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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<188>アールを中心にグランツール路線を重視 アスタナ プロチーム 2017年シーズン展望

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 サイクルロードレースのオフシーズンにお届けする、来季のUCIワールドチーム展望。今回はアスタナ プロチームをお届けしたい。これまでチームの顔だったヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア)がバーレーン・メリダへ移籍することとなり、名実ともに中心人物となるのがファビオ・アール(イタリア)。グランツール路線を重視しつつも、クラシックでの上位進出も見据える中央アジアの雄に迫ってみる。

グランツール制覇を目指すアスタナ プロチーム。写真のファビオ・アールがチームリーダーとなる =クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2016第3ステージ、2016年6月8日 Photo: Yuzuru SUNADAグランツール制覇を目指すアスタナ プロチーム。写真のファビオ・アールがチームリーダーとなる =クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2016第3ステージ、2016年6月8日 Photo: Yuzuru SUNADA

カザフスタン独立25周年に燃えるチーム

 チームは、スペインでのプレシーズンキャンプを経て、12月10日にカザフスタン入り。翌11日には気温マイナス20度になろうかという首都・アスタナで、チームプレゼンテーションを行った。

カザフスタンの首都・アスタナで開かれたチームプレゼンテーションの様子 =2016年12月11日 © Bettiniphoto.netカザフスタンの首都・アスタナで開かれたチームプレゼンテーションの様子 =2016年12月11日 © Bettiniphoto.net

 カザフスタンは2017年に独立25周年を迎える。これを記念して行うアスタナ国際博覧会2017(エキスポ2017-アスタナ)が、実質のメインスポンサーとなる。そのほか、来シーズンからはカナダのブランドであるアルゴン18製バイクを使用。コンポーネントはFSAとシマノ、ジャージはジョルダーナ、シューズはシディ、サドルはプロロゴ、サイクルコンピュータはガーミン、ヘルメットはリマールと発表されている。また、カナダの農業系企業であるプレミアテックもスポンサーとして加わる。

 国家プロジェクトとして、豊富な資金力と充実したタレント陣によって数多くの栄誉を勝ち取ってきた。かつてはチームリーダーとして、現在はゼネラルマネージャーとして絶対的な地位に立つアレクサンドル・ヴィノクロフ氏は、母国の節目の年に並々ならぬ意欲を燃やしている。これまでグランツールで8度の総合優勝を数えてきたが、9度目の栄冠を手にすべく、新たなシーズンへと臨む。

アールは地元開幕のジロに照準

 ヴィノクロフ氏が大きな期待とともに送り出すのが、晴れてチームリーダーとなるアールだ。2012年にプロデビューし、2014年のジロ・デ・イタリア総合3位、ブエルタ・ア・エスパーニャ総合5位。2015年はジロを総合2位で終えると、ブエルタでは念願のグランツール総合初優勝。大きな自信を胸に、2016年のツールへと向かった。

2016年は初のツール・ド・フランス出場を果たしたファビオ・アール。総合13位と不本意な結果に終わった =ツール・ド・フランス2016第6ステージ、2016年7月7日 Photo: Yuzuru SUNADA2016年は初のツール・ド・フランス出場を果たしたファビオ・アール。総合13位と不本意な結果に終わった =ツール・ド・フランス2016第6ステージ、2016年7月7日 Photo: Yuzuru SUNADA

 しかし、結果は総合13位。昨年までのアールの走りからすると物足りなさは否めなかった。もっとも、シーズンを通してベストのコンディションだったとは言いがたく、リオデジャネイロ五輪ロードレースでの6位がせめてもの意地だった。

 立て直しとなる2017年シーズンは、2年ぶりにジロへの参戦を決めている。今度のイタリア一周の戦いは、生まれ育ったサルデーニャ島での開幕。華やかに凱旋し、その後の長い戦いへのモチベーションとしたい。

2015年のジロ・デ・イタリアでは総合2位だったファビオ・アール。2017年のジロでは地元サルデーニャ島でのスタートで活躍を誓う =ジロ・デ・イタリア2015第19ステージ、2015年5月29日 Photo: Yuzuru SUNADA2015年のジロ・デ・イタリアでは総合2位だったファビオ・アール。2017年のジロでは地元サルデーニャ島でのスタートで活躍を誓う =ジロ・デ・イタリア2015第19ステージ、2015年5月29日 Photo: Yuzuru SUNADA

 ターゲットをジロに据え、シーズンインはツアー・オブ・オマーン(UCIアジアツアー2.HC、2017年2月14~19日)となる見通し。そのまま中東で連戦しアブダビ・ツアー(UCIワールドツアー、2017年2月23~26日)にも出場する意向を示している。

 当初は今年出場したブエルタ・ア・ラ・コムニタ・バレンシアーナ(UCIヨーロッパツアー2.1、2017年2月1~5日)への参加も見込まれていたが、調整を重視しシーズンの入りを遅らせる。調子を合わせられずに苦労した今年の反省を生かそうという考えのようだ。

