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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<191>フルームのツール3連覇へ堅実なチーム体制 チーム スカイ 2017年シーズン展望

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 年が変わり、UCI(国際自転車競技連合)ワールドツアー開幕戦であるツアー・ダウンアンダーが近づいてきた。すでにいくつかのチームではシーズン序盤戦の参加メンバーが発表となるなど、準備は本格化している。このコーナーでも引き続き、有力チームの今シーズン展望をお届けしていく。今回はプロトン随一のビッグチーム、チーム スカイ。クリストファー・フルーム(イギリス)を中心とした陣容で、グランツールやステージレースを中心に活躍が期待される。

トレインを成してプロトンを率いるチーム スカイの選手たち。左から2人目がクリストファー・フルームだ =ツール・ド・フランス2016第14ステージ、2016年7月16日 Photo: Yuzuru SUNADAトレインを成してプロトンを率いるチーム スカイの選手たち。左から2人目がクリストファー・フルームだ =ツール・ド・フランス2016第14ステージ、2016年7月16日 Photo: Yuzuru SUNADA

フルームはツール3連覇へのスタート間近

 昨シーズン前半は調整も兼ねてのレースでエンジンを温め、6月開催の“ツール前哨戦”クリテリウム・ドゥ・ドーフィネからギアを上げていったフルーム。本番となるツールではトップギアに入れ、前評判通りの強さで2年連続3度目の個人総合優勝を果たした。

ツール・ド・フランスで2年連続3度目の優勝を果たしたクリストファー・フルーム。2017年は3連覇が目標となる =ツール・ド・フランス2016第21ステージ、2016年7月24日 Photo: Yuzuru SUNADAツール・ド・フランスで2年連続3度目の優勝を果たしたクリストファー・フルーム。2017年は3連覇が目標となる =ツール・ド・フランス2016第21ステージ、2016年7月24日 Photo: Yuzuru SUNADA

 そのままの勢いで、次々と訪れるターゲットに向かい、リオデジャネイロ五輪では個人タイムトライアル銅メダル、ブエルタ・ア・エスパーニャでは総合2位と、シーズン後半はハードスケジュールとなりながらも一定の成果は残した。

 秋以降、ロシアのハッカー集団「ファンシーベアー」によるWADA(世界アンチ・ドーピング機関)へのサイバー攻撃によるTUE(治療目的使用に係る除外措置)申請問題で名前が挙がり、幾分穏やかならぬ状況となったこともあってか、例年と比べ静かにシーズンオフを送った印象だ。

 迎える今シーズンは、もちろんツール制覇が最大の目標だ。4度目の個人総合優勝ならびに3連覇を達成すべく、まずは1月29日のカデル・エヴァンス・グレートオーシャンロードレース(オーストラリア、UCIワールドツアー)で初戦に臨み、そのまま2月1~5日のヘラルド・サン・ツアー(オーストラリア、UCIオセアニアツアー2.1)にも出場する。

 その後のスケジュールは具体化されていないが、昨年の流れを参考にするならばボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャ(3月20~26日、スペイン、UCIワールドツアー)、リエージュ~バストーニュ~リエージュ(4月23日、ベルギー、UCIワールドツアー)、ツール・ド・ロマンディ(4月25~30日、スイス、UCIワールドツアー)、クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ(6月4~11日、フランス、UCIワールドツアー)、そして7月1日のツール開幕を迎える形となる。昨年とまったく同じレースをセレクトするかは不明だが、プログラム的には同時期のレースを選びながらツールへと進んでいくことだろう。

クリストファー・フルームはバリエーションに富んだ戦い方でライバルとの差を開こうと企てるだろう =ツール・ド・フランス2016第15ステージ、2016年7月17日 Photo: Yuzuru SUNADAクリストファー・フルームはバリエーションに富んだ戦い方でライバルとの差を開こうと企てるだろう =ツール・ド・フランス2016第15ステージ、2016年7月17日 Photo: Yuzuru SUNADA

 5月には32歳となるが、トップシーンにおいてはまだまだ老け込む年齢ではない。山岳での爆発的なアタックや個人TTでの強さはもとより、昨年のツールで見せたようなダウンヒルでの加速や強風を利用したアタックなど、戦い方のバリエーションも増えている。今後フィジカル面で劇的に進化することは考えにくいが、よりクレバーな走りでライバルと引き離す、そんな姿が見られることだろう。

