title banner

福光俊介の「週刊サイクルワールド」<189>サガン中心の編成でビッグチームへ ボーラ・ハンスグローエ 2017年シーズン展望

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
  • 一覧

 サイクルロードレースの現役世界王者であり、トップシーンの花形ライダーであるペテル・サガン(スロバキア)。今年限りでチームが解散となるティンコフから、次なるチームとして選んだのがドイツ籍のボーラ・ハンスグローエ(現ボーラ・アルゴン18)だ。来季からはUCI(国際自転車競技連合)ワールドチームへ昇格するが、同時に一躍大注目のチームとなっている。先ごろチームプレゼンテーションを行い、全容が明らかになったこのチームについて展望してみよう。

12月12日に行われたボーラ・ハンスグローエの記者発表。新デザインのジャージもお披露目となった。左からペテル・サガン、ラルフ・デンク氏、パスカル・アッカーマン © BORA - hansgrohe / VeloImages12月12日に行われたボーラ・ハンスグローエの記者発表。新デザインのジャージもお披露目となった。左からペテル・サガン、ラルフ・デンク氏、パスカル・アッカーマン © BORA - hansgrohe / VeloImages

クラシックとツールに集中するサガン

 チームは12月12日、スペイン・バレンシアで記者発表を実施。中心選手が会見に臨んだほか、来シーズン使用する黒と白が基調のジャージがお披露目となった。

記者の質問に答えるペテル・サガン(右)。クラシックとツール・ド・フランスをターゲットにすると明言した © BORA - hansgrohe / VeloImages記者の質問に答えるペテル・サガン(右)。クラシックとツール・ド・フランスをターゲットにすると明言した © BORA - hansgrohe / VeloImages

 その席についたサガンは、来季のターゲットについて言及。「チームは変わるが、目標は常に同じ。クラシックとツール・ド・フランスを目指すことになる」と述べた。

 今シーズンは、キャリアで初めてUCIワールドツアー個人ランキング1位となり、年間通しての活躍を印象付けた。年間勝利数は14。その中には、4月のツール・デ・フランドルやツールでのステージ3勝などが含まれる。10月にはUCI世界選手権ロードレースでライバルを圧倒し2連覇。スプリントはもちろん、終盤のアタックで独走に持ち込むこともあるなど、随所で強さを誇示してきた。

 そんなサガンでも、まだ勝利できていないクラシックレースが残されている。2013年の2位が最高のミラノ~サンレモ、2014年の6位が最高のパリ~ルーベ、この2つのタイトルは手にしたいことだろう。北のクラシックでは、フランドルやヘント~ウェヴェルヘムを得意としているだけに、ルーベとE3ハーレルベークとをあわせた「石畳系レース4連勝」にも期待がかかる。これが達成されれば、2012年のトム・ボーネン(ベルギー、当時オメガファルマ・クイックステップ)以来の快挙となる。

2016年はクラシックやツールのポイント賞、世界選手権2連覇と大活躍。マイヨアルカンシエルを手に新チームへと合流する =UCIロード世界選手権2016男子エリートロードレース、2016年10月16日 Photo: Yuzuru SUNADA2016年はクラシックやツールのポイント賞、世界選手権2連覇と大活躍。マイヨアルカンシエルを手に新チームへと合流する =UCIロード世界選手権2016男子エリートロードレース、2016年10月16日 Photo: Yuzuru SUNADA

 ツールにおいては、ポイント賞のマイヨヴェールを5連覇中。来年の大会でもこのジャージを手にできるとなれば、エリック・ツァベル氏(ドイツ)の6連覇に並ぶと同時に、史上最多タイの受賞回数となる。戦い方としては、ここ数年と同様に平坦ステージでのスプリント勝利を狙いつつ、山岳ステージでも逃げグループに潜り込んで中間スプリントでのポイント稼ぎに終始する形になるだろう。

 3連覇のかかるUCIロード世界選手権については、「考えるには時期尚早だ」としているが、アップダウンを繰り返しながらフィニッシュ地点へと下り基調になるノルウェー・ベルゲン大会のコースは得意とするレイアウト。いやがうえにも、彼の走りに期待が高まる。