フルサング、ロペスもグランツール総合を狙う

 アールがジロに集中することにより、空いたツール総合リーダーのポストは、ヤコブ・フルサング(デンマーク)が務めることになる。

ヤコブ・フルサングはリオデジャネイロ五輪銀メダル。2017年はツール・ド・フランスで総合エースを務める公算だ =リオデジャネイロ五輪男子ロードレース、2016年8月6日 Photo: Yuzuru SUNADAヤコブ・フルサングはリオデジャネイロ五輪銀メダル。2017年はツール・ド・フランスで総合エースを務める公算だ =リオデジャネイロ五輪男子ロードレース、2016年8月6日 Photo: Yuzuru SUNADA

 現チーム1年目だった2013年に、ツールで自己最高の総合7位フィニッシュ。その後はニバリやアールのアシストに回ることが増え、自身の総合狙いは二の次となっていたが、それでも今年はジロで総合12位。ニバリを支える山岳最終アシストを務めあげ、自らも総合上位に進出できる可能性を改めて示した。

 そして何より、リオ五輪ロードレースでの銀メダル獲得が評価を大きく上げた。終盤に自らの組み立てで大きな局面を作り出し、ラスト勝負こそ敗れたものの、堂々たる走りっぷりは潜在的な力がまだあることを証明したといえよう。3月には32歳となり、ベテランの域に入ってきているが、結果次第では飛躍的にキャリアを変えることもあり得る。

現在けがでリハビリ中のミゲルアンヘル・ロペス。回復させてグランツールを目指したい =ツール・ド・スイス第9ステージ、2016年6月19日 Photo: Yuzuru SUNADA現在けがでリハビリ中のミゲルアンヘル・ロペス。回復させてグランツールを目指したい =ツール・ド・スイス第9ステージ、2016年6月19日 Photo: Yuzuru SUNADA

 次世代のエース候補、22歳のミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア)にも期待がかかる。今年はブエルタでグランツールデビューを果たしたが、開幕時からの体調不良で途中リタイア。その後のレースで勝利を収めたものの、11月上旬にコロンビアでのトレーニング中に事故にあい、左脛骨を骨折。現在はリハビリ中で、シーズンインが遅れるものと思われる。だが、その分シーズン後半に大爆発といきたい。どのレースを目標とするのか、注目していきたい。

クラシックでの躍進も目指す

 現時点で28選手と契約を結んだチームだが、そのうち10人が新加入。退団も11人と大幅な入れ替わりとなる。

ミケル・ヴァルグレンアナスン(左)ら、クラシックレースを得意とする選手が多数移籍加入する =アムステルゴールドレース2016、2016年4月17日 Photo: Yuzuru SUNADAミケル・ヴァルグレンアナスン(左)ら、クラシックレースを得意とする選手が多数移籍加入する =アムステルゴールドレース2016、2016年4月17日 Photo: Yuzuru SUNADA

 新加入選手の傾向として、クラシックレースを得意とする選手たちがそろった印象だ。キャノンデール・ドラパック プロサイクリングチームから移籍のマッティ・ブレシェル(デンマーク)、モレーノ・モゼール(イタリア)、ティンコフから移籍のオスカル・ガット(イタリア)、ミケル・ヴァルグレンアナスン(デンマーク)といった、実績豊富な選手たちが一挙アスタナ入り。

 これまで、カザフスタン国籍のチームにありながら、選手・スタッフを見るとイタリア色の豊かさが特徴だったが、ティンコフのスポーツディレクターを務めたデンマーク人のラース・ミカエルセン氏が移ることもあって、ブレシェルやヴァルグレンアナスン、イェスパー・ハンセンといった同国選手が続いたのもユニークな点といえそうだ。

アレクセイ・ルツェンコら、カザフスタン選手の奮起も求められる =ツール・ド・フランス2016第7ステージ、2016年7月8日 Photo: Yuzuru SUNADAアレクセイ・ルツェンコら、カザフスタン選手の奮起も求められる =ツール・ド・フランス2016第7ステージ、2016年7月8日 Photo: Yuzuru SUNADA

 そして、ヴィノクロフ氏は自国であるカザフスタン人選手の奮起も求める。このところは山岳アシストのアンドレイ・ツェイツや、アタッカーのアレクセイ・ルツェンコが印象的な走りを見せているが、彼らに続く選手たちが出てくると、よりチームとしての戦いの幅が広がるはずだ。11人のカザフスタン人ライダーが名を連ねるだけに、飛躍のチャンスは大いにあると見てよいだろう。