 また、年間で2つのグランツールを制する「ダブル・ツール」への意欲を見せるかにも注目。ツール以外のグランツール制覇経験はなく、ブエルタ・ア・エスパーニャでは総合2位になること3回。ツールで勝つことを最大のミッションとしたときに、5月に開催されるジロ・デ・イタリアに出場することはあり得ないとのスタンスのため、狙うならばツールとブエルタでの連勝となる。まずはツールを戦い、その後の心身状態を見ながらブエルタへの参戦を決めることになりそうだ。

トーマス、ランダらグランツールのエース候補は多数

 フルームに目が行きがちにはなるが、ほかにもグランツールでエースを務められるだけのライダーがひしめいている。

これまで山岳アシストとして貢献してきたゲラント・トーマス。ジロかブエルタでの総合エースを狙う =ツール・ド・フランス2016第5ステージ、2016年7月6日 Photo: Yuzuru SUNADAこれまで山岳アシストとして貢献してきたゲラント・トーマス。ジロかブエルタでの総合エースを狙う =ツール・ド・フランス2016第5ステージ、2016年7月6日 Photo: Yuzuru SUNADA

 ここ数年はフルームの山岳アシストとして大きく貢献してきたゲラント・トーマス(イギリス)は今シーズン、自身が総合エースを任される形でグランツールに臨むことを希望している。

 ツールでフルームをアシストしながら自らの総合成績を狙うのは難しいとし、「100%であれば総合上位を狙える」との考えからジロかブエルタ、またはその両方への出場を考えているという。かつてはグランツールライダーとなるのか、本来得意とする石畳系をメインとするクラシックライダーとなるのかで悩んだ時期もあるが、いよいよ3週間のレースで真価を発揮しようとの心積もりだ。

首脳陣からの期待が高いミケル・ランダ =ツール・ド・フランス2016第7ステージ、2016年7月8日 Photo: Yuzuru SUNADA首脳陣からの期待が高いミケル・ランダ =ツール・ド・フランス2016第7ステージ、2016年7月8日 Photo: Yuzuru SUNADA

 トーマスと並び、チームの首脳陣からの信頼と評価が高いのはミケル・ランダ(スペイン)。昨シーズン鳴り物入りで加入したクライマーは、ジロでその力を見せるはずだったが、体調不良もあり途中リタイア。その後はツールでフルームのアシストを務めた。こちらも得意のジロ出場が考えられ、トーマスと共闘の可能性が出てきている。

 トーマスとランダ、両者の戦い方は異なる。トーマスは山岳での安定した走りで上位につけ、個人TTでタイムを稼ぐ戦法。ランダは圧倒的な登板力を武器に、急峻な山岳でライバルとのタイム差をつける。TTが課題ではあるが、徐々に改善されてきており、ジロで控える長距離個人TT(第10ステージ39.2km)で食らいつきたい。

 そのほかにも実力・実績申し分なしの選手ぞろい。昨年のリエージュ~バストーニュ~リエージュ優勝のヴァウテル・プールス(オランダ)、昨年ツール総合12位のセルヒオルイス・エナオ(コロンビア)も今年はエース候補に名が挙がる。例年のごとく、首脳陣は悩まされることとなるが、これまで適材適所の選手配置で数々の大成功を収めてきただけに、フルーム以外の有力選手についても、脚質や出場するレースのコース特性を見ながらベストなポジションを与えていくことになるだろう。

2016年はリエージュ~バストーニュ~リエージュを制したヴァウテル・プールス =2016年4月24日 Photo: Yuzuru SUNADA2016年はリエージュ~バストーニュ~リエージュを制したヴァウテル・プールス =2016年4月24日 Photo: Yuzuru SUNADA
2016年のツールではアシストをしながら総合12位に食い込んだセルヒオルイス・エナオ =ツール・ド・フランス2016第18ステージ、2016年4月21日 Photo: Yuzuru SUNADA2016年のツールではアシストをしながら総合12位に食い込んだセルヒオルイス・エナオ =ツール・ド・フランス2016第18ステージ、2016年4月21日 Photo: Yuzuru SUNADA

