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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<186>グランツールが1チーム8選手に? レース主催団体が合意した出場選手数縮小とは

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 ツール・ド・フランスなどを主催するアモリ・スポル・オルガニザシオン(A.S.O.)、ジロ・デ・イタリアなどを主催するRCSスポルト、ツール・デ・フランドルなどを主催するフランダースクラシックの三者は11月25日、来季から主催レースにおける1チームあたりの出場人数を縮小すると連名で発表した。突然の決定に関係者からは驚きの声が広がっている。今回は、この決定について情報を整理するとともに、関係各所からの声や今後予想される流れ、実施された場合のレースの動きを考える。

レース主催団体が合意した出場選手数縮小。今後のプロトンのあり方が変わる可能性が出てきた =ツール・ド・フランス2016第21ステージ、2016年7月24日 Photo: Yuzuru SUNADAレース主催団体が合意した出場選手数縮小。今後のプロトンのあり方が変わる可能性が出てきた =ツール・ド・フランス2016第21ステージ、2016年7月24日 Photo: Yuzuru SUNADA

対象は27レース

 これは同日に行われた、レース主催者国際交流協会の席で決まったもので、各主催者によるレースにおいて、1チームあたりのロースター(出走人数)が1枠減るという措置だ。これによって、グランツールでは9から8へ、その他のレースでは8から7へと変わる。

 対象となるのは全27レースだ。

A.S.O.

ツール・ド・フランス(UCIワールドツアー、7月1~23日)
ブエルタ・ア・エスパーニャ(UCIワールドツアー、8月19日~9月10日)
ツアー・オブ・カタール(UCIワールドツアー、2月6~10日)
ツアー・オブ・オマーン(UCIアジアツアー2.HC、2月14~19日)
ワールドポートクラシック(UCIヨーロッパツアー2.1、日程未定)
パリ~ルーベ(UCIワールドツアー、4月9日)
ラ・フレーシュ・ワロンヌ(UCIワールドツアー、4月19日)
リエージュ~バストーニュ~リエージュ(UCIワールドツアー、4月23日)
ツール・ド・ヨークシャー(UCIヨーロッパツアー2.1、4月28~30日)
クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ(UCIワールドツアー、6月4~11日)
アークティックレース・ノルウェー(UCIヨーロッパツアー、8月10~13日)
ツール・ド・ラヴニール(UCIネーションズカップ、8月19~26日)
パリ~ツール(UCIヨーロッパツアー1.HC、10月8日)

RCSスポルト

ジロ・デ・イタリア(UCIワールドツアー、5月5~28日)
ドバイ・ツアー(UCIアジアツアー2.HC、1月31日~2月4日)
アブダビ・ツアー(UCIワールドツアー、2月23~26日)
ストラーデ・ビアンキ(UCIワールドツアー、3月4日)
ティレーノ~アドリアティコ(UCIワールドツアー、3月8~14日)
ミラノ~サンレモ(UCIワールドツアー、3月18日)
ミラノ~トリノ(UCIヨーロッパツアー1.HC、10月4日)
イル・ロンバルディア(UCIワールドツアー、10月7日)

フランダースクラシック

オムループ・ヘット・ニュースブラッド(UCIワールドツアー、2月25日)
ドワーズ・ドアー・フラーンデレン(UCIワールドツアー、3月22日)
ヘント~ウェヴェルヘム(UCIワールドツアー、3月26日)
ツール・デ・フランドル(UCIワールドツアー、4月2日)
シュヘルデプライス(UCIヨーロッパツアー1.HC、4月5日)
デ・ブラバンツ・ペイル(UCIヨーロッパツアー1.HC、4月12日)

目的は安全性とエキサイティングさ

 この決定にかかる共同声明で述べられた理由は2つだ。

 1つ目は、「ライダーの安全性向上」。

激しいクラッシュが後を絶たない昨今のレース界。安全性を高める狙いがレース出場選手数縮小にはある =ジロ・デ・イタリア2016第21ステージ、2016年5月29日 Photo: Yuzuru SUNADA激しいクラッシュが後を絶たない昨今のレース界。安全性を高める狙いがレース出場選手数縮小にはある =ジロ・デ・イタリア2016第21ステージ、2016年5月29日 Photo: Yuzuru SUNADA

 1チームあたり9人、22チームが出場するグランツールでは、スタートラインにつく選手は198人。クラシックレースでは最大25チームが出場するものもあり、1チーム8人で計算すると200人が一斉にコースへと繰り出す。昨今のレースでは、集団内での落車はもとより、随行車両との接触による事故も後を絶たず、場合によっては選手のキャリアに影響する場合や、もっと酷いときには命にかかわることもある。そこで打ち出されたのが、今回の案というわけだ。