 ちなみに、ストーブリーグ解禁日の8月1日に移籍が発表されたが、会見の席上で「私自身が唯一興味を持ったチームだった」とし、いくつもオファーがあった中から選択した理由を語った。また、「チームの規模は関係ない」と続け、ビッグチームで走ることは頭になかったよう。

 チームは、サガンに対して具体的な契約案を提示していたといい、アシスト陣も含めた新チームでの活動や、よりレースやトレーニングに集中しやすい環境の整備など、最大限の配慮を施したことを明かしている。3年契約で年俸500万ユーロ(約6億1000万円)ともいわれるサラリーも、サガンへの誠意と見てよさそうだ。

 「メインスポンサーであるボーラがクッキング業界への革命を志すのと同様に、われわれもサイクリング界に革命を起こすことができるはずだ」。そう意気込むサガンの新たな挑戦が始まる。

2017年のツール・ド・フランスではポイント賞のマイヨヴェール6連覇がかかるペテル・サガン。エリック・ツァベル氏の記録に挑戦する =ツール・ド・フランス2016第21ステージ、2016年7月24日 Photo: Yuzuru SUNADA2017年のツール・ド・フランスではポイント賞のマイヨヴェール6連覇がかかるペテル・サガン。エリック・ツァベル氏の記録に挑戦する =ツール・ド・フランス2016第21ステージ、2016年7月24日 Photo: Yuzuru SUNADA

グランツールはケニッグとマイカで上位進出をねらう

 グランツールに向けては、総合上位争いに加わるだけの力を持つレオポルド・ケニッグ(チェコ)とラファウ・マイカ(ポーランド)をエースとする公算だ。

古巣への復帰を果たすレオポルド・ケニッグ。ジロ・デ・イタリアかブエルタ・ア・エスパーニャをターゲットにする =ブエルタ・ア・エスパーニャ2016第8ステージ、2016年8月27日 Photo: Yuzuru SUNADA古巣への復帰を果たすレオポルド・ケニッグ。ジロ・デ・イタリアかブエルタ・ア・エスパーニャをターゲットにする =ブエルタ・ア・エスパーニャ2016第8ステージ、2016年8月27日 Photo: Yuzuru SUNADA

 チーム スカイから移籍するケニッグは、2011年から4シーズンを送った古巣への復帰。2013年のブエルタ・ア・エスパーニャ第8ステージでチームにグランツール初勝利をもたらすと、勢いに乗り総合9位と活躍。翌年のツールでは、自身もチームも初出場ながら総合7位と躍進した。

 それらの走りが評価されてチーム スカイへと移籍してからも、2015年のジロ・デ・イタリア総合6位、同年のツールでは総合優勝するクリストファー・フルーム(イギリス)のアシストを務めるなど実績を重ねた。

 環境を戻して迎える来シーズンは、ジロまたはブエルタで総合上位進出を目指す。山岳での安定感はもとより、個人タイムトライアルでもステージトップ10に名を連ねるだけの走力を誇り、実力通りに走れば目標達成はできるはずだ。上手く流れに乗れば、総合表彰台も夢ではない。

ペテル・サガン(左)とともに記者会見の席に就いたラファウ・マイカ。ツール・ド・フランスの総合トップ5入りを目指す © BORA - hansgrohe / VeloImagesペテル・サガン(左)とともに記者会見の席に就いたラファウ・マイカ。ツール・ド・フランスの総合トップ5入りを目指す © BORA - hansgrohe / VeloImages

 一方、マイカはツールで総合エースを務める見通し。2014年、2016年と、ツールでは山岳賞を獲得しインパクトを残してきたが、ジロでは過去3度の総合トップ10フィニッシュ、ブエルタでは2015年に総合3位と、ケニッグとともにチームの軸となるにはふさわしい存在。また、今年はリオデジャネイロ五輪で銅メダルを獲得。あわや優勝かという快走は、ワンデーレースへの適性を感じさせるものでもあった。

 山岳の比重が高まる2017年ツールのルートは、個人タイムトライアルがさして得意とはいえないマイカにとって歓迎だろう。持ち前の山岳での果敢な走りが生きてくるはずだ。現実的な目標として総合トップ5入りを掲げるが、パリ・シャンゼリゼでの総合表彰台を狙えるだけの展開に持ち込む可能性さえある。