クラシック、スプリントも充実の陣容

 適材適所の選手配置といえば、グランツールに限らず、さまざまなレースやあらゆる展開に対応できる選手をそろえている点に強みがある。

復活が待たれるミハウ・クフィアトコフスキー =ブエルタ・ア・エスパーニャ2016第2ステージ、2016年8月21日 Photo: Yuzuru SUNADA復活が待たれるミハウ・クフィアトコフスキー =ブエルタ・ア・エスパーニャ2016第2ステージ、2016年8月21日 Photo: Yuzuru SUNADA

 昨年はプールスがリエージュを制し、チームとして初めてアルデンヌクラシックでの勝利の栄誉が加わった。今年はプールスの連覇なるか見ものだが、同時に所属2年目のミハウ・クフィアトコフスキー(ポーランド)の完全復活も待たれる。

 2014年の世界王者の肩書きを引っさげ、昨年鳴り物入りでチームに加入。3月のE3ハーレルベーケ優勝で最高の滑り出しに見えたが、その後は不調。ステージレースではリタイアが続き、ツール出場を逃すと、ブエルタではリーダージャージを1日着用したものの第7ステージで大会を去った。目立ったものといえば、リオ五輪で逃げグループで展開し、ラファウ・マイカ(ボーラ・ハンスグローエ)の銅メダルをお膳立てしたくらい。

 かつてはグランツールでの可能性も模索した時期があったが、まずは得意とする1週間のステージレースとアルデンヌクラシックで結果を残したい。特にアムステルゴールドレースとの相性はよく、2015年にはマイヨアルカンシエルを着用して優勝。石畳系のレースにも適性があり、復調なれば北のクラシックも含めた春のクラシックシーズンで大車輪の働きを見せるかもしれない。

 その北のクラシックでは、イアン・スタナードとルーク・ロウ(ともにイギリス)が中心となる。特にパヴェ(石畳)の上では絶対的な力を見せるスタナードには、パリ~ルーベ優勝の期待も膨らむ。パワーを生かし、人数を絞って小集団での勝負になれば強さを発揮する。

 リオ五輪トラック・オムニアム(混成競技)で金メダルを獲得したエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア)は、押しも押されもせぬスプリントエース。昨年はトラック比重を高めた関係で、ロードで特筆すべき成績は残せなかったが、今年はミラノ~サンレモやジロといった地元レースで活躍が見られるか。

パリ~ルーベ制覇に期待がかかるイアン・スタナード(中央) =パリ~ルーベ2016、2016年4月10日 Photo: Yuzuru SUNADAパリ~ルーベ制覇に期待がかかるイアン・スタナード(中央) =パリ~ルーベ2016、2016年4月10日 Photo: Yuzuru SUNADA
2016年はトラックで結果を残したエリア・ヴィヴィアーニ。新シーズンはロードの比重を高める =ティレーノ~アドリアティコ2016第4ステージ、2016年3月12日 Photo: Yuzuru SUNADA2016年はトラックで結果を残したエリア・ヴィヴィアーニ。新シーズンはロードの比重を高める =ティレーノ~アドリアティコ2016第4ステージ、2016年3月12日 Photo: Yuzuru SUNADA

 そのほかでは、23歳のダニー・ファンポッペル(オランダ)は昨年、スプリントで4勝を挙げ、勝負強さを発揮。ヴィヴィアーニに並ぶ存在となりつつある。2015年の個人TT世界王者ヴァシル・キリエンカ(ベラルーシ)は、グランツールでは山岳アシストとして走り、シーズン後半にはUCIロード世界選手権で個人TTタイトル奪還に燃えることだろう。

 新加入選手は6人。リオ五輪トラック・チームパシュート(団体追抜)金メダリストのオウェイン・ドゥール(イギリス)は北のクラシックで、すでにプロでの実績のあるケニー・エリッソンド(フランス)とディエゴ・ローザ(イタリア)はともに山岳アシストとして即戦力に名が挙がっている。

 なお、今年からジャージサプライヤーがイタリアンブランドのカステリとなり、デザインが一新された。選手たちからも好評で、そのいでたちがプロトン内でどう映るかが楽しみ。バイクフレームはピナレロが継続となる。

ジャージサプライヤーがカステリに変わり、デザインが一新した Photo: Team Skyジャージサプライヤーがカステリに変わり、デザインが一新した Photo: Team Sky