 2つ目は、「よりエキサイティングなレースの演出」。

1チームあたりの出走人数が減ることにより、エキサイティングなレースになることが期待されている =ツール・ド・フランス2016第8ステージ、2016年7月9日 Photo: Yuzuru SUNADA1チームあたりの出走人数が減ることにより、エキサイティングなレースになることが期待されている =ツール・ド・フランス2016第8ステージ、2016年7月9日 Photo: Yuzuru SUNADA

 1チームあたりのメンバーが1人減り、全体の出走人数も少なくなることにより、戦略を立てるのが難しくなり、今まで以上にアグレッシブかつ激しい駆け引きのもとレースが展開されることを狙いとしている。逃げ狙いやライバルの隙を突いたアタック、プロトン内での睨み合いなど、熱く、なおかつこれまでにないタクティクスに富んだ波乱が起きることもある、と見ているようだ。

関係者は「配慮に欠ける」「決定が遅い」

 発表を受けて、各所の反応は一様に渋いものだ。

 共同声明後、即座にコメントを出したのはキャノンデール・ドラパック プロサイクリングチームのゼネラルマネージャー、ジョナサン・ヴォータース氏。ツイッターを通じて「私は選手数縮小のコンセプトに同意しないわけではない」と述べる一方で、「われわれの計画やロースターが固まってから何らかの決定が下されることが多いのも事実。まったくもって配慮に欠けている」と続け、かねてからのレース主催者による決定方法に苦言を呈している。

水面下で動きがあったことに気づいていたというジェームズ・オシュウィッツ氏。「決定が遅すぎる」と苦言 =ツール・ド・フランス2015第2ステージ、2015年7月2日 Photo: Yuzuru SUNADA水面下で動きがあったことに気づいていたというジェームズ・オシュウィッツ氏。「決定が遅すぎる」と苦言 =ツール・ド・フランス2015第2ステージ、2015年7月2日 Photo: Yuzuru SUNADA

 BMCレーシングチームのゼネラルマネージャー、ジェームズ・オシュウィッツ氏はレース参加人数の削減そのものには反対ではないとしつつも、「決定が遅すぎる」と話す。こちらもすでに現行のレギュレーションに基づいてメンバー編成を進めてきたという。ただ、水面下でこの案が決定に向かって進んでいたことも気づいていたとし、「何らかのアクションが今年の後半に起こるのではないかと思っていた」とも。

 もちろん、競技を統括する国際自転車競技連合(UCI)も黙ってはいない。26日に声明を出し、「チームの出走人数の縮小は、いくつかのレース主催者を含む関係者にとっては利害が一致する一方で、男子プロロードサイクリング全体にかかわる規則の変更だけに、プロサイクリング委員会(PCC)で合意されなければならない」と意思をはっきりと示した。また、「11月に行われた直近のPCCにて議論され、2017年シーズンは変更しないことで決まっている」と続けた。

 現状では、レース主催者側と選手・関係者・チーム側とで見解が異なっていることになる。

レース改革へのきっかけとなるか

 今回の決定は前述した2点のほかに、8月に決まったUCIワールドツアーレース数の増加も大きな影響を与えていると考えられる。

 10レース増えるUCIワールドツアーは、同時期に複数のレースが行われたり、短いスパンで次のレースがやってきたりと、これまで以上に慌しくなる。選手、さらにはチーム全体への負担も大きくなり、それらへの対策としてとられた措置と見ることもできる。

今年のツール・ド・フランスで見られたアルベルト・コンタドール(左)とペテル・サガンの共闘。出走人数が減ると総合エースとスプリンターとの2本立ては難しくなる =ツール・ド・フランス2016チームプレゼンテーション、2016年6月30日 Photo: Yuzuru SUNADA今年のツール・ド・フランスで見られたアルベルト・コンタドール(左)とペテル・サガンの共闘。出走人数が減ると総合エースとスプリンターとの2本立ては難しくなる =ツール・ド・フランス2016チームプレゼンテーション、2016年6月30日 Photo: Yuzuru SUNADA

 実際に運用されるとなれば、グランツールにおける各チームの方向性をも左右するだろう。総合狙いかスプリントでのステージ狙いか。競技の特性上、エース1人で総合優勝またはスプリント勝利を得ることは難しい。エースを勝利に導くために多くのアシストの力を必要とするだけに、チームとして方針を一本化する必要性も高まる。ビッグチームを中心にこれまで可能としてきた、総合とスプリント両エースを立てる戦術は、今のやり方のままでは難しくなるだろう。

 また、筆者が気になっている点として挙げたいのは、共同声明で理由として出た「安全性の確保」。コースのセッティングやレーススピード、選手一人ひとりの集団内での走り方、レース随行車両の数や動き・・・。これまで何かが起きるたびに議論となるが、過去の事例はあらゆる要素が複雑に絡み合って起きた出来事ばかりであり、「今年までであればグランツールに出場できたであろう22選手」の可能性を削ったところで劇的な変化は見られないのではないかというのが個人的な意見だ。

