“自転車革命都市”ロンドン便り<47>「ツアー・ダウンアンダー」でポディウムガールが廃止 時代とともに変わるべきサイクルスポーツ
先週、自分のフェイスブックやインスタグラムなどのSNSに、英語圏の自転車友だちや知人の「めでたい!」「ついに!」「遅かったけど進歩だ!」という歓喜のポストが続々踊ったニュースがありました。そのニュースとは、サイクリストにとっては新年を感じるおなじみのレース「ツアー・ダウンアンダー」でポディウムガールが廃止されるという件。ステージ優勝者やリーダージャージホルダーに花束を進呈したり、両側から挟んでチュッとキスするあの美女たちがいなくなるというものです。

「時代錯誤」圧倒的な廃止支持の声
これまでポディウムガールのスポンサーであった南オーストラリア州政府が、拒食症などに苦しむ若い女性たちのためになっていないとして、スポンサーの継続をしない決定をしたのだそうです。
ツアー・ダウンアンダーの主催者は、今後はサイクリストを目指している地元の子どもたちにこの役をお願いするとのこと。テニスやサッカーの表彰式などでは子どもたちが憧れの選手たちに会える機会にもなっているので、あのスタイルを考えているのでしょう。
Finally! TDU podium girls to go https://t.co/uFnA3LnIDC #sbscycling pic.twitter.com/6U7LIesUpu
— CyclingCentral (@CyclingCentral) 2016年12月2日
オーストラリアのテレビ局SBSの自転車番組アカウントは「ようやく! ツアー・ダウンアンダーがポディウムガールを廃止」とツイート
ひとりの女性サイクリストとして、プロサイクリングのファンとして、自転車レースの表彰台にポディウムガールが出てきて選手にお祝いのキスをする、そこでカメラのフラッシュがバチバチバチとまたたく、というあの状況は本当におかしい、どういう時代錯誤だと思っていました。なのでメジャーなツアー・ダウンアンダーからの一報にはスマホの前で小さくガッツポーズをしてしまったほどです。
@UCI_cycling PLEASE can we drop podium girls. It's sending my kids all the wrong signals about sport, bodiesetc #womenscycling #giroditalia
— John Shurmer (@JohnJshurmer) 2016年5月18日
「@UCI_cyclingへ。ポディウムガールを使うのをやめませんか。わたしの子どもたちによくないメッセージになってしまっています」という子どもを持つ男性からのUCIへのツイート。ポディウムガール反対の声は、ハッシュタグ#nopodiumgirlsでも見ることができます
もちろん予想通り、「ポディウムガールは自転車レースの伝統だ」「ポディウムガールをやりたい女性がいるんだから何の問題もない」「ポディウムガールは成功の機会を奪われた」「行き過ぎたポリコレだ」といった反論は、SNSでもニュースサイトのコメント欄などでもたくさん見ます。でも、冒頭のような「ようやくサイクルスポーツも21世紀のスポーツにふさわしくなってきたか」と喜ぶ声のほうが圧倒的に多い状態といえるでしょう。
もはや「伝統」ではなく歴史の「残滓」
ポディウムガールの是非については、英語圏ではもう久しく議論の的になってきています。そして女子レースの注目度が高まるほどに、レーパン姿の女子選手にボディコンハイヒールのポディウムガールが寄り添っている様子が微妙すぎると感じる人が増え、では平等にしましょうと2016年「ヘント〜ウェベルヘム」女子レースでは「ポディウムミスター」が用意されました。
This is the podium of today's Flanders Diamond Tour, a UCI 1.1 women's race. What an utter disgrace @LottoCyclingCup! pic.twitter.com/lVHu8ksqGe
— Marijn de Vries (@marijnfietst) June 14, 2015
「UCI 1.1の女子レース『フランダース・ダイアモンドツアー』の表彰台。@LottoCyclingCupは恥を知るべきです!」というツイートは元プロ選手のマリン・デヴリーズさんから。たしかにいったい何が起きているのか……という図
たしかに清潔感のある若いイケメン揃いで、一瞬「あらぁ」と舌なめずりしたわたしのような低俗な観客がいなくはなかったと思いますが(笑)、あの試みはむしろ、じゃあゲイやバイセクシュアルの選手には表彰台の裏で「ポディウムガールとポディウムミスターとどちらがご希望ですか」と聞くのか? という疑問を引き出したし、そもそも表彰台で性的な要素をご褒美やエンターテイメントとして用意することこそがおかしいね、という認識を広める効果があったように思います。
「ポディウムボーイズ!!」2016年3月のヘント〜ウェベルヘム女子レースで登場した、「ポディウムミスター」たちが紹介されたインスタグラム。たしかにイケメンではあったが……

サイクルレースの歴史を振り返れば、ボクシングなどと似て、労働者階級に生まれた男の子が一発当てるために飛び込むけっこう荒くれた世界だったわけで、ポディウムガールは20世紀初めにサイクルレースが一般的になった初期からすでに存在していたのだそうです。
そう思えば今のポディウムガールも伝統、歴史の残滓と思えなくもないですが、きれいな女性がセクシーな服装で価値を高め、いちばん強い男にご褒美として与えられる図というのはやはり今の時代にはもうおかしいと思います。
この図が繰り返されている限りは、女性は男性を喜ばせるもの、女性は見た目が大切、女性は脇役、女子レースはおまけ……というような変わっていくべき価値観がなかなか変わらない。
ツアー・ダウンアンダーの後、2017年以降の各メジャーレースがどう変わっていくのか、期待しています。

ロンドン在住フリー編集者・ジャーナリスト。自動車専門誌「NAVI」、女性ファッション誌などを経て独立起業、日本の女性サイトの草分けである「cafeglobe.com」を創設し、編集長をつとめた。拠点とするロンドンで、「運転好きだけれど気候変動が心配」という動機から1999年に自転車通勤以来のスポーツ自転車をスタート。現在11台の自転車を所有する。ブログ「yokoaoki.com」を更新中。