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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<196>マシューズ、デュムランら穴のない布陣 チーム サンウェブ 2017年シーズン展望

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 過去のドーピング禍を乗り越え、サイクルロードレース界が復権しつつあるドイツ。この国に籍を置き、トップシーンを主戦場とするチームが少しずつ戻ってきた。チーム サンウェブもその1つ。昨年まではチーム ジャイアント・アルペシンとして戦ってきたチームは、数人の「スーパーエース」を軸にビッグレースでの結果を求めていくことになりそうだ。今回は、そんなチームスタイルを追ってみたい。

グランツールやタイムトライアルの活躍でチームの顔となったトム・デュムラン。昨年に続き、ジロ・デ・イタリアへの出場を決めている =ジロ・デ・イタリア2016第6ステージ、2016年5月12日 Photo: Yuzuru SUNADAグランツールやタイムトライアルの活躍でチームの顔となったトム・デュムラン。昨年に続き、ジロ・デ・イタリアへの出場を決めている =ジロ・デ・イタリア2016第6ステージ、2016年5月12日 Photo: Yuzuru SUNADA

アルントがチームにシーズン初勝利をもたらす

 オーストラリアで1月29日に開催された、カデル・エヴァンス・グレートオーシャン・ロードレース。今年からUCI(国際自転車競技連合)ワールドツアーに昇格した173.9kmの戦いは、力のある選手たちが次々とアタックを繰り出しては、それをメイン集団が追う展開に。サバイバル化したレースは、最終的に23人に絞られた集団でのスプリント勝負となった。

1月29日に行われたカデル・エヴァンス・グレートオーシャン・ロードレースで、ニキアス・アルント(中央)がチームにシーズン初勝利をもたらした © Cor Vos | Team Sunweb1月29日に行われたカデル・エヴァンス・グレートオーシャン・ロードレースで、ニキアス・アルント(中央)がチームにシーズン初勝利をもたらした © Cor Vos | Team Sunweb

 ここで勝利したのが、ニキアス・アルント(ドイツ)。先駆けした選手を猛然と追いかけ、フィニッシュライン数メートル手前で逆転しての優勝だった。

 スプリンターとして、2014年のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネ第3ステージや、昨年のジロ・デ・イタリア第21ステージなど大舞台で強さを発揮してきたアルント。UCIワールドツアーのワンデーレースではキャリア初勝利を飾った。

 同時に、チームに今シーズン初勝利をもたらした。今年から新スポンサーを迎え、「チーム サンウェブ」の名に変わって初めてのタイトルでもある。

 このレースでアルントの勝利をお膳立てしたのが、ジモン・ゲシュケ(ドイツ)。集団内でのアシストから逃げまで、マルチな働きを見せるチームの大黒柱がここでも機能。終盤に逃げを試みた選手たちのアタックを阻止するべく、メイン集団を強力に牽引。この日は勝利を呼び寄せるアシストぶりが光った。

新加入のマシューズがエーススプリンターに

 7選手が今シーズン加入したが、なかでも注目されるのがマイケル・マシューズ(オーストラリア)だ。

新加入のマイケル・マシューズはエーススプリンター候補一番手。ツール・ド・フランスでの活躍を狙う =ツール・ド・フランス2016第10ステージ、2016年7月12日 Photo: Yuzuru SUNADA新加入のマイケル・マシューズはエーススプリンター候補一番手。ツール・ド・フランスでの活躍を狙う =ツール・ド・フランス2016第10ステージ、2016年7月12日 Photo: Yuzuru SUNADA

 オリカ・バイクエクスチェンジ(加入時はオリカ・グリーンエッジ)での4年間は、ジロ、ツール・ド・フランス、ブエルタ・ア・エスパーニャの全グランツールでステージ優勝を挙げ、リーダージャージを着用したこともある。2015年にはミラノ~サンレモ、アムステル・ゴールドレースでともに3位となるなど、クラシックでもたびたび上位に進出した。

 しかし、前チームではサイモン・ゲランス(オーストラリア)との棲み分けが難しい状態にあったといい、脚質こそ違えど目指すレースが同じになることが多く、どちらが勝負するかで何度も葛藤したと打ち明けている。

新たなチームジャージに身を包み走るマイケル・マシューズ © Wouter Roosenboom | Team Sunweb新たなチームジャージに身を包み走るマイケル・マシューズ © Wouter Roosenboom | Team Sunweb

 環境を変えて臨む新シーズンは、これまで同様に春はクラシックで、7月にはツールで結果を残したいとしている。具体的なレースプログラムは明かしておらず、2月に入ってからはオランダで風洞実験を実施するなど、調整段階にある様子。それでも、26歳にして実績は十分なだけに、問題なくシーズンインすることだろう。

 スプリンターの中では登板力に長ける「上れるスプリンター」。厳しい上りを経てフィニッシュへと向かうミラノ~サンレモ、アムステル・ゴールドレースといった得意どころのほか、今年9月のUCIロード世界選手権も視野に入ってきそうだ。

