福光俊介の「週刊サイクルワールド」<2017新春特別編・後編>ツール・ド・フランス2017のレース展開を大予想 有力選手は重要ステージをこう戦う!
1月2日の「週刊サイクルワールド」新春特別編・前編に続き、今年もツール・ド・フランスの大予想をしていきたいと思います。あくまでも筆者の独断ではありますが、勝負のうえで重要となるであろうステージを押さえ、マイヨジョーヌの行方やステージ優勝者を占ってみます。「有力選手はこう戦う!」というのをしっかりとチェックしていきます。どうぞ一緒にツール2017への思いを馳せていきましょう。
数少ない頂上フィニッシュをものにできるか
現時点では全コース分のコースレイアウトが出揃っていないため、ステージごとに細かい予見をしていくのは難しいが、すでにルート内容が明らかになっているステージをポイントにしながらレースの予想をしていきたい。

今年のツール第1ステージは、ドイツ・デュッセルドルフでの13km個人タイムトライアル(TT)。TTスペシャリストが最初のマイヨジョーヌ獲得にあずかる。ここは地元開幕に燃えるトニー・マルティン(ドイツ、チーム カチューシャ・アルペシン)がものにすると見る。
第2ステージ(デュッセルドルフ~リエージュ、202km)はスプリント勝負が見込まれている。プロトンも大会序盤とあり、無理はせず最終局面に備えることだろう。マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ)、アンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル)、マルセル・キッテル(ドイツ、クイックステップフロアーズ)らの競演。カヴェンディッシュはツール通算勝利数を重ねられるか。


マイヨジョーヌに最初の動きが起きそうなのは、パンチャー向けのコースセッティングが予定される第3ステージ(ヴェルヴィエ~ロンウィ、202km)。短い上りの連続をクリアし、フィニッシュ前での攻防を制するのはフレッヒ・ヴァンアーヴルマート(ベルギー、BMCレーシングチーム)か。昨年に続くマイヨジョーヌ着用となりそう。続く第4ステージ(モンドルフ・レ・バン~ヴィッテル、203km)はスプリントとなり、カヴェンディッシュらが再び勝負する。

この大会最初の本格山岳である第5ステージ(ヴィッテル~ラ・プロンシュ・デ・ベル・フィーユ、160km)で、総合優勝候補たちが早くも動き出すこととなりそうだ。なぜなら、3つしかない頂上フィニッシュの1つで、フィニッシュ手前は最大勾配20%にも達する高難度の山岳だからだ。強力アシストに守られつつ、重要局面に突入する選手たち。ここ一番で強さを発揮するのは、やはりクリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ)。わずかな差でナイロアレクサンデル・キンタナ(コロンビア、モビスター チーム)、ロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール ラモンディアル)らも続くが、力に陰りが見られるアルベルト・コンタドール(スペイン、トレック・セガフレード)は苦しいか。第1ステージでのタイム差次第ではあるが、マイヨジョーヌはフルームへと移ると見る。

各チームのトレインが美しく並ぶであろう、第6ステージ(ヴズール~トロワ、216km)、第7ステージ(トロワ~ニュイ・サン・ジョルジュ、214km)の2日間。スプリントチームと、総合エースの危険回避を目的とするチームによる主導権争いが見ものだが、最後はスプリンターがステージ勝利を手にする。前述の有力スプリンターはもちろんだが、そろそろナセル・ブアニ(コフィディス ソリュシオンクレディ)らのフレンチスプリンターが「本気」を見せてくれてもよい頃だ。
第1週の終え方は、その先の戦いにつながる大切な指標だ。ジュラ山脈へと突入する第8ステージ(ドール~スタティオン・レ・ルス、187km)を走る頃には、戦いに慣れた若きクライマーたちが総合争いをかき乱すくらいの勢いを見せ始めるかもしれない。その最有力候補は、昨年の総合4位アダム・イェーツ(イギリス、オリカ・スコット)。新人賞のマイヨブランはもちろん、フルームらライバル次第では少しの間マイヨジョーヌを「借り受ける」なんてことも許されそう。

