“自転車革命都市”ロンドン便り<48>激動の1年 さらなる進化を遂げたロンドンの自転車交通事情
この原稿を書いております今は12月24日、イギリスはクリスマスを12月25日に祝い、その後3日間くらいは全国的に休日になるので、イブはあくまでも準備の日、買い足りないプレゼントや翌日のごちそうの材料を駆け込みで買う大晦日のような殺気立った日です。テレビもぼちぼち特別番組編成に変わって大晦日感漂う中、自転車革命ロンドンの2016年がどうだったかをちょっと振り返って革命の進捗をご報告したいと思います。いやぁ、今年も激動の年でありました。
自転車乗車中の事故は改善傾向
自転車について1年の振り返りというとこの話題は避けて通れないので、気が重いものから最初に。今年、ロンドンで自転車に乗車中に事故で亡くなった人の数は8人(まだあと1週間ありますがこれ以上増えないよう祈りつつ)。2014年が13人、2015年9人、2016年が8人で済めば、そしてこの期間の自転車人口の急増を考えるとかなり下がってきたと言えます。自転車人口が現在の数分の1だった1990〜2000年代の平均が15人前後なのを考えても改善してきています。
ちなみに東京都は2015年で自転車乗車中の事故死者数33人。2016年は10月末で28人。人口比で東京はロンドンの1.5倍であることを考えると、東京の事情はかなり悪いなぁと思わされます。ロンドンでこれだけ危ないのに東京はさらに危ないのかと(もっとも、日本は自転車の右側通行などによる交差点での出会い頭衝突や高齢者の事故数が多いなどあきらかなポイントが見えるので、それはまたの機会にでも)。
自転車道整備でサイクリストが半年で1.5倍増

インフラ面では明るい話題がいくつもありました! まずはこの春オープンした「サイクルスーパーハイウェイ」(CS)の東西と南北線。この連載でも過去にレポートしてきたので、覚えている方もいらっしゃるかも。ロンドンが導入してきているさまざまな自転車インフラの中でも目玉であったわけですが、11月末に出された中間報告では導入後に東西、南北それぞれ同じルートを走るサイクリストの数が1.5倍超に増えたことが確認されました。たった半年でこれなので、今後さらに増えていくでしょう。
そして「サイクルクワイエットウェイ」(QW)という、裏通りをつないだネットワークも1号が正式に開通し、2号以降7号線まで部分開通が進んできました。CSが主に表通りを走り、たくさんの自転車を流せる構想なのに対し、QWは自転車の初心者やゆっくり走りたい人が安心して走れるようにというものです。7月に掲載した記事内でご紹介した動画の最後の自転車レーン専用信号はQW2号線に敷設されたものです。


これらのサイクルレーンの成果として、テムズ川にかかるCS南北線のブラックフライアーズ橋では全交通量の70%が自転車、ビッグベンのお膝元のCS東西線では50%が自転車という状況にもなってきました。自転車レーンは道路面積の30%ほどなので、この率の高さには自動車派もグウの音も出ないはずです。


事故多発ポイントにさらなる英断
さらに、世界の金融都市として知られるロンドン都心のシティでは、イングランド銀行があるためにずばり「バンク」という名前の付いている五叉路で来年の春から1年半試験的に、平日朝7時〜夜7時の間、公共バスと自転車、歩行者以外通行禁止になるという発表が11月下旬にありました。
交通量が多い上に五叉路の複雑な作りでサイクリストや歩行者の事故死傷者が多すぎる特異なポイントだったので当然といえばそうなのですが、幹線が交差する要所であるために規制はまず無理だろうと思いきや! シティ行政区の英断に、自転車と歩行をプッシュする人たちや団体は大歓迎の声を上げています。
やはり以前の記事で写真をご紹介した、試験的に自動車レーンを1方向潰して自転車レーンを拡幅したロンドン大学周辺の道では、利用者と住民アンケートでなんと8割近い人が継続に賛成。春にまとめられる報告と今後の方針では、アムステルダムやコペンハーゲン的な車道から一段上がったサイクルレーンになると期待されています。
@CharlieParish1 @cyclingkate @london_cycling it has certainly improved along there…. pic.twitter.com/NPNWt13fJq
— thefireuk (@thefireuk) 2016年12月20日
西ロンドンのキングストン・アポン・テームズも、自転車対策を重点的に行って効果を見る「ミニ・オランダ化予算」をもらった地区。同じ道がこの通りの変化! ※ミニ・オランダ化については当連載19回でご紹介
自転車革命の続行に市民も後押しを

時期が少し遡りますが、ロンドン新市長に自転車革命の続行を公約した労働党のサディク・カーン氏が当選したことも朗報でした。保守党のライバル候補はうまく行っていないと思ったらCSをはがして車道に戻すことも検討すると言っていたので、彼が当選していなければロンドン自転車革命はそこまでだったかもしれません。
もっともこのカーン市長、さっそく自転車予算を倍増したりと幸先良かったのですが、多くの自転車推進派が次のターニングポイントと目しているCS11の建設計画発表を半年延期。CS9もルートを見直すことに。一部の政治家やお役人、一部の大企業の偉い人、一部の声の大きい地元住民などなどの「(俺様の乗る)自動車を通れなくして自転車かよ!」といういつもの反対にひるんでいるのではないかと噂されています。
前市長ジョンソン氏はそのあたり空気を読まない力があったけれど、カーン氏は常識人のようなので、市民がしっかり押していかなければならないようです。

ロンドン在住フリー編集者・ジャーナリスト。自動車専門誌「NAVI」、女性ファッション誌などを経て独立起業、日本の女性サイトの草分けである「cafeglobe.com」を創設し、編集長をつとめた。拠点とするロンドンで、「運転好きだけれど気候変動が心配」という動機から1999年に自転車通勤以来のスポーツ自転車をスタート。現在11台の自転車を所有する。ブログ「yokoaoki.com」を更新中。