り。2016年最終戦となったクラシック、イル・ロンバルディア(イタリア)でも4位となり、今シーズンへとつなげた。

2017年初戦のツアー・オブ・オマーンは総合6位で終えた =2017年2月15日 Photo: Yuzuru SUNADA

 26歳と、プロトンではまだ若い部類に位置する彼には、フランス自転車界が長年待ち続けている「ツール制覇」の夢が託される。もちろん、本人もそれを理解しており名誉なことだという一方で、「ツールだけがロードレースではない」と一歩引いた目線でレースに対するスタンスを図る。シーズンオフには5月開催のジロ・デ・イタリア出場をほのめかす発言をするなど、期待やそれに伴って加熱しそうな報道をスマートにかわすテクニックも持ち合わせる。

アブダビ・ツアーでは上りで苦しんだが、ツールに向けては大きな問題とはならないだろう =2017年2月25日 Photo: Yuzuru SUNADA

 それでも、2017年シーズンのターゲットは“ツール一択”に定まった。すでにレース活動を開始しており、2月に行われたツアー・オブ・オマーン(UCIアジアツアー2.HC)では総合6位、アブダビ・ツアー(UAE、UCIワールドツアー)では総合12位で終えた。アブダビでは山岳で苦しんだが、ツールまでの期間を考えるとそう大きな問題とはならないだろう。今後の調整次第でツールを戦うフィジカルへと仕上げていく。

 頂上フィニッシュが3つと少なく、最後の山岳からフィニッシュへと下るレイアウトがいくつか採用されるツールのコース。ダウンヒラーの顔を持つバルデにとっては、頂上を前にアタックを決め、下りへの勢いをつけたいところ。近年はダウンヒルからレースが動くケースも増えており、そうした戦いを得意とする1人としてバルデの走りは楽しみになってくる。第1ステージの13kmと、事実上最終決戦となる第20ステージの23kmで争われる個人タイムトライアルの距離も、まずまずの位置でまとめられる彼にとってはピッタリといえそうだ。

 この後は、3月5~12日のパリ~ニース(フランス)、4月3~8日のブエルタ・アル・パイス・バスコ(スペイン)、4月23日のリエージュ~バストーニュ~リエージュ(ベルギー)、4月25~30日のツール・ド・ロマンディ(スイス)と、UCIワールドツアーを転戦。ツールまでの道のりは明確になっている。

切り札獲得で北のクラシックが明るく

 バルデを軸に強化が進むチームは、アレクシー・ヴィエルモーズ、ミカエル・シュレル、アレクサンドル・ジェニエズ(いずれもフランス)、マティアス・フランク(スイス)をクライマー班に任命。ツールではバルデを支えることを念頭に、レースによっては総合エースを任せられる選手たちをセレクトしている。

北のクラシックでの活躍が期待されるオリヴィエ・ネーセン =ツール・ド・フランス2016第4ステージ、2016年7月5日 Photo: Yuzuru SUNADA

 同時に、今年は北のクラシックでの活躍も誓う。切り札としてステイン・ヴァンデンベルフとオリヴィエ・ネーセン(ともにベルギー)を獲得。パヴェに滅法強いベテランのヴァンデンベルフと、昨年ブレイクのネーセンの加入によって、春のレースに向けた見通しが明るくなった。ネーセンは、2月25日のオムループ・ヘット・ニュースブラッド(ベルギー、UCIワールドツアー)で7位、翌日のクールネ~ブリュッセル~クールネ(ベルギー、UCIヨーロッパツアー1.HC)で8位と、上々の結果を残している。

 また、チームはすでに地元フランスのレースで2勝。サミュエル・デュムラン(フランス)が2月18日のツール・ドゥ・オーヴァル(UCIヨーロッパツアー2.1)第1ステージを、ジェニエズが同22日のツール・ラ・プロヴァンス(UCIヨーロッパツアー2.1)第2ステージでそれぞれ優勝している。

アージェードゥーゼール ラモンディアル 2016-2017 選手動向

【残留】
ゲディミナス・バグドナス(リトアニア)
ヤン・バークランツ(ベルギー)
ロマン・バルデ(フランス)
ジュリアン・ベラール(フランス)
フランソワ・ビダール(フランス)
ミカエル・シュレル(フランス)
ニコ・デンツ(ドイツ)
アクセル・ドモン(フランス)
サミュエル・デュムラン(フランス)
ユベール・デュポン(フランス)
ベン・ガスタウアー(ルクセンブルク)
シリル・ゴティエ(フランス)
アレクシー・グジャール(フランス)
ユーゴ・ウル(カナダ)
カンタン・ジョレギ(フランス)
ピエール・ラトゥール(フランス)
マッテオ・モンタグーティ(イタリア)
ドメニコ・ポッツォヴィーヴォ(イタリア)
クリストフ・リブロン(イタリア)
アレクシー・ヴィエルモーズ(フランス)