翌日の第9ステージ(ナンテュア~シャンベリー、181km)は、最後の山岳頂上からフィニッシュまで25km。後手を踏んだクライマーたちを置き去りにしようと努める総合上位陣と、大慌てで戻ろうとする選手たちとのダウンヒルでの駆け引きが見られるはずだ。
第1週を終えてのマイヨジョーヌは、アダム・イェーツと予想する。
ピレネー、中央山塊で波乱あるか
休息日に一行はフランス南部へと移動。第2週はピレネー山脈へと向かう。

第10ステージ(ペリグー~ベルジュラック、178km)、第11ステージ(エイメ~ポー、202km)はいずれもスプリンター有利の平坦ステージ。ポイント賞のマイヨヴェールを意識した戦いがこの頃には始まっているはず。最多タイの6連覇がかかるペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)も、着々と「戦闘開始モード」に入っていることだろう。
中盤の最重要ステージとも言われる第12ステージ(ポー~ペイラギュード、214km)。この大会2回目の頂上フィニッシュとあり、総合争いにも動きが起こるはずだ。一度マイヨジョーヌを譲ったフルームが再びエンジンを点火。最大勾配16%の急坂で一気にアタックを仕掛け、ライバルをふるい落とすと見る。フルームに対抗できるとすればキンタナくらいか。それでも、フルームは誰にも前を明け渡すことなく、ステージ優勝とマイヨジョーヌを奪還する。

波乱が起きるとするならば、フランス革命記念日(7月14日)に行われる第13ステージ(サン・ジロン~フォワ、100km)ではなかろうか。中盤にかけて難易度の高い山岳が3つありながら、レース距離が短い。総合で遅れを喫している選手たちにとっては、捨て身で攻撃に出たい1日だ。一方で、マイヨジョーヌを守りたいフルームも、ライバルのこうした動きは読んでいることだろう。どのアタックまで許すかの判断は、勝負センスの問われるところ。仮にアシストを失ったとしても、結果的に自らの力で状況を打開すると思われる。また、この日の勝者はダウンヒラーの一面を持つバルデ。フランス全土の期待を一身に背負っての勝利は、総合ジャンプアップにつなげることだろう。
ピレネーに別れを告げると、迎えるは中央山塊。第14ステージ(ブラニャック~ロデーズ、181km)は逃げが容認されることとなりそうだ。パンチャー向けのレイアウトが予定されており、ここに新城幸也(バーレーン・メリダ)が含まれるとなればチャンスは膨らむ。もちろん、多くの選手がこのステージを狙うはずだ。激戦を制し、歴史的な1日とできるか。
第2週最終日の第15ステージ(レザック・セヴェリャック・レグリーズ~レ・ピュイ・アン・ヴレ、189km)も、2日前のステージ同様に波乱に満ちた1日となると見ている。序盤からの逃げを急がせる一方で、総合上位陣の駆け引きはこの日最後の山岳となるコル・ド・ペイラ・タイラードで激しさを増しそうだ。頂上を越えると、フィニッシュまでの31kmは下り基調。ここで単独ないし数人で抜け出し、加速しようものならライバルに焦りを呼ぶことは必至。キンタナやバルデらが上手く立ち回り、フルームに数秒の差を稼いでフィニッシュすると、この後の戦いに楽しみが膨らむ。
それでも、マイヨジョーヌはフルームがキープしていると予想。運命の第3週へと移る。
総合力が試される第3週
2回目の休息日を経て迎える第3週。その初日となる第16ステージ(レ・ピュイ・アン・ヴレ~ロマン・シュル・イゼール、165km)は平坦ステージだが、風が吹けば集団を分断させる可能性があるとも言われる。タフな展開になればなるほど、強さを発揮するのは現役世界王者のサガン。この頃にはマイヨヴェールを身にまとっていることが考えられるが、その立場を磐石とする勝利を収めるのではないか。
いよいよツールはアルプスへと突入。4つの山を越えてフィニッシュへと下る第17ステージ(ラ・ミュール~セール・シュヴァリエ、183km)。最後に上るのは、おなじみガリビエ峠。数々の名勝負が繰り広げられた山だけに、アタックの応酬となることだろう。だが、その後のダウンヒルが28kmあり、仮に上りで遅れても下りで追撃は可能。ステージ勝利は逃げメンバーに譲り、総合上位陣は一団のままフィニッシュへと到達しそうだ。