 2人のチームリーダーを支えるアシスト候補としては、今年のツール総合21位のエマヌエル・ブッフマン(ドイツ)やパトリック・コンラッド(オーストリア)、ティンコフから移籍するパウェル・ポリャンスキー(ポーランド)の名が挙がる。いずれも若い選手で、彼らの成長がエースの上位進出に直結してくる。

2017年ツール開幕地のアンバサダー

 チーム ネットアップの名でUCIコンチネンタルチームとして活動を開始したのが2010年。翌年には同プロコンチネンタルチームに昇格し、発足3年目の2012年のジロでグランツールデビュー。以降、着々と階段を上がり、2017年は晴れてワールドチームとなる。ドイツ人ゼネラルマネージャーのラルフ・デンク氏がこのところ口にしていた構想通りにチームは発展を遂げ、今後も強固かつ大きな組織として歩みを進める心積もりだ。

2010年以降現チーム一筋のヤン・バルタ =ツール・ド・フランス2016第18ステージ、2016年7月21日 Photo: Yuzuru SUNADA2010年以降現チーム一筋のヤン・バルタ =ツール・ド・フランス2016第18ステージ、2016年7月21日 Photo: Yuzuru SUNADA

 ヤン・バルタ(チェコ)、チェザーレ・ベネデッティ(イタリア)、アンドレアス・シリンガー、ミヒャエル・シュヴァルツマン(ともにドイツ)の4人が発足以降、このチーム一筋で走ってきた選手。バルタは逃げを得意とするが総合力も高く、シュヴァルツマンはスプリンター、他の2人もアシストとしての貢献度が評価されている。

 サム・ベネット(アイルランド)は、年々注目度が上がっているスプリンター。10月にカタールで開催されたロード世界選手権では、優勝候補に推す声もあったほどだ。サガンや総合系ライダーとの棲み分けが重要になってくるが、大きなレースでの勝利が待たれる。

注目のスプリンター、サム・ベネット。大きなレースでの勝利が待たれる =ツール・ド・フランス2016チームプレゼンテーション、2016年6月30日 Photo: Yuzuru SUNADA注目のスプリンター、サム・ベネット。大きなレースでの勝利が待たれる =ツール・ド・フランス2016チームプレゼンテーション、2016年6月30日 Photo: Yuzuru SUNADA

 チーム強化にともなう選手の入れ替えも大幅に行われた。所属が発表されている27人中、今シーズンからの継続選手は14人。加入選手が13人を数え、新チームの趣きが強い。サガンやマイカとともにティンコフから移る選手の多さが特徴的だが、即戦力としての働きが求められる。また、BMCレーシングチームから加わるマークス・ブルグハート(ドイツ)は、移籍組の中でも経験・実績で群を抜く存在。北のクラシックではサガンを、グランツールでは平地での牽引でその働きを目にすることができるだろう。

 なお、メインスポンサーのボーラは正式には「ボーラ・クッキングシステム社」として運営されるシステムキッチンなどの製造メーカー。コ・スポンサー(第2スポンサー)のハンスグローエ社は水栓・シャワーヘッドなどを手がける。ともにドイツブランドであることから、「純ドイツチーム」としての立場もある。2017年ツールのグランデパール(開幕地)はドイツ中西部の都市・デュッセルドルフであり、その“アンバサダー”としての役割も担っているのだ。

ボーラ・ハンスグローエ 2016-2017 選手動向

【残留】
シェイン・アーチボルド(ニュージーランド)
ヤン・バルタ(チェコ)
チェザーレ・ベネデッティ(イタリア)
サム・ベネット(アイルランド)
エマヌエル・ブッフマン(ドイツ)
シルヴィオ・ヘルクロッツ(ドイツ)
パトリック・コンラッド(オーストリア)
ジョセ・メンデス(ポルトガル)
グレゴール・ミュールベルガー(オーストリア)
クリストフ・フィングステン(ドイツ)
ルーカス・ペストルベルガー(オーストリア)
アンドレアス・シリンガー(ドイツ)
ミヒャエル・シュヴァルツマン(ドイツ)
リュディガー・ゼーリッヒ(ドイツ)