【加入】
ルディ・バルビエ(フランス) ←ルーベ-メトロポール・ユーロピエン・デ・リール
クレメン・シェヴリエ(フランス) ←イアム サイクリング
ジュリアン・デュヴァル(フランス) ←アルミー・ド・テッレ
ソンドレ・ホルストエンゲル(ノルウェー) ←イアム サイクリング
マティアス・フランク(スイス) ←イアム サイクリング
アレクサンドル・ジェニエズ(フランス) ←エフデジ
オリヴィエ・ネーセン(ベルギー) ←イアム サイクリング
ナンズ・ピーターズ(フランス) ←シャンベリー シクリズムフォーメーション(アマチュア)
ステイン・ヴァンデンベルフ(ベルギー) ←エティックス・クイックステップ

【退団】
ギヨーム・ボナフォン(フランス) →コフィディス ソリュシオンクレディ
マキシム・ダニエル(フランス) →フォルトゥネオ・ヴィタルコンセプト
ダミアン・ゴダン(フランス) →アルミー・ド・テッレ
パトリック・グレーチュ(ドイツ) →引退
ブレル・カドリ(フランス) →未定
セバスティアン・ミナール(フランス) →引退
ジャンクリストフ・ペロー(フランス) →引退
ジェス・サージェント(ニュージーランド) →引退
セバスティアン・テュルゴ(フランス) →未定
ヨハン・ヴァンスーメレン(ベルギー) →引退

ピノはマリアローザをかけてジロ参戦

 フランス自転車界のカリスマ、マルク・マディオ氏率いるエフデジ。フランス政府出資企業がメインスポンサーであることも関係し、同国選手の強化をテーマに発足からの約20年間を歩んできた。

2014年のツール・ド・フランスで総合3位、新人賞のマイヨブランを獲得したティボー・ピノ =2014年7月27日 Photo: Yuzuru SUNADA

 その取り組みが実を結んだのは2014年。当時24歳だったピノがアルプ・デュエズの頂上を目指したツール第20ステージを制覇。これが決め手となり、総合3位と新人賞のマイヨブランを獲得。押しも押されもせぬスーパーエースが誕生した瞬間でもあった。

 バルデと並び、ピノには次世代ツール王者の期待が高まっている。だが、ここ一番で苦しいレースを強いられるケースもあり、ときにはその姿に物足りなさを覚えてしまうことも否めない。ツール表彰台登壇後の2年間は、総合16位、途中リタイアと、本来あるべき姿からは大きくかけ離れてしまった。ツール前の戦いぶりを見ていると、調子のピークが早く来すぎている感があり、「前哨戦」と呼ばれるレースで総合優勝に手が届きかけることがしばしば見られる。それを境に、下降線をたどった状態で迎えるツールではライバル相手にごまかしが利かない。

2017年はジロ・デ・イタリア出場の意向を固めたティボー・ピノ。その後はツールで山岳賞を狙って走る =ツール・ド・フランス2016第11ステージ、2016年7月13日 Photo: Yuzuru SUNADA

 そこで彼自身が見出した答えは、目指すレースの変更。今年は自身初めてとなる、ジロ・デ・イタリアへの参戦を明言。初出場ながら、バラ色のリーダージャージであるマリアローザをかけて臨む決意を固めた。

 大会後半に急峻な山々が控え、中盤と最終日には個人タイムトライアルがセッティングされた今年のジロ。ひとたび波に乗れば、その登坂力はライバルに大きな脅威を与えられるはずだ。また、タイムトライアルへの適性も年々高まっており、現役のフランスチャンピオンとしてイタリアへと乗り込むことになる。総合的に戦うことができれば、初出場初優勝も夢ではない、それだけの力を本来は持っているといえる。

 ただ、今年のジロ挑戦はあくまでの将来的なツール王座獲得への過程であることは覚えておきたい。ここ数年の不甲斐ない走りを払拭するためのきっかけとして出場するジロだが、その判断が正しいかどうかは自らの戦いぶりにかかっている。

 なお、ツールにも参戦を予定しており、山岳でのステージ優勝と山岳賞のマイヨアポワを目標にするとしている。

ツールはデマール中心の布陣か

 ピノがジロで結果を求めるとなると、チームにとって最重要レースの1つであるツールをどう戦うかが焦点となる。いまのところ、エーススプリンターのアルノー・デマール(フランス)中心の布陣を組むことが可能性としては一番高いといえそうだ。

2016年のミラノ〜サンレモを制したアルノー・デマール。アシストが強化された今シーズンの走りにも注目 =2016年3月19日 Photo: Yuzuru SUNADA

 デマールは昨年、ビッグクラシックの1つであるミラノ~サンレモで優勝。約30人が一斉になだれ込んだフィニッシュでの戦いを制してみせた。グランツールはジロへと回ったが、調子を崩し途中でリタイア。ツールはチーム方針もあり回避をした。