有力選手の多くが目を向けているのが、第18ステージ(ブリアンソン~イゾアール、178km)だ。この大会最後の山岳ステージであり、イゾアール峠の頂上を目指すルートはマイヨジョーヌにもっともふさわしい選手をセレクトする舞台となる。ここまでマイヨジョーヌを着続けてきたフルームだが、簡単には攻略できないのではないか。そう、第3週に絶対的な力を見せるキンタナが立ちはだかるのだ。キンタナは早い段階から小刻みにアタックを繰り返し、どこかのタイミングでフルームらライバルを引き離しにかかる。勢いに乗ったキンタナは、十分なタイム差を得てフィニッシュへとやってくる。かたや、フルームは大切なこのステージでよもやのバッドデイ襲来。何とか、バルデやリッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシングチーム)らとそう変わらぬ順位でやってくるが、マイヨジョーヌを明け渡す形に。ついに、キンタナが王座奪取に向けて黄色のジャージをまとう日が訪れる。
最長距離の第19ステージ(アンブラン~サロン・ド・プロヴァンス、220km)が予想されているが、プロヴァンス地方特有の強い風にプロトンは悩まされそうだ。大人数で進むと見られる逃げ集団に対し、エーススプリンターを勝利に導きたいメイン集団の大半とで熾烈な攻防が展開されるだろう。このステージは逃げグループに軍配か。

この大会の個人タイムトライアルは、第1ステージ13km、そして第20ステージ(マルセイユ~マルセイユ)の23kmと、近年と比較して短く、総合争いにおいては山岳の比重が高くなった印象だ。その分、上りや下り、そしてTTを絡めて勝負を激しくしようとの主催者の思惑も垣間見られる。それが見事にヒットする2017年大会だと筆者は思っている。そう、マイヨジョーヌの行方はこの日まで混沌としているのではないかと考えているのだ。
ツールの王者となるためには、あらゆる地形やコースレイアウトをクリアしなければならない。それがはっきりとするのが、マルセイユでの23km個人TTではないか。

数秒差でやってきたこの日のステージ。TTの強さで見るならば、これまで数々の快走を披露してきたフルームに一日の長がある。2日前こそ苦しんだが、TTはしっかりと走り、失ったタイムを取り戻すことだろう。対し、キンタナやバルデ、イェーツらも健闘するが、フルームには届かない。また、TTを得意とするポートがまずまずの走りで総合ジャンプアップに成功。総合表彰台圏内へと進出する。
翌日の最終、第21ステージは慣例としてパレード走行を行い、総合順位を競うことはないため、この時点でマイヨジョーヌに袖を通したフルームが総合3連覇、通算4度目の優勝に王手をかける。
筆者には、キンタナがフィニッシュした瞬間、逆転を決めたフルームがホットシートでホッとした様子を見せる姿がイメージできる。ホットだけに…(笑)


