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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<185>若きエースをベテランが支える オリカ・バイクエクスチェンジ 2017年シーズン展望

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 2017年のUCIワールドチームの陣容を分析するチーム展望。今回は、オーストラリア初のトップチームとして設立され、来年で6年目を迎えるオリカ・バイクエクスチェンジを紹介する。チームは11月16日に来季を戦う26人のロースターを正式発表。現在は、オーストラリア人ライダーを中心に同国内でのイベント出席など、精力的にオフの活動を行っている。プロトンの一大勢力であるオーストラリアが誇るビッグチームの動向に目を向けてみよう。

ツール・ド・フランス2016で総合4位、新人賞のマイヨブランを獲得したアダム・イェーツ。来年はさらに上の成績を目指す =ツール・ド・フランス2016第21ステージ、2016年7月24日 Photo: Yuzuru SUNADAツール・ド・フランス2016で総合4位、新人賞のマイヨブランを獲得したアダム・イェーツ。来年はさらに上の成績を目指す =ツール・ド・フランス2016第21ステージ、2016年7月24日 Photo: Yuzuru SUNADA

ヘイマンがオーストラリア最優秀選手に

2012年にグリーンエッジサイクリングとしてチームの歴史がスタート。緒戦のツアー・ダウンアンダーでサイモン・ゲランス(右端)が総合優勝し最高の船出に =ツアー・ダウンアンダー2012第6ステージ、2012年1月22日 Photo: Yuzuru SUNADA2012年にグリーンエッジサイクリングとしてチームの歴史がスタート。緒戦のツアー・ダウンアンダーでサイモン・ゲランス(右端)が総合優勝し最高の船出に =ツアー・ダウンアンダー2012第6ステージ、2012年1月22日 Photo: Yuzuru SUNADA

 グリーンエッジサイクリングの名でトップシーンへと躍り出たのが2012年。その緒戦であった自国最大のステージレース、ツアー・ダウンアンダーでエースのサイモン・ゲランスが総合優勝する華麗なデビューを飾ると、その後はお家芸でもあるスプリントや、クラシックでの活躍が光った。ゲランスはその年のミラノ~サンレモで優勝、2014年にはリエージュ~バストーニュ~リエージュを制した。

 2013年のツール・ド・フランスでは、第1ステージでチームバスがフィニッシュゲートに衝突するハプニングに始まり、第4ステージではチームタイムトライアルで快勝。前日にステージ優勝を挙げ、連勝となったゲランスがマイヨジョーヌを手にすると、2日後にはダリル・インピー(南アフリカ)も栄光のジャージに袖を通す快進撃と、大会前半の話題はこのチーム一色だった。その後もチーム全体で着々と階段を駆け上がり、ビッグチームとしての地位を確実なものとした。

パリ~ルーベで劇的な初優勝を遂げたマシュー・ヘイマンが2016年のオーストラリア最優秀選手に選ばれた =2016年4月10日 Photo: Yuzuru SUNADAパリ~ルーベで劇的な初優勝を遂げたマシュー・ヘイマンが2016年のオーストラリア最優秀選手に選ばれた =2016年4月10日 Photo: Yuzuru SUNADA

 そして迎えた2016年シーズンは、チームの歴史を大きく変えた1年となった。特筆すべきは、4月に行われたパリ~ルーベでのマシュー・ヘイマン(オーストラリア)の初優勝。当時37歳のベテランが成し得た偉業は、これまでアシストとしてさまざまなチームを渡り歩いてきた彼へのご褒美であり、それを知るファンにとっては大きな感動でもあった。

 そのヘイマン。印象的な走りが評価され、今年の「オーストラリアン・サイクリスト・オブ・ザ・イヤー」に選出された。38歳で迎える新シーズンもモチベーションは高く、本来の持ち場であるアシストとして確実性の高い走りを見せてくれるはずだ。

チャベスとイェーツ兄弟がグランツール頂点を狙う

 ヘイマンと並び、チームのあり方を変化させた点といえば、グランツールでの躍進が挙げられる。チーム発足時の目標であった、自国選手による総合系ライダーの育成は今後の課題として残るが、当座を戦ううえでは絶対的エースが浮上し、上位進出が計算できるものとなった。

ヨアンエステバン・チャベスは2017年、グランツールの頂点を狙う =イル・ロンバルディア2016、2016年10月1日 Photo: Yuzuru SUNADAヨアンエステバン・チャベスは2017年、グランツールの頂点を狙う =イル・ロンバルディア2016、2016年10月1日 Photo: Yuzuru SUNADA

 「プロトンのゴールデンエイジ」といわれる1990年生まれの1人、ヨアンエステバン・チャベス(コロンビア)は今シーズン、ジロ・デ・イタリア総合2位、ブエルタ・ア・エスパーニャ総合3位と、出場したグランツールでともに総合表彰台を確保。シーズン最終盤ではイル・ロンバルディアを制し、ビッグクラシック初優勝を挙げた。

 狙ったレースでの集中力は凄まじく、またブエルタでは前半ステージこそ苦しんだものの、徐々に調子を上げて総合表彰台を押さえたあたりに器用な戦いぶりも見られた。ポイントは何といっても、タイムトライアルの強化。今シーズン同様、来年はジロとブエルタに焦点を定めることになりそうだが、長距離個人タイムトライアルでの遅れを最小限にとどめられるか。山岳での走りや、ここ一番でのアタックはライバルを凌駕するものがあるだけに、バランスよく戦えるようになると総合優勝が現実味を帯びてくる。

アダム・イェーツは2017年もツール・ド・フランスを視野に入れる =ツール・ド・フランス2016第18ステージ、2016年7月21日 Photo: Yuzuru SUNADAアダム・イェーツは2017年もツール・ド・フランスを視野に入れる =ツール・ド・フランス2016第18ステージ、2016年7月21日 Photo: Yuzuru SUNADA

 早くから将来を嘱望されてきた、アダムとサイモンのイェーツ兄弟も今シーズン、ついに覚醒。アダムはツール総合4位、新人賞のマイヨブラン獲得で一躍花形ライダーに成長した。山岳での上りは緩急問わず安定した走りができ、展開を読んでのアタックも冴える。来シーズンはツールの総合表彰台と合わせ、クラシック路線での上位戦線進出も期待される。2015年にはクラシカ・サンセバスティアンで優勝しており、次はアルデンヌクラシックでの勝利を目指したい。

資格停止期間を経て、シーズン後半に活躍したサイモン・イェーツ。2017年はツール出場を目指す =ブエルタ・ア・エスパーニャ2016第6ステージ、2016年8月25日 Photo: Yuzuru SUNADA資格停止期間を経て、シーズン後半に活躍したサイモン・イェーツ。2017年はツール出場を目指す =ブエルタ・ア・エスパーニャ2016第6ステージ、2016年8月25日 Photo: Yuzuru SUNADA

 サイモンも存在感では負けていない。3月のパリ~ニースで禁止薬物であるテルブタリンの陽性反応を示したが、後にチームドクターの処方ミスであることを証明。4カ月間の資格停止となり、ツール出場こそかなわなかったが、シーズン後半に悔しさを晴らすべく力強い戦いぶりを披露。初参戦となったブエルタでは、チャベスのアシストを務めながらステージ1勝を含む総合6位と健闘。チーム2番手という立ち位置もいとわず、状況次第では自らが勝負に出るスタンスでも好結果を残せることを証明。来年はアダムとのWリーダー態勢でツール出場を目標とする。

 若きエースを支えるアシスト陣も強力だ。自身もステージ勝利を狙える力を持つミヒャエル・アルバジーニ(スイス)やルーベン・プラサ(スペイン)といったベテランに、シーズン途中で移籍加入したカルロス・ベロナ(スペイン)、タイムトライアルも強いダミアン・ホーソン、23歳のオールラウンダーであるジャック・ヘイグ(ともにオーストラリア)といった面々が控える。

 そして、このストーブリーグでは、群を抜く実績のロマン・クロイツィゲル(チェコ)を獲得。山岳アシストの確かさと、クラシック路線での層の厚みをチームとして得ることができた。