 あくまでも、現時点ではレース主催者側と選手・関係者・チーム側とのそれぞれの姿勢が明確になりつつあるだけで、どのように折衝されていくのかが今後の焦点となる。サイクルロードレース界ではかねがね、さまざまな決定がなされながら、その後取り下げられたケースも多くあったが、この一件でいよいよ改革への第一歩を踏み出すことになるのか。

 もし「レース出場選手数の縮小」に関する判断が両者によってなされなければ、2017年シーズンの開幕を迎えられない可能性も否定できない。

レース主催者、選手・関係者・チーム、双方の合意が急がれる。2017年シーズンの開幕は迫っているのだ =ツール・ド・フランス2016第1ステージ、2016年7月2日 Photo: Yuzuru SUNADAレース主催者、選手・関係者・チーム、双方の合意が急がれる。2017年シーズンの開幕は迫っているのだ =ツール・ド・フランス2016第1ステージ、2016年7月2日 Photo: Yuzuru SUNADA

今週の爆走ライダー-ペテル・ヴェリトス(スロバキア、BMCレーシングチーム)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 今シーズン限りで現チームとの契約が切れ、移籍先を探していたが思うような成果は挙げられなかった。31歳にして現役引退を決意。トップライダーのキャリアとしては、早すぎる決断と見るファンも多いはずだ。

2007年のUCIロード世界選手権ではアンダー23ロードレースでマイヨアルカンシエルを獲得したペテル・ヴェリトス =2007年9月29日 Photo: Yuzuru SUNADA2007年のUCIロード世界選手権ではアンダー23ロードレースでマイヨアルカンシエルを獲得したペテル・ヴェリトス =2007年9月29日 Photo: Yuzuru SUNADA

 マルティン・ヴェリトス(エティックス・クイックステップ)との双子のライダーとして、早くから注目を集めてきた。2006年にはツアー・オブ・ジャパンで来日。翌年のロード世界選手権では、アンダー23(23歳未満)ロードレースで優勝しマイヨアルカンシエルを獲得している。

 2008年のプロデビュー以降は、着々と経験を積んだ。キャリアのハイライトは2010年、ブエルタ・ア・エスパーニャで総合2位(総合3位フィニッシュ後繰り上げ)と大躍進。この大会では個人タイムトライアルステージで強敵を撃破し、勢いに乗った。

2010年のブエルタ・ア・エスパーニャでは総合2位の活躍。個人タイムトライアルでステージ優勝も挙げた =ブエルタ・ア・エスパーニャ2010第17ステージ、2010年9月15日 Photo: Yuzuru SUNADA2010年のブエルタ・ア・エスパーニャでは総合2位の活躍。個人タイムトライアルでステージ優勝も挙げた =ブエルタ・ア・エスパーニャ2010第17ステージ、2010年9月15日 Photo: Yuzuru SUNADA

 グランツールレーサーとして期待をかけられたが、ここ数年はステージレースでのアシストに従事することが多くなった。オメガファルマ・クイックステップ、そして現チームと、エースを支える役割を率先して引き受けた。一方で、チームタイムトライアルでは不動の主力として2012年から3年連続で世界選手権優勝に貢献。チームを移籍した2014年には現チームに世界王座をもたらし、優勝請負人となってみせた。

 だが、ここ2年間は左脚動脈の不調に悩まされていたという。昨春に手術をしたものの、快方へは向かわず。今年の春にはチームから契約更新は行わない旨を伝えられ、移籍先探しを続けてきたが、最終的に脚の問題を克服できずにバイクを降りると決めた。

 今後については何も決まっていない。「今はこの状況を受け入れ、過去の成功を喜びたいと思う」と穏やかだ。早熟だった感は否めないが、プロライダーとして花開いたことは称えられるべきだ。兄弟のマルティンはもとより、ペテル・サガン(ティンコフ)ら、自国の後輩たちが躍動しているのも、彼の活躍が要因となっているはずだ。

 何らかの形でサイクルロードレース界へ戻ってくる日がやってくるだろうか。また1人、プロトンの功労者がキャリアの幕を閉じようとしている。

ペテル・ヴェリトス(中央)とマルティン・ヴェリトス(右)との共闘は見納め。ペテル・サガン(左)ら自国の後輩が育ち、レベルを引き上げた功績は大きい =UCIロード世界選手権2014男子エリートロードレース、2014年9月28日 Photo: Yuzuru SUNADAペテル・ヴェリトス(中央)とマルティン・ヴェリトス(右)との共闘は見納め。ペテル・サガン(左)ら自国の後輩が育ち、レベルを引き上げた功績は大きい =UCIロード世界選手権2014男子エリートロードレース、2014年9月28日 Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。自転車情報のFacebookページ「suke’scycling world」も充実。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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