アスタナ プロチーム 2016-2017 選手動向

【残留】
ファビオ・アール(イタリア)
ダリオ・カタルド(イタリア)
ローレンス・デフリーズ(ベルギー)
ダニエル・フォミニフ(カザフスタン)
ヤコブ・フルサング(デンマーク)
アンドリー・グリフコ(ウクライナ)
ドミトリー・グルズジェフ(カザフスタン)
アーマン・カミシェフ(カザフスタン)
タネル・カンゲルト(エストニア)
バーフティヤール・コージャタイエフ(カザフスタン)
ミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア)
アレクセイ・ルツェンコ(カザフスタン)
ディアス・オミルザコフ(カザフスタン)
ルイスレオン・サンチェス(スペイン)
ミケーレ・スカルポーニ(イタリア)
パオロ・ティラロンゴ(イタリア)
ルスラン・トルウバイエフ(カザフスタン)
アルチョム・ザハロフ(カザフスタン)
アンドレイ・ツェイツ(カザフスタン)

【加入】
ペリョ・ビルバオ(スペイン) ←カハルラル・セグロスRGA
ツァンドス・ビジギトフ(カザフスタン) ←ヴィノフォーエバー・SKO
マッティ・ブレシェル(デンマーク) ←キャノンデール・ドラパック プロサイクリングチーム
セルゲイ・チェルネトスキー(ロシア) ←チーム カチューシャ
オスカル・ガット(イタリア) ←ティンコフ
イェスパー・ハンセン(デンマーク) ←ティンコフ
リッカルド・ミナーリ(イタリア) ←チーム コルパック(アマチュア)
モレーノ・モゼール(イタリア) ←キャノンデール・ドラパック プロサイクリングチーム
ニキータ・スタルノフ(カザフスタン) ←アスタナシティ
ミケル・ヴァルグレンアナスン(デンマーク) ←ティンコフ

【退団】
ヴァレリオ・アニョーリ(イタリア) →バーレーン・メリダ
マクサット・アヤズバイエフ(カザフスタン) →未定
ラルス・ボーム(オランダ) →チーム ロットNL・ユンボ
エロス・カペッキ(イタリア) →クイックステップフロアーズ
アンドレーア・グアルディーニ(イタリア) →TJスポーツ・ランプレ
ダヴィデ・マラカルネ(イタリア) →未定
ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア) →バーレーン・メリダ
ディエゴ・ローザ(イタリア) →チーム スカイ
ガティス・スムクリス(ラトビア) →デルコ・マルセイユプロヴァンス・カテエム
アレッサンドロ・ヴァノッティ(イタリア) →未定
リーウ・ウェストラ(オランダ) →ワンティ・グループゴベール

今週の爆走ライダー-ローレンス・デフリーズ(ベルギー、アスタナ プロチーム)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 北のクラシックでの勝利を狙うボームのアシストとしてチームに加わったのが2015年。チーム内評価が厳しく、インパクトある走りができないと翌シーズンの席はないとまで言われる現チームにあって、順調に3年目のシーズンを迎えようとしている。

2012年のパリ~トゥールで2位となり、一躍注目を集めたローレンス・デフリーズ(左) =2012年10月7日 Photo: Yuzuru SUNADA2012年のパリ~トゥールで2位となり、一躍注目を集めたローレンス・デフリーズ(左) =2012年10月7日 Photo: Yuzuru SUNADA

 ここまでの2年間は、首脳陣が求めた北のクラシックでのアシストで堅実な走りをしてきた。得意のツール・デ・フランドルでは2015年17位、2016年18位と上々のリザルト。ボームはチームを離れるが、入れ替わりで加わる選手たちも実力者ぞろい。好結果を出せるかよりも、まずは激化するであろうチーム内での競争を勝ち抜かなくてはならない。

 もともと、各年代でベルギーのトップを走ってきた選手。2010年にはアンダー23(23歳未満)の同国王者となり、その年のロード世界選手権では同部門7位。その後はプロコンチネンタルチームで走りを磨いてきた。

 その名が世界に広まったのは、2012年のパリ~トゥール。マルコ・マルカート(イタリア、当時ヴァカンソレイユ・DCM)、ニキ・テルプストラ(オランダ、当時オメガファルマ・クイックステップ)との激闘を演じ、惜しくも2位。あと一歩で金星を逃したが、将来を約束された瞬間でもあった。

 北のクラシックとともに魅力なのが、逃げの走り。たびたびトライしては、メイン集団を本気にさせてみせる。大きな勝利こそないが、近年は「敢闘賞ハンター」としてもあらゆるレースで名を刻む。「逃げのスペシャリスト」として、着々と階段を上っている最中だ。

 グランツールに主眼を置くチームにあって、ツール、ジロ、ブエルタいずれにも出場経験のない彼は目立った存在とはいえないが、やがて世界を驚かせる「逃げ」を見せる日が来るかもしれない。また、グランツールに出ずとも、持ち場でしっかりと役割を果たす仕事人でもある。その意味でも、彼の名前はしっかりと覚えておいてほしい。

得意のツール・デ・フランドルで力走するローレンス・デフリーズ。チーム内競争が激しくなる2017年はどんな走りを見せるか =2016年4月3日 Photo: Yuzuru SUNADA得意のツール・デ・フランドルで力走するローレンス・デフリーズ。チーム内競争が激しくなる2017年はどんな走りを見せるか =2016年4月3日 Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。自転車情報のFacebookページ「suke’scycling world」も充実。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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