アジアに本格進出へ

 グランツールレーサーの台頭が著しいチームだが、かねてから得意とするスプリントやクラシックも重要度は高い。

スプリントリーダーを務めるカレブ・イーウェンへの期待が膨らむ =ツアー・ダウンアンダー2016第6ステージ、20161月24日 Photo: Yuzuru SUNADAスプリントリーダーを務めるカレブ・イーウェンへの期待が膨らむ =ツアー・ダウンアンダー2016第6ステージ、20161月24日 Photo: Yuzuru SUNADA

 エーススプリンターのマイケル・マシューズ(オーストラリア)がチーム サンウェブ・ジャイアント(現・チーム ジャイアント・アルペシン)へと移籍するため、22歳のカレブ・イーウェン(オーストラリア)への期待が必然的に大きくなる。

 ジュニア時代からあらゆるタイトルをほしいままにしてきたイーウェンは、2014年シーズンの途中でチームに加入。2015年にはブエルタ第5ステージでグランツール初勝利を挙げるなど、シーズン11勝と大活躍。今年もツアー・ダウンアンダーでステージ2勝と上々のシーズンインを飾り、勝利数こそ減ったもののスプリントステージではしっかりと上位フィニッシュを繰り返してきた。

 韓国にルーツを持つ若武者は、年齢面や165cmと小柄であることも踏まえ、長い時間をかけての体作りを重視。あえてレース数を抑えるなど、無理のない育成をチームとして心がける。この冬は、3年ぶりにトラックに参戦しスピードを磨く予定で、自国の先輩であるマーク・レンショー(ディメンションデータ)と組み、マディソン(2人1組で競うポイントレース)でオーストラリア王座を狙う。取り組みの成果は、来シーズンの序盤ではっきりするだろう。

スプリントやクラシック戦線で期待されるマウヌス・コー・ニールセン =ブエルタ・ア・エスパーニャ2016第21ステージ、2016年9月11日 Photo: Yuzuru SUNADAスプリントやクラシック戦線で期待されるマウヌス・コー・ニールセン =ブエルタ・ア・エスパーニャ2016第21ステージ、2016年9月11日 Photo: Yuzuru SUNADA

 今年のブエルタでステージ2勝のマウヌス・コー・ニールセン(デンマーク)や、イェンス・クークレール(ベルギー)もスプリントで力を発揮する。ともに石畳を得意とし、北のクラシックでも上位を狙える存在。ヘイマンとともに、春のクラシックを賑わすことができるか。イアム サイクリングから移籍するロジャー・クルーゲ(ドイツ)も加わり、戦いの幅が広がる。

 アルデンヌクラシックでは、ゲランスやイェーツ兄弟、クロイツィゲルが軸となる。さらに、平地から上りまでこなせるインピーやクリストファー・ユールイェンセン(デンマーク)が脇を固める。

 グランツールからワンデーレースまで、ハイクオリティの戦いが約束されたメンバー構成となったオリカ・バイクエクスチェンジ。シーズン序盤のツアー・ダウンアンダー(UCIワールドツアー、2017年1月17~22日)、カデル・エヴァンス グレートオーシャンロードレース(UCIワールドツアー、同1月28日)、ヘラルド・サン・ツアー(UCI2.1、同2月1~5日)といった自国開催のレースで、スタートダッシュを図ることとなる。

香港のスターであるチェン・キンローが新スポンサー獲得のキーマンとなる可能性がある =アジア選手権2016男子エリートロードレース、2016年1月24日 Photo: Syunsuke FUKUMITSU香港のスターであるチェン・キンローが新スポンサー獲得のキーマンとなる可能性がある =アジア選手権2016男子エリートロードレース、2016年1月24日 Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 なお、チームのメインスポンサーであるオーストラリア企業、オリカ社が来シーズン限りでスポンサー契約を終了とする見通しであることも明らかになっている。ゼネラルマネージャーのシェイン・バナン氏は、「香港をはじめアジア市場への進出を考えている」と述べ、新たなスポンサー獲得への手ごたえをつかんでいる様子。香港のスター選手チェン・キンローが所属していることも、新スポンサー獲得の後押しとなりそうだ。

