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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<198>大型スポンサー獲得で盤石のチーム体制へ UAE チームエミレーツ 2017年シーズン展望

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 UCI(国際自転車競技連合)への登録カテゴリーを問わず、ここ数年は中東に籍を置くチームが増えている。オイルマネーの恩恵による潤沢な資金力と、各国王の命を受けたいわば“国家プロジェクト”の意味合いを持つチームがそのほとんどだ。今シーズン、その1つとして誕生したのが「UAEアブダビ」。このほど、新タイトルスポンサーの就任が発表され「UAE チームエミレーツ」と改称。それらのチーム背景と合わせて、今回はチームの戦力を探っていきたい。

2月21日にエミレーツ航空がタイトルスポンサーとなることが発表され、チーム名も「UAE チームエミレーツ」に。写真は同日の発表会の様子 Photo: UAE Team Emirates

エミレーツ航空がタイトルスポンサー入り

 チーム実態としては、昨年までUCIワールドチームとして走ったランプレ・メリダを引き継ぐ形となっているが、現在に至るまでは紆余曲折あった。

UAE チームエミレーツのチームロゴ。エミレーツ航空の企業ロゴが含まれる Photo: UAE Team Emirates

 昨年8月、チーム母体がこれまでのCGSサイクリングから中国企業のTJスポートに移管されることが発表され、2017年シーズンからは中国籍チームとして活動する方針を固めた。しかし、同11月17日に発表されたUCIワールドツアーチームの発表時に、TJスポートの名はなかった。ライセンス委員会の審議の対象となり、最終的な決定まで1カ月以上を要した。

 同12月20日に発表されたのは、「UAEアブダビ」とのチーム名。TJスポートのプロジェクトリーダー、リ・ジシャン氏が病に倒れ、資金の確保が難しくなったというのが大きな理由とされた。チームは中国に見切りをつける格好となり、UAEからの資金確保にこぎつけた。

 昨年末までかかったドタバタの資金確保劇だが、2017年シーズンイン後は順調といえそうだ。2月21日、チームのタイトルスポンサーとしてエミレーツ航空が就くことを発表。いくつかの首長国を構成するUAEとしては、チームベースであるアブダビと、エミレーツ航空の本社のあるドバイとは“別の国”となるが、その点での問題は皆無のよう。エミレーツ航空といえば、サッカーやテニス、モータースポーツなどあらゆるスポーツへのスポンサー活動が盛んで知られ、優良度を算定するランキングでも毎年上位入りするなど、魅力ある航空会社としても有名。いよいよサイクルロードレース界にも進出してきた印象だ。

コスタ、マインティーズがグランツールの軸に

 チーム登録こそUAEではあるが、選手・スタッフの多くがイタリア人。登録選手26人中14人がイタリア人選手で、その色合いは昨シーズンとそう大きくは変わらない。

1月27日のブエルタ・ア・サンフアン第5ステージを制し、チームにシーズン初勝利をもたらしたルイ・コスタ。今年はジロ・デ・イタリアをターゲットにする Photo: Ilario Biondi/BettiniPhoto

 それでも、主軸となる選手はイタリア人かどうかにはこだわらない。2013年のロード世界王者、ルイ・コスタ(ポルトガル)はこのチームで4年目を迎える。

 毎年クラシックレースや1週間のステージレースで好成績を残しているが、グランツールとはいまひとつ縁がない。ツール・ド・フランスでの総合トップ10入りを狙って出場するも、大会期間中に体調を崩し不本意な結果に終わることもしばしば。

 今年は心機一転、ジロ・デ・イタリアへの出場の方針を固め、総合上位入りを狙うと宣言している。実際に出走するとなると、キャリア初のジロ参戦となるが、本人は高いモチベーションを持っている様子。山岳はもとより、2回合計67kmの個人タイムトライアル(TT)がポイントであるとし、得意とするTTステージでタイムを稼ぐことも意識する。

 リエージュ~バストーニュ~リエージュでは、昨年が3位、一昨年が4位となるなど、4月中旬から下旬にかけてのアルデンヌクラシックで活躍してきたが、今年は5月にジロへ臨むこともあってその比重は変化しそう。春には高地トレーニングを予定しており、新たなレースプログラムの採用がよい結果をもたらすかに注目が集まる。

2016年のツール・ド・フランス総合8位のルイス・マインティーズ。今年もツールで総合エースを務める予定だ =2017年1月14日、ツアー・ダウンアンダー チームプレゼンテーション Photo: Yuzuru SUNADA