 今年もミラノ~サンレモ2連覇を視野に入れるのはもちろん、昨年は落車負傷で不本意な形で終えた北のクラシック、そしてツールと徐々にターゲットがはっきりとしてきた。どうしても、グランツールの総合がかかるピノ次第のレースプログラムになりがちだが、与えられた局面でしっかりと仕事をするのがデマールの強さでもあり、チーム内での信頼を獲得している要因でもある。

 そんな彼を支えるべく、チームはイタリア人スピードマンのダヴィデ・チモライとジャコポ・グアルニエーリを獲得。自らもスプリントで狙えるだけの強さを持つ2人を、デマールの発射台候補として加入させた。両者ともに意欲十分で、現在はデマールとのホットラインを形成している段階だ。クラシックやグランツールで、それが発揮されるかも見ものとなる。

エフデジ 2016-2017 選手動向

【残留】
ウィリアム・ボネ(フランス)
アルノー・クールテイユ(フランス)
ミカエル・ドゥラージュ(フランス)
アルノー・デマール(フランス)
オドクリスティアン・エイキング(ノルウェー)
マルク・フルニエ(フランス)
ダニエル・ホールゴール(ノルウェー)
イグナタス・コノヴァロヴァス(リトアニア)
マチュー・ラダニュス(フランス)
ヨアン・ルボン(フランス)
オリヴィエ・ルガック(フランス)
ジェレミー・メゾン(フランス)
ロレンゾ・マンザン(フランス)
スティーヴ・モラビト(スイス)
セドリック・ピノー(フランス)
ティボー・ピノ(フランス)
セバスティアン・ライヒェンバッハ(スイス)
ケヴィン・レザ(フランス)
アントニー・ルー(フランス)
ジェレミー・ロワ(フランス)
マルク・サロー(フランス)
ブノワ・ヴォグルナール(フランス)
アルチュール・ヴィショ(フランス)

【加入】
ダヴィデ・チモライ(イタリア) ←ランプレ・メリダ
ダヴィ・ゴデュ(フランス) ←エキップシクリズム コートダルモール・マリーモリン(アマチュア)
ジャコポ・グアルニエーリ(イタリア) ←チーム カチューシャ
トビアス・ルドヴィグソン(スウェーデン) ←チーム ジャイアント・アルペシン
ルディ・モラール(フランス) ←コフィディス ソリュシオンクレディ
レオ・ヴァンサン(フランス) ←クラブシクリスト エトゥプ(アマチュア)

【退団】
セバスティアン・シャヴァネル(フランス) →引退
ケニー・エリッソンド(フランス) →チーム スカイ
ムリーロ・フィッシャー(ブラジル) →引退
アレクサンドル・ジェニエズ(フランス) →アージェードゥーゼール ラモンディアル
ピエールアンリ・ルキュイジニエ(フランス) →未定
ヨアン・オフレド(フランス) →ワンティ・グループゴーベル
ローラン・ピション(フランス) →フォルトゥネオ・ヴィタルコンセプト

今週の爆走ライダー−サミュエル・デュムラン(フランス、アージェードゥーゼール ラモンディアル)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 2月18日のツール・ドゥ・オーヴァル第1ステージで優勝。自身にとっても、チームにとっても2017年シーズン初勝利となった。

2月18日のツール・ドゥ・オーヴァル第1ステージを制したサミュエル・デュムラン。チームにシーズン初勝利をもたらした Photo: Tour du Haut-Var Matin 2017

 もっとも、開幕直後のスタートダッシュはお手のもの。毎年のように勝利を挙げ、チームに勇気を与えてきた。オーヴァルでの優勝後には「この勝利がチームを勢いづけられるとうれしい」とコメント。長いシーズンを控え、チームにとってこれ以上ないモチベーションとなっていることだろう。

 身長159cmとプロトン内でもひときわ小柄だが、巧みなレース運びで存在感を示してきた。プロ生活16年目、36歳のベテランは、“小さな鉄人”の愛称がピッタリくる。若い頃から各年代ではフランス国内敵なしの強さを発揮し続けたが、今に至っても衰え知らず。そのタフさがいつまで続くのかにも注目が集まる。

 昨年は、フランス国内で開催されるレースを対象に争われる「クープ・ドゥ・フランス」で個人総合優勝。史上初となる3度目の頂点に立ち、長いキャリアに新たな勲章が加わった。

 今年も、大きなレースでは仲間をアシストしつつも、狙ったレースをきっちりモノにする彼のスタイルが見られることだろう。シーズン早々から前回の彼の走りは、きっと探さずともわれわれの目に容易に飛び込んでくるはずだ。

自国レースに無類の強さを誇るサミュエル・デュムラン。2017年もエースとして、アシストとして大車輪の働きを見せるはずだ =ツール・ド・フランス2016第18ステージ、2016年7月21日 Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。自転車情報のFacebookページ「suke’scycling world」も充実。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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