チーム スカイ 2016-2017 選手動向

【残留】
イアン・ボズウェル(アメリカ)
フィリップ・デイグナン(アイルランド)
クリストファー・フルーム(イギリス)
ミハウ・ゴワシュ(ポーランド)
セバスティアン・エナオ(コロンビア)
セルヒオルイス・エナオ(コロンビア)
ベニャト・インチャウスティ(スペイン)
ピーター・ケニャック(イギリス)
ヴァシル・キリエンカ(ベラルーシ)
クリスティアン・クネース(ドイツ)
ミハウ・クフィアトコフスキー(ポーランド)
ミケル・ランダ(スペイン)
ダビ・ロペス(スペイン)
ジャンニ・モスコン(イタリア)
ミケル・ニエベ(スペイン)
アレックス・ピータース(イギリス)
ヴァウテル・プールス(オランダ)
サルヴァトーレ・プッチョ(イタリア)
ルーク・ロウ(イギリス)
イアン・スタナード(イギリス)
ゲラント・トーマス(イギリス)
ダニー・ファンポッペル(オランダ)
エリア・ヴィヴィアーニ(イタリア)

【加入】
ジョナサン・ディッベン(イギリス) ←チーム ウィギンス
オウェイン・ドゥール(イギリス) ←チーム ウィギンス
ケニー・エリッソンド(フランス) ←エフデジ
タオ・ゲオゲガンハート(イギリス) ←アクシオン・ヘーゲンズバーマン
ディエゴ・ローザ(イタリア) ←アスタナ プロチーム
ルーカス・ヴィシニオウスキー(ポーランド) ←エティックス・クイックステップ

【退団】
アンドルー・フェン(イギリス) →アクアブルースポート
レオポルド・ケニッグ(チェコ) →ボーラ・ハンスグローエ
ラーシュペッテル・ヌールハウ(ノルウェー) →アクアブルースポート
ニコラ・ロッシュ(アイルランド) →BMCレーシングチーム
ベン・スイフト(イギリス) →UAEアブダビ
ハビエル・サンディオ(スペイン) →引退

今週の爆走ライダー-ベニャト・インチャウスティ(スペイン、チーム スカイ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 2017年シーズンに向けたミーティングのため、所属する選手たちがイギリス・マンチェスターに集合。その際、「あなたは誰?」との冗談で迎えられたのだという。

モビスター チーム時代にはジロを中心に活躍していたベニャト・インチャウスティ =ジロ・デ・イタリア2015第8ステージ、2015年5月16日 Photo: Yuzuru SUNADAモビスター チーム時代にはジロを中心に活躍していたベニャト・インチャウスティ =ジロ・デ・イタリア2015第8ステージ、2015年5月16日 Photo: Yuzuru SUNADA

 それもそのはず、2016年はわずか15レースしか走ることができなかった。2月初旬のステージレースを総合3位で終えた直後、ウイルスに感染し戦線離脱。6月に復帰したものの、体調を好転させることはできず、1カ月後には誰よりも早いシーズンオフに入ってしまったのだ。

 ジロ・デ・イタリアでは2013年に総合8位となり、途中ではリーダージャージのマリアローザを着用したこともある。躍動感溢れる山岳での走りを持ち味に、ステージレースでの安定感を買われて現チームに加わった。その1年目であった昨年は、ランダ直々の依頼もあって、同じレースプログラムでアシストを務める予定でもあった。

 それが台無しとなってしまった深刻な体調不良。現在も状態が読めず、今年のレース予定が組みにくいという実情がある。「長期的には考えず、レースのたびによい走りをして、どこまでレベルを戻せるか次第だ」。焦らず一歩一歩復活への道筋を歩もうと決めた。

 その足がかりとして、この冬は自国でシクロクロスに参戦。急遽バイクを手配し、アマチュア時代以来のオフロードレースを楽しんだ。ここをきっかけに、徐々にトレーニング強度も上げていく。チームの誰もが彼の苦労を知るだけに、戦列に戻ることを心待ちにしている。

 早くから期待されたスパニッシュオールラウンダーも30歳となった。今がキャリアの正念場といえそうだ。「体は正直だ」と自覚する体調不良という壁を乗り越えられるか、見守っていきたい。

ウイルス感染からの復調を期すベニャト・インチャウスティ。完全復活なるか =ジロ・デ・イタリア2015第13ステージ、2015年5月22日 Photo: Yuzuru SUNADAウイルス感染からの復調を期すベニャト・インチャウスティ。完全復活なるか =ジロ・デ・イタリア2015第13ステージ、2015年5月22日 Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。自転車情報のFacebookページ「suke’scycling world」も充実。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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