 一方、ツールで総合エースを務める公算なのは、ルイス・マインティーズ(南アフリカ)。25歳の若きエースは、昨年大きな飛躍を遂げた。1月のシーズンイン後は目立ったリザルトを残していなかったが、ツールでは山岳ステージを中心に安定した走りを展開。最終的に総合8位とまとめてみせた。その後のリオデジャネイロ五輪ロードでも7位に入るなど、ピンポイントでの調整能力は評価されるべきだろう。今年も、1月にツアー・ダウンアンダーに臨んだが、総合59位とややゆっくりとしたシーズンインとなっている。

 今年がツールの新人賞・マイヨブランの対象最終年。実力的には、将来を嘱望される選手が着用するホワイトジャージの候補となるはずだ。グランツールレーサーとして着実に階段を上がっているライダーとして楽しみな存在だ。

クラシックはウリッシ、スウィフトに期待

 コスタが1月27日のブエルタ・ア・サンフアン(アルゼンチン、UCI2.1)で第5ステージで新生チームに初勝利をもたらしたが、それに続いたのがディエゴ・ウリッシ(イタリア)。2月5日に行われたワンデーレース、GPコスタ・デグリ・エトルスキ(イタリア、UCI1.1)で独走勝利を決めた。

2月5日のGPコスタ・デグリ・エトルスキで独走勝利したディエゴ・ウリッシ Photo: Dario Belingheri/BettiniPhoto

 将来的にはグランツールの総合成績を狙える選手との見方もあるが、当面はクラシックでの結果を求めていく。昨年はアムステル・ゴールドレース7位、ラ・フレーシュ・ワロンヌ8位となり、アルデンヌクラシック上位進出への地盤は固めつつある。昨年までエースを務めたコスタのレースプログラムが変わる今年、新たなチームリーダーとして春を迎えることも大いにありうる。魅力は小集団での駆け引きや勝負強さ。特に、コースが変更され、さまざまな脚質の選手たちにチャンスが生まれるアムステル・ゴールドレースの走りに期待が膨らむ。

ミラノ〜サンレモ制覇を目指すベン・スウィフト =2017年1月22日、ツアー・ダウンアンダー第6ステージ Photo: Yuzuru SUNADA

 ミラノ~サンレモで昨年2位のベン・スウィフト(イギリス)は、今年こそ優勝を目指す。過去2回表彰台を経験しており、残すはその頂点だ。ピュアスプリンターほどのスピードはないものの、登坂力がある分、人数が絞られた集団での勝負になると強さを発揮する。活躍の場を求めて環境を移した今シーズン。その判断に間違いがなかったことを証明するのは、狙ったレースでのリザルトに尽きる。

 また、ウリッシ、スウィフトともに夏にはツール出場を考えているとしている。ウリッシは近々レースプログラムを大筋決めるといい、スウィフトもツールへの意欲が強い。マインティーズを盛り立てつつも、自身もステージ優勝を視野にフランスでの3週間を戦い抜くことをイメージしていることだろう。

アブダビツアーにはベストメンバーを編成

 チームにおける最重要レースの1つが、2月23日開幕のアブダビツアー。今年からUCIワールドツアーに昇格したレースは、まさにチームの拠点での戦いだ。

 メンバーは、コスタ、マインティーズ、ウリッシ、スウィフトに加え、アンドレア・グアルディーニ、シモーネ・コンソンニ、マヌエーレ・モーリ(ともにイタリア)、クリスティアン・ドゥラセク(クロアチア)と、現時点でのベストメンバーを配した印象だ。

 今大会は、全4ステージ中3ステージがフラット。スプリンターが主役となるであろう、この3日間はスウィフトらの組み立てによってグアルディーニがフィニッシュを決める流れとなりそう。そして第3ステージが、総合成績の行方を左右する山岳ステージ。ラスト約10kmの上りでは、コスタやマインティーズ、ウリッシが勝負に出ることとなる。前述の大型スポンサー獲得も後押しとなって、地元レースで最高の成果を残したいところだ。

グランツールでの実績のあるダルウィン・アタプマが加入 =2016年8月26日、ブエルタ・ア・エスパーニャ第7ステージ Photo: Yuzuru SUNADA

 アブダビツアーのメンバーには入らないものの、オールラウンダーのヴァレリオ・コンティや実績十分のスプリンターであるサーシャ・モードロ、北のクラシックで中心になりそうなマルコ・マルカートといったイタリア人ライダーもそろう。また、昨年のジロ総合9位のダルウィン・アタプマ(コロンビア)も移籍加入を果たすなど、レースで目指す方向性に合わせたメンバー編成を可能としている点も見逃せない。

 派手さはないとはいえ、運営面も含めた堅実性が大きな成果への第一歩にあるといえるだろう。

UAE チームエミレーツ 2016-2017 選手動向

【残留】
マッテーオ・ボーノ(イタリア)
ヴァレリオ・コンティ(イタリア)
ルイ・コスタ(ポルトガル)
クリスティアン・ドゥラセク(クロアチア)
ロベルト・フェラーリ(イタリア)
マルコ・クンプ(スロベニア)
ルイス・マインティーズ(南アフリカ)
サーシャ・モードロ(イタリア)
マテイ・モホリッチ(スロベニア)
マヌエーレ・モーリ(イタリア)
プシェメスワフ・ニエミエツ(ポーランド)
シモーネ・ペティッリ(イタリア)
ヤン・ポランク(スロベニア)
ディエゴ・ウリッシ(イタリア)
フェデリーコ・ズルロ(イタリア)

【加入】
アナス・アイトエルアブディラ(モロッコ) ←セントレモンディアル・ドゥ・シクリズム(アマチュア)
ダルウィン・アタプマ ←BMCレーシングチーム
ユーセフ・ミルザ・バニハマド(UAE) ←ナスル・ドバイ
シモーネ・コンソンニ(イタリア) ←チーム コルパック(アマチュア)
フィリッポ・ガンナ(イタリア) ←チーム コルパック(アマチュア)
アンドレア・グアルディーニ(イタリア) ←アスタナ プロチーム
ヴェガールステイク・ラエンゲン(ノルウェー) ←イアム サイクリング
マルコ・マルカート(イタリア) ←ワンティ・グループゴーベル
エドワルド・ラヴァージ(イタリア) ←チーム コルパック(アマチュア)
ベン・スウィフト(イギリス) ←チーム スカイ
オリヴィエロ・トロイア(イタリア) ←チーム コルパック(アマチュア)

【退団】
新城幸也(日本) →バーレーン・メリダ
マッティーア・カッタネオ(イタリア) →アンドローニジョカットリ・シデルメック
ダヴィデ・チモライ(イタリア) →エフデジ
マリオ・コスタ(ポルトガル) →引退
フェン・チュンカイ(台湾) →バーレーン・メリダ
ツガブ・グルマイ(エチオピア) →バーレーン・メリダ
イリア・コシェヴォイ(ベラルーシ) →ウィリエールトリエスティーナ・セッレイタリア
ルカ・ピベルニク(スロベニア) →バーレーン・メリダ
シュー・ガン(中国) →未定

今週の爆走ライダー−アンドレア・グアルディーニ(イタリア、UAE チームエミレーツ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 マレーシアで開催されるツール・ド・ランカウイのスプリントで勝利を量産し、すい星のごとく現れたのが2011年。その翌年にはジロでステージ優勝を挙げるなど、トップスプリンターとしての歩みは順風満帆なはずだった。

アンドレア・グアルディーニは、2011年のツール・ド・ランカウイで鮮烈なデビューを飾った =2011年1月23日 Photo: Yuzuru SUNADA

 だが、2013年にアスタナ プロチーム入りしてからは、グランツールでの総合成績を至上命題とするチーム方針もあって、なかなか活躍の場が巡ってこなかった。ときにはスプリントでのチャンスが少ない、ブエルタ・ア・エスパーニャへ回されることもあった。毎年のように移籍を志願しながらも、フィニッシュ前でのスピードが大きな魅力ゆえ、チームも手放すのを躊躇した。だから、小さなレースでの勝利に活路を見出すしかなかった。

 そんな日々も、今シーズンが転機になるかもしれない。念願の移籍を果たし、スプリンターやスピードマンがそろうチームの一員となった。チームの重要レースである、アブダビツアーにもメンバー入り。スポンサーを満足させる大きなカードとなりえる立場となった。

 典型的なピュアスプリンターであることから、山岳はからっきし。ジロではステージ優勝した翌日に、上りでチームカーにつかまったとして、大会から除外される“珍プレー”を犯してしまったことも。そんな過去がありつつも、これからは新たな環境で生きる道を模索することになる。何よりも最大の武器であるスプリント力がチームを幾たびも救うはずだ。

 目の前までやってきた再浮上のきっかけを手繰り寄せる戦いが、彼の中で始まった。

スプリントスピードはプロトン随一。新チームで再浮上なるか(写真はアスタナ プロチーム所属時) =2016年10月8日、アブダビツアー2016第1ステージ Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。自転車情報のFacebookページ「suke’scycling world」も充実。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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