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栗村修の“輪”生相談<91>29歳男性「私を悠々と抜き去ったおじ様の強さの秘訣は何でしょうか?」

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自転車歴3年ほどの者です。

 最近割と走れるようになって来たな、と自分で思って来ていたのですが(平坦コースで停止時間を除いて平均31km/h)、平地で推定50歳のおじ様(パンパンに張ったリュック装備)に抜かれ、全く追いつく事ができませんでした。

 おじ様はお腹も少し出ていて普通のおじ様に見えたのですが、まったく手も足も出ず、全力スプリントしても距離を詰める事ができない程の実力差を感じました。おじ様はシッティングで悠々と走っていました。

 単純な身体能力なら私(29歳、178cm・65kg)に分がありそうなのに、まったく自転車は最高に面白いですね。

 前置きが長過ぎますが、おじ様の強さの秘訣はなんだったのでしょうか?

(29歳男性)

 178cm、65kgですか。いい体格です。たぶん、数値だけならば、ヨーロッパプロの平均に近いんじゃないでしょうか? しかも29歳。年齢的にも、脂が乗りきっている頃です。

 しかしその質問者さんが、お腹の出たおじさま、しかもパンパンのリュックを装備している状態のおじさまに抜かれてしまった。そのショックは相当のものでしょう。

 質問者さんの年齢ではご存知ないかもしれませんが、かつて「大リーグボール養成ギプス」というものがありました。これは、プロ野球選手を目指す星飛雄馬という人が上半身に着用していたギプスで、日常生活もままならないようなバネの力によって、上半身の筋力を強化するというものでした(漫画ですが)。

 質問者さんを抜き去ったおじさんは、大リーグボール養成ギプスをつけながら走っているようなものです。

 コースの詳細はわかりませんが、ちょっとした上りくらいはあるはずです。おじさんもそこを通っているわけですが、パンパンのリュック+豊かなお腹というウェイトを抱えつつ上るということは、速度が同じならば、登坂時におじさんが発揮している出力値は質問者さんよりもかなり高いということです(出力÷体重でパワーウェイトレシオが算出されるため)。つまり、おじさんは上りで、質問者さんよりもきついトレーニングをしているのです。

おじさんサイクリスト侮りがたし! Photo: Yuzuru SUNADAおじさんサイクリスト侮りがたし! Photo: Yuzuru SUNADA

 そのおじさんが平地に来たら、どうなるでしょう。平地では重量はあまり関係ありませんから、純粋に発揮される出力値勝負となります。上り区間できついトレーニングを重ねてパワーを上げたおじさんが、質問者さんに勝ったとしても不思議ではありません。

 もう一つの要因として考えられるのは、空気抵抗です。平地では重量はさほど問題になりませんが、そのかわり、空気抵抗を減らすことが重要になってきます。

 僕が気になったのは「パンパンのリュック」という点です。頭の後ろには乱流が発生して空気抵抗を生むとかで、かつてのタイムトライアル用ヘルメットはエイリアンのように前後に長かったですよね。空気の流れを整えるためです。

 おじさんの背中のリュックは、エアロヘルメットの後部のように、空気抵抗を減らす役割を果たしていたのではないでしょうか。さらには、お腹への空気の巻き込みも相当の抵抗になるといいますが、おじさんはお腹が出ていることで理想的なたまご型のボデー(流線型)となり、日ごろのトレーニングと相まって、質問者さんを圧倒したのかもしれません。

 なお、近年のエアロヘルメットは前後に短くなりましたが、これは視線(つまり頭)を上下左右に振ったときに空気抵抗の増大を防ぐためです。しかし質問者さんの文中にある「シッティングで悠々と」というくだりは、おじさんが前方を見つめたまま、走り続けるさまを想像させます。要は、このおじさんは空力がいいんですよ。

 ポイントは、お腹とリュックというのが僕の見解です。上りで、お腹とリュックの重さによるトレーニングを積んだおじさんが、その能力を、平地で開放しているわけです。しかも、空気抵抗削減装置つきで。そう考えると、かなわないのも無理はありません。

 このおじさんを倒す手っ取り早い方法は、上りに行って勝負することですね。軽い質問者さんが相当有利になるはずです。

(編集 佐藤喬)

回答者 栗村修(くりむら おさむ)

 一般財団法人日本自転車普及協会 主幹調査役、ツアー・オブ・ジャパン 大会ディレクター、スポーツ専門TV局 J SPORTS サイクルロードレース解説者。選手時代はポーランドのチームと契約するなど国内外で活躍。引退後はTV解説者として、ユニークな語り口でサイクルロードレースの魅力を多くの人に伝え続けている。著書に『栗村修のかなり本気のロードバイクトレーニング』『栗村修の100倍楽しむ! サイクルロードレース観戦術』(いずれも洋泉社)など。

※栗村さんにあなたの自転車に関する悩みを相談してみませんか?
ml.sd-cyclist-info@sankei.co.jpまで、タイトルを「輪生相談質問」としてお寄せください。

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