デュムランはジロ再挑戦

 ここ数年チームの顔として多くの注目を集めているのが、トム・デュムラン(オランダ)。タイムトライアルスペシャリストからグランツールレーサーとしての可能性を示したのが、2015年のブエルタ。リーダージャージのマイヨ・ロホを第20ステージまで着用し続け、この大会の好勝負における主役の1人となった。以来、グランツールの総合成績が期待される立場となった。

トム・デュムランは2016年、リオデジャネイロ五輪個人タイムトライアルで銀メダルを獲得 =2016年8月9日 Photo: Yuzuru SUNADAトム・デュムランは2016年、リオデジャネイロ五輪個人タイムトライアルで銀メダルを獲得 =2016年8月9日 Photo: Yuzuru SUNADA

 昨年は、8月に行われたリオデジャネイロ五輪にフォーカスしていたため、グランツールへの集中はしなかったが、それでもジロでは総合首位の証であるマリア・ローザを6日間着用。その後のツールでも頂上フィニッシュを含む2度のステージ優勝を飾り、存在感を示した。

 そして今シーズン、再びジロを目指すと表明。得意の個人タイムトライアルが控える第10ステージ(39.2km)と第21ステージ(28km)で、タイムを大きく稼ぐことができると踏んでおり、あとは険しい山岳をどう乗り越えるかが焦点となる。2年前のブエルタでは、実績に乏しく不利と見られていた山岳でも粘りに粘り、ステージ優勝まで挙げる大活躍。本来の力を持ってすれば、山岳もある程度上位でクリアできると見られ、ライバルとの差がどれほどかがポイントになるだろう。

チームプレゼンテーションに出席し、笑顔を見せるトム・デュムラン(左奥) © Wouter Roosenboom | Team Sunwebチームプレゼンテーションに出席し、笑顔を見せるトム・デュムラン(左奥) © Wouter Roosenboom | Team Sunweb

 ジロでは新加入のオールラウンダー、ウィルコ・ケルデルマン(オランダ)がアシストを務める予定。2014年のジロでは総合7位となり、将来を嘱望され続けた逸材が同国の先輩を支える。

 なお、デュムランはすでにレースプログラムを発表済み。アブダビ・ツアー(2月23~26日、UAE、UCIワールドツアー)で初戦に臨み、ストラーデ・ビアンケ(3月4日、イタリア、UCIワールドツアー)、ティレーノ~アドリアティコ(3月8~14日、イタリア、UCIワールドツアー)、ミラノ~サンレモ(3月18日、イタリア、UCIワールドツアー)と予定。その後は高地トレーニングを行い、5月5日開幕のジロへ向けた準備に入るとしている。

新スポンサーを契機に次なる局面に

 今年からタイトルスポンサーとなったサンウェブは、オランダ最大のインターネット旅行代理店。ロッテルダムに本社を置き、オランダ、ベルギー、フランス、ドイツ、デンマーク、スウェーデン、イギリスをシェア。スポーツへの出資を惜しまないことでも知られ、プロサッカーチームをはじめ、2015年から2年間はシクロクロスチームのタイトルスポンサーにも就いた。

オランダ最大のインターネット旅行代理店、サンウェブがメインスポンサーに就いた © Wouter Roosenboom | Team Sunwebオランダ最大のインターネット旅行代理店、サンウェブがメインスポンサーに就いた © Wouter Roosenboom | Team Sunweb

 また、昨年までのチーム ジャイアント・アルペシンの女子部門であった「チーム リヴ・プラントゥール」をそのまま引き継ぐ形となり、男子とともにチーム サンウェブとして今シーズンを戦う。男女のトップチームを持つ、一大サイクリングプロジェクトとして前進する。

 タイミングを同じくして、チームに新たな局面が訪れている。長きに渡ってチームを牽引してきたマルセル・キッテル(ドイツ、現クイックステップフロアーズ)が2015年、ジョン・デゲンコルブ(ドイツ、現トレック・セガフレード)が2016年限りでチームを去り、新たなチームリーダーを立てる必要に迫られている。

注目の若手オールラウンダー、サム・オーメン © Wouter Roosenboom | Team Sunweb注目の若手オールラウンダー、サム・オーメン © Wouter Roosenboom | Team Sunweb

 キッテルやデゲンコルブを中心としたスプリンターチームの趣きは、ここ数年変化しつつあったが、いよいよデュムランやケルデルマン、ワレン・バルギル(フランス)といったグランツールレーサーがチームを引っ張ることになりそう。ベテランのローレンス・テンダム(オランダ)や、昨年のジロ山岳ステージで健闘したゲオルグ・プライドラー(オーストリア)といった選手もアシストに控える。また、21歳のサム・オーメン(オランダ)は、すでに小さなステージレースを中心に活躍。将来的にグランツールの総合を狙える資質は十分だ。

スプリント、北のクラシックに働きが期待されるジーコ・ワイテンス =ツール・デ・フランドル2016、2016年4月3日 Photo: Yuzuru SUNADAスプリント、北のクラシックに働きが期待されるジーコ・ワイテンス =ツール・デ・フランドル2016、2016年4月3日 Photo: Yuzuru SUNADA