冗談はさておき、最終日はパリ・シャンゼリゼへの凱旋。最後を飾るスプリントは、このところ“シャンゼリゼマスター”となっているグライペルが、カヴェンディッシュやキッテルらを寄せ付けず勝利と予想。2015年から続く、「シャンゼリゼ連覇」を3に伸ばすと見ている。
「週刊サイクルワールド」ツール・ド・フランス2017 順位予想
※2016年1月3日現在
・個人総合時間賞(マイヨジョーヌ)
1 クリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ)
2 ナイロアレクサンデル・キンタナ(コロンビア、モビスター チーム)
3 リッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシングチーム)
・ポイント賞(マイヨヴェール)
ペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)
・山岳賞(マイヨアポワ)
ティボー・ピノ(フランス、エフデジ)
・新人賞(マイヨブラン)
アダム・イェーツ(イギリス、オリカ・スコット)
・チーム総合時間賞
モビスター チーム
フルームの牙城は揺るがないか
新春恒例となった筆者によるツール大予想、いかがだろうか。さすがに細かなレースの流れまで読むのは難しいが、各ステージにおける有力選手の動きや各賞の予想は、例年通り自信を持ってお届けしたい。

マイヨジョーヌは、今度もフルームのもとへ行くと見る。強力アシストに支えられながら、随所で自らの力による打開ができれば、その座は安泰だろう。また、個人TTでもよい走りを見せ、真のオールラウンダーであることを証明するに違いない。
キンタナは総合2位だった一昨年、同3位だった昨年よりスケールアップし、限りなくマイヨジョーヌに近いところまで進化していることだろう。だが、またしてもフルームの前に屈することになりそう。課題のTTでその差を見せ付けられることとなるのではないか。また、出場の意思を示しているジロ・デ・イタリアとの兼ね合いもどうなるか。ジロでの走り方次第で、ツールの戦い方も変わってくる。
総合3位にはポートが躍進。こちらも得意のTTで得たタイムが、ライバルに対しわずかでありながらもアドバンテージとなりそう。バイクトラブルや落車さえなければ、上位でまとめてくるはず。とはいえ、展開1つでバルデやアダム・イェーツらにも流れは訪れる。表彰台の一角をかけた争いは激化するだろう。そこへコンタドールも食い込みたいところだが、衰えは隠せないのではないかというのが筆者の見方だ。
ポイント賞のサガンは、今回も得意の「ポイント貯金」で6連覇を達成。平坦ステージでは勝利を狙い、山岳ステージでは逃げに潜り込んで中間スプリントポイントを上位で通過。いまのプロトンでこの戦術を可能とするのはサガンただ1人であり、ライバルが現れない限りは“サガン時代”はしばらく続くだろう。

山岳賞は、すでにマイヨアポワ狙いを公言しているピノのもとへ。狙って簡単に獲得できる賞ではないが、大会を通して頂上フィニッシュが3と少なく、レース中盤から後半にかけて山岳ポイントを押さえやすいステージがそろっていることから、逃げに入ることさえできれば登坂力の高いピノであれば、取りこぼしはないだろうとの見立てだ。同時に、ステージ勝利もいくつか得られるかもしれない。
新人賞のマイヨブランは、昨年に続きアダム・イェーツが連覇。総合でも上位に食い込むだけの力があるだけに、4位となった昨年の再現ができればジャージは安泰。ライバルを挙げるとするならば、同じく総合で8位となったルイ・メインティス(南アフリカ、UAEアブダビ)、さらには双子の兄弟でありチームメイトのサイモン・イェーツといったところ。

チーム総合は、昨年に続きモビスター チームへ。キンタナだけではなく、ベテランのアレハンドロ・バルベルデ、若手有望株のルーベン・フェルナンデス(ともにスペイン)などのオールラウンダーがそろう。キンタナのアシストを務めながら総合上位に名を連ねるバルベルデらの走りで、チーム表彰を勝ち取りそうだ。
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2017年も「週刊サイクルワールド」では、世界各地のレースを追い、その結果や傾向を分析してお届けします。ぜひ参考にしていただき、数々のレースを楽しんでほしいと思います。新たな歴史が刻まれるシーンや、ニュースターの誕生に心沸き立たせながら、熱きサイクルロードレースシーンをともに盛り上げていきましょう!

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。自転車情報のFacebookページ「suke’scycling world」も充実。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU」