バンビ&エイスケ 東海道2人旅いつものピストとメッセンジャーバッグで 東京〜大阪550km “乗り倒れ”の3日間

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 少し前に、海外に住む友人から「東京に帰ったらロングライドをしてみたい。大阪へ行くのなんてどう?」と誘われました。彼の帰国時にはあいにくの悪天候で諦めてしまったものの、それ以来、僕の中で大阪への自転車旅がリアリティを持ってきました。

 芽生えてしまった“ロングライド欲”――折よく、大阪でピストバイクのイベント「大阪のりだおれ」が行なわれるといいます。僕は、BMXのような技を見せる「トリック競技」が中心の同イベントには参加しないものの、そこへ自走で向かって、文字通り“乗り倒れ”てみようじゃないかと。もちろん、普段仕事で使っているピスト(固定ギア)に、普段の服、メッセンジャーバッグで。

 中学生の夏休みのような無鉄砲な冒険に、最近ロードバイクにハマっている友人のエイスケさんが同行してくれるとのこと。心強く思うと同時に、なんだかそれも学生時代のようで気持ちが高まります。

今回の“相棒”バイクを紹介

エイスケさんは自転車(手前)もシューズもSPECIALIZED製エイスケさんは自転車(手前)もシューズもSPECIALIZED製

 旅を共にした自転車は、DURCUS ONE(ダーカスワン)のアルミ製ピスト「GUM BALL」(ガンボール)。これは僕が日々のデリバリーでテストしているプロトタイプです。走行距離は、1年でかれこれ2万km以上になります。

 このマシンをベースに、メッセンジャーをやってきて辿り着いたこだわりのセッティング。FSAのドロップハンドル、スペシャライズドのサドル「ROMIN」、スラムのクランク「OMNIUM」、前後PAULのハブにマビック「CXP30」リムと14番プレーンスポーク、ブリヂストン「エクステンザ RR1HG」をフロントタイヤに、DEDA「GRINTA」もしくはコンチネンタル「GATORSKIN」をリアタイヤに使います。

 ギア比は50×17tの2.94そのままで臨みました。ビンディングに変えようかとも考えましたが、結局フラットペダルとペダルストラップ「HOLDFAST」のままで行くことにしました。エイスケさんはスペシャライズド「TARMAC SL2」にスラムREDのコンポーネント、ホイールはシマノ「アルテグラ」ハブにマビック「オープンプロ」。

初日の箱根は“天下の険” 蛇行する雨の山道に集中力全開

 計画は、「国道1号線(東海道)を行けばいいんでしょ」とかなりザックリしたものだけ。補給もコンビニ頼り。1日目は、曇りからあいにくの雨へ。

 国道246号で小田原、そして“天下の険”、神奈川・箱根入り。ここから国道1号線を行けば大阪に着くのだと高揚しながら臨んだ雨の箱根。いつものギア比で“下ハン”を握りしめて全身を使って登って行きます。一度自転車を降りてしまうと、きっとずっと後悔してしまうだろうと、意地で。

国道1号線(東海道)最高地点 国道1号線(東海道)最高地点
雨か汗か。湯気出てました雨か汗か。湯気出てました

 途中、路肩で休憩した時には、自分から立ち昇る湯気に“ずいぶん登ったんだ…”と気づかされました。少し平坦になる度に「登りは終わりか!」と期待するも、続く続く…やっと国道1号の最高地点へ到着。この時はまだ記念撮影をする余裕がありました。

 でもここからの下りが、想像以上に辛かった…。狭いカーブの連続、しかも雨でぬれた路面を、時折トラックと並走しつつ、スピードをセーブしながら集中力全開で下っていきます。登った分、必ず下りがあります。下りきった頃には腕がパンパンでした。何度かヒヤリとする場面もあって、神経をすり減らしましたね。

 あとはフラットな舗装路が続くのかと思いきや、国道1号は途中から自転車通行不可のバイパスになってしまう事を知ります。これが1番の大誤算で、最後まで苦しめられる事に。

 携帯のマップさまさまでした。迂回ルートを探したのは、一度や二度ではありません。ちっともスムーズに進まず、雨が降り続いたこともあって、スタートから185km走った静岡駅にて1日目を終了。

 ビジネスホテルに飛び込み、値段交渉をしっかりして格安チェックイン。風呂と静岡おでんでリフレッシュしました。

バイパス迂回に四苦八苦の2日目

2日目の朝にようやく顔を出した富士山2日目の朝にようやく顔を出した富士山

 2日目。雨をたっぷり吸ったオンボロスニーカーにさよならをして、予備のもう一足に履き替え。見事に晴れわたり、やっと見えた富士山に元気をもらいました。

 この日の道は、相変わらずバイパスの連続。全ての道順を記憶するのは不可能なレベルで、やはり携帯のマップをフル活用です。静岡県がいつまでたっても終わらない…そして痛くなる膝。薬局で湿布や塗り薬を買い、2人でシェアしました。

 「2日目の目的地には名古屋」と決めていたものの、このあたりから、大阪がとんでもなく遠く感じ始めました。メッセンジャーではないエイスケさんの体力もかなり心配です。そんな時、エイスケさんの一言。

金谷峠の上で小休止金谷峠の上で小休止

 「きょうは、夜11時までだって走るよ。こんな事もう一生ないだろうから、少しくらい無理したっていいでしょ」

 そう来たか、と。それならば、最終日の負担をギリギリまで減らすため、楽しみにしていた名古屋をスルーし、思い切って三重・四日市まで行ってはどうか。やっと愛知県に入った頃、辺りはすでに暗くなり始めていたため、2人で何度も「どうしようか?」と話し合いました。

 名古屋で終えてしまえばきょうは楽だけど、最終日に再び200km弱走る気力を出せるかどうか――その時、大阪のイベント出場のためすでに現地入りしていた友人から、「大阪で待ってるよ!」と電話が入ったのです。

四日市行きを決めた頃。ひたすらトラックが怖かった 四日市行きを決めた頃。ひたすらトラックが怖かった

 ウルっとくる位嬉しかった。パワーをもらい、「やはりなんとか四日市まで行こう」と決心する事ができました。バイパス迂回を繰り返しながら四日市へ着いたのは、夜中の0時半。

 走行距離は230km。間違いなく、人生で1番自転車に乗った日です。少しホッとしたのか、ホテルが決まるなりエイスケさんは発熱寸前の寒気に襲われていました。とにかく先に部屋へ向かわせ、僕は食事と風邪薬のドリンク剤を買い出し。最終日のルート検索もそこそこに、弁当をかきこみ就寝。

最終日は過酷な“忍者ロード”!

徒歩ルートばかり頼りにして選択した、伊賀、甲賀を抜ける“忍者ルート”徒歩ルートばかり頼りにして選択した、伊賀、甲賀を抜ける“忍者ルート”

 ついに最終日、残すは130kmです。大阪へ急ぐ気持ちもありましたが、しっかり朝食を食べてスタート。

 いきなりの峠道は、膝をかばいながらでも構えていたほど辛くなく、「大阪イケる!」と確信が強くなっていきました。そのまま国道1号を京都・大阪ルートではなく、伊賀などを通る大和街道・名阪国道ルートを選択。マップの徒歩最短ルートです。

 無知って怖いですね…このルートは完全に失敗でした。確かに距離は短縮されるものの、のちに聞いたところ、険しすぎて高速道路建設を断念したルートなのだとか。大和街道に入ると、JR関西本線のわきの山林を通るルートとなり、穏やかな空気に「のどかだねぇ」なんて言ってたのですが、いきなり砂利道の急な登りが現れたのです。

“忍者ルート”の途中。砂利道が登場し、まんまとシクロクロス開始“忍者ルート”の途中。砂利道が登場し、まんまとシクロクロス開始

 2kmほど続いた砂利道を抜けても、試練は続きます。旧道の路肩は、自転車が通るにはギリギリの幅。トラックは構わずビュンビュン走っていきます。アップダウンもかなりきつくて、常に何かに追われているかのように緊張した状態でした。

 肉体的にも精神的にも容赦無く追い込まれます。繰り返すアップダウンに、「また登るのかよ!」と2人で声を上げつつも、立ち寄るコンビニの店員の関西弁に、大阪がだんだん近づいてきた事を実感。

 「これで終わりにしてくれー」と何度目かの叫びと共に坂を上り終え、清滝第一トンネル。不安なままトンネルを抜けると、目の前にはドラマチックなほどにきらめき広がる大阪の街!

 痛みは意識から消え、イベント会場のへ急ぎます。迂回させられているうちに、日が暮れはじめ、焦る焦る…まだ会場に皆がいる事を願いつつ走り、ついに到着しました。

550km完走、ゴーーーール!550km完走、ゴーーーール!

 自転車をかつぎ階段を上って行くと、どうやら表彰式の声。電話をくれた友人を見つけると、駆け寄って来てくれました。そして手を引かれ表彰式中の皆の前へ。なんだかタイミングが良すぎて恥ずかしかったんですが、誰もが祝福してくれて本当に嬉しかった。

結局、自転車を動かすのは自分自身

通天閣で記念写真通天閣で記念写真

 バイクも、バッグも、特別にこの旅のために用意したものではありません。あればいいなって考える装備はキリがないけれど、結局、自転車を動かすのは自分自身で、それさえあればどこにでも行けるんだな、と当たり前の事を改めて思い起こしました。それに、“いつものセッティングのまま”という事が、この旅の充足感を増してくれたのではないでしょうか。

 旅を終えると、自分の自転車がますます愛おしくなりました。アルミ製エアロフレームのピストという、ロングライドをイメージしづらい自転車ですが、できちゃうもんです。こんな形で大阪を初めて訪れるとは想像していませんでしたが、最高です。

 旅は道連れ、エイスケさんの支えは大きかった。後日、2人で話をしたのですが、「日本は山が多い」「ルートをもっと予習しておくべき」との事。ごもっともですね。そしてまた2人、「次はどこへ行こうか」と思いを巡らせています。

 過酷なチャレンジというよりは、楽しめる旅にしたい――そんな思いが成就され、本当によかった。ちなみに、この旅の密かなテーマは「僕の中の少年」。大好きな山下達郎さんのアルバムのタイトルです。これからも、そんな気持ちを大切に“乗り倒れ”続けますよ。

文・写真 南秀治

Bambi南秀治(みなみ しゅうじ)
役者を志し上京するも、自転車好きが高じてメッセンジャーとなる。モデル業などをこなしつつ、自転車の世界を幅広く探求中。自転車好きのイケメンモデルらによるユニット「チャリメンズ」メンバーのひとり。メッセンジャーネームは“Bambi”(バンビ)。1983年生まれ、東京在住。ブログ「RIDE MY LIFE」。

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