 もちろん、伝統のスプリント路線から完全に目を背けたわけではない。マシューズやアルントのほか、北のクラシックでも期待されるジーコ・ワイテンス(ベルギー)、昨シーズン5勝のマキシミリアン・ヴァルシャイド(ドイツ)のスピードは魅力。昨年のUCIロード世界選手権アンダー23で4位となったフィル・バウハウス(ドイツ)も移籍加入し、激しいチーム内競争が予想される。

 グランツールを狙う選手と、スプリンター、さらには彼らを支えるアシスト陣とをどう融合させるかに、チーム首脳陣の手腕がかかっているといえよう。

チーム サンウェブ 2016-2017 選手動向

【残留】
ソーレンクラーク・アンデルセン(デンマーク)
ニキアス・アルント(ドイツ)
ワレン・バルギル(フランス)
ロイ・クルフェルス(オランダ)
ベルト・デバッケル(ベルギー)
トム・デュムラン(オランダ)
ヨハネス・フレリンガー(ドイツ)
ジモン・ゲシュケ(ドイツ)
チャド・ハガ(アメリカ)
シンドレショスタッド・ルンケ(ノルウェー)
サム・オーメン(オランダ)
ゲオルク・プライドラー(オーストリア)
ラモン・シンケルダム(オランダ)
トム・スタムスナイデル(オランダ)
ローレンス・テンダム(オランダ)
アルバート・ティッメル(オランダ)
トム・フィーレルス(オランダ)
ジーコ・ワイテンス(ベルギー)
マキシミリアン・ヴァルシャイド(ドイツ)

【加入】
フィル・バウハウス(ドイツ) ←ボーラ・アルゴン18
クリス・ハミルトン(オーストラリア) ←アヴァンティ・アイソウェイスポーツ
レナード・ホフステッド(オランダ) ←ラボバンクデベロップメントチーム
レナード・ケムナ(ドイツ) ←シュテルティング サービスグループ
ウィルコ・ケルデルマン(オランダ) ←チーム ロットNL・ユンボ
マイケル・マシューズ(オーストラリア) ←オリカ・バイクエクスチェンジ
マイク・テウニッセン(オランダ) ←チーム ロットNL・ユンボ

【退団】
クーン・デコルト(オランダ) →トレック・セガフレード
ジョン・デゲンコルブ(ドイツ) →トレック・セガフレード
ジ・チェン(中国) →引退
フレドリク・ルドヴィグソン(スウェーデン) →コペンハーゲンプロサイクリング
トビアス・ルドヴィグソン(スウェーデン) →エフデジ
ラルス・ファンデルハール(オランダ) →テレネット・フィデアライオンズ

今週の爆走ライダー-ニキアス・アルント(ドイツ、チーム サンウェブ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 シーズン序盤であることを忘れさせる大激戦となったカデル・エヴァンス・グレートオーシャン・ロードレース。最終局面でもっともスプリントが冴えたのは、アルントの脚だった。プライベートでは、お気に入りのバカンススポットだというオーストラリア。そんな愛称抜群の国で、最高のシーズンインを果たした。

2016年のジロ・デ・イタリア第21ステージを制したニキアス・アルント =2016年5月29日 Photo: Yuzuru SUNADA2016年のジロ・デ・イタリア第21ステージを制したニキアス・アルント =2016年5月29日 Photo: Yuzuru SUNADA

 プロ5年目の25歳。現チーム一筋でキャリアを歩み続けている。ルーキーイヤーから勝利を挙げ、当時チームメートだったキッテルやデゲンコルブに続くスプリンターとして早くから期待をされてきた。勝利を量産する彼らほどの派手さは見せていないが、勝ったときのインパクトは大きい。ドーフィネやジロを制したときがまさにそれだ。

 そんな彼にも今年は明確な目標がある。自国出発となるツールへの参戦だ。これまではチーム事情もあり、ジロかブエルタに回ってきたが、今年は初のツール出場に燃える。マシューズ、バウハウス、ヴァルシェイドらスプリンターたちとの棲み分けが重要だと自己分析し、3週間の戦いに耐えうるフィジカルの持ち主がデュッセルドルフでの開幕を迎えられると考えている。その意味では、実績やグランツール経験の豊かさでツール出場へのチャンスは大きい。

 シーズンの出足は好調なだけに、もうひとつアピールをして存在を確かなものにしたい。大好きだというミラノ~サンレモやパリ~ルーベで結果を残して、チームに欠かせない人物であることを首脳陣に認めさせたい。今回の勝利は、それらへの大きなモチベーションとなった。真夏のオーストラリアから始まる快進撃。自らの意志とともに、今年はその走りから大きな成果を生むはずだ。

海をバックに、カデル・エヴァンス・グレートオーシャン・ロードレース優勝トロフィーを掲げるニキアス・アルント © Cor Vos | Team Sunweb海をバックに、カデル・エヴァンス・グレートオーシャン・ロードレース優勝トロフィーを掲げるニキアス・アルント © Cor Vos | Team Sunweb
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。自転車情報のFacebookページ「suke’scycling world」も充実。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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