【加入】
パスカル・アッカーマン(ドイツ) ←ラドネット ローズチーム
エリック・バシュカ(スロバキア) ←ティンコフ
マチェイ・ボドナル(ポーランド) ←ティンコフ
マークス・ブルグハート(ドイツ) ←BMCレーシングチーム
ミカル・コラー(スロバキア) ←ティンコフ
レオポルド・ケニッグ(チェコ) ←チーム スカイ
ラファウ・マイカ(ポーランド) ←ティンコフ
ジェイ・マッカーシー(オーストラリア) ←ティンコフ
マッテーオ・ペルッキ(イタリア) ←イアム サイクリング
パウェル・ポリャンスキー(ポーランド) ←ティンコフ
ユライ・サガン(スロバキア) ←ティンコフ
ペテル・サガン(スロバキア) ←ティンコフ
アレクセイ・サラモティンス(ラトビア) ←イアム サイクリング

【退団】
フィル・バウハウス(ドイツ) →チーム サンウェブ・ジャイアント
ザッカリー・デンプスター(オーストラリア) →イスラエルサイクリングアカデミー
バルトシュ・フザルスキー(オランダ) →引退
ラルフ・マツカ(ドイツ) →未定
ドミニク・ネルツ(ドイツ) →引退
スコット・スウェイツ(イギリス) →ディメンションデータ
ポール・ヴォス(ドイツ) →未定

今週の爆走ライダー-シェイン・アーチボルド(ニュージーランド、ボーラ・アルゴン18)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 バックボーンであるトラック競技で持つ華やかな経歴。2011年の世界選手権ではオムニアム(混成種目)で銀メダルを獲得し、翌年のロンドン五輪でも金メダル候補に挙げられたほど。ロードでもノービス(15~16歳カテゴリー)時代から国内トップに君臨し、2015年から満を持してトップシーンへと飛び込んだ。

襟足の長髪がトレードマークのシェイン・アーチボルド。スピードが武器のライダーだ =ツール・ド・フランス2016チームプレゼンテーション、2016年6月30日 Photo: Yuzuru SUNADA襟足の長髪がトレードマークのシェイン・アーチボルド。スピードが武器のライダーだ =ツール・ド・フランス2016チームプレゼンテーション、2016年6月30日 Photo: Yuzuru SUNADA

 今のところは目立った成果こそないが、持ち前のスピードでスプリントや逃げにトライする。今年はツールに初出場。チームの主力の座をつかみつつある。一方で不運に見舞われることも少なくない。2015年のパリ~ルーベではアランベールで、今年のツールでは第17ステージ途中の下りで激しく落車。どちらのケースもけがに見舞われてしまい、その後の戦線を離脱する格好となってしまった。

 選手が大幅に入れ替わり、新たな色合いを見せるであろうチームではアシストとしての力も求められることになりそうだ。北のクラシックやスプリントの局面では、サガンを支えることとなる。トラックで培ったバイクコントロールや駆け引きで絶対エースを勝利に導くことができるか。

 トレードマークは襟足の長髪。活躍の場が増えれば増えるほど目にすることも多くなるだろう。過去には、小児がんの治療に励む子供たちのために伸ばした髪を提供すべく、レース直後のポディウムで“断髪式”をしたことも。一見ファンキーだが、心優しき青年なのだ。

パリ~ルーベを走ったシェイン・アーチボルド。得意とする北のクラシックとスプリントではペテル・サガンのアシストとして期待される =2016年4月10日 Photo: Yuzuru SUNADAパリ~ルーベを走ったシェイン・アーチボルド。得意とする北のクラシックとスプリントではペテル・サガンのアシストとして期待される =2016年4月10日 Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。自転車情報のFacebookページ「suke’scycling world」も充実。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

この記事のコメント

利用規約順守の上ご投稿ください。

関連記事

この記事のタグ

UCIワールドツアー 週刊サイクルワールド

  • 一覧

新着ニュース

もっと見る

ピックアップ

e-BIKE最新特集

スペシャル

自転車協会バナー

ソーシャルランキング

インプレッション

インプレッション一覧へ

連載