オリカ・バイクエクスチェンジ 2016-2017 選手動向

【残留】
ミヒャエル・アルバジーニ(スイス)
サム・ビューリー(ニュージーランド)
ヨアンエステバン・チャベス(コロンビア)
チェン・キンロー(香港)
マウヌス・コー・ニールセン(デンマーク)
ミッチェル・ドッカー(オーストラリア)
ルーク・ダルブリッジ(オーストラリア)
アレクサンダー・エドモンドソン(オーストラリア)
カレブ・イーウェン(オーストラリア)
サイモン・ゲランス(オーストラリア)
ジャック・ヘイグ(オーストラリア)
マシュー・ヘイマン(オーストラリア)
マイケル・ヘップバーン(オーストラリア)
ダミアン・ホーソン(オーストラリア)
ダリル・インピー(南アフリカ)
クリストファー・ユールイェンセン(デンマーク)
イェンス・クークレール(ベルギー)
ルカ・メズゲッツ(スロベニア)
ルーベン・プラサ(スペイン)
ロバート・パワー(オーストラリア)
スヴェイン・タフト(カナダ)
カルロス・ベロナ(スペイン)
アダム・イェーツ(イギリス)
サイモン・イェーツ(イギリス)

【加入】
ロジャー・クルーゲ(ドイツ) ←イアム サイクリング
ロマン・クロイツィゲル(チェコ) ←ティンコフ

【退団】
マイケル・マシューズ(オーストラリア) →チーム サンウェブ・ジャイアント
クリスチャン・メイヤー(カナダ) →引退
アメツ・チュルカ(スペイン) →未定

今週の爆走ライダー-ロバート・パワー(オーストラリア、オリカ・バイクエクスチェンジ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 10月に行われたジャパンカップサイクルロードレースで初来日。チームメートのユールイェンセンをアシストしつつ、自らも3位入賞を果たした21歳のヤングライダー。

ツアー・ダウンアンダー2015ではオーストラリア選抜で出場したロバート・パワー。その後膝の痛みに苦しめられることになる =ツアー・ダウンアンダー2015チームプレゼンテーション、2015年1月17日 Photo: Yuzuru SUNADAツアー・ダウンアンダー2015ではオーストラリア選抜で出場したロバート・パワー。その後膝の痛みに苦しめられることになる =ツアー・ダウンアンダー2015チームプレゼンテーション、2015年1月17日 Photo: Yuzuru SUNADA

 インパクト十分の走りだけを見れば、前途は洋々といえる。だが、ここまでに至るのにはとてつもない苦労を経ていることを押さえておきたい。

 イタリアをベースに、出場するレースで次々と勝利を収めていた2015年。しかし、7月のステージレース総合優勝後、ペダリングができないほどの膝の痛みに襲われた。診断は骨髄浮腫。膝の骨髄に炎症が起こり、それを冷やそうと患部に水が溜まり内圧が上がるために起こる痛みだという。症例としては珍しく、治療方法がないのだという。それまでの活躍が評価され、現チームとの契約こそしたものの、トレーニングを再開できずデビューは不透明。引退の2文字が頭をよぎったことさえあった。

 回復を待ち、その後の懸命なトレーニングもあって8月にようやくプロデビュー。結果は求めず、まずはレースをしっかり走りきることに集中したが、シーズン最後の最後で結果を残してみせた。

 幸い、痛みが繰り返すことはなく、次なるシーズンこそしっかりと戦えそうだ。来年こそが本番。“2度目のデビューイヤー”は、きっと華々しく飾ってくれるはずだ。ジャパンカップでの好走は、それを約束させるものだったに違いない。

ジャパンカップサイクルロードレース2016では3位と、復活の足がかりをつかんだロバート・パワー(右)。来シーズンは上りに強い本来の姿が見られるはずだ =2016年10月23日 Photo: Yuzuru SUNADAジャパンカップサイクルロードレース2016では3位と、復活の足がかりをつかんだロバート・パワー(右)。来シーズンは上りに強い本来の姿が見られるはずだ =2016年10月23日 Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。自転車情報のFacebookページ「suke’scycling world」